2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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牧田涼太郎氏(以下、牧田):ここからはLUUPの立ち上げ、なぜこのプロダクトを作ろうと思ったのか、どうやってミッションを定めたのか。定めたミッションからどう逆算してLUUPのプロダクトの戦略を描き、今まで来たのか。そういう話をしようと思います。
実はLuupを創業した時、最初は特に電動マイクロモビリティのシェアリングをやろうとは思っていなかったんです。もともと創業者の間でも、やるなら大きいことをしたい。ただ、すごくお金が儲かる事業をやりたいということではなくて、どうせ人生をかけて創業するのであれば、人生を大きく一歩前進させるような、生活の基盤であり、それを押し上げるような大きいことをしたいと思っていました。
日本社会を眺めてみてどこを押し上げなければいけないのかというと、やはり高齢化という課題がある。それは僕たちも考えているし、僕たちが生きるであろう残り数十年間の間にもっと解決できないかといろいろ考えた結果、介護士版のUberをやろうという話になったんです。
街の中で介護を求めている方と介護の資格がある方をマッチングさせて、介護を欲している時に、提供できる方と最適にマッチングされるようなシステムを作っていきたいと最初に思い、検討を行っていたんですが、断念しました。
日本でマッチングしたい時、介護をしてほしい時にそれを提供するマッチングはなるべくリアルタイムでなければならないと思いますが、ネックはやはり移動範囲の狭さ。10分や20分で移動できる距離はすごく限られています。
介護士が毎回タクシーを使うわけにもいかないので、徒歩や移動手段が必要だと思いますが、それが狭い。あまり移動できないがゆえに、なかなかマッチングできないんじゃないかと気付いて、この構想自体を断念しました。
この検討をつうじて僕たちがすごく感じたのが、ワンマイルの移動です。日本ではラストワンマイル、ファーストワンマイルの移動に課題があるんじゃないかという、新しい課題感を抱いたんです。それをもとに、何かワンマイルの移動の課題を解決する方法がないだろうかという発想に変わり、それを模索する思考とリサーチと検討の旅に出かけることになりました。
実際にそれを検討する中で、アメリカにものすごいサービスやプロダクトがあると聞きつけて視察に行きました。そこで見たのが、電動マイクロモビリティのシェアリング。当時は、電動キックボードがものすごく流行っていて、スライドの写真のように街中にあって、みんなが使っているような状態でした。
例えば、真ん中の上の写真では、スターバックスの前に2台の電動キックボードがあります。一番左の写真はワシントンD.C.の駅ですが、(駅に)降り立った瞬間に、右から左にこの女性が颯爽と電動キックボードで走っていく姿を見て衝撃を受けました。まったく違う世界がそこにあったんです。
僕はこれ以前にも何回かアメリカに行っていますが、街の様子がガラッと変わっていることにすごく衝撃を受けました。そして、ユーザーとしてこのプロダクトの視察をしました、右に写真をいくつか載せていますが、実際にユーザーに突撃インタビューをしながら「なぜ使っているの?」とか「これを使う前は何で移動をしていたの?」とか、いろいろなことを聞いていったわけです。
その中で、2つの価値を感じました。アメリカの電動マイクロモビリティのシェアリングは、街中の道端にキックボードが置いてあって、それを誰もが使っていてどこにでも返せる、カオスなんじゃないかという世界。でも確かに、どこにいてもどこにでも楽に移動できる便利さがあると。
ユーザーになぜ使っているのかとインタビューすると、最初は「便利だから」と答えるだろうと思ったんですが、99パーセント「楽しいから」という答えが返ってきました。これにはすごくビックリした。これまで、移動はどうしてもやらなければいけないネガティブなもの、ないしはニュートラルなものと思っていたんです。
人って、移動がよりポジティブでワクワクする、付加価値のあるものになると移動するんだなとすごく感じました。「この便利さとワクワクはある種革命的だ、これを日本で作ろう」と直感的に思いました。
LUUPの場合はここがものすごく大きな分岐点だったと思いますが、日本で作ろうと思っても、すぐにはソフトウェアやハードウェアの開発には行かず、プロダクトマネジメントのビルドトラップを回避しました。作るほうに行かずに、立ち止まってそもそもなぜこれを作りたいのかを、もう一度徹底的に考えたんです。
なぜ作りたいのか。確かにきっかけは、介護士版Uberを作りたくて日本にワンマイルの課題があると感じたことではあるけども、その先の自分たちが作りたい世界はまだ思い描けていなかったんです。まずはそこを考え抜いた。そして考えた末にミッションが生まれました。
