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組織を芯からアジャイルにする発刊イベント(全2記事)

外圧で嫌々変えるのと、自分たちで気づいて変えるのとでは決定的に違う 市谷聡啓氏・小田中育生氏が語る、“組織をアジャイルにする”ということ

『組織を芯からアジャイルにする』の発刊に伴い開催された「「組織を芯からアジャイルにする」発刊イベント ~アジャイルの回転を、あなたから始めよう。~」。ここで市谷氏と小田中氏が登壇。ここからは、参加者からの質問に回答し、組織とアジャイルを結びつけていくことについて話します。

「学び直しできているか」をふりかえるためのアジャイル

市谷聡啓氏(以下、市谷)ここで質問を見ようかと思いますご質問とかご感想、ありませんでしょうか。初めて参加する方もいるみたいですね。ありがとうございます。

(コメントを見て)「学び直しできているかな」ということですが、タイミングを作るのが難しいですよね。そもそも人間の不得意な活動のような気がしていて、目の前のことにちゃんと結果を出して一生懸命うまく良い状況を作ろうとしているわけだから、それをやりながら、一方で別の視点から「これで本当に良いのか」を捉え直さないといけない。それは人格が2つくらいないとなかなか難しい。

そのためには、やはりアジャイルがヒントになるかなと思っています。アジャイルの中に“ふりかえり”と“向き直り”という2つを定義しています。“ふりかえり”は、今までやってきたことを省みて次のやることを判断していくという感じ。一方で向き直りは、過去ではなく未来・将来・向かう先を見た時に、この延長線上に何があるのかを捉え直して、それが本当に行きたいところなのかを確かめる。

逆に、そこから方向を変えたり、あるべき方向から今やるべきことを考え直したりすることが必要で、そういう“ふりかえり”と“向き直り”を同軸にやっていけると、良いタイミングで学び直しができるんじゃないかと思っています。小田中さんはどう思いますか?

小田中育生氏(以下、小田中):本当にお話されたとおりだと思います。まず、ふりかえっている時点で過去から学んでいます。でも、ただふりかえっているだけだと、自分の過去をどう直していくかに終始しがちなので、定期的に未来を見てどこに向かいたいのかと(考える)。おもしろいのは、過去をふりかえることで、向かっていた先が実はちょっと違ったということに気づくことです。

最適化に最適化してしまっている、とはいえ最後までやりきろうとすると思うんですが、そこで探索する勇気を持っていると、ふりかえりで学んだことから新しいことをやろうと(できる)。なので、何かを止める経験があればそれはもう学べていると思いますし、止めるだけではなく、次はどうするのという話がセットで必要になってきます。

みなさんは日常の中で必ず何かを学んでいると思います。なぜ私生活だとできて仕事だとできないかを考えると、もしかしたら忙しすぎたり最適化しすぎているのかもしれない。「ちょっと手を止めてみよう」と考えるきっかけになるので、自分の経験と結びつけると学び直しができるんじゃないかと思います。

市谷:ありがとうございます。そうですね。

組織をアジャイルにするとはどういうことか?

市谷:組織とアジャイルを結びつけていくことを考えていきたいです。組織をアジャイルにするとはそもそも何なのか。アジャイルの何が組織に活きるのか。組織をアジャイルにするとはどんなイメージ像なのか、どんな状態、どんな感じなのか。その時、組織はどう変わるのか。このあたりを読み取って話したいんですが、どうでしょう。

小田中:そうですね。「何が」でいうと、今の学び直しの話もそうですし、何でしょうね。小さく頭で考えるだけではなく、行動しながら学んでいくことは間違いなく組織にも活きると思います。

例えば、組織が変わる時は、一気にトップダウンでガラッと変わるイメージですが、先ほどの体の話でいうと、組織の中でポコポコと肩の調子が悪いからちょっと直そうかとか。一部の必要なところだけが目まぐるしく変わったり、組織の中で回転のスピードが違ったりするけれど、それぞれに最適なところを自分たちの考えで、自分たちの意思で柔軟に変化させていくことが、組織をどんどんアジャイルにしていくということなのかなと、なんとなく思っています。

