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10〜1000 名開発組織に向き合ったCTO 経験から語るキャリア論(全4記事)

強いエンジニア・プロダクトマネージャー・経営者になるために LayerX・松本勇気氏の意志決定を支える、中心概念

技育祭は「技術者を育てる」ことを目的としたエンジニアを目指す学生のための日本最大のオンラインカンファレンスです。ここで登壇したのは、株式会社LayerX・代表取締役 CTOの松本勇気氏。自身のCTO経験から、キャリア論を語りました。全4回。3回目は、それぞれの概念について。前回はこちら。

概念2 「探索と振り返り」

松本勇気氏:不確実性が高い状態だと、どっちに振れるかぜんぜんわからないので、わからないことを探索しようと。探索というのは、仮説を立ててアクションして、結果を振り返って、そこから新しい知識を得ることです。この過程のことを僕は「探索と振り返り」と呼んでいます。探索と振り返りがなぜ重要かというと、知識がストックするほど、どこに向かうかがわかるから、先ほどのリスクが小さくなってくるんですよ。何をすれば自分の給与が上がるんだろう、自分は評価されるんだろうとか、自分の技術力は上がるんだろうみたいな。知れば知るほど、これを勉強すべきだというのがわかってくるわけです。

いきなり、「俺は最高のソフトエンジニアになるんだ」と言って、釘とトンカチを持ってくる人はいないと思うんですよ。でも、熟練した人から見るとわりとそういうことをやってしまっているケースもあります。いわゆる無駄な努力をしてしまうことでもあります。

どういうことをやれば適切なリターンを得られるのか、リターンの振れ幅を小さくできるのかというのを求めていく必要があって、それは知識によって得られます。なので、「自分の目的、リターンはこれというのに対して、今自分が持っている知識だとこんな感じの振れ幅があるけれど、その中で俺はよくわかっていないな。だけど仮説はこうだから、そうすると振り返りはこういう方向になるかもしれない」とリターンはこういうふうになるかもしれないという振り返りの基準を作ります。

そこから仮説に則って行動していきます。こういう本を読んで、まず勉強してみようかなとか、こういうふうに動くとこういう評価を得られるんじゃないかとか、探索をして、行動して、振り返りをします。だらだらやってもしょうがないので、基本的には期限を決めます。1週間なのか、1ヶ月なのか、1年なのか。いろいろあっていいんですよ。

例えば、「自分は技術力を上げたい」という時に、技術力を上げるというのはどういうことで、自分はどれくらいのスピードで何をマスターできるんだろうというのを知ると、なんとなく自分の到達点がわかってきますよね。自分が1年でこういう技術スタックをマスターできるのかどうなのかが、少しずつわかってきます。そういう自分の学習力みたいなところを測るために、いったん1ヶ月でこういう書籍で、こういうものを勉強してマスターしてみようという仮説を立てます。

もともと1ヶ月でできると思っていたことが、実際に動いてみたら、実は2週間で終わりました。だったら、今後こういうことを勉強するのであれば2週間でマスターできるから、こういうふうに自分の方向性を変えられるよね。と、振り返りをして、自分のこれまでの仮説と実際の差分を見てみます。

結果として、自分の学習はこういうふうにできるんだとか、自分はこういうことが得意で、こういうことが得意ではないんだという知識や、社会に対する知識が貯まっていって、こういうことを動いていけば、よりこういう評価を得られるということも知れるかもしれません。

このサイクルをぐるぐる回していくことで知識が貯まっていきます。自分の知識が増えていくと、未来のリターンに対して、俺はこういう方向に行きたいんだということに対して、触れ幅を小さく、確度高く達成できるようになります。リスクを最小化できます。この知識が貯まれば貯まるほど、リスクを最小化できて、確実に達成できるようになるので、より素早い目標達成につながっていきます。

