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【アイデンティティー×デザイン】想いをカタチにするブランドストーリーとは_タカヤオオタさん・木村 祥一郎さん(全1記事)

「ユーザーにより良いブランド体験を」「商品の本質を伝えたい」 タカヤ・オオタ氏と木村祥一郎氏が語る、デザインとの向き合い方

社会課題×デザインをテーマに社会課題に取り組んでいる企業が登壇する「ReDesigner Social Impact Day」。各登壇者は、Design Action・Creative Actionの重要性が叫ばれている中、自社が社会課題に対してデザインの力でどのようなアプローチを取っているのか、その中でデザイナーはどのような役割を担っているのかを話しました。特別セッションのテーマは「アイデンティティー×デザイン」。ここで登壇したのは、株式会社ケルンのタカヤ・オオタ氏と木村石鹸工業株式会社の木村祥一郎氏。企業・デザイナーそれぞれの視点からどのようにブランドと向き合ってきたのかについて話しました。

タカヤ・オオタ氏の自己紹介

タカヤ・オオタ氏(以下、オオタ):みなさん初めまして。デザイナーのタカヤ・オオタと申します。本日はよろしくお願いします。自己紹介を簡単にすると、先ほど佐宗(佐宗純氏)からもあったように、東京にある立教大学で経営学を学び、大学卒業後は、2年から3年ほど株式会社monopoというデザイン事務所に在籍していました。

その後は2年ぐらい、株式会社ペロリ(現 株式会社MERY)という女性向けのメディアをやっている事業会社で、アートディレクターをしました。その後、今のデザイン事務所である株式会社ケルンを立ち上げました。なので、ファーストキャリアはデザイン事務所で、そのあと事業会社に数年在籍して、また自分で制作会社を立ち上げたという経緯になります。

より良いブランド体験を提供するためにデザインを整える

オオタ:ケルンは、スタートアップの方と仕事をすることが多く、(スライドを示して)これは「LUUP(ループ)」という2022年2月にリリースされた電動のキックボードと、電動の自動車を提供しているサービスです。

次は、青山ブックセンターさんです。その次が『明け方の若者たち』。これは小説ですね。

このように、事業領域ですごくフォーカスしてデザインをするというよりは、『明け方の若者たち』のように、今までSNSで呟きで発信をしていた人が、小説家デビューをして映画化をするという、今までとは受け手の幅が広がっていく世界や、次のページの「Mr. CHEESECAKE」のように、シェフが1人で作っていたところから、よりたくさんの人に触れてもらう機会やタイミングで、デザインを整えています。

デザインを整えると言ったら簡単ですが、どういうふうにアプローチを捉え直すかとか、どういうコミュニケーションをしていけば、今まで応援してくださった人にも、ここから新しく触れるお客さまにも、ブランドの体験としてより良いものを提供できるのかを、主に見た目の側面というところでお力添えをしている会社です。どうぞよろしくお願いします。

嫌々継いだ家業で“ものづくりのおもしろさ”を知った

木村祥一郎氏(以下、木村):今日はデザインの話がメインですが、自己紹介だけだとあまりおもしろくないので、ふだんあまり公にしていない失敗した時の話をして後半の話のネタにでもなればいいと思っています。

会社の紹介をします。木村石鹸は1924年、大正13年に創業した石鹸メーカーです。今は大阪の八尾市というところにあります。スライドの写真にあるように、職人が釜で油から石鹸を焚いて、熱を入れて作るという、昔ながらの釜焚き製法という石鹸の作り方を今も続けています。こうやって作ったものを商品に配合して、いろいろな洗浄剤を作っている会社です。

私は木村石鹸の4代目にあたります。もともと木村石鹸の4代目になるのは長男で、「お前は木村石鹸を継ぐんだ」と言われ続けていたのですが、言われれば言われるほど継ぎたくなくなって、大学の4回生の時の友達と起業したIT系の会社を18年間ずっとやっていました。

その会社一本でやっていくつもりだったのですが、家業である木村石鹸に事業承継の問題などがあって帰らざるを得なくなったんですね。正直、最初は泣く泣くというか、嫌々戻ってきました。それが2013年です。戻ってきて嫌々やっていたのですが、ものづくりがおもしろくて、結果的に3年後に社長に就任して今は木村石鹸一本でやっています。

OEM事業から自社ブランド事業へ

木村:どんな商品を扱っているのか。もともと木村石鹸は開発や設計を請け負う「OEM」という会社でした。企業から「こういうものを作ってほしい」というオーダーを受けて、それを作ってその企業に納品して、その企業がその商品を販売するという裏方の仕事をやっていました。

ところが、私が木村石鹸に戻った時にはそれらOEMの事業の利益がどんどん取りにくくなっていました。このままだとマズイということで、自分たちで作った商品を自分たちで販路を作って売っていこうと。自社ブランドの事業を立ち上げようと思い、最初に立ち上げたのが「SOMALI」というブランドです。石鹸と天然由来の成分だけで作っている、主にハウスケア(の商品)です。台所の洗剤やお風呂の洗剤、衣類の洗剤などがあります。

ほかには「CRAFTSMANSHIP」シリーズというブランドがあります。これは家庭の中のニッチなお掃除のニーズに応えるような商品群です。わかりやすいのは、スライドのような冷蔵庫の自動製氷機を洗う専用の洗剤。ほかに風呂床専門の洗剤など、ちょっとニッチだけれどなかなか落としにくい汚れ用の洗剤を商品化しています。

2020年には「12/JU-NI」というシャンプー・コンディショナーをクラウドファンディングからスタートして発売しました。ヘアケアのブランドとしてJU-NIで販路を展開して、大きく3つのブランドの商品を自分たちで作って、直販がメインですが卸も含めて自分たちで売る事業を展開しています。

これらの自社ブランド事業は、実は自社ブランド事業の第二弾みたいなもので、この第二弾ブランドの事業を始める前に、実は、「自社ブランド事業第一弾」をやっていました。私が戻った時は、この「自社ブランド事業第一弾」を撤退するところから始めました。もともと会社ではOEMだけではやばい、新しい販路を開拓しなきゃと自社ブランド事業を立ち上げたのですが、それがうまくいっていなかったんです。

匂いだけでカビ・ダニ・虫を撃退する安全性の高い商品を開発

木村:それにデザインやクリエイティブが絡むので、その話をしようと思います。(スライドを示して)こんな商品です。どうでしょう、見て何かわかりますでしょうか。

上に紐が付いている紙のプレートを吊るすと匂いが出るものです。「アロマで虫よけ・防カビ・ダニよけ」とありますが、これがドラッグストア、ホームセンター、コンビニなどの棚に置かれている、あるいは吊り下げられているというイメージを持ってほしいんです。こういう商品を作って量販店向けに展開していこうと始めた事業でした。

それぞれかわいらしいキャラクターを作っています。どんな商品かというと、香料、匂いです。香料の組み合わせでカビを防いだり、ダニを殺したり、虫を忌避したりする商品です。香料だけで作られているので、殺虫成分や化学成分は一切使っていない、非常に安全性が高い商品です。

一方でダニを殺す匂い、カビを防ぐ匂いは機能とセットになっているので、匂いを変えることはできません。「この匂いはこの機能」と決まっているので、「この匂いが嫌だから違う匂いが欲しい」と言われてもできません。それは短所ですが、すごく安全性が高い商品という長所があります。

上々の反応だったはずが数ヶ月で返品の山

木村:これを開発して、大々的に店舗に展開していこうと、デザイン会社に相談したんです。そうすると、量販店で展開するにはやはり目立つキャラクターが必要だということで、キャラクターを開発することになったんです。棚に並べて目を引くためには、ただのキャラクターだとおもしろくないので、フィンランドの「トントゥ」という家を守る妖精の物語を借りてきて、トントゥをキャラクター化しようと。いろいろな妖精のキャラクターが家を守るというストーリーです。

ダニやカビを防ぐ機能を持ったプレート、匂いが出るアロマプレートという商品を作る。それはデザイナーさんからの提案でした。それを展示会に出したところ、反応は良かったみたいなんです。こういう商品がなかったということもあって、反応が良くて、取り上げたいという人がバーッと出てきて社内も沸き立ったようです。全国の大手の量販店に展開されることになって注文も多かった。

ところが数ヶ月すると、返品の山です。ぜんぜん売れなくて、お店からどんどん返ってくるんです。出荷した数量や額の30パーセントくらいが返ってくるような状態。私が2013年に木村石鹸に戻った時は、そのような返品にすごく悩まされていました。返品の山だったんです。

それから、この事業は絶対にダメだ、この商品をそのままやっていてもダメだと思い、すぐに撤退を決めました。結局、撤退までに3年かかりました。

安全性が高くユニークな商品が売れなかった理由

木村:これを聞いている、クリエイティブなことや商品開発をやっている方は、少し考えればわかると思います。この商品は香料だけで防カビ・ダニよけ・虫よけができる、すごく安全性が高くユニークな商品だと。

でも、その機能面のすごさが、今見えますかね。このキャラクターとこのクリエイティブで「安全性の高さ」がアピールできるのか、訴えられるのかという問題があります。また、ドラッグストアやホームセンターが、安全なもの、人に優しいものを一番重要視している人たちが、買おうとする場所なのかどうか。

ドラッグストアやホームセンターが、その機能が伝わる場所なのか、チャネルなのかというと、たぶんそうじゃないと思うんですよね。やはりドラッグストアやホームセンターは、単価298円とか、価格も重視されますし、大手ブランドが強い市場です。

私が一番根本的にダメだったと思っているのは、そもそもこれを利用したいかどうかです。考えてほしいんです。これはプレートを吊るすと、その匂いが出ている範囲だけダニが来ません。ダニを防ぐためには部屋のいろいろなところにこれをかけないといけません。あるいは防カビであれば、お風呂場にかける。車のエアコンはすぐにカビが生えますが、バックミラーに吊るしておくとカビを防げる。機能としてはおもしろいんですが、果たして家や車にこのキャラクターのプレートをかけておきたいかどうか。

私は商品の機能としてはいいと思いましたが、自分の家には絶対に置きたくないと思いました。むしろこういうものはインテリアに紛れた自然な存在として存在感をアピールしちゃいけないものだと思うんです。よほどキャラクターが好きな人ならわかりますが、ほとんどの人はこれを家中にかけることに抵抗があると思います。

売れなかった、売れても継続しなかった大きな理由は、販路を間違えていたことと、この商品の良さを伝えるクリエイティブな表現ではなかったこと、利用者のシーンをぜんぜん考えていなかったことだと思っています。

表層的なデザインでは商品の本質を伝えられない

木村:この失敗を、自社ブランドの第二弾として先ほど紹介したSOMALIを作る時の反省材料にするというか、同じことを絶対にしちゃダメだと思ったんです。自分たちの商品の特性をきちんと理解して、それに合わせたデザインと市場の選択をする必要が当然ある。また、当たり前のことですが、まずは利用者をしっかりイメージする。

店頭に置いた時に目に付きやすい、バイヤーの目に留まりやすいという理由でああいうキャラクターを作るのはすごく表層的です。ぜんぜん利用シーンを考えていないと思います。トントゥという妖精の物語は、あくまで装飾的なストーリーです。そういう収まりのある装飾的なストーリーで取り繕っているけど、ぜんぜん本質的じゃない。

本当に安全なものを香料だけで作り上げるのは大変ですが、その本質がまったく伝わらないストーリーです。商品としてもファンづくりにつながるようなことはまったく考えていなくて、短期でとにかく注目されて売れればいいやという感じになっていたと反省しました。この反省を踏まえて、SOMALIを作りました。

当たり前ですが、こういうことを全部考えるのがデザインだと思うんです。プロダクトやサービスのアウトプットが出来上がって、そのアウトプットのキレイさ、カッコよさ、かわいさは当然デザインではなくて、全部を含めてその商品が一番輝いて、お客さまのところで使っていただいて気持ち良くなる。そういうものをどう作るかがデザインだと思っています。今はそれを意識してライン開発やブランディングをやっています。自己紹介ではなくなりましたが、以上です。

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