市谷:なるほど。あまり言うとこの本のネタバレになるので言えないなと思っているんですが、動ける体にすることがポイントだと思っていて、先ほどのふりかえり、向き直りをやる。さらにこの本では“重ね合わせ”という言葉を使っていますが、今のこの状況を可視化する。

理解を合わせることを“重ね合わせ”と言っているんですが、過去・現在・未来の3つで、常に自分の動き方、体の動かしかたを考えられるようになると何が起きるかというと、そもそも、どういう目的や目標を持つべきなのか(という話になります)。

なのですが、ミッション・ビジョン・バリューは大事なことだし会話をしたほうがいいんだけれど、最初からすばらしいMVV(Mission、Vision、Value)でないと組織が動き出せないなんて(ことを)やっていたら、一歩も動けなくて困ってしまいます。

最初に考えるMVVは別に不完全でもいいと思うんです。「こういうことじゃないかな」「こういうのが大事なんじゃないかな」。それでいいじゃないですか。

踏み出した時に、「違うかも」「こっちじゃなかった」とか、「もっとこっちが大事だった」。やってみてそれがわかったのであれば、それは収穫であって、それにちゃんと適用できるように体を備えていればいいわけなんです。

そこがポイントで、そういう意味では最初に出したMVVに縛られる必要はないし、やったことから次のMVVにまた描いていけばいい。それができるようになると、組織としては無敵なんじゃないかなと。どうですかね。

小田中:本当にそのとおりです。組織も変わっていく必要がありますよね。変わる時に組織がアジャイルになっていると、外からの外圧で嫌々変わるんじゃなくて、自分たちで気づいて変われる。(それは)外から見た時に変わっていくという意味では同じですが、それが外側からか内側かは決定的に違っている。内側から主体的に変わりましょう。組織をアジャイルにするとはそういうことかなと思っています。

市谷:そうですね。良いことを言われますね。この本で言いたいのは体の中から変えていくことで、今、小田中さんに教えてもらった感じがしますが、組織の芯というか、内側の話ですね。

組織変革系の本がいいんだけれど、どこか「これはどうしたらいいの?」と思うのは、やはり外から与えられるものという感じがしてならないからなんです。目指すべきものとして与えてくれてもいいんだけれど、それぞれの組織が置かれている状況はさまざまで、みんなまったく違うスタートラインに立っている。そこから同じ理想に向かおうとしても、その距離感は出発点によってぜんぜん違いますよね。

ものすごく遠いところからめがけていかないといけない人もいれば、ものすごく回り道をしないといけない人もいる。(そういう)組織もあるわけなんです。なので、何か理想を描くものがないと、どこに行けばいいかわからなくなって、必要なんだけれど、今いる場所がどこかによって、行きかたも取り組みかたも変わってくるんじゃないかと思います。だから、そのギャップをとらえていきましょう。

外から与えられたものだけを手がかりにすると、なかなかうまくいかないということです。内側でだんだんわかってくることを手がかりに、自分たちの方向を変えていくことができれば、それはすごい組織だと思います。

組織をアジャイルにする難しさ

市谷:もう1つだけ言って終わります。組織をアジャイルにすることの困難さ。「アジャイルは良さそうだ」と言いつつも、「それは大変なんでしょ」「そんな簡単な話じゃないんでしょ」と思われるでしょうから、小田中さんからどうすればいいのかをぜひお願いします。

小田中:何が難しいんでしょうね。簡単じゃないと思いますが、例えばアジャイルに限らず自分でやりたいことを始めるのと、友だちを巻き込むのと、友だちでさえない近所の人を巻き込むのではだんだん難易度が上がっていくのと同じで。アジャイルも、1人でタスクボードを作ってみたり、ふだんから一緒に仕事をしているチームの人と「一緒にやろうぜ」と言ってやるところまでは比較的やりやすいんだけれど。