この探索と振り返りを繰り返して知識を貯めていかないと、キャリアを経るにつれて自分の能力差が、非常に速い速度でどんどん開いていきます。みなさんはたぶん、強いエンジニア、強いプロダクトマネージャー、強い経営者になりたいと思っているかもしれませんが、それになるためにはこの「探索と振り返り」をどれだけ繰り返して、どれだけ知識を蓄積できるかが重要だと思っています。それによってどんな問題にも答えが出せる人になる。この繰り返しをもって、不確実性を最小化していくということです。

(コメントを見て)ちなみに「探索する勇気が出ない」と今コメントをいただいているのですが、これはすごく大事な自分に対する理解だと思っています。勇気が出ない場合、それを理解していることが重要です。勇気が出ないならば、自分が出せる最大の一歩はなんだろうと考えていきます。最大の一歩に対して、実際にこういうふうにアクションしてみようと。一歩やってみると、例えばそこからさらにもう10%リスクの高いことをやるのは、なにもないよりは比較するポイントがあって知らないことではないので、意外と勇気が持てるようになるんですよね。

いきなり自分の全財産を投入して宝くじを買えという世界ではなくて、1,000円を使って本を買うだけの話だったりもします。自分が取れるリスクを見極めるために、自分の性質を知る必要があるし、それに合わせたアクションをするからこそ継続的に成長できるんだと思います。ちょっと余談でした。

概念3 「ポートフォリオ」

こうやってリスク・リターンを定義して、それに対する探索という活動の概念を持ったうえで、もう1つ自分の中で意識しているのが「ポートフォリオ」です。自分の持っている資産はどんなものにも限界があるんです。時間もそうで、時間は本当に平等な資産です。イーロン・マスクもみなさんも、同じ24時間365日を生きています。時間は有限です。お金も最初は有限だし、最初の頃はすごく少ないかもしれません。あと信用もなかったりします。でも、一方で実は体力はあったりします。これをどういうふうに考えるかです。

この限られたリソースを何に割り当てるかを意識しておきます。これを意識しないと、戦略性のないまま自分の資産を使ってしまって、得たいリターンにたどり着かないことになり得ます。金融の世界で、ポートフォリオは金融商品の組み合わせのことを言うのですが、これを自分の持っている資産として捉えてみると、いろいろな資産を何に割り当てるのかだと思ってください。

この中で、お金、時間、知識、もすごく大事ですが、信用してもらえないと仕事を任せてもらえなかったりするので、信用もすごく大事です。また、自分が今できることよりも背伸びしたことを任せてもらうためにも、「こいつは言ったらやってくれる」みたいな信用も必要です。そういった資産に対して、自分の意思で何に対してどれぐらい割り当てるのかを考えます。十分なリスクを取っているのか、常に自問自答します。

僕の場合はちょっと麻痺しているので、リスクを取らないとすごくムズムズしてくるんですよね。いや、なんか生きてる感じがしないみたいな。それはちょっとジャンキーなので、あまり良くない考え方ですが、自分が想定するリスクをきちんと取れているかは考えていかなければいけません。リスクを取らないと、いつまでも自分の思っている世界にしかたどり着きません。

また、自分の資産を想定どおりに稼働させられるかどうかを考える必要もあります。100%稼働させて倒れてしまっても意味がないので、遊びも含めてどうあるべきかを考えます。

ほかにも、ポートフォリオを選択することのデメリットが絶対あります。みなさんがワークライフバランスの中で、特にライフを優先すると選択した時に、これは仕事ばかり考える人間と比べると、どうしても仕事の機会、時間はちょっと減ってしまうので、それをきちんとトレードオフとして理解ができるか。もちろん今の社会は、ライフバランスを保ちながら仕事することがどんどんできるようになっていますが、どんな意志決定でもトレードオフが絶対にあります。トレードオフを人のせいにせずに納得できるのかはすごく大事です。

それから、ポートフォリオ自体も仮説に応じてきちんと見直すのが大事です。このポートフォリオの組み合わせでどういう課題を突破して、どういう理解をしていくのかということです。そういうところを考えて自分のポートフォリオを組みます。(コメントを見て)自分ならちょっと大変だなと言っている方もいますが、無理をしろと言っているのではなくて、自分で考えた構成を取ってくれということです。

無茶をすると、どんな人生も結局破綻するわけです。働きすぎて心を壊すと、それは一生回復できない傷になったりもします。なので、自分の制約の中でどうやって生きていくのかがすごく大切です。その制約の中で最大限動かないと、やはりもったいないなと思っているので、自分を守る、そのうえで何を達成するかに対して、自分の意思を持っていくことを僕はいつも大事にしています。意図して休むのもすごく大事です。

概念4 「短中長期のサイクル」

そのうえで、僕はこの3つのサイクルをいつも意識しています。短期・中期・長期と3つありますが、これは単に期間が長いという意味ではなくて、長期は、例えば10年、20年の単位で、世界をほとんど予測できません。予測できる人はすぐ株式投資で儲けたほうがいいですね、そんなことはできません。長期は、「自分がどうありたいか」だと思っています。

長期でありたいことに対して、中期では何を達成するか。中期というのは数年単位だと思っているのですが、数年だとある程度予測が付いてきます。4年だったら大学を卒業するぐらいじゃないですか。これは予測できます。

それに対して短期は、それを達成するために必要な仮説検証は何だろう(ということ)。これはだいたい数ヶ月単位だと思っています。

この長期・中期・短期という3つを意識して、自分の目標設定やポートフォリオの設計を考えます。ありたい姿に対して適切なマイルストーンになっている。それに対して仮説検証の設計ができている。この3つが並んでいると、すごく一貫したアクションになっていて、やることがきちんと自分の本当にやりたいことにアラインしている。この3つを考えることで、もしかしたら「中期を、また変えなきゃいけないよね」とか、「俺が思ったのとちょっと違った」となったら変えてもいいし、あるいは長期のありたい姿が変わってくることも当然あります。

大事なのは一貫性を持ってブレないこと

ここで大事なのは、一貫性だと思っています。僕は目指す先と、アクションのどちらもブレさせてしまうと二重振り子みたいになると思っています。そうなるとカオスなんですよね。どこに到達するかがわからなくなってしまいます。なので常に、目標を決める、アクションをする、振り返る、目標を変えるという順序を決めてアクションします。

その時に環境の変化も意識すると良いですね。市場や健康、ライフステージの変化はあります。ライフステージは自分がある程度コントロールできるかもしれないし、健康も先ほどの精神的な健康も含めて、自分で努力できる範囲だったりします。

市場は勝手に変化するので難しいですが、例えばみなさんがこれからどんな技術を勉強していくのかは、ある程度予測がつくかもしれません。例えば技術は、僕がここ10年でエンジニアをやって見ている中でも、クラウド化やAutoMLなど、いろいろな領域が進化しているわけです。

クラウド化が来て、ハードウェア中心にいじっていくインフラのあり方は変わり、それを使わなければいけない会社の需要はだいぶ減ってきます。そうすると、クラウドを使えなければ結局ダメだよねというのが、この10年で起きた変化です。ここの変化についていかないと、自分が思ったように、例えばそれが昇進するだったら、昇進できなくなってしまうかもしれない。技術的に陳腐化してしまうということがあります。

例えば、今機械学習をやっていても、今後予測した時に、一般的なアルゴリズムはAutoML的なやり方でどんどん突破されてしまうかもしれません。だとしたら、機械学習、データサイエンティストとして本当に大事なことは何だったかというのをもう少し考えなければいけないとか、そういうことを含めて自分のキャリアを考えていくようにします。なので、市場環境はけっこう重要なファクターだと思って考えてください。僕はこの4つを自分の頭の中に入れていて、いつもキャリアを決めるようにしています。

自分が長期でありたい姿は何か、それに対して数年単位で達成したいことは何か、それに対して、今やらなければいけない仮説検証の具体的なプランは何かという短期。この3つのサイクルを持つことで、自分の適切な振り返りペースを作っていこうということです。

(次回へつづく)

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