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リサーチ文化を組織に埋め込むために実践したこと(全2記事)

「ユーザーファーストよりファーストユーザー」「プロダクトアウトからのマーケットイン」 ユーザベースらしいリサーチとプロダクト開発の関係作り

「​​RESEARCH Conference」は、リサーチをテーマとした日本発のカンファレンスです。より良いサービスづくりの土壌を育むために、デザインリサーチやUXリサーチの実践知を共有し、リサーチの価値や可能性を広く伝えることを目的としています。ここで登壇したのは、株式会社ユーザベース コーポレート執行役員・CDOの平野友規氏。リサーチ文化を組織に埋め込むために実践したことを発表しました。全2回。後半は、ユーザベースらしい組織文化にフィットしたリサーチとプロダクト開発の関係作りについて。前半はこちら。

「Design research team」の誕生とその取り組み

平野友規氏(以下、平野):実践したこと。育休を取っていたので僕はできないのですが、「Design research team」を誕生させました。そこは、組織責任者になった権力をガンガン使って、チームを勝手に作りました。

ちょっとポエムを書いてきたんですが、年間計画に入っていないチームなので、当時は予算がないんですね。本当に有志の中で作っていかなければいけなくて、ただ情熱だけはあった。だけど情熱だけあっても、やはり結果を求められるんですね。だからここをどう接続させていくのかが本当に難しかったなと思っています。

みなさんご存じ、仙田君(仙田真郷氏)。実は、noteに入る前にユーザベースで業務委託で働いてもらっていました。仙田君と三宅さん(三宅佑樹氏)という方から「デザインリサーチに挑戦したい」というお話を受けて、4月から6月の間のファースト「Design research team」は、この2人でやっていました。

仙田君は、6月からnoteに移って、その後はSPEEDAのデータチームに所属していた崎田さん(崎田大樹氏)という方が、「デザインリサーチに挑戦したい」と言ったので、「レンタル移籍で来ちゃいなよ」と言って来てもらいました。このペアでやってきたのが、デザインリサーチのスタートでした。

こういうのは曖昧にするとよくわからなくなってしまうので、OKRにしっかり組み込んで、社内でUXリサーチを始めるというのを明確に掲げました。

その結果指標として、ユーザーインタビューの数と、そのユーザーインタビューを全部事例スライドにして、BXデザイナーの力をフル活用して、読んでわかるのではなく見てわかるユーザー利用事例を作ることに振り切りました。

当時の月例の報告会のスライドを持ってきました。三宅さんや仙田君が、インタビューをメッチャがんばってくれたり、当時の熱量がこのスライドにも表れているなと思っています。

左上にいる仙田君が20社分の文字起こしをしました。予算があれば文字起こしを外に出せるんですが、守秘義務契約とかそういう契約系も巻く時間がぜんぜんなかったので、仙田君にメチャクチャ助けてもらったのを覚えています。

あとは、デザインリサーチチームを立ち上げたばかりだったので、「インタビューってどうやればいいの?」とか、「リサーチってどうやればいいの?」というのを、三宅さんや仙田君に伝えなければいけない事情がありました。僕は育休中でしたが、毎日夜の6時半ぐらいからお風呂場で三宅さんに、「今日のふり返りは?」みたいに聞いていたのを覚えています。

無事に、25社のインタビューとスライドが完成したので、これを見てわかるユーザーリサーチの結果をGoogleスライドにまとめていきました。さすがに中身はお見せできませんが、こんな感じで誰でも見られる、そしてわかる状態にしていきました。

リサーチに対する事業部メンバーの意識を変えられた

当然、Slackで反響が上がってくるんですよね。今映っているSlackで「うおー、継続してやりたいです。これメッチャいいですね!」と言っているのは、後にINITIAL事業のCEOになる千葉さん(千葉信明氏)です。カスタマーサクセスのところから、「スライド、メッチャいいじゃん!」みたいなことで、こういったファン作りみたいなことが出てきました。

ユーザベースはSlack文化なんですよ。Slackのチャンネル数が異常に多いSlack文化です。そこで三宅さんが、みんなにリサーチを少しでも近いものに感じてもらえるように、そして結果がすぐわかるように「Design Research Letter」みたいなものを出すという取り組みをしていました。

崎田さんは、今はUB Datatechという関連会社にいます。「リサーチをやったことで、ユーザーのインタビューや行動から示唆を出し、そこから企画することを実践していきたいです」という感じで、ファン作りのところも崎田さんに参加してもらったことでできたのかなと思っています。

ここでのまとめは、「Design research team」の成果物によって、ユーザーのプロダクトの利用実態を把握しやすくなったということです。今まではインタビューの文章を全部読まなければいけなかったことが、Googleスライドでいつでもわかるようになったのはメチャクチャ大きかったんですね。

特に、インサイドセールスの商談トークや、新しく入ってきた人のオンボーディングでメチャクチャこれが利活用されて、「すごく役に立っています」という声をもらいました。

そういうことが積み重なって、ユーザーリサーチをすると、自分の仕事の品質向上につながっていくんだということで、プロダクト戦略みたいな遠いところから、目の前の仕事にだいぶ寄せられたのかなと思っています。