組織というのは、例えば同じ会社や同じミッション・ビジョン・バリューで働いているはずの人たちでも、そこにそれぞれ力学が働いている。そこに働きかけていくのは難しい。ふだん接する機会が少ないのもあって、気持ちの面でその熱量を伝えるのが難しいのかなと思っています。

だから、いろいろ大規模なフレームワークがあると思いますが、そこは地道に対話をしたり、この本のネタバレになりますが、“ドミノ戦略”と言われている成功事例を作って内発的にやりたい。「あそこはうまくいっているから真似したいな」とか、「あそこは楽しそうにやっているから一緒にやりたい」とか。

「どうやっているの?」と真似せずにはいられない状態を作っていく。僕は内発的動機を駆り立てて、みんなが勝手にやってくれるアプローチの仕方が好きなので、そのほうが時間はかかるけれど、長続きすると思うんですよね。そういう意味では、最初のペンギンさんは死ぬ気で実績を作ることも大事。

市谷:同感ですね。ファーストペンギンはものすごい決死の覚悟で結果を出す。

小田中:なんとしても魚を獲るぞという。

市谷:魚を獲らないと続かないから(笑)。みんな餓死しちゃう。そのとおりですね。僕もそう思います。持続可能性は大事で、それは絶対に問わないといけないんですが、やはりどこかの局面で突破力が必要で、ファーストペンギンみたいに何が何でも突破してやろう、どんな手を使ってでもということも時には必要だと思いますね。

難しさもあるかもしれないけれど、それを乗り越えていくためにこういう本もあるし、コミュニティもあるし、組織の中の同僚たちもいる。ぜひ乗り越えていきましょう。

どうしたらもっとワクワクする世界につなげられるか

市谷:最後に「もっとワクワクする世界はあるか」ということですが、どうしても日本の現代の組織の話をすると暗い話になってしまうところがある(笑)。最後はもう少しワクワクを感じて話をまとめたいと思うんですが、小田中さんどうでしょう。

小田中:そうですね。みんな主体的にやりたいことがあって、やりたいことに対してすごく勉強するし、学ぶし、それを世の中が良い方向に動くところに持っていけることがワクワクする世界なのかなと。

それはすごく遠い世界ではなくて、例えば今日(登壇時2022年7月19日)は3連休明けで「連休が7日間続いたらいいのに」みたいな気分でも、現地とZoomの人を合わせたら100人近く(いる)。すごくないですか、連休明けにこんなに勉強している人がいるのはもう希望しかないなと。

これが広まっていく。それを押し付けられてやるんじゃなくて、やりたいことをやって世界が良い方向に結びついていくのは、すごくワクワクする世界じゃないかと思っています。

市谷:小田中さんは俺かと思うんですよ、7連休とかね(笑)。今日はしんどかったですね(笑)。お話されたとおり、まだまだ捨てたもんじゃないというと後ろ向きですが、ぜんぜんこの先があるんじゃないかと思うし、たぶんそれぞれの感じ方もあると思います。

僕はそろそろ44歳ですが、44歳が抱くその先のワクワクのイメージと二十数歳の方が抱くイメージは違っていないといけないし、違う可能性があるんです。それぞれのワクワクのイメージがあるのかなと。

そういったものを組織や企業の中でもやったらいいと思うし、そういうものを超えてコミュニティの中で分かち合えたりすると、そこが原動力になると思うんです。

アジャイルコミュニティは昔からありますが、最初はうまくいかないから、暗い話ばかりしているわけです(笑)。「うまくいかない」とか「誰も耳を貸してくれない」とか言っているんですが、それでもやってこられたのは「これをやれたらめっちゃいいよね」と、開発も組織も変わることをきっと本当に信じていたし、そういうことを語れる仲間が身近にいた。組織の外かもしれませんが、身近にいて、現実を見つつ確かめながらやれたのがここまでの話だったと思っています。

