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【地方創生×デザイン】創造的に暮らす未来のデザインとは?_NTTコミュニケーションズ株式会社(全1記事)

社会課題の危機感と相反する未来都市のビジョン デザインリサーチで辿り着いた「変化の時代に働くということ」

社会課題×デザインをテーマに社会課題に取り組んでいる企業が登壇する「ReDesigner Social Impact Day」。各登壇者は、Design Action・Creative Actionの重要性が叫ばれている中、自社が社会課題に対してデザインの力でどのようなアプローチを取っているのか、その中でデザイナーはどのような役割を担っているのかを話しました。「地方創生×デザイン」では、NTTコミュニケーションズ株式会社の田中友美子氏が登壇。「みらいのしごと after 50」プロジェクトにおけるフィールドワークで得た学びについて発表しました。

ICTを活用して世界をスマートにしていくことを目指すNTTコミュニケーションズ

田中友美子氏:今日は「みらいのしごと after 50」というデザインリサーチのプロジェクトを紹介します。NTTコミュニケーションズ デザインスタジオKOELの田中と申します。よろしくお願いします。

最初に私たちの会社、NTTコミュニケーションズについて簡単に紹介させてください。電話からAIまで幅広いサービスを提供していますが、法人向けビジネスを中心に事業を展開しています。みなさんが知っているかもしれないサービスでいえば、インターネットをサービス化したOCNや、30年以上使われているフリーダイヤルサービスなどの事業を行っている会社です。事業領域としては情報通信技術(ICT)でデータを送受信する電話や、ネットワーク、クラウドに加えてAI、IoT、アプリケーション事業など、データを活用して価値を生み出していくような事業も行っています。

ICTを活用して社会全体をアップデートして世界をスマートにしていくことを目指し、Smart Cityをはじめとした7つの領域のスマート化にも注力しています。また、これら世界の企業のみなさんと一緒にビジネスを作り上げていくことでスマート化の実現を目指しているのが、私たちの会社NTTコミュニケーションズです。

インハウスデザイン組織KOELのプロジェクト「みらいのしごと after 50」

NTTコミュニケーションズのインハウスデザイン組織として「KOEL」という組織があります。今回紹介するプロジェクトもKOELのプロジェクトです。KOELは、デジタルプロダクトの制作や事業開発などいろいろなジャンルのデザインプロジェクトを行っていますが、デザインの取り組みの1つに「ビジョンデザイン」と呼んでいるものがあります。

ビジョンデザインの定義をスライドに書きました。「10年後・20年後の社会の在り方をビジョンとして描き、生まれるニーズの仮説から、ソリューションを構想し、具体的な事業として社会実装を目指すアプローチ」、未来探索型のリサーチを中心としたデザインワークを行うものです。未来に住んでいる人たちはどうやって暮らしているのか、何が欲しいのか、どうしたら幸せになれるのかなど、暮らしを想像することによって提供できるものを考えていくアプローチです。今日紹介する「みらいのしごと after 50」も、そんなビジョンデザインのプロジェクトの1つとして行ったものです。

これから迎える社会課題と未来都市のビジョンのギャップにモヤモヤを感じていた

そもそもなぜ、このプロジェクトを行うことになったのか。いろいろなデザインプロジェクトでトレンドリサーチや業界の兆しを調べることが多いのですが、どんなリサーチをしても「人生100年時代」「人口減少」「高齢化」は避けては通れないトピックで、いつも出てきます。

統計的にも、2008年に人口のピークは過ぎています。約30年後の2050年には人口の3分の1が65歳以上になるという現実が、これからの日本が迎える大きな社会課題でもあり、そこからは目を背けられないなと、毎回思います。その反面、いろいろな未来都市のビジョンを見ると、そこで感じた危機感とは無縁に見えるところが、気になっていました。

スライドでお見せしているのは「さあ、空を走ろう」という2019年に経済産業省が制作した動画のワンシーンです。こうした未来像にも、もちろん解決すべき課題や示唆が多く含まれているのですが、この世界に住む人の3分の1が65歳以上で、その人たちがどういう暮らしをしているのかは、なかなか想像できないなと、そういうモヤモヤを個人的にずっと感じていました。

そのことを、株式会社リ・パブリックや山口情報芸術センター(YCAM)に話したところ、ぜひそれを知りたい、10年後の65歳以上はどういう暮らしをしているのか、何を仕事にしているのかをリサーチしようということになりました。

みらいの高齢者が、どんな世界に暮らしているのか、どんな仕事をしているのか、どうやって生きているのかを知ろうと、「みらいのしごと after 50 〜50代以降の働き方、生き方を、地域で創造的に暮らす高齢者に学び、構想する〜」というテーマを立てて、フィールドワークを含めたデザインリサーチを行うことにしました。

