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10〜1000 名開発組織に向き合ったCTO 経験から語るキャリア論(全4記事)

キャリア形成で重要なのは、リターンの定義とリスクの整理 松本勇気氏が語る、意志決定における「リスクとリターン」

技育祭は「技術者を育てる」ことを目的としたエンジニアを目指す学生のための日本最大のオンラインカンファレンスです。ここで登壇したのは、株式会社LayerX・代表取締役 CTOの松本勇気氏。自身のCTO経験から、キャリア論を語りました。全4回。2回目は、4つの中心概念について。前回はこちら。

3000人規模の組織に対する組織改革をCTOとして進めた、DMM.com時代

松本勇気氏:Gunosyを辞めるあたりで、ブロックチェーンをけっこうやっていて、銀行などいろいろな産業を眺めました。ブロックチェーンがリプレイスするものは例えば銀行だ、お金だという話をすると、みんなはブロックチェーンのことばかり見ます。

しかし、やはり大事なのはブロックチェーンの反対側にある銀行や、リプレイスされる対象のことをよく知ることだと思って勉強をしていたら、結果としてそっちをやったほうがいいのではないかという気持ちになって、銀行を作ろうかなと思い始めました。いろいろともがいていたのですが、ちょっと難しそうだなとなりました。

その次に、なぜ自分がこれにモチベーションを持っているのか、自分を分析してみました。すると、生産性をどんどん上げていかないと、国が先細っていく状態にあって、自分の子どもが生きていく世界がこんなふうに先細っていく世界でいいのかという気持ちがありました。GDPの成長率や、国民1人当たりの生産性などいろいろ考えると、大きなお金が眠っている組織が変わっていかなければならず、大企業変革が必要だという考えに至りました。

そういうチャンスを模索していたら、急にDMM.comさんからCTOをやってくださいというお話をいただいて、当時は3,000人ぐらいの会社だったのですが、そこのCTOをやることになりました。この時は自分なりに頭の中に描いていた、組織を改革するノウハウを全部整理して、その集大成を「DMM Tech Vision」というかたちにして、3,000人規模の組織の、組織改革に取り組みました。これは今もDMMの開発組織の指針になっていると思います。

大きな会社において、情報の流れをどう制御するかと考えると、これはオブジェクト指向の設計などの考え方でいいのではないかという結論になりました。どういうモジュールがあって、オブジェクト間ではどういうメッセージが渡されているんだろうと考えて、それをそのまま会社の仕組み作りに導入していきました。

50以上の事業があったので、モニタリングの仕組みを徹底的に作ったり、事業が成立している状態、僕らは例えばSLIやSLOでプロダクトの健全性を測るわけですが、これを事業としてどう見ればいいのだろうというところを亀山会長(※亀山敬司氏)の頭の中を解きほぐしながら勉強したりして、学んでいきました。

そこからいろいろな仕組みを作って変えていきました。最終的に、「なるほど、組織を率いるには結局、すごくエモーショナルなところでリーダーの意志とビジョンがメチャクチャ大事だ」ということに気づきました。あとはその時代に応じて、ガバナンスがきちんとした会社である必要があるなと思いました。このあたりは難しいところもあると思うので、ガバナンスについてはいったん触れずにおきますが、そういうことに気づきました。

DXで数万、数十万という会社を変えられる可能性を持つLayerXにジョイン

そこからDMM.comの改革をやっている最中にコロナが来ました。みなさんもわかると思いますが、このコロナ禍で世界中でデジタル活用の機運が高まりました。その中で、いろいろな会社や、いろいろな団体から助けてくれという話を聞くことがありました。

日本CTO協会という、今は700名ぐらいのCTOが所属している協会があって、僕はそこの理事もやっています。このCTO協会を立ち上げて、国会議員やいろいろな人の相談に乗ったり、DX関連についていろいろな大企業から、「松本さん、これはどうやったらいいんですか?」と言われて相談に乗ったり、デジタル庁が立ち上がったり。そういうことをずっとやっていると、もう少し広くアプローチしていかないとダメだなということに気づいて、今のLayerXという会社に行こうと思いました。もともとチームの立ち上げをやっていたので、すごく好きな会社だったのですが、そこからまた戻ってきてくれよとずっと言われ続けていました。

その中で、日本のデジタル化にとって一番良い場所はどこなんだろうと考えていたんですね。このあと、僕のキャリアの考え方について話すのですが、良いポジションはすごく重要で、それを考えると、このLayerXは本当にすごくいいチームです。取り組んでいることも最初はブロックチェーンだったのですが、気づいたら、コーポレートや金融や行政の重い領域をデジタル化しようという、同じようなことを考えています。

僕がDMMでやってきたノウハウをLayerXに投入していくことで、今度は1社ではなくて、数万、数十万という会社を変えられる可能性があるのであれば、ここでがんばってみようかなと思って、LayerXに来ました。1年前にLayerXに戻ってきて、今はいろいろな取り組みをやっています。

LayerXが取り組む「SaaS」「Fintech」「Privacy Tech」

(スライドを示して)一応、LayerXの紹介もしておくと、「全ての経済活動をデジタル化する」というミッションで取り組みをしている会社で、今チャットにも「バクラク」とありますが、コーポレート領域=バクラクがカバーするバックオフィスですね、会社の根幹を支える事務領域のデジタル化や、不動産ファンドのデジタル化など、いろいろなデジタル化に取り組んでいます。

しばらく会社紹介をしますが、会社としてもちょっとおもしろくて、会社の行動指針の一番上が「徳」です。僕はこれがすごく好きなのですが、会社のミッション、考え方として、「長期的に社会の発展に寄与する存在である。そのためにできることは何か」。短期的に売上至上主義に走ると、それはそれで成長する会社は出てきますが、そうではなくて仲間や社会から信頼を得られる会社であり続けることが、10年、20年、100年続く会社になるのかなと思っています。そういった会社でありたいよねと「徳」を一番上に掲げつつ、こんな行動指針を持って、いろいろな事業をやっています。

たぶん日本の中でも、代表取締役が2人ともエンジニアで、役員の半分がエンジニアで真面目にSaaSやっていますという会社は、たぶんないと思います。僕らはそういう会社で技術が大事だよねということで、「Bet Technology」をバリューに掲げて、技術を持って、より良い未来を創ることに取り組んでいます。

(スライドを示して)僕らの会社の沿革は今チャットに貼ったのですが、ここに細かく載っているので見てもらえればと思います。2018年創業で、SaaSをスタートしたのは1年ちょっと前です。それ以外に今いくつかの事業が始まっています。(スライドを示して)今やっている事業はこの3つで、「バクラク請求書」「バクラク申請」「バクラク電子帳簿保存」というサービスを作っています。

もう1つが「Fintech」で、「眠っている個人のお金を起こす」と書いてあります。例えば、みなさんがふだん使っている商業施設や、みなさんが住んでいるマンションなどは、誰かの投資によって作られているのですが、その投資を支える活動です。不動産ファンドを作って、投資という活動がより効率的になることで、日本の社会をより豊かにし、一方で貯金で眠っているお金を、もっと社会に還元しつつ、そのリターンをきちんと持ち主に返していくことで、みなさんがより豊かになっていくような活動をデジタルで支える、という事業をやっています。

その他、これから絶対にトレンドになるのですが、プライバシーもすごく重要です。例えば、昔は広告をクリックしたら、それがずっと追いかけてくる……みたいなことありましたよね。自分たちの興味やプライバシーが、自分たちが思ってはいない場所で使われてしまうということだと思っています。それをどうやってカバーするかを、この「Privacy Tech」という事業でやっています。これはプライバシーを守りつつ、データも活用するという、2つの矛盾をテクノロジーで突破する研究開発で、実際に販売しているチームです。

スタートアップですが、3つの事業を持っています。なぜなら、いろいろな事業を立ち上げ続けないと、すべての経済活動のデジタル化ができないからです。なので、事業がいつでも、いくつでも立ち上がるような体制を作っていきたいし、こういった新しいものが立ち上がる体制を作らないと、みなさんが成長するチャンスが作れないと思っています。新規事業は新規事業で、成長する事業は成長する事業で、成熟した事業は成熟した事業でチャンスがある。けれど、1個の事業だとタイミングによって状況が変わってしまうので、新しい挑戦をすることができなくなるかもしれません。

いろいろな人が、いろいろなかたちで常に成長できる環境であるためにも、事業が複数あるというのは重要だと思っていて、今後もどんどん立ち上がっていくべきだよねということで、SaaS1つとっても今いろいろな方向に事業を進めようとしています。今、3つSaaSがあって、経費精算や、銀行、API、法人化などいろいろなカテゴリがあるのですが、僕らのサービスは請求書の受取をセンターピンにしつつ、どんどん領域を広げて新しいプロダクトを作っていくことを目指しています。そんな会社です。

キャリアは4つの概念で考えている

LayerXに来るまで意思決定を右往左往してきたわけですが、なぜこんな考え方、動き方をしてきたかという話をさせてください。

僕のキャリアの考え方、例えば技術に対して何を最初に選択していくのかとか、なぜあのタイミングでGo言語を選ぶんだろうとか、いろいろあると思います。それはどういう考え方だったのか。実は僕の技術選定、組織作り、キャリアは、全部似たような考え方です。

(スライドを示して)キャリアという軸で整理すると、今、この4つの概念で僕の脳みそを整理しています。リスク・リターン。物事には常にリスクとリターンが付きまといます。それに対して、どんな探索と振り返りをして、どういう組み合わせで自分の時間を配分していくか。最後、その中でどういうサイクルでそれを考えていくか。そんな感じの4つの概念で自分のキャリアを考えています。

概念1 「リスク・リターン」

一つ一つ見ていこうかと思いますが、まずこの「リスク・リターン」です。リスク・リターンとは何ぞやという話で、「リスク」というとみなさん怖いものと意識をすると思うのですが、リスクは「知らないことそのもの」だと僕は思っています。例えば、1年後の世界情勢は、不確実性がすごく大きくて、どれくらいかはわかりませんが、自分に影響があるかもしれません。この不確実なことと、それの影響度の掛け算をすると自分の未来を進んでいく方向に対するブレが生まれてくるわけです。

例えば自分のキャリアにとっては、この技術が廃れるかどうか、ある程度予測がつくかもしれません。「廃れる可能性がある、いや、流行る可能性がある」みたいなブレがある中で、それは自分のキャリアにとってどれぐらいの影響があるものなんだろうと考えてみる。この不確実性と影響の掛け算をすると、なんとなく自分のこれから向かう先は、どういう着地点になるのか、幅が見えてきます。自分が物事を知らなければ知らないほど、着地点の振れ幅はすごく大きくなって、メチャクチャ知っている領域で進んでいくと、上にも下にもあまりブレないというか、メチャクチャ狭くなります。

その中で、「そもそもリスクは何に対するリスクなんだろう」というリターンが重要です。これも意外と理解せずに、物事に取り組むことが多いなと思っています。本当に自分が得たいものは何だろうということを、リターンとして定義します。

金融だと、それはお金で、シンプルにお金をどうやって増やしていくかです。例えばみなさんがキャリアの中で給与と考えてもいいし、技術力と言ってもいいんです。リターンの定義なんて何でもいいのですが、定義せずに意思決定すると、毎回その軸がブレてしまいます。ある時は技術力を伸ばしたいと言っているのに、ある時は給与が欲しいと言い始める。それは軸が違くない? ということです。

なのでリターンは、何をするのか設定をはっきりさせることです。それに対して、この意思決定はどういうリスクをはらんでいるのか、Aを選んだらどれぐらいのブレがあるのかみたいなことを考えます。別に正確な定量化は要らないですが、こういうことを頭の中で、なんとなく考えておくことです。なので、意思決定に対してリスクを見積もることで、僕は今どういうことを意思決定しているのかをはっきりさせます。

(次回へつづく)

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