小田中:それこそ、『組織を芯からアジャイルにする』という本を手に取ったりイベントに参加された方は、会社の組織の中で何かしたら変えたいと思っていると思うんです。じゃあ、変えたいと思っている組織の経営理念を今言えるか。

ミッション・ビジョン・バリューを言えるならそこに基づいて変えていけるでしょうし、言えないとしたら、まずは自分自身が変えようとしている組織はそもそも何を大切にしているのかに向き合えば、もっとワクワクしていくのかなと。

今日は連休明けで、弊社では渋滞など(の情報)を扱っているんですが、チームメンバーと「3連休は渋滞がひどかったよね」「そういうのをなんとかしたいよね」という話が自然にできるんです。

それはすごくありがたいことだと思っていて、そういう日々の生活と自分たちが作っているものと、自分が所属している組織のMVVが結びついて、より世の中を良くしていけると考えられる人が1人でも増えれば、もっと良くなっていくんじゃないかと。

市谷:そうですね。

「組織を変えないといけない」という力は昔よりも働いている

市谷:まとめの一言的に言うと、それこそ一昔前の組織を変えることには悲壮感があって、変えないとやばいと(笑)。もうだめだという危機感みたいなものが強かったと思いますが、今はお気づきのように、「だめなら組織を変えるより自分がその場所を変えればいい」みたいなことになっているじゃないですか。

違う組織に行こうとすることはできるじゃないですか。僕はそれでいいと思うんです。40年そこにしがらみのように残っている負債を、今生きる人が背負わないといけないのかというとそんな必要はないので、いろいろなものを計算して判断したらいい。だから組織を出ていくこともありだと思うんです。

それでいてなおかつ言いたいのは、けっこうそういう組織が多いこと。つまり、どこにいてもいろいろな課題を抱えている組織が多いというのもまた言えることです。

それでも希望があるのは、組織も見限られるような時代になっているからです。一昔前みたいに「やったらいいんじゃない」という上からの感じではなくて、組織として本気になって変えていかないといけない。より良い場を作っていかないといけない。僕は、相対的にはそういう力が昔よりも働いていると思います。そうしないとみんな出ていっちゃうわけですから、それは本気で考えないといけないわけです。

前提が変わっているので、その組織のその場所でこうしたほうがいいんじゃないか、アジャイルをやっていこうという動きを取ってみれば、少し前に比べると、組織もそれに応えていかなきゃいけない、応えてくれるところもあるんじゃないかと思っています。そういう意味では、「何をやっても間違いではない」という感じでやっていけばいいんじゃないかと思います。

時間も来てしまったのでこのあたり終えたいと思いますが、チャットでもそんなに質問はなかったですね。miroではものすごい数のログがありますけど(笑)。

小田中:すごい。

市谷:いいですよね。みなさんからの質問に答える時間がなくなってしまった。

小田中:そうですね。時間も遅いので、何かあればDiscordやSNSにハッシュタグをつけてもらえれば、リアクションできると思います。

市谷:そうですね。こんな時間に家に帰るってなかなか(笑)。

小田中:久しぶりですよね。

市谷:久しぶりですね! 昔はここから飲みに行くなんてありましたね。

小田中:体力がありましたね。

市谷:そうですね(笑)。私は家なら寝ていますからね(笑)。ということでそろそろみなさん布団の中に入らないといけないので、これで終わりにしたいと思います。

今日は『組織を芯からアジャイルにする』というテーマで対談をやらせていただきました。会場をお借りしたナビタイムジャパンさん、どうもありがとうございます。対談の相手を務めていただきました小田中さん、どうもありがとうございます。

小田中:ありがとうございます。

市谷:これで今日のイベントを終わりにしたいと思います。どうもありがとうございました。

小田中:ありがとうございました。

(会場拍手)

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