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アジャイル開発は世界を変える夢を見るか(全3記事)

「アジャイルの回転の数だけ組織が変わるチャンスがある」 回転の動力を保つのに必要な、スプリントを止めない3つの作戦

ソフトウェア開発に関わる人々の新たなきっかけを生み出す場となることを目指す「Qiita Conference」。ここで「アジャイル開発は世界を変える夢を見るか 」をテーマに株式会社レッドジャーニーの市谷氏が登壇。最後に、組織運営や組織の動き方をアジャイルにしていく方法を話します。前回はこちらから。

組織運営や組織の動き方そのものをアジャイルにする

市谷聡啓氏:アジャイルの世界では昔から、価値観と原則とプラクティスをセットにして語られてきています。

例えばXP(Extreme Programming)では、20年前から大事にしたい価値が言われている。このようなところで、みんな「イエス」とか、「確かにこうかな」とみんな思えるから、先ほどのような回転や探索ができる。(これは)非常に重要な観点です。

そういう意味で、アジャイルは方法を定義する一方で、あり方自体を示すものでもある。むしろ、後者がないままだとタスクをいろいろ回している程度のアジャイルにしかなりません。

その上で行き着くのは、今日のテーマである「組織の中に、最適化とは別の選択肢を作る」です。それはすなわち、組織運営や組織の動き方そのものをアジャイルにしようということです。

それを「組織アジャイル」と呼んでいます。巷には“アジャイル組織”とか“アジャイル型組織”という言葉がありますが、なんだか完成された感じがするので僕はあまり好きじゃない。「アジャイル型組織を目指す」と言うけれど、アジャイル型組織になるのに時間かかるし、たどり着けるかわからない。

たぶん過程の方がよほど長い。(アジャイル組織に)仕立てていくよりも、向かっていく方が(かける時間が)長いし、そうなると“アジャイル組織”というより“組織アジャイル”です。変な言葉のこだわりですが、そう言っています。「組織の運営や思考にアジャイルを適用する」ということなんです。

具体的には、アジャイルのプラクティスを開発以外の仕事や、チームや組織の運営に適用することです。それは特に目新しいことではない。みなさんもやっていると思いますが、「ふりかえり」は組織でやることだし、組織で方向性をちゃんと見定めて今やっていることを見直す「むきなおり」をやろうということです。

プロダクトの作り方がアジャイルなのに、組織がアジャイルでなくて本当に成り立つのか。そこを一致させようということなんです。

唯一可能性として期待できる「試し続けること」

とはいえ相手は組織です。先ほど言ったように、1人でチーム、組織で広げていくことは、かなり難易度が上がります。方法はいろいろ、細々と考えられます。

地道にやらなければいけないこともあります。ガイドを作ったり、いろいろな人の理解を得たりが必要です。

だけど、1手を打てば勝てるとか、みんなアジャイルになることはありません。それだけはわかっている。どうすればいいかはわからないにしても、それだけはわかっている。1手だけがあればいいというわけではない。

唯一我々が可能性として期待できるのは、試し続けることです。もし本当に答えがわからないなら、試し続ける。組織を変えていく機会を獲得し続ける。それが可能になる動き方を手にすることが、たぶん唯一やれることなんです。

つまり、ややこしいですが、組織を変えること自体に向き合っていくにあたって、そのあり方自体をアジャイルにする。だんだんわけがわからなくなってきましたね。

組織を変える3つの作戦

組織を変えていく取り組み自体をアジャイルにするということは、なんらかのスプリントを回していくわけですが、そのアジャイルの回転の数だけ組織を変える可能性があるということです。その数だけ何をするべきかを判断して、実際の行動を起こしていく。「スプリントの数だけ組織が変わるチャンスが生まれる」という見方ができます。このゲームに勝つために必要なのは、回転を止めないことです。絶対に止めてはいけない。

