2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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佐宗純氏(以下、佐宗):ここからはインタラクティブセッションというかたちで、対話形式でいきたいなと思っています。
木村さんの最後のスライドに書いてあったことが、たぶん今回のテーマの一番の本質だなと思ったんですよ。恐らく、ああいったことをタカヤ・オオタさんは、いろいろな商品の形態、それこそ「Mr. CHEESECAKE」から、先ほどの作品まで、かなり幅広くデザインされているのかなと思っていて、その中で起きた葛藤を最初に拾っていきたいなと思っています。
タカヤ・オオタ氏(以下、オオタ):でも、あの返品の山を見ると、ちょっとトラウマになりそうですよね。
木村祥一郎氏(以下、木村):僕は、別にチャレンジしたことはぜんぜんよかったと思っているんです。第1弾の失敗は、デザイン会社さんが悪いわけではないですが、デザイン会社さんにかなり任せていました。キャラクター開発からなにから、バックグラウンドの物語の開発とか、実際にかなりのお金を使っていたみたいなんですね。
デザイン会社さんが悪かったのか、すでにこういう市場でこういう機能でやるからと相談して、確定した状態で投げた僕らの相談の仕方も悪かったのか。ちょっとわからないですが、すごく素材をもったいないことをしたなと僕は思っていて。この商品は、うまくやればまだ可能性はあるんじゃないかって、今でも思っているところはあるんですよね。
オオタ:そうですね。企業の顔、ブランドの顔を作るという名目上だと、僕の仕事の中では企業ロゴ、ブランドロゴとか、表に貼られるものを作ることが大部分を占めることが多いです。
身も蓋もないわけではありませんが、自分もいつもすごく葛藤したり考えたりすることとして、ロゴを主張するとか、なにかデザインの存在感を主張するものを、自分の生活にはあまり置きたくないなと思うこともあるんですよ。
先ほど紹介した仕事の中で言うと、けっこう僕も本を読むのですが、じゃあ書店にある本を家に持ち帰って、自分の本棚に置きたいか、生活している空間に置いておきたいかという観点でいうと買いたくないというか。逆にそういう人の生活を邪魔しないものというのは、売り場の中だとすごく埋もれてしまうという葛藤は日々あります。
乗り物の例で言っても、ロゴが大きいほうや、ロゴの主張が強いほうがやはり街中で目立つし、新しいお客さんの獲得につながるし、それが宣伝になり得るという論理はありつつも、それに乗る1人の人間として、そういうものを背中に貼りつけて移動したいかどうかというのは、必ずしもイコールじゃないなという葛藤はいつもあります。
木村:やはり、企業側からは「もっと目立つように」とか「もう少し印象に残るように」みたいなオーダーもあるんですか?
オオタ:そうですね。ありますし、1つの色を取ってもなるべく競合より目立つ色がいいとか。
当然、お客さんからの依頼としてもそういうものが出ますし、やはりデザイナーとしても、そういうところでアピールをしたほうが案を通しやすい、説得しやすいというのもありますよね。
先ほどの木村さんの例で言っても、ああいうキャラクターがいて、そのキャラクターの背景にはこういうストーリーがあってという話をされると、その点においては納得感があるじゃないですか?
木村:うちの社内は、みんなこれで喜んだみたいですけど。僕もそうだった(笑)。
オオタ:そういうことはすごく往々にしてあります。でも、その背景の話がお客さんまで届くことはすごく稀だし、そういう話に興味がないお客さんのほうが多い中で、制作会社と事業者の間では合点がいく話だったとしても、それがお客さんの手元に届く突破口には別にならないという溝が、あらゆる制作の現場や商品開発を含めてすごくありますよね。
佐宗:タカヤが今までデザインをしてきたお客さんは、電動キックボードもあれば、チーズケーキもあれば、作品もあればといろいろあるけれど、業界によって、クライアントさんとのコミュニケーションは変わるんですか? それともやはり先ほどの話に行き着くんですか?
