2024.12.24
「経営陣が見たい数字」が見えない状況からの脱却法 経営課題を解決に導く、オファリングサービスの特長
半導体市場の動向から探る「日本の勝ち筋」とは?日本の半導体はパワエレが鍵に!?(全1記事)
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天野眞也氏(以下、天野):(半導体不足の解消の)見通しは年内(2021年)ということですが、この先もやはりこういうことが起こって、半導体がなくなるとすごく困っちゃうじゃないですか。
大幸秀成氏(以下、大幸):そうですね。
天野:「こういうふうにしておけばいい」というのはあるんですか?
大幸:おお、なかなかいい質問ですね(笑)。
天野:いえいえ(笑)。
大幸:従来はマルチベンダーといって、複数の会社が国際標準みたいなものを作って、「ピンコンパチブル」という互換性のあるものを世界に供給していたのですが、今はそれがだいぶ少なくなっています。
天野:寡占状態になっちゃったというお話がありましたね。
大幸:なっています。集積すればするほど専用チップになっちゃうんですね。スマホ用だったら、スマホ用になっちゃうのですが、その中のある部分は、実はドローンに使えるとか、実はデジカメに使える、というのは当然あるんですよ。
なので、それをむしろバラして小さな単位で汎用的に使えないかと、複数のチップを1つのパッケージに封止して使う、昔は「SiP」(System in Package)とか「MCM」(Multi Chip Module)と呼んでいて、最近は「チップレット」と呼んでいる、最初にすごく高価で高機能の半導体を設計して、それをいつでもバラけられるようにする、というものがあります。ファウンドリーができる外のパートナーがいれば、どこでも作れるというふうにしていこうという動きがちょっとあります。
天野:なるほど。
大幸:もともとそれ(チップレット)は、AMDという会社が先行していました。AMDはIntelのライバルなので、Intelを横目に見ながら。ただ、最近はそれをIntelが真似しようとしているという話もあります。
天野:なるほど。ワンチップじゃなくて、全部あとからモジュールで分離できるのはすごくいいですね。
大幸:そうです。今日本に、台湾のTSMCを誘致するという話がありますが、実はそれが1つのポイントになっています。集積化のために日本と台湾は手を結ぶのではないと。シリコン上に1つにするのは台湾のほうが優れているし、世界中に彼らのパートナーはいます。
台湾が日本に何を求めているかというと、チップレットやSiPみたいに、例えば3次元構造でいろいろなチップを積層しながら1つのモジュールにするという技術です。これはやはり日本が長けていると彼らは見ているんですね。確かにそういうメーカーさんは、けっこう日本の中にいるんですよ。
これは半導体メーカーではありません。基板屋さんだったり、アセンブリをやる企業だったりします。そこと、当然それに乗せる半導体がどうあるべきかという。例えば端子というものがあるのですが、ボンディングにするのか、ピンを立ててペチャっと引っ付けるのか。電極の取り方にはいろいろなやり方があるのですが、そこの技術も日本はたくさん持っています。
なので、日本の半導体産業が、これから世界に先駆けてなにかできるとするならば、そういう3次元構造のモジュールみたいなものをいかに生み出せるかというのが1つポイントだろうなと思います。
天野:うわー、それはすごくいいですね。
大幸:はい。そう思います。
天野:もしかすると、もう一度、日本の半導体が強くなるきっかけになるかもしれない。
大幸:きっかけになる可能性は十分ありますね。
天野:これはまた夢のあるお話ですね。こういうピンチが起きた時にこそ、それを課題に、次のチャンスのきっかけが見えたりするのであればいいですね。逆に言うと、「転んでもタダでは起きない」みたいな感じになったら本当にいいなと思いました。
大幸:ちょっと言い忘れたのですが、なぜ日本の半導体メーカーが今のような状態になってしまったのか? 要するに、メーカーがほとんどいなくなったというのと、残ったところも合従連衡しか残っていない。東芝は、まだ一部残っていますし、メモリ半導体はキオクシアぐらいは残っていますが、なぜこうなってしまったのか。
天野:不思議です。
大幸:ですよね(笑)。
天野:あんなに強かったのに。しかも装置も強いのに。
大幸:そうなんです。いまだに装置は強いです。あと半導体材料もけっこう強いです。ウェハなんかも強いんですが、チップや製品にするところはなぜかもうかなり弱くなっているんです。
この発端は1985年なんですよ。
天野:1985年ですか? けっこう前なんですね。
大幸:私が入社して3年後ぐらいなんですが、その時に何が起こったと思います? 1980年代です。
天野:80年代、何ですかねぇ。日米貿易自動車摩擦とか、そんなことじゃない?(笑)。
大幸:その前ですね。自動車も当然ありましたけど。
天野:家電ですか?
大幸:いや、まさしく半導体だったんです。1980年代は、日本が世界の半導体ベンダーのトップ10のうちの6社を占めていました。
天野:じゃあ日本が大半を押さえていた?