プロセスはどうだったのかを振り返ってみます。具体的な感覚や衝撃やインサイトと、日本はどうやって社会課題を成り立たせてきたのかという抽象的なことのどちらも肌で感じた上で、自分でも(インサイトと抽象的なことを)行き来して考え、一緒にディスカッションするメンバーの中でも行き来しながら、結局どういうものを作りたいのか(と話しました)。
アメリカのようなワクワクする楽しいプロダクト。確かにそういう世界もあるけれど、あれはカオスだからそうではない。一方、日本にはこういう課題があって、それを解決してこういう世界を作りたい。こういったことを行き来しながら考えていったんです。
最初にミッションについて説明しましたが、特にアメリカに視察に行って得た具体的な感覚なりインサイトと、以前から考えていたワンマイルの移動手段ではない社会をあらためて振り返って、「日本はどうやって発展してきたんだろう」と。やはり鉄道はすごいという背景を踏まえて、たくさん議論をしました。
その結果できたミッション。どういうミッションにすべきか。僕たちがこれを考えた時、ありきたりなミッションとして使われないものは作りたくない。なぜ僕たちがこのプロダクトを作るのかをいつでも振り返って確認できるような、きっちりしたものを置きたいと思ったんです。
この時にすごく意識したのは、何かを捨てること。ミッションというたかだか十数文字の文章の中に込めるには、すごく制限があります。その中で、「こういうことじゃなくて、僕たちはこういう世界を作りたいんだ」というNot Butというか、その決意です。「こうじゃなくてこうなんだ」を凝縮して込めました。
「街じゅうを」には、すでに便利な場所の駅前だけではなく、駅遠も含めたあらゆる場所を良くしていくという決意が込められています。「駅前化する」は少し便利になって少し発展したということではなく、駅前くらいドラスティックに大きな発展を街じゅうで起こしていくという決意がこもっています。
「インフラをつくる」にしても、一過性のものやたまに使うもの、一部の人だけが使うものではなく、幅広い世代のさまざまな方が使えて、かつ持続するようなものにしていきたいという決意が入っています。これらをすごく徹底して決意を込めて考えたのが、このミッションです。
この頃のLuupは、アメリカに視察に行って、日本の課題について考えながらミッションを決めました。手元には何もない状態です。そこからどうやって何を作っていこうか。この時はそれを考えていた。つまり戦略を考えていたわけです。
その時に、本当に僕たちが実現したい世界、つまり「街じゅうを『駅前化』するインフラをつくる」が実現した世界を作るため(の重要仮説として)、「街も人もすべてが豊かな世界を作るためには、アメリカで感じた便利さとワクワクが、ちゃんと日本でも移動を気軽にする」という仮説を置きました。
どこにいてもどこにでも行ける便利さと、移動自体が楽しいというワクワクする感覚。その2つの掛け合わせが気軽さだと思っています。
気軽にすることで日本でも新しい移動が生まれるという大きな仮説。これを仮説として置ききったんです。それが正しい(もの)として、LUUPは何をどうやって作っていくべきなのかを、ミッションから逆算して考えていきました。
「街じゅうを」であれば、そこかしこに電動マイクロモビリティを置いていけばいいかというと、確かにアメリカでは便利だしすごく良かったけど、日本でやろうとしていることに立ち返ると、本当に道端に(電動マイクロモビリティを)放置する世界を作っていいんだろうかと。
スライドの右の写真のように、道端に置くと倒れたりするわけです。この時に、日本をこういうものが溢れている世界にしたくないと思った。こういうものが本当に豊かなインフラになれるのだろうかということに立ち返ると、そうじゃないよと。
やはりこういう世界を作っちゃいけない。少し便利さは落ちるかもしれませんが、街中の道端にたくさん置いてあるのと同じくらいたくさんの数のポート(駐輪場)を作って、それで便利さを再現しようと思ったんです。
次に、どうやって何を移動手段として提供するか。これはアメリカでも感じたことですが、電動で楽に移動できるというエッセンスが大事だし、それを言うなら電動アシスト自転車から始めようという話ももちろんありました。
(しかし、)キックボードに乗った時に目線の高さや独特の走行感、これまでにないワクワクさがあったので、まずは電動キックボードから始めて、そのあと電動アシスト自転車をやろうということになりました。
アメリカの場合、法律を無視して街中に置いてやろうというグレーゾーンから始める傾向もありますが、日本のインフラには馴染まないのでやらない。LUUPは法令を遵守した上で、より便利な世界になるように規制の適性化を目指そうと決めました。
そのために答えを出したい問いが2つありました。日本でも電動キックボードのワクワクする移動体験を届けられるのか。日本では誰も作ったことがないからわからない。ほかに、先ほども言ったたくさんのポート。置きっぱなしではなく、駐輪場を設置してもこの便利さを実現できるのだろうか。僕たちが作った戦略が正しいかを確認するために、この2つの問いに対する答えを出しました。
次にLuupが起こしたアクションとして、法令を遵守しなければいけない。規制の適性化を目指すという目標があったので、多くの自治体と実証実験を行って規制の適正化について働きかけました。
そちらはすごく進みましたが、2つのプロダクトに対する重要な問いはしばらく進展がない状態が続いてしまったんです。本当にこのままでミッションを達成できるのか。
焦りもあったと思いますが、それも踏まえてミッションを最短で実現するためにはどうするか。ミッションはもちろんそのまま変えない。これは不変ですが、戦略の一部だけを短期的に変えて、長期的にやりたいことと答えを出したいことに関して問いに答えていくと、ここで一度意思決定をしたんです。
つまり、電動キックボードはできないので、2つ目の問いです。たくさんのポートによって便利さを実現できるかの答えを出そうと思ったので、電動キックボードから始めるつもりだったところを、電動アシスト自転車からやろうと決めました。キックボードで感じたワクワクさは検証できないけど、楽に電動のマイクロモビリティで移動できるのか、ポートを置くことによって便利になるのかは検証できるだろうと思って進めました。
2020年5月に、まずは電動アシスト自転車のサービスをローンチしました。問いへの答えとして、結果的に日常的に利用してくれるヘビーユーザーが生まれました。
もちろん東京中のあらゆるところとはいきませんでしたが、生活圏とポートの位置がすごくマッチした場合は毎日使ってくれるようなヘビーユーザーが生まれて、ポートでも便利なんだとわかった。道端に置かなくても便利だと感じられる価値は提供できるんだと僕たちも体感して、ユーザーインタビューをつうじて、きちんと答えを出すことができました。
すごく意外な新しい気付きもあったんです。移動のワクワクさは電動キックボードのようなこれまでにない走行感からしか得られないだろうと思っていましたが、電動アシスト自転車で、知っているはずの街のこれまで走ったことのない道を走っていくと、「こんなところにこんなお店があったのか」とか「この道はなんだか素敵な道だな」とか、使っているうちに街の魅力がわかってくるようなワクワクさがあったんです。
ユーザーインタビューでも「知らない店を発見してそこに行くようになった」という話が聞けて、本当にあるんだと思いました。自分がユーザーとして感じたものを、LUUPのユーザーも感じてくれていたという、新しい気付きもありました。これは戦略でがんじがらめにせず、柔軟に変えていったことで得られた気付きです。電動アシスト自転車からやって本当によかったと思っています。
LUUPは2022年4月に規制の適正化を推し進め、まだ法律は変わっていませんが、まずは実証実験で本当に安全なのか、どんな交通ルールであるべきなのかをしっかり検証するべく、渋谷から電動キックボードのシェアリングサービスを開始しました。
電動アシスト自転車の時には答えが出せなかった1つ目の問いです。日本でも電動キックボードはワクワクするだろうかという問いについては、シンプルにそうだった。日本でも同じような体験が実現できた。
実際、電動キックボードを開始する前後で登録ユーザー数やライド数は数倍になりました。ダッシュボードを見ていると、グロースの角度がぜんぜん違うと思うような変化が起こりました。
ほかに、「キックボードは楽しいから乗ってみて終わりだ」という一過性の懸念もありましたが、今見ていても、日常の移動、つまり通勤・通学や買い物に継続的に使ってもらえている。ワクワクするモビリティから新しい移動や日常の移動が生まれていることで、もう1つの問いにも答えが出せたと思っています。
少しステップバックして振り返ってみると、最初にミッションなり電動マイクロモビリティのシェアリングをやろうと決めたのが2018~19年、キックボードができた今は2021年11月です。
この日本でも、移動を気軽にすることで新しい移動が生まれるとした最初の仮説を、3年越しで、ミッションから逆算して戦略を考えて、途中で戦略を少し変えながらやっと初期検証できた。それがLUUPの今の段階です。
じゃあもう終わりなのか。電動キックボードも少しできたし、重要な仮説も検証できたし、もうプロダクト作りは終わりかというとまったくそんなことなくて。ミッションはこれからも不変なものとして、キックボードや電動アシスト自転車のシェアリングサービスをやっていく中で学ぶものはたくさんあるので、その中で常に仮説と戦略をアップデートしてプロダクトを開発していこうと考えています。
(次回に続く)
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