オオタ:僕のサンプルがすべてではないので断言はできませんが、事業領域によって変わるというよりは、木村石鹸さんの例もそうですが、どういう心持ちで商品開発をして、それをお客さんに届けて、お客さんにどう使ってほしいと思っているかという考えによって、すべてのキューの出し方が変わっているんじゃないかなと思います。
だから、「お仕事をしませんか?」という相談の場において、あるお客さんにとっては、すごく合点がいく話だったとしても、同じ業種のほかのお客さんにとっては、ちょっとそれじゃ売れる気がしないから嫌だということもあったりもします。それは、事業特性というよりは、けっこうマインドの話だったりするのかなと思いました。
佐宗:それこそ先ほどの木村さんの話の、たぶん第1弾のマインドを持っている方々と、最初から最後までいってしまうと、やはり同じ失敗にいくのかなと思っていて。なぜ木村さんは、先ほどのお話のように、「第1弾はこうだった」というかたちで振り返りができたんですかね?
木村:僕はデザインやクリエイティブに強いとか、そんなこともぜんぜんないんですが、そもそも門外漢から入って、いきなりその商品があって、その商品を家で使うと渡されて、絶対使いたくなかったんですよね(笑)。その時点で、「これを使う人は本当に使いたいと思うのかな?」と思っていて。
作っている側は、メッチャかわいいキャラクターで、匂いもいい匂いで、これでカビが防げるなんてメッチャいいのにってみんな思っているんですよ。ですが、そのキャラクターを家の中に置くことに、本当にみんな違和感がないのかなと思って。少なくとも僕は嫌でした。営業車にキャラクターが吊るされていたけど、取りたかったですもんね(笑)。
タカヤさんと同じで、僕は家で使うものに関して、いっぱい主張されるのはすごく嫌だなと思っていて、ドラッグストアやホームセンターに並んでいる洗剤って、みんな同じデザインだなと思いました。蛍光色の色が違うだけで、ほぼ同じラベルで、同じような語り口で、ブランド名が違うだけで、「なんでこんなことになっているんやろうな」というのがありました。それまでは、あまり意識したことがなかったんですけどね。なかったんですが、意識し出すとメッチャ気になって、これは自分の家に置きたくないなと思いました。少なくとも自分が作るものに関して、自分が使う分には嫌だなと思ったんですよね。
なので、まずそこからスタートしましたが、大方はたぶん自分が作り手になると気づかなくなるケースがあるのかなと思っています。
作っているほうは、情報がメッチャあるじゃないですか。そのことについてメッチャ考えているし、その良さもメッチャ知っている。思いがいっぱいあり過ぎて、ぜんぜん気づいていないんじゃないかなという。
特にうちみたいな、生活者さんに使ってもらう商品を直接生活者さんに届けていなかったメーカーは、作ることにすごく意識が向いていて、実際にお客さんが使ってくれるシーンにまで、なかなか思いが届いていないという感じは受けました。
オオタ:当然事業をやっている当事者は、1つのブランドに向き合うことに大半の時間を費やしていますが、イチ消費者、生活者となると、売り場なりECサイトなりで複数のブランドを見ることになるし、その中で1つのブランドについて知る時間は、やはり圧倒的に少なくなります。
その中で自分たちの商品の良さを伝えなきゃとなると、やはり売り場で埋もれないために、今僕のお風呂場に今ある洗剤もそうですが、「30秒噴射したらもうOK」みたいなことをデカデカと書くわけですよ。
売り場ではいいけれど、お風呂場にそれがあるのを見るたびに、「なんで自分の生活の中でそんなに主張しているんだろうな」と思うこともあります。やはり非対称性がある中で、どう落とし込んでいこうかというのは、すごくバランスが難しいことだなと感じます。
佐宗:今の話で、生活の中にいかに自然に溶け込むかという視点を大事にしているのかなという印象を受けたのですが、今までアイデンティティをデザインしてきた中で、実際に売られている、ないしは置かれている場所に足を運んで観察するとか、そういったアプローチは大事にしているんですか?