高齢化率が全国平均の2倍進む山口市阿東地区でフィールドワークを行った

今回フィールドワークで出向いた先は、山口県山口市の阿東地区という過疎化が進んでいる山間部です。私たちは2021年11月にここでフィールドワークをやりましたが、その年の高齢化率はすでに58.5パーセント。全国平均29.1パーセントと比較すると2倍ほど高齢化が進んでいます。過疎はずっと前から進んでいて、1999年には市営のバスがなくなり、2000年頃から小学校や中学校の廃校が続いて、2010年には地域唯一のスーパーが閉店し、市自体も山口市に合併されました。この地区を「閉じていく世界」として選び、フィールドワークを行いました。

都市システムが崩壊しつつある阿東地区で、創造的に暮らしているお三方を訪問しました。

最初に阿東文庫というところに行き、明日香さんという方を訪ねました。明日香さんは阿東と縁があって奈良から移住されました。本業のIT会社の経営を軸に、副業として農業、家業として奥さんが和菓子屋さんを経営しています。

その他の事業として、廃本を回収してコミュニティ図書館にした阿東文庫の運営と、スペダギという阿東の竹を使った自転車を作る事業を同時進行するなど、すごくいろいろなお仕事をやられています。この阿東文庫で収集した本には寄贈者の本棚を再現して保管しているものもあり、その人の思考や専門性、生き方が染み出た重厚な本棚が、廃校になった小学校の至るところを埋め尽くしている不思議な場所です。そんな小学校の教室の1つを使って、明日香さんから、複数の仕事を掛け持ちする複業(複数の生業と書いて「複業」という)の生き方を勉強させてもらいました。

2番目に訪問したのは、高田さんという方が運営している「ほほえみの郷トイトイ」です。高田さんは2010年に阿東で最後のスーパーが閉店した時にそのスーパーを買い取り、スーパー兼コミュニティスペースとして経営しています。

ここは、地域の人々に求められているものを見つけて事業として拡大するという、地域に足りなくなってきたサービスを埋める役割を持っているとても大事な場所に見えました。阿東地区の高齢化がかなり進んできて、スーパーに行きたいけど行けない人が増えてきたという多くの声が聞こえてきて、その段階で移動販売を始められたりしています。

移動販売をやり始めると、日用品が欲しいというより配達の人が来てくれることがうれしい、会話が求められていることに気づいたため、ドライバーを2名体制にして、諸々やっている間にもう1名はお客さんと話ができるよう、時間を確保するシステムにしました。

また、「お惣菜が欲しい」という声が多いことから、地域で小料理屋さんを経営していたおばあちゃんが働けるキッチンを作って、惣菜やお弁当の販売を始めました。トイトイからは、地域の人々に求められていることを見つけて足りないサービスを提供することを学びました。

3番目に前小路ワークスの清水さんという方を訪問しました。清水さんは長年広告業界で企業広報を担当していましたが、ご家族の介護のために55歳の時に東京から山口県にUターン移住し、得意だった革細工を活かしてレザークラフトショップを経営しています。山奥でこぢんまりと、経費も利益もできるだけ少なく抑えて、生活が維持できる規模で、理屈で説明できる正直な値段で、自分が納得できるビジネスをやりたいという、とことんこだわったお店を経営しています。

清水さんからの学びで大きかったのは、これまでの仕事で培ったスキルを今のビジネスに活かしているところです。例えば、企業広報時代に身に付けたWebサイトの制作のスキルを革細工の販売サイトで利用したり、前職からの単発のお仕事も受けたりして無理をしない、自分の仕事の価値を理解される環境を作って、その中で理想の生き方を実現している方でした。

3人の6つの共通点とフィールドワークでわかった社会の変化

本当にユニークな方々で、過疎が進んだ地域でもユニークに創造的にお仕事をしているなど、お三方には6つの共通点があると思いました。1つ目は、独自の価値観で動いていること。何に価値を置き、どう生きていくかを自らの力で設計している点があります。

2つ目は、プロトタイプマインドで修正していくやり方。がっちり計画を立てるのではなく、それが良さそう、ちょっとやってみようというプロトタイプマインドが強い傾向がありました。

3つ目は、強みを異なるところで活かしていること。清水さんのWebサイトのスキルのような考え方を「スキルの履き替え」と呼んでいます。他の業界では当たり前だったスキルを違う業界に持ってくるとすごく重宝される、スキルの履き替えが多いことがわかりました。

4つ目は、セーフティネットを持っていること。複業のほか、家賃が安いこともそうです。

5つ目は、場やモノを通じたコミュニティを持っていること。触れられるものや集まれる場所を拠点としたコミュニティを持っていることで、自分の仕事を認めてもらえる環境で自分のやりたいことができる。環境を自分で作っている。

最後の6つ目は、キャリアを後ろから見ていること。今の仕事は未来の自分の幸せへの仕込みで、自分はこういうものがある社会で歳を取っていきたいから今これを作っているという意識がみなさんにあって、おもしろいと思いました。