土台にした組織文化は、OKR。それとセールス、マーケ、カスタマーサクセスなど、レベニュー組織はかなり資料を作っているので、そこに寄せにいって、ユーザーリサーチが身近になるように工夫しました。仙田君、あの時は本当にありがとうございました。本当に助かりました。noteでの活躍をいつも楽しみにTwitterで見ています。

マーケティングも「Users Driven Marketing」となった

順風満帆に行くかと思っていたのですが、4章「リサーチの火を託す」。ちょっと怪しいタイトルです。

「Design research team」は順調に立ち上がったんですが、一方でデザイン組織が急速に合体した関係もあって、完全に平野が原因で組織問題が起きちゃったんですね。

三宅さんに本当に平謝りして、「本当に申し訳ないんだけど、組織を立て直したいからリサーチチームを1回解体して、BXデザインチームのリーダーをやってくれないか?」みたいな話をしました。

僕が未だに、「もう二度と組織問題をやりたくないな」と思っているのは、三宅さんのキャリアを1回潰してしまったからです。だからもう二度と組織問題は起こさないと心に誓っています。

こういう事情があったので、ユーザーリサーチの責任者が、デザイン組織からカスタマーサクセスチームに移っていくんですね。一方で、ユーザーリサーチをどんどんやっていて、手前の結果からプロダクト開発した機能がどんどんリリースされ始めたのもこの時期でした。

また、リサーチが根付いていったのも関係しているかはわかりませんが、マーケティングも「Users Driven Marketing」という、ユーザーをより見ていくような流れになっていきました。

このへんはダイジェストですが、「FLASH Opinion」という24時間以内に専門家のコメントをもらえるサービスがあって、アクセンチュアの方と一緒にフィードバックをもらいながら、プロダクト開発をしていったり。セグメント比較、中国向けの「China」、R&Dと呼ばれる学術論文動向検索、KPI比較機能みたいなものは、ユーザーリサーチがベースにあって作られていったものかなと僕は考えています。

「Users Driven Marketing」はこういったものですね。セミナーにかなりユーザーの方が出るようになったので、詳しくは下のところに書いてあります。あと、コミュニティも作っていったのがこの時期だったかなと思います。

「ユーザーファーストよりファーストユーザー」

じゃあ、ユーザーリサーチの種火を受け継いだ人は誰だったのか。

これは西川翔陽さんという方で、当時はカスタマーサクセスの1メンバーでしたが、今はSPEEDA事業の執行役員のチーフカスタマーオフィサーの2代目で、プロダクトマネージャーになっています。

ユーザベースのSPEEDA事業では、たぶん今までプロダクトマネージャーというロールを作ってこなかったんですが、このあたりからプロダクトマネージャーという役職が作られた経緯もあります。

翔陽さんがすごいのは、営業、インサイドセールス、マーケティング、CSを、全部レベニューを通してロールを持ってきた上で、前職でSONYの経営企画にいたので、SPEEDAユーザーでもあったんですね。今でもほぼ毎週ユーザーインタビューを実施している方で、美しさ以外のデザインの力を知ってくれた、平野のファーストフォロワーの1人でもあります。

西川さんが今挑戦していることが、この3つです。「ユーザーファーストよりファーストユーザー」。「プロダクトアウトからのマーケットイン」、「N1インタビューと解約分析」です。

この「N1インタビューと解約分析」に関しては、他のイベントでお話されると思うので、今日は割愛します。今日は、「ユーザーファーストよりファーストユーザー」、「プロダクトアウトからのマーケットイン」とは何だ、みたいなところを深掘りしたいと思います。

「ユーザーファーストよりファーストユーザー」&「プロダクトアウトからのマーケットイン」というのは、ユーザベースらしい組織文化にフィットしたリサーチとプロダクト開発の関係作りのことです。

まず、この「ユーザーファーストよりファーストユーザー」ですが、ユーザベースの行動指針、「The 7 Values」の中の1つに、ユーザーの理想から始めるというものがあります。

ユーザーの理想から始める「The 7 Values」は、31のより具体的な行動指針(「31の約束」)に分解されるのですが、そのうちの14番目に、「ユーザーヒアリングでモノをつくる」のではなく、「自分がユーザーとなり欲しいモノをつくる」というものがあるんですね。やはりこれがユーザベースのカルチャーだなって、あらためて僕も思います。

「プロダクトアウトからのマーケットイン」

そして、「プロダクトアウトからのマーケットイン」。

この『STARTUP』という本の中の一説で、創業者の梅田さん(梅田優祐氏)が(スライドを示して)下記のようなことを語っています。つまり、ユーザベースの創業者の梅田さんのプロダクト作りのDNAが、この「プロダクトアウトからのマーケットイン」だったりします。

左側に、「当時はMVPみたいに必要最低限の機能でリリースして、お客さんからのフィードバックをもとに機能改善していくというプロセスを踏む余裕はありませんでした。とにかくキャッシュが減っていく中で、まずはSPEEDAをリリースすることだけに必死だった。ただリリースした後はお客さんの声を必死に聞き、高速回転で改善を繰り返していきました」と書いてあります。

この「プロダクトアウトからのマーケットイン」と、この「自分がユーザーとなり欲しいモノをつくる」という、「The 7 Values」を因数分解したものが、「ユーザーファーストよりファーストユーザー」なんですね。

ユーザーファーストはもちろんやりますが、僕らがSPEEDA事業のプロダクト作りでなによりも大切にしていたのは、自分が欲しいものを作れるかどうか。喉から手が出るほど欲しい機能を作れるかどうかにすごくこだわっています。

MVPはリサーチ結果を踏まえつつも、プロダクトアウトで作るのが僕らの開発のやり方です。ただしリリースした瞬間から、マーケットインでリサーチして機能改善をガンガンやっていくという流れです。

この4章であらためて思ったのは、行動指針に基づいたリサーチとプロダクト開発の関係性は、組織に根付きやすいということと、やはり土台にした文化がユーザベースの「The 7 Values」と「31の約束」なので、ワークするということです。だからやはり、ここが今非常にうまくいっている理由かなと思っています。

現在のSPEEDAにおけるプロダクト開発

2022年1月にプロダクトマネジメント組織が誕生して、現在のSPEEDAのプロダクト開発の景色がこんな感じです。プロダクトオーナーは煙みたいな、神さまですね。祈祷師がパーッとやっているのがプロダクトマネージャーで、プロダクトデザイナーとエンジニアとカスタマーサクセスがお告げを聞いていて、エンジニアさんはなんなら困っちゃっているみたいな、こういうところなんですけど。

簡単に言うと、プロダクトオーナーは、今Co-CEOであり事業責任者の佐久間さん(佐久間 衡氏)で、プロダクトマネージャーが西川さんで、プロダクトデザイナーが僕ですね。

佐久間さんはもう、UXの神となっているので、お告げをいつも発信するんですね。この神のお告げを言語化するのがプロジェクトマネージャーの西川さんで、その言語を造形に変えるのが僕という役割分担で今は回しています。

ユーザベースは、一連のリサーチ文化をダーッとやってきたので、各ロールの人とユーザーの距離が非常に近いんです。ほとんど毎週ユーザーリサーチをしているようなものなので、いつでも気軽に参加できたり、ともすれば営業同行だったりカスタマーサクセスの同行だったりも、特にオンラインになってからは可能なんですね。

そうすると、顧客と距離が近いし、声もSlackとかでバンバン上がってくるので、リサーチが本当に身近なものになっていて、各ロールの人から機能提案が出てくるんです。

昔はこれを管理するのがすごく難しかったんですが、今はプロダクトマネジメントの「Flyle」を入れて、ここに全部集約して、さらに、神からのお告げもここに一緒に入れて、SPEEDA開発をしています。開発定例でも、セールスやアナリストから「ここを改善してほしい」と機能提案が出る組織になっています。

リサーチ文化を組織に埋め込むために必要なこと

まとめです。「リサーチ文化を組織に埋め込むためには?」というところで、デザイナーは、すでにある組織文化(リソース)に光を当てる。そして、ドメインマスターを特定し、その人がリサーチ責任者となる。

SPEEDAは、BtoBで投資銀行、証券会社、経営企画といった、デザイナーがふだん生活していたらわからないところの領域のものです。デザイナーの勘どころが働かない以上、デザイナーがそこにしみ出すよりかは、その事業ドメインをメチャクチャわかっているドメインマスターをリサーチ責任者に置いてしまったほうが、はるかに高い高解像度を取れると思っています。

その方と一緒に組んでプロダクトを作っていくのがやはり大事だと思っているので、デザイナーは、そのリサーチ文化の土壌を耕すほうにより寄せていく。そのためには組織文化に光を当てていくというのが、僕の答えかなと思います。

新しく挑戦的な取り組みを組織文化に根付かせるには、やはりボトムアップとトップダウンを交互に繰り返していくしかないなと思っています。ボトムアップで声を挙げて小さな結果を出して、トップダウンの責任で次の大胆な一手を打つ。そしてまた外の力を借りて、そこでの学びを、今回で言うとGoodpatchさんですが、内に取り込んでいく。

必ずそこには、挑戦の責任を背負う人がいるんですね。灯した火を再点火するのはメチャクチャ大変なので、消さないように必死に狂ったように大きくしていく。聖火リレーのように受け渡していく。そういうことがやはりすごく大事だと、あらためて思っています。

最後、「デザイナーがリサーチ文化を『スタート』するには?」というところですね。リサーチ文化を根付かせるために、(ドメイン知識がない場合の)デザイナーは、その土壌を耕すことに集中していく、というのが僕の最後のまとめです。ありがとうございました。

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