オオタ:そうですね、2020年かな、Mr. CHEESECAKEはセブン-イレブンさんとコラボをして、アイスクリームを作って売りました。その時もコンビニのアイスの棚にはすごくいろいろなパッケージがありました。
Mr. CHEESECAKEというブランドは、お客さんとの距離も近いし、どちらかというと買う意欲が高い人が主体的に情報を取りにきてくれるので、パッケージやデザインのコミュニケーション上でいろいろなことを書かなくても済むという側面もありました。
でもコンビニとなるとそういうわけにはいかなくて、Mr. CHEESECAKEというブランドを知らない人でも買い得る余地があるのか? とか、そもそもほかの商品に埋もれてはいけないけれど、同じになってしまうぐらいいろいろな要素を載せてしまうと、そもそもブランドが目指していた体験価値とはちょっと違ってくるとか……。それこそ、商品を買って家の冷蔵庫にあった時にうれしくなるのかとか。
ECで売っている価格の10分の1ぐらいですが、体験の価値を10分の1に削るのは違うことだよねという話をいろいろとしていく中で、事業としての大枠のコミュニケーションの方針、コンビニの売り場での方針を定めました。と同時に、見た目のデザイン、パッケージングとして、どれぐらいコミュニケーションの量をコントロールしようかというのは、やはり売り場に行って、「これぐらいだったら削ぎ落とし過ぎていないんじゃないか」とか考えました。
また、本の装丁の時も、やはり売り場でのほかの商品とのギャップをどのぐらい狙えば、無味乾燥になり過ぎないフックを得られるのかと考えながらやっていました。
佐宗:なるほど、非常におもしろい。
佐宗:木村石鹸さんも、SOMALIなど第2弾の新しいブランドを作っていく過程で、今のタカヤの話とかなり近い思考をしたんじゃないかなと勝手に思ったのですが、そのあたりはいかがですか?
木村:そうですね。思いとか、伝えたいことを全部伝えたい。「こういうものだ」ということをできる限り伝えたいんですが、それを全部盛り込んだら伝わらなくなるじゃないですか(笑)。そこはすごく葛藤がありますよね。
あと、僕らは外部のパートナーさんと一緒にデザインやプロダクトを作るケースがほとんどなんですが、デザインなどクリエイティブが関与できる領域がメチャクチャ広い。というか、ほぼすべてにおいて一緒にやらないといけないと思うんですよ。
第1弾の失敗って結局、デコレーションのところだけをデザインだと思っていた感じがあったから起きた。やはりメーカーの中にいるとそういう意識になりがちです。
商品を作るとか、それこそECでその商品を売るんだったら、配送形態とか、配送しやすいのかとか、配送中にどうだとか、家に届いた時にどうだということも含めて、デザインで関与しなきゃいけない、考えないといけない領域はメッチャクチャ広いですよね。もう、商品作りそのものじゃないですか。
だからデザイナーさんと、商品をゼロから開発するぐらいまで深く関わってやりたいんですよ。本当はCDOみたいな存在がいてやったほうがいいんだろうなと思うんですが、なかなかそれができないというか……。
だから、タカヤさんのMr. CHEESECAKEがすごく羨ましいなと思いました。デザインやクリエイティブがいろいろな可能性を引き出せる領域のポジションに、きちんとそういう方がいるというのは、やはり重要だなと思います。そこができていないので、けっこういつも葛藤しています。
オオタ:「こういう商品を作りたいと思っています」「こういうお客さんに届けたいと思っています」というのは、概ね社内で考えるものだとされていて、その決まったものをどう装飾するのかを、外部のグラフィックや絵作りに長けた人にお願いしようというのが、たぶん今までの日本のデザイン業界での一般的なかたちだったと思います。
でも今、木村さんがお話ししたように、そういう意味でのデザインをする前から、どういう売り方をしようか、とか、どういう距離感でお客さんと向き合おうかというコミュニケーションの方向性は固まっているわけじゃないですか。
そのタイミングからデザイナーと話をしながら、「じゃあ、こういうアプローチがいいよね」とか、「見た目はこういうほうがいいよね」という話をしていかないと、それこそ先ほど木村さんが言っていた、デザイン単体の“かっこいい”とか“かわいい”とか、そういう話に終始しがちになっちゃうと思います。
でも、かっこいいだけで選ばれるのは、世の中の一握りのブランドだし、ほとんどのブランドは、そうはなり得ないので、もっと手前の部分からいろいろなことを話し合いながら決めていかないといけないなというのは、自分自身も制作をしていてすごく感じますね。
(次回へつづく)
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