みなさんのユニークな働き方を見て、経済のシステムが大きく違う点が顕著にわかりました。まずわかったのが、これからは生産と消費の関係がまったく変わってくるということ。その境界線が曖昧になっていて、消費者のために生産者が作るのではなく、誰もがどちら側にもなり得るという状況がありました。また、投資と回収の関係はぜんぜん違うものになるという兆しも感じました。回収を前提としない、手持ちでできる範囲の投資でプロトタイプ的にやってみるという動き方が本当によかった。これがフィールドワークからわかった社会の変化でした。

未来の仕事の特徴4つ

このように人口減少の世界と生き方を見てきました。じっくり見ると、年齢というより社会のシステムが変容することによって生き方が変わってきたことが本質なのではないか。それによって働き方が変わっていく様子が見えてきました。

私たちは「みらいのしごと after 50」のテーマとして、このリサーチを始めましたが、「50歳の節目はあまり関係ないのでは? 社会が変わっていくこと、時代に生きること、そこで働くことが考えてみるべきテーマなのではないか」と思い、途中でテーマを読み直して「トランジションの時代に働くということ」にしました。人口減少や高齢化の進んだ都市はこれから日本全国にどんどん広がっていくと思いますが、そういう社会における仕事は何か、という観点で未来の仕事の変化を予測してみました。

私たちは未来の仕事の特徴として、4つの項目を予想しました。1つ目は「次世代に続く持続可能性を前提とする」です。一つひとつのプロジェクトは、5年や10年でやり遂げるというものではなく、もう少し長いスパンで次世代にバトンをつなぐような事業のタイムラインが多くなると考えました。

2つ目は「みらいの自分が住みやすい社会をつくる」。今は対象者に対して快適性・利便性を提供する仕事が多いと思いますが、未来の仕事には未来の自分が含まれる。自分のために仕込むことをやる。やや悲しいですが、国の保障などが行き届かなくなるので自分たちで仕込まなければならないという現実もあるのだと思います。

3つ目は「『生きがい』や『充実感』を目的とする」。今は、お金を多く稼げる仕事をしていることが勝ち組という認識があると思いますが、未来の仕事では働くこと自体に意義や充実感があればそれでいい。仕事は幸せに暮らすための重要な要素になると思いました。

4つ目の「複数のしごとを同時に持つ」は個人的にすごく心に響いて、山口県から帰ってきてずっとこのことを考えています。未来の仕事には、これがすごく大事になると思っています。未来の社会では、人口がすごく減って専業の働き手を確保することがだんだん難しくなる。おそらく多くの職業が兼業前提でないと回らない社会になると考えられます。そうすると、1人が複数の職に並行して就くという複業のスタイルはある程度当たり前になると予想しています。個人の視点から見ても、トランジションの時代では変化がずっと起こっていて先が読みにくいので、他業種にまたがる複業がセーフティネットになる。

例えば、私は今デザインの仕事一本で生きていますが、世の中にデザインが不要となった時にも「どうしよう」とはならないように、異分野の仕事を並行していれば、デザインの仕事はぜんぜんないけど、私にはケーキ屋さんがあるとか、先ほど石原さん(石原仁美氏)がおっしゃっていた「私には自然食品屋さんがある」とか、異なる分野のお仕事を並行することで世の中の変化に柔軟に対応できるセーフティネットを作ることができる。そういう意味で複数のお仕事を持つということはすごく重要になるとわかりました。

フィールドワークを経て考えたデザインリサーチの意義

「10年後の未来の高齢者や65歳以上はどんな世界で暮らしているのか、どんな世界でどんな仕事をしているのか」という気持ちで始めたデザインリサーチでしたが、それを通じて人口減少や高齢化した未来の社会の姿や、その中で暮らす人の働き方が具体的に見ることができビジョンを描くことができました。

このような視点を持つことで、これから地方はどんな世界になっていくのか、中で生きる人にとって何が大事なのかを仕事という切り口で考えることができるようになったことが、今回のデザインリサーチの実りだと思っています。

「この人たちはどうやって生きていくのか」という課題に対して、サポートするテクノロジーはどんなことができるのか、それを作るためには何をサービスプロダクトとして作ればいいのかを構想する。適切な事業開発のためには、この順番で考えることが大事で、それらをできるようにするのがデザインリサーチの意義なのではないかと考えました。私たちはこれからコンセプト策定や新しい事業を作る時に、この視点を活かしたいと思っています。

今日は駆け足で「みらいのしごと after 50」のプロジェクトを紹介しました。ここで行ったリサーチのプロセスやインサイト、デザインリサーチのジャンルについてはKOEL公式noteの記事に詳しく書きました。全5話でかなりボリュームのある内容ですが、今日の話で興味を持った方は、ぜひそちらも読んでください。ありがとうございました。

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