2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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森戸裕一氏(以下、森戸):本日は「なぜ、あなたの組織のDXはうまくいかないのか?」というテーマで、オンライン配信にて株式会社レッドジャーニー代表の市谷さんとお話を進めていきたいと思います。
これまで、我々日本デジタルトランスフォーメーション推進協会では、自治体、中小企業、また地域全体など、さまざまなDXをテーマに話をしてきました。それを非常に体系的に説明しているのが、レッドジャーニーの市谷さんの今回の本なんですね。
まずは本の内容や現在のお仕事など、市谷さんについてみなさんに知っていただき、その後私からいろいろな質問をさせていただきます。今日はこんな構成で進めていきますので、市谷さん、よろしくお願いします。
市谷聡啓氏(以下、市谷):よろしくお願いいたします。
森戸:今回の書籍『デジタルトランスフォーメーション・ジャーニー』は、いつ出版されたんでしょうか?
『デジタルトランスフォーメーション・ジャーニー 組織のデジタル化から、分断を乗り越えて組織変革にたどりつくまで』(翔泳社)
市谷:2022年の2月21日ですね。
森戸:反響はどうですか?
市谷:1~2週間前ぐらいに重版が決まりまして。まあまあ反応をいただいているようです。
森戸:「デジタルトランスフォーメーション」という言葉は、もはやバズワードですから、たくさんの方が耳にされていると思います。よく「IT化」とか「DX」と言いますが、デジタルトランスフォーメーションの中でも「『デジタル』と『トランスフォーメーション』は違うんだ」という話もあります。
私たちがセミナーやコンサルを行う時に、一番聞かれることは「まず何から始めればいいんですか?」ということなんです。だから、僕も今日は市谷さんのお話を楽しみにしていまして、一視聴者の視点でいろいろ質問したいと思います。よろしくお願いします。
市谷:はい、わかりました。よろしくお願いいたします。
森戸:では、市谷さんから自己紹介と、本の内容や現在行っているプロジェクトについてのお話をいただいてもよろしいでしょうか?
市谷:わかりました。では、画面共有してお話しさせていただきます。あらためまして、市谷と申します。ふだんは、私が立ち上げたレッドジャーニーという会社で、いろいろな組織のDXの取り組みに伴走、支援する活動をしています。
比較的、伝統的な大企業が多いのですが、金融機関、製造業、小売業、製薬会社等々、業界を問わずDXの支援をしています。
また株式会社リコーにおいて、CDIO付DXエグゼクティブという役割でリコーグループ内のDXを進める活動も行っています。以上の2つを、どちらも本業として日々DXに取り組んでいます。
私はエンジニアからキャリアをスタートしました。20年にわたって「アジャイル開発」を探求し、繰り返し「実践」と「啓蒙」を行ってきています。このアジャイルに関する専門性の需要から、業界を問わずいろいろな企業に呼んでいただき、DXプロジェクトの中で「アジャイルの啓蒙や実践」を行っています。
こうしたDXの活動を数年にわたって続けていく中で、さまざまな知見を得るに至りました。だからこのタイミングで一度、DXに関して「わかってきているところ」「直面している課題」などをまとめてお伝えしておこうと思い、本を出版することになったんですね。
市谷:まず、今日の対談の取り掛かりとして「DXとは何か」というお話をしたいと思います。こういったイベントに参加されている方々は当然、すでにいろいろご存知で、それぞれのご意見をお持ちだと思います。
でも「DX」という言葉の定義は、ひょっとするとコンサルタントやベンダーの数だけあるんじゃないかというぐらい幅があるんですね。まずは、今一度そこを合わせておきたいと思います。
私としては、DXとは「『2つの変革』を起こすためのもの」と定義しています。データやデジタルを使って「提供している製品・サービス・ビジネスの価値そのものを変えていくこと」が1つ。もう1つは、そういった提供価値の変革を、一時的なものではなく持続可能にしていくために「組織の中身を変えていくこと」。この2つの変革が両輪となるのが「DX」であると捉えています。
1つ目の「提供価値」の部分をDXと称することが多いのですが、それを続けていくためには組織の中身を変えていく必要がある。私はそう捉えています。とはいえ、これは「組織の外側に出すもの」と「組織の内側」を変えることなので、同時に行うことは容易ではありません。
なぜならそれは、「組織自体を作り変えていくこと」に他ならないんですね。それゆえに、いろいろな企業が等しく「一体どこから始めたらいいのか?」という課題に直面しています。
市谷:続いて「日本のDXがどうなっているのか」というお話です。みなさん、いろんなところで、いろんな話をお聞きになっていると思います。経産省が2年ぐらい前に出した「DXレポート2」で、9割以上の企業が「まだDXに着手できていない」「散発的な部門での取り組みにすぎない」という状況であることが数字として明らかになりました。
私としては、いろいろな組織と関りを持っているので、「そんなにDXが進んでいない企業があるのか?」と感じたんですね。というのも、取り組んでいる企業はかなり戦略的に行っているんですね。全社レベルで戦略を立てて、それに基づいてKPIを設定している。現場にいる身としては、全社を挙げてDXに取り組んでいる企業も少なくないと感じています。
このように、進んでいる企業はどんどん進んでいる一方で、未着手のまま「DXとは何だろう?」というところで止まっている企業もたくさんありあす。いわば「DXの格差」ですね。ずいぶん差が開いているのが実情です。
市谷:では、DXが進まない企業では何が不足しているのでしょうか? ここで『両利きの経営』を引用します。
よく言われるように既存事業を進めるためには「深化」「深堀り」「改善」が必要です。一方、「新規事業」や「新しい施策・取り組み」など、新しいことを進めていくためには「探索」が必要です。この「『深化』と『探索』の両輪が必要で、これらを偏りなく回していく必要がある」というのが『両利きの経営』の主張です。
DXが進まない企業では、この「探索」を行うための経験や、引っ張っていく人材が不足していて、それが大きな要因になっていると思います。
これまで組織の中で、「探索」はそれほど中心になかったので、「どのような取り組みが勝ち筋になっていくのか」ということがあまり考えられていなかったんです。「選択肢を広げていく」「仮説を立てる」「検証して試行していく」といったことのやり方そのものが、組織の中で確立されていないんですね。
もちろん、選択肢をただ広げるだけではなく、実験・試行した結果、次の行動や判断をきちんとアップデートできることが何より大事です。そういった「適応」ができているかどうかも、併せて問われます。企業は未だ、この部分で苦戦していますね。
単純にまとめると、このスライドのようなイメージですね。「探索」によって、何が勝ち筋になり得るかということを見つけて、その結果から判断や行動を変えていく。基本的にはこれを繰り返していきます。
ビジネスやサービスが、一定の社会や環境から評価を受けて、進めていく価値があるということであれば、ある意味一つの勝ち筋が見つけられたということですよね。そこから、さらなる最適化をしていくということなんです。
市谷:今、多くの企業において「探索」がない。また「適応」が十分ではない。単に既存の事業の最適化をどんどんやっているのが実情だと思います。そして、いざ「探索」が必要となった時に、それに対応する「スキルセット」や「人材」を揃える段階で強烈なハレーションが起きてしまう。
そこで、後段でお話しする「アジャイル」という考え方があります。これはソフトウェア開発では有名な「探索」活動の仕方なんですね。こういった、アジャイルを組織の中に宿していく時に、これまでの考え方とは相容れないので、抵抗を受けてしまう。それを取り入れることは構わないとして、「でも、これまでやってきたこととどう整合性を取るの?」「どうやって進めていくの?」といったことでハレーションが起きやすいんですね。
こうしたハレーションが非常に悪いかたちで現れると、手の付けられないDXとなってしまいます。ダメなほうのDXということで、「屏風のトラDX」と呼んでいるのですが、これが数年前には散見されました。非常に分厚いパワポによるプランだけがあって、実行する体制や方法がない。「DXをやっていくんだ」という意気込みのみで終わってしまう場合もあります。
「いやいや、絵に描いただけではダメだ」と、無理矢理進めていこうとしても、体制や方法、人材がないから難しい。このように、かつては少なからずプロジェクトが炎上してしまうことが多かったんですね。
そこから少し状況は変わってきていますが、他のDXのパターン(「裸の王様DX」「大本営発表DX」「眉間に皺寄せてやるDX」)が示しているように、「うまくやっています!」と胸を張って言えるような企業はあまりないのかなと思います。
市谷:組織はこれまで、既存事業の「最適化」を中心に活動してきました。だから、「探索」や「適応」を行うにあたっては、「組織のかたち・中身」を変えていく必要に迫られているんですね。形態が進化していくためには、もちろん段階的に進めていかなければなりません。それには、「どう順序立てて進めていくのか」という指針が必要です。
そのために、この赤い本(『デジタルトランスフォーメーション・ジャーニー』)の中で、4つの段階設定を語っています。「この順番をたどれば必ずDXが成功します」などと断言はできませんが、少なくとも組織が自ら学びを進め、その後の段階も踏んでいけるようになるのではないかと思っています。
「探索」という活動を考えると、その1つとして「新しいビジネスを立ち上げる」ということが考えられます。これは、どちらかというと難しい活動ですね。
だから、もっと足元のところ、「そもそも日常のコミュニケーションがきちんと取れているか」というところから始めるんです。(コミュニケーションの)スピードを上げるために、まずはチャットを使うなり、オンライン移行から着手すると。
その上で、「スキルのトランスフォーメーション」に入ります。「探索」や「適応」を果たすための基本的な知識、実践経験を積んで、そこからもう一段難しい仕事へと進んでいけるようにするんですね。
デジタル化、トランスフォーメーションの各段階について、この本で詳しく説明していますので、読んでいただければと思います。今日はこの後、人材についてお話ししていきたいと思います。「どんな人材が必要か」というと、デジタル化を進めていくわけなので、当然デジタルに関する知見は必要です。
そしてそれ以上に、デジタル技術を活用するためには、「構想」と「実現」の両方を進めていくことが大切で、それができる人材が必要になります。そういった役割をこなせる人材を社内でどうやって育てていくのか。これは、人材育成の観点になってくると思います。これについては後ほどお話しさせていただきます。
市谷:「ビジネスのトランスフォーメーション」の次は「組織のトランスフォーメーション」です。DXの活動の過程で、いろいろな学びが得られます。それを、小さな出島のような組織の中に閉じ込めておくのではなく、広く本土に、つまり組織全体に波及させていく。そんな活動につなげていくのがDXの道筋であって、これを日常の支援の中で行っていくんですね。
最後に1テーマお伝えします。「日本でDXに成功した組織はあるんですか?」とよく聞かれます。私が支援している企業でも、「この組織はもう十分に進んでいるな」と言い切れるかというとなかなか難しく、答えに困ってしまうんです。
DXとはそれだけ難しい取り組みなんだと思います。先ほど申し上げたように、これまで組織は、1980年代から連綿と続く「深化・最適化」一辺倒の考え方をしてきました。つまりそのように最適化されているわけなんですよね。
その中で新しい取り組みをしようにも、なかなか踏み出せないでいるというのが実情だと思います。このあたりを突破していく切り口をどう作っていくのか。これが課題になってくる。
これまで、「最適化」というところまで結果を出してきました。しかし、度を越した最適化とは、単なる「思考停止」なんですね。「他に顧客に訴求する方法はないか」「どう顧客の課題を解決していくか」など、こういったところに踏み出していくためには、どんなやり方が必要なのか。
市谷:このような今の組織の状況は、実は20年前のソフトウェア開発の時と似ているんです。当時、不条理な状況の中でかなり非効率的に開発を行う中で見出したのが「アジャイル」という開発方法であり、考え方だったんですね。
「開発」はもちろんのこと、それ以外の「通常業務」や「組織運営」の中にアジャイルの考え方を取り入れて「探索」と「適応」ができるようになっていくことが大切です。私はDXのプロジェクトを進めていく中で、今みなさんにお伝えしています。
「アジャイル」と言ってもいろいろなものがあります。「開発のアジャイル」もあれば、「『探索』『適応』のためのアジャイル」や「組織運営のためのアジャイル」もあります。このうち、どれを身につけていくのかということを、組織のみなさんと一緒に行っています。
アジャイルの背景には、その前提となる「マインドセット」が必要です。アジャイルのマインドセットとしては、協力して何かに取り組んでいく「協働」ということを昔から重要視しています。
基本的なことですが、まず「協働して進めていくためには、何を共有し、理解し合っていればいいのか」ということに立ち返ってみることが大切です。こうしたこともDXのプロジェクトの中でお伝えしています。
なぜなら、そこまで戻らないと組織の考え方や振る舞いを変えていくことが難しいからなんですね。私のお話は、いったん以上となります。
森戸:ありがとうございます。本当に、体系立ててお話ししてくださり、聞いていて頭にすっと入ってきました。
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