大幸:押さえていた。メモリからロジックから増幅するようなアナログから、ほとんど押さえていたんです。ほとんど押さえていたからゆえに、今でも半導体装置メーカーや、素材メーカー、基盤メーカーが育っているわけですね。
だけど、本体はどうなったかというと……その時に「日米半導体協定」という、アメリカと日本で協定を結んじゃったんですね。「アメリカがどんどん輸入するのは仕方ないにしても、日本のマーケットにアメリカの半導体を入れさせろよ」という話になったんです。
今ではもう考えられないですよ。20パーセントというパーセンテージまで示されちゃったわけですよ。国内の半導体利用の2割は、米国製半導体を使えと日本の政府から出てしまったので、それがきっかけになったわけですね。その風を受けて、当時のTexas Instrumentsとか、Motorola (モトローラ)、そういうところがガーッと伸びたんですよ。
もう1つ言わないといけないのは、日本の産業、とにかく多量消費をするような家電品が、日本の製造業からなくなっちゃったんですね。
天野:そうですね。パソコン、携帯、あとCDとか。
大幸:CDとかビデオデッキとかもあったし、いっぱいあったと思うんですけど。
天野:カメラも、いろいろありましたもんね。
大幸:いっぱいありましたよね。今、ほとんどがなくなっているんですよ。
天野:確かにない。
大幸:あるとすれば、中国のマーケットやインドのマーケットになっているわけで、日本で作っても、当然コストは合わないし、機能はリッチすぎるから、結局最初のマーケティングからちょっとダメなんですね。
(海外に)出ていって勝てるかというのもあるのですが、結局向こうでジョイベン(ジョイントベンチャー)を作って、そこで成長する人たちがいても、裏を返すと、それは日本国内の半導体需要が減ってしまったということなんですね。
それで気がつくと、どんどん収益が悪化しているわけですね。日本でものづくりをしていると、やはり一番は品質。当然コストも必要なんだけれども、日本のユーザーさんはやはり「供給をきちんとしてね」みたいに、バランスよく問われるんですが、中国とかはほとんど関係なく「値段」という話になるので(笑)。
天野:そこはやりづらいですねぇ(笑)。
大幸:もう苦しいですよ。なかなか厳しいですよ。
なので、まずは貿易摩擦で無理やり外国系半導体が入ってきたというのと、さらに日本の産業そのものの多量消費・製造時代が終わってきたという。このダブルでもって、半導体は寡占化せざるを得なかった。
その時に「海外に出りゃいいじゃないか」というお話もあったかもしれませんが、たぶんそこまで強くなかったということなんでしょうね。まぁ、産業機器と自動車向けだけが残ったということかもしれないです。
天野:僕もセミナーで、日本の製造業がずっと成長できなくなっている背景は、単純に言うと、やはり日本が世界トップシェア8割を占めていたものや、携帯、テレビ、パソコンもどんどんなくなっていって、今産業機器や自動車だけはありますが、それを補うだけの次のものがないから、ゼロにはならないけど成長率としてはずっと低迷してしまうということなんですよね。そこに半導体もまさに重なるんですね。
大幸:そうです。だから、日本からマーケットがなくなっているわけではないんですよ。ただ、数が出ないんですね。なので、本当は半導体のビジネスモデルも変わっていかないといけないのですが、そこに追従できるようにはなっていないんですね。多量生産があくまでもベースになっているので、簡単に切り替えができない。イノベーションのジレンマみたいになっちゃっているということですね。
今、東芝も民生品はある意味、全部撤退をしてインフラやエネルギーに特化するという話をしていますが、それだと、半導体目線で見ると、やはりそんなに数が出るものではない。だけど、高機能だったり高信頼性だったり、ある意味ビジネス規模的にはわりと1件の物件が大きいというのはあります。
そういうところを見て半導体経営をするのであればまだ大丈夫だと思いますが、ただ「巨大な半導体工場はいらないな」という感じになりがちなんですよ。
天野:もうギガファクトリーみたいなものではなくて、どちらかというとミニマルファブみたいな。
大幸:そうなんですよ。
天野:数が少なくても、量産効果がもう少し少なくてコストが下げられるような、ああいうものをどんどん入れていくといいのかな、なんて僕もものづくり側からしてちょっと思ったりします。
大幸:本来はそう思います。
天野:ただ、ミニマルファブだと、全部がまだ揃っていないので、入口から出口まで全部を作れないというのもあると思います。先ほどの、高集積な高度チップをまた分解して、単機能モジュールにも分けて、さらにそれをまたミニマルファブで、使うところに100個単位とか1,000個単位とかで、地産地消みたいに半導体も使えるようになると、だいぶ産業構造が変革できるのかもしれない。
大幸:そうかもしれないですね。ただ、やはりダーッと伸びていく絵が描けないので、おそらく一度経験している人はたぶん難しいんですよね。パッと作ったものが、スマホに1個採用になっただけで何十億個という数が出る。やはりどうしてもそういう夢を見ちゃうんですよね。
あと、まったく違うトレンドは、先ほど言ったパワエレ(パワーエレクトロニクス)です。やはり扱う電力がどんどん大電力化しているので、パワエレは小さくできないんですよ。「大きくてもいいから効率を上げろ」という傾向もあるので、実は電力をどんどん扱う半導体を作ると、大きい工場がいるということにもなるかもしれないです。
天野:なるほど。チップ自体大きくなるからということも含めてですね。
大幸:そうですね。だから、唯一日本に残っている半導体の中で、日本の産業を見ながら考えると、もっと工場のキャパシティを上げていかないといけないのはパワエレで、すごく大事です。なぜかというと、やはり車の産業がまだ強いんですよね。
天野:これからEVになっていったら、(半導体の需要は)増える一方ですもんね。
大幸:はい。空飛ぶ車が出てくるかもしれないし、自動運転の配送ロボットが出てくるかもしれないし、そういうのはたぶん全部共通化したプラットフォーム的な考え方ができると思います。
大幸:そこのおもしろいところが、先ほど言ったように、ルネサスのように寡占化していったところはロジック系のLSI(大規模集積回路)が多いんですよ。あと、メモリはメモリでやはり1つの市場として独立しているんですが、パワエレだけは、見方によると、エレクトロニクスの製造業をやっている本社の中に残してある企業が多いんですね。
弊社(東芝)もそうですし、三菱電機さんもそうですし、日立さんもそうなんですよ。三菱、日立は、ルネサスを作った時にNECと一緒に半導体の人たちはみんな出て行ったと思うじゃないですか。でも、パワエレは残っていