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【脱炭素社会の真実】東芝の有識者が語るカーボンニュートラルの未来(全2記事)

なぜ世界は今“カーボンニュートラル”を目指すのか 東芝・チーフエバンジェリストが説く、「脱炭素」の本質 

天野眞也氏が業界をリードするイノベーターたちと対談を行い、「日本の未来」「製造業の未来」について発信していくチャンネル「AMANO SCOPE(アマノスコープ)」。今回のゲストは、東芝チーフエバンジェリストの大幸秀成氏。「脱炭素」における現状と、取り組みについて話しました。全2回。前半は、気候変動の現状と企業の取り組みについて。

今回のテーマは「脱炭素」

天野眞也氏(以下、天野):みなさん、こんにちは。

大幸秀成氏(以下、大幸):こんにちは。

天野:AMANO SCOPEのお時間です。イェーイ。ということで、今回も株式会社東芝チーフエバンジェリストの大幸さんをお迎えして、目から鱗のメチャクチャおもしろい話をおうかがいしたいと思います。大幸さん、よろしくお願いします。

大幸:よろしくお願いします。

天野:今回のテーマは、これまたみなさんもすごく興味があるというか、最近よく耳にすると思うんですけども「脱炭素」です。

大幸:おお、来ましたね。脱炭素。

天野:今はもう本当に、脱炭素とかカーボンニュートラルが、当たり前のように言われるようになってきています。僕はDXが先に来るのかと思っていたのですが、もう一気に抜いていきましたよね。

大幸:そうですね。

天野:大幸さんが、脱炭素、カーボンニュートラルをどう捉えているのかとか、「こういうふうになるんだよね」みたいなところをぜひ。どんな切り口からでもいいので、教えていただきたいなと思っています。

気候変動が世界各国で起こっている

大幸:なかなか難しいんですよね。脱炭素のベースにあるのは、地球温暖化防止というか、抑制しないといけないというところ。でも地球は、二酸化炭素や温室効果ガスだけで果たして暖かくなっているのかという話がやはりあるんですよね。

天野:そうですね。

大幸:ずーっとそれが言われています。ゴアさん(アルバート・アーノルド・ゴア・ジュニア氏)がアメリカの副大統領だった時に、そういう話がバーッと広がりつつあったのですが、科学的エビデンスがないとかで、いったん止まったんですね。

なので、脱炭素に関しては、本質は何かというのを、やはり私たち自身が勉強しながら、知っておく必要があるなと思うんですね。

天野:おっしゃるとおりですね。

大幸:一番身近なことは、やはり気候変動が起きているということ。日本では、洪水とか、最近は山火事も少し出始めていますよね。それから、まだ来てないにしても、巨大台風はいつ来てもおかしくはない。

天野:ゲリラ豪雨もしょっちゅう起きるようになりましたもんね。

大幸:そうそう、特に雨は非常に多いと思う。災害が増えていると思います。

これがアメリカだと、圧倒的に多いのが山火事です。あと、水不足になって、穀物が作れないという話があります。中近東やアフリカのほうに行くと、ここもやはり水が足りなくなって、バッタが大繁殖をして、食物を食べ尽くしてインドまで飛来して来るという話があります。あと、ヨーロッパはヨーロッパで、やはり洪水の憂き目に遭っているわけですね。

私たちは1年ぐらいのレンジで見ているので、これらを地球の歴史的なサイクルから見ると、もしかしたら「地球って昔からこんなもんだよ」というのかもしれないんだけど。

天野:なるほど。確かにアレですよね。すごく寒い氷河時代とすごく暑い時代を、長く見ると繰り返しているんじゃないか。

人為的にやってきたことが、環境に影響を与えているというエビデンスが取れてきた

大幸:そうなんですよ。繰り返しているんですよ。ところが、京都議定書とか、COP25(気候変動枠組条約第25回締約国会議)とか、要するに2000年を超えてから、人類が放出した温暖化ガスによる気温上昇はどうなんだという分析を科学的にして、そのエビデンスは取れてきたんですね。

天野:地球由来のものじゃないとしたものですね。

大幸:そうです、そうです。「(エビデンスが)取れたからこそ、手を打たないといけないでしょう」というのが、この全体のコンセンサスになったわけですよ。

人為的に、要するに人が産業をとにかく成長させるためにやってきたことが、すべてにおいて温暖化ガスを増やして、それによって地球が温室効果というかたちになっている。あくまでも熱源は太陽ですが、太陽の光が入ってきた時に、反射して宇宙に逃げていくところが、温室効果ガスによって妨げられて、暖かくなるんですよね。

