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アジャイル開発は世界を変える夢を見るか(全3記事)

可もなく不可もないチーム・組織は“闇落ち”する可能性がある 引き金を引く5つの感覚と、日本の組織が持つ判断基準の問題

ソフトウェア開発に関わる人々の新たなきっかけを生み出す場となることを目指す「Qiita Conference」。ここで「アジャイル開発は世界を変える夢を見るか 」をテーマに株式会社レッドジャーニーの市谷氏が登壇。まずは、チーム・組織の「もやみ」と闇落ちについて話します。

レッドジャーニーの市谷氏

市谷聡啓氏:みなさんこんばんは。金曜日のこんな遅い時間まで、お疲れかと思います。私も疲れていますが、この話をするまで6月が終われないので、よろしくお願いします。

あらためて、市谷と申します。レッドジャーニーという会社を立ち上げて、世の中のDXを進めたい企業に寄り添いながら支援している者です。DXといっても、新しい事業を作ったりプロダクトを作ったり、人材教育など、そこにはいろいろな中身があります。企業の状況や狙いどころに応じて、一緒に取り組んでいます。

今日のテーマであるアジャイル開発は、これとともに自分があるというか、20年以上この仕事をやっていて、アジャイル開発もちょうど二十数年経っています。始まりから今に至るまで追いかけて実践し、啓蒙し続けています。

時おり、本を出していて、最近ではスライドにある赤い本を出しました。DXを支援する中で得られた知見をまとめています。「DX? 私には関係ない」と思うかたもいるかもしれませんが、この本の中はアジャイル開発やプロダクト開発をどう進めていくかがメインになっているので、参考になればと思います。

さらに2022年7月21日に、これも今日のテーマの1つですが、『組織を芯からアジャイルにする』という本を提供します。こちらも目にすることがあれば、手にとってみてください。

みなさんのチームや現場に「もやみ」はありますか?

今日のテーマは、アジャイルです。今になってアジャイルということを考えて話す上で、最初の問いかけと切り口をスライドに置いています。みなさんのチームや現場に「もやみ」はありますか? つまり、なんだかモヤモヤする、うまくいかない、気持ち悪い、落ち着かない感じがするか。

こういうカンファレンスに参加しているかたは、チームや現場でいろいろな工夫をしていると思うので、うまくいっているところも多いと思います。ちゃんとOKRをやっているし、1on1も続けているし、リモートワークとリアルを織り混ぜながら定期的に顔を合わせて、様子をわかり合いながらプロダクト作りをやっている。「ヘルシーな現場と言えるのではないか」という人も多いと思います。

そんなチームや現場でファイブフィンガーをとってみましょう。みなさんにも考えてもらいたいんですが、ファイブフィンガーは5本の指で評価することです。5が「最高」、1が「ちょっとヤバい」、3が「まあまあ、ほどほど」という基準で、プロダクト作りや組織・現場の運営を評価・可視化するプラクティスです。

みなさん、どうですか。たぶん3の「まあまあ、ほどほど」が多いのではないかと思います。可もなく不可もなく無難ということなので、悪い数字ではありませんが、どれだけ続くかが気になる。

1ヶ月後にもう一度(評価を)とってみましょう、やはり3です。3ヶ月後にもう1回(評価を)とってみましょう。3です。と、3が続く状況があるのではないかなと思います。「これは本当か」と、ちょっと立ち止まって考えた方がいいです。

ファイブフィンガー3(FF3)は、一見悪い数字ではないので、何もしない。「まあいいか」「このままでいいや」となることが多い。(しかし、)FF3を滞留させた状態が続くと、闇落ちが起きかねません。

闇落ちの引き金を引く5つの感覚

闇落ちの引き金を引く五感があると思っています。みなさんは次のような5つの感覚をいくつ感じているでしょうか? 5つあったらだいぶヤバいかもしれない。

まずは思考停止感。組織やチームなので何か目標を置いていますが、その目標を立てたのはかなり昔のことだったりする。形骸化している可能性があるけど、ほかに案もないし、自分たちを信じ込ませるように目標を追い続けるか、KPIを追い続けるような状況です。

2つ目のぬるま湯感は、チームや組織で高みを目指しているか。高みを目指すことがすべていいわけではありませんが、野球でたとえるなら、チームで目指しているものが地区予選なのか甲子園なのか、メジャーリーグなのかにはだいぶ開きがあります。メジャーリーグを目指しているのに地区予選みたいなことをやっていると、だいぶ違和感がある。それをよしとするか、よしとしている感じです。

3つ目は孤独感。状況をなんとかしようと思う。「もっとよくなるのでは?」「こんなことをしたほ方がいいのでは?」と提言する。でも、新しい提言はだいたい理解されにくい。「よくわからない」「聞いたことがない」。とりあえず流されるような状況では、孤独を感じ始めます。

4つ目はやらされ感。こちらの提言はぜんぜん通じないけど、偉い人、マネージャーあるいは創業者、経営者の一言で物事が決まっていきます。もちろん現場は「なんか言い出したぞ」と多少混乱するけど、先ほどのような状況なので混乱も刺激になる。「まあいいか」「がんばってやってみるか」となって、やっちゃう。

最後は無力感。技術的負債、サイロ化した組織、絶えない退職者の列。かなりヤバいです。もう火薬庫から煙が見えているというか爆発している可能性がありますが、積年の状況なので、今さらヤバいと言ってもどうしようもない。

以上の5つのうち、みなさんはいくつ当てはまりましたか? 

こういった五感は取り上げにくいというか、「どうにかして。ヤバイ、どうしよう」とはなりにくい。なぜなら、これまでのことを続けるのに致命的な問題や状況というわけでもないから。多少気になるとか、ちょっと違和感がある程度。だからFF3は浮上しにくい「もやみ」の可能性があり、それが続いている場合は要注意なんです。

何か問題がありそうだけど、これまでどおりができていればひとまずOK。日々忙しいし、いちいち立ち止まって考えるのではなく、行けるなら行こうという判断。

これは、何か新しい取り組みや変化を起こしにくい状態です。これが日本のいろいろな組織で起きている。それが、冒頭で言った組織巡回やDXの名のもとに、いろいろな組織に行って感じることです。みんな同じ病にかかっている。

変化が起こしにくい・起きにくい理由と原因

そういう変化を起こしにくい、起きにくい理由と原因は、日本の組織が持っている判断基準なんです。効率への最適化です。これがいつから始まっているのかはわかりませんが、たぶん日本が強かった1980年頃。おそらくその頃は効率化によって勝てる時代だった。“金科玉条”と言ったりしますが、いろいろな組織を見て回っていると、効率化を1つの判断基準で最適化しているんですよ。

おそらく効率化で勝てる時代が(過去に)あって、そのための標準化や前提化だった。迷わないことがなによりも効率化になる。仕事をするのにいちいち迷うのではなく、「これさえやっていればいい」。そうすれば結果が出たとみなせるような状況です。

その時は、標準化や前提化をどんどん推し進めます。そのため、もっと効率化しようという状況が続いているのではないか。それが私の思うところであり、仮説です。

度を過ぎた最適化が引き金を引いて巻き起こすのが、思考停止です。ほぼ同義です。効率の最適化をしているつもりなのに、気づくとなんだかやけに非効率なことをやっている。非効率の安定化にたどり着いていることが多そうです。

よりよくしようとするほど、最適化にはまる

なぜこんなことになっているのか。「よりよくしようとするほど、最適化にはまる」という皮肉がある。組織の活動や組織を取り巻く環境は、顧客やプロダクトで実現したいこと、ユーザーにさらに価値を提供していくためには環境に最適化させなければいけない。適したかたちになっていかなければいけない。

最初はうまくいかないから、どんどん自分たちのやり方を改善し最適化していく。やがて最適化が極まってかなり進んでいく一方で、環境の方が変わっていく可能性がある。

最近のわかりやすい例では、コロナのように条件が変わるわけです。やらざるを得ない状況が起きて、リアルでやっていたビジネスや仕事をオンラインでやらなきゃいけない。目に見えてわかるというか、なんとかしなきゃいけなくなる。

場合によっては、その業界やその企業における環境が変わってくる。競合が変わっていたり、顧客が求めているものが違っているにもかかわらず、自分たちは気づかず今までどおりの磨き込みをやっている。それが止まらないことが問題なわけです。

(次回に続く)

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