回転を止めないためにはどうすればいいか。それには少なくとも負けない戦略を取らなければいけません。作戦は3つあります。

まず正面を減らす。ただでさえ難しい取り組みをやるのだから、むやみに難易度を上げている場合ではない。「あの部署とその部署とあのチームをみんなアジャイルにする」というように、同時多発的にやる。「(でも)本当にできるのか」と。

世の中にはもっと知恵があります。ランチェスター作戦みたいに、具体的に正面でやることを減らして、選択と集中によって乗り越えていく。

できるならやればいいけど、うまくいかないのなら正面を減らすという当然のことをやった方がよいでしょう。

あるいは、回転を止めないために、「傾きをゼロにしない」とよく言います。傾きとは「組織をこういう方向に持っていくぞ」という意志です。この意志がゼロになった時に、それをまた1に戻すというか、もう一度やり始めるのには、評価がつくから相当なパワーが要るんです。「一度やったけど駄目だったし、アジャイルは駄目だから」みたいに、次のチャンスがだいぶ遠のいてしまう。

うまくいくことの方が少ないけれど、少なくともゼロにしないという感覚を持つ。それは、あえて時間を先送りにするということなんです。例えば、何らかの技術的負債を返す時に、とっとと返した方がいいのはわかっている。だけどそれに向き合い続けると、今度は傾きがゼロになってしまう。そこで、あえて行動量や取り組む頻度を下げて再び時を待つ、という作戦を取れるかどうか。

もう1つは、勝てるところまで戻ることです。それでも負ける時は負けるし、うまくいかない時はいかないので、うまくいっていた頃の取り組みや状態に戻すことです。それは取り組みの難易度を下げることかもしれないし、範囲を絞ることかもしれません。勝っていたところまで戻ることを選択できるかが、回転を止めない方法の1つです。

自分が回転することで、相手も周り始める

スプリント、イテレーションという回転が持つ意味は、まだあると思っています。この回転は自分たち自身が回していきますが、きっと一緒に取り組む人がいます。一緒に取り組む相手にも回転を与える。それは組織の外の人間にも影響を与えていくということなんです。

自分がチームなら、ほかのチームと一緒に仕事をする時にアジャイルにやろうとすると、自ずと相手のチームにもアジャイルの取り組みを促しやすいと思います。

あるいは、ほかの部門と一緒にやる時にも、こちらがアジャイルでやっていたら、いつか相手も回り始めるかもしれない。組織の外にいるパートナー企業、パートナーと一緒にやる時も、相手にまた回転が生まれるかもしれない。それはユーザーや顧客に対しても同じように言えるかもしれない。そういった回転の力が相手に伝わることがあります。

我々はこの回転が生み出すもの、生み出すリズムや感覚を、一緒に取り組む相手にも伝えていきましょう。自分たちが開発チームで一緒に取り組む相手がマーケのチームだった時に、我々はアジャイルにやっているけど、マーケは違う(場合)。無理強いするわけではありませんが、我々がスプリントでやっていれば仕事の回し方が自ずとアジャイルになっていくはずなので、マーケのチームにもその方法を伝えていきましょう。

そうすれば、回転がつながっていきます。相手も回り始めます。そういう状態で組織やチームの境界を越えてやっていけるはずだ。そういうアジャイルの連なりを作っていこうということです。

つまり、アジャイルの連なりが変えるのは、自分たちの組織やチームだけではない。みなさんが回れば相手も回る。だから自分たちのいる場所を変えることには意味がある。それが2、3人のチームだろうが、1つの部門だろうが、そこで始めること。アジャイルには意味がある。そこに巻き込まれる相手に対して、回転を与えることができるかもしれない。自分たちのいる場所を変える以上の意味があると思っています。

今日の私の講演のタイトルに対するアンサーとしては、「我々がアジャイルの回転を止めずに、傾きもゼロにせず回し続ける限り、その回転の動力は相手にも伝わって自分の思いもよらぬところまで届くはずである」。これが、私の思っていることであり、考えてみればこの20年続けてきたことだと思います。

みなさんの中に回転していないかたがいれば、私の話を聞いて新たな回転が生まれることを願っています。以上です。ありがとうございました。

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