天野:なるほど。

大幸:その原因はやはり人が生み出しているというエビデンスが取れてきたということが、みんなが騒いでることなんですよ。

天野:なるほど。

大幸:全体で考えるとね、もしかすると、ここになにか彗星のかけらが落ちてきて、一気にまた地球環境の天候が変わるかもしれないんですが、それはそれなんです。それはそれ。

天野:それは自然由来ですからね。

大幸:自然由来、自然由来。

あと、地球が太陽の周りを公転している中で、10万年に1回ぐらい地軸の傾きが積み重なって、氷河期が来るというのは、やはりサイクルにあると言われているんですね。ただ、それはそれなんです。

天野:なるほど。

大幸:やはり(最近言われている温暖化は)人が原因で、(自然由来のものと)混ぜちゃいけないよ、と。

天野:この100年、200年で変化をさせてしまっているということが、明らかにエビデンス取れたと。

大幸:取れてきていると。ドンドン積み上がっているということですね。

天野:なるほど。

企業は環境負荷に対する取り組みを始めている

大幸:それが一部の場所だけじゃなくて、北極も南極も海の中も、いろいろな大陸でも、そのエビデンスが取れ始めています。今はどんなに悪くとも、上昇温度を2℃以下に抑えないといけない。できれば1.5℃というインデックスを入れて、それに抑えられれば、気候変動は、ミニマイズできるのではないかと言われています。

天野:そうなんですね。

大幸:なので、科学的根拠が出始めたというのが、昔とはちょっと違うということですね。

天野:そういうことですね。否定派の人が、もう存在し得なくなる。

大幸:もうほとんどいなくなったということですね。2、3年前だと、グレタ・トゥーンベリさんが17歳にしてデモをやっていたじゃないですか。それが今や当たり前だと。やはりどこの企業もこれをやらないといけないんだとなってきたということです。

天野:おっしゃるとおりですね。

大幸:大きな変革ですね。

天野:RE100を宣言している会社さんもドンドン増えてきていますしね。あとAppleなんかだと、自社の製品に使う部品単位まで。

大幸:そうですね、再生可能エネルギーで精錬したアルミでないと買わないとか言い始めていますね。

天野:そういうことですよね。これは、僕もすごくいい活動だなと思っています。

大幸:そうですね。

天野:同じようなものを買うんだったら、いわゆるより環境負荷の低い製品を買いましょうという。

大幸:そうです。

天野:すごくいいことですよね。

大幸:そうなんです。サービスとしてもうあると思うんですが、炭素排出量をきちんと見たうえでの生産品であれば、ちょっと高いけど買ってもらえると、例えば「木を2本植えられますよ」みたいな。

天野:もうニュートラルから逆にプラスに。

大幸:そうそう。逆に森林を増やすとか、そういう話もできるんですね。なので、どう言えばいいですかね、ものを手に入れるという消費行動に加えて、やはり地球を大事にするというのは、自分のためというよりは、むしろ子どもとか孫の世代にきちんと残していくんだという気持ちに対して対価を払うというかたちが出始めているというのが、たぶん大きな動きですね。

ロボコム・アンド・エフエイコム株式会社の取り組み

天野:おっしゃるとおりですね。いわゆる日本では工場自体が、電力の43パーセントぐらいを使っていると言われているので、やはり工場も省エネする時代なんですが、工場に使っている機器は、年間電力使用量が発表されていない機器が多いので、どちらかというと、省エネより、信頼性とか、使いやすさがまだまだ主軸で選ばれています。

ただ、近い将来、やはりカーボンニュートラル、RE100に近づけていこうとすると、まず消費電力の少ないものを使うということと、トレーサビリティ、いわゆるトレースしながら、どの工程をいつ通って、どれぐらいの電力、水、その他いろいなものを使ったのかをしっかりとつなぎ合わせていくことが必要です。

私たちの南相馬工場では、このカーボンフットプリントをしっかりと出せるように、実はトレーサビリティと、そのエネルギーの電力をすごく細かく取っています。

大幸:すばらしいですね。

天野:どの製品はどの工程をいつ通って、こういうプロセスを通ったからどれだけ使ったよということが、きちんと紐付けができるようになっています。

大幸:それにアレでしょう? 今アドオンされるのは、じゃあ「その電気はどこから買っているんだ」という話ですよね。

天野:おっしゃるとおりです。僕らも、全量ではないんですが、もちろん屋根にはパネルを乗っけて、太陽光を乗っけて、年間で3,000トンぐらいのC02を減らしつつ、工場でその電力を使っています。

大幸:すばらしいですね。

天野:いわゆる太陽光と工場は相性が非常にいいです。ただ、僕らは3Dプリンターも、金属プリンター、樹脂プリンター、けっこういろいろなプリンターの造形サービスもやっていて、やはりご存じのとおり、すごく時間かかるので。

大幸:かかりますねえ。

天野:停電も困っちゃいますし。

大幸:ああ、確かに。

天野:逆に昼の電力を蓄電で貯めておいて使えたら、信頼性の面も含めて一番いいよねっていう、オフグリッドで環境をしっかりと整えておくことも含めて、これから発展的にやっていく計画もあります。

大幸:いいですね、すばらしいですね。

天野:本当に脱炭素は、大幸さんがおっしゃるとおり「自分たちの子ども世代にどういうバトンを渡すのか」という観点で見たら、もう絶対やらないとダメですよね。

脱炭素と牛の関係性

大幸:これには、本当におもしろい話がありまして。

天野:ええ。

大幸:たぶん気づいてる人もたくさんいると思うんですが、脱炭素と牧畜、牛を飼う関係性はご存じですか?

天野:いや、わからないです。

大幸:実は、牛って脱炭素で見ると、けっこう悪者なんですよね。「飼料はどこで作っているの?」「それを育てるために何が要るの?」「水でしょ」「土地でしょ」とかなると、牛自身のための土地も必要なんですが、飼料を栽培するための土地も必要になります。例えば「アマゾンを伐採して、とうもろこしの農場を作ろうか」みたいな話、やはりちょっと……なんか、ねえ。

天野:「牛肉1キロ当たりに、どれだけを犠牲にしているんだ」という話ですよね。

大幸:そうそう、そうなんですよ。「牛肉1キロのために、10キロとか15キロとか、とうもろこしがないとダメだ、育たない」と言われていますから。

森林や水の問題が直接脱炭素との兼ね合いになることはないかもしれませんが、タンパク質に変換するための効率を考えると、あまりにも低いということですね。

天野:おっしゃるとおりですね。

大幸:それと、牛のゲップにはメタンが含まれているので、実は世界中の家畜の牛を集めると、世界全体の温暖化ガスの排出は、トップ4に入ると言われているんですよね。

天野:そうなんですか。

大幸:そのぐらい温暖化のガスを出しちゃっているという。

天野:ああ、そうなんですか。なるほど。それでベジタリアンの方も、最近けっこう増えているんですね。

大幸:そうですね。ソイミートとか、バイオ肉というのができてきているんですね。さらにもっと驚くのは、SDGsには「貧困を無くそう」があるじゃないですか。「穀物を作っている場所はどこですか」「牛を食べる国はどこですか」というのは、貧富の差なのね。穀物を作っているところで消費に回せば、飢餓は起こらない。

天野:うんうん、そうですね。

大幸:わりとそれなりの生活ができるんだけど、すべて政府が買い上げて、輸出するとなると、食事情はやはり悪化するわけじゃないですか。

天野:はい、そうですね。

大幸:だけど、その餌で育った牛を食べるのは先進国で、お金を持ってる人なので、実は脱炭素だけじゃなくて、飢餓とか、世界全員平等にしましょう、みたいなところにも反すると。

天野:なるほど。なんかちょっと牛は食べにくいですね。

大幸:でしょう?

天野:はい。メチャクチャおいしいんですけど。

大幸:黒毛和牛とか、松阪牛とか聞くとねえ、なんかアレですけど。

天野:食物連鎖のかなり上のほうに牛がいて、肉1キロ当たりへの環境負荷は大きいんですね。経済付加とかいろいろなものが。

大幸:そうなんですよ。なので、そういう(地球温暖化関連)パネルのディスカッションのところで、牛肉料理を出すのは、たぶんタブーになるだろうと言われています(笑)。

天野:そういう時はソイミートに限るわけですね。バイオ肉か。

大幸:間違いないですね。

天野:やはり、ただただ「これ、おいしいから」という理由で食べているので、それがどういう由来で、どうできあがっているのかについては、あまり思いを馳せないですよね。

大幸:本当にそうですよ。バリューチェーンというか、どう生産物ができているのかは、知らないことが多いと思いますね。

天野:そうですね。

(次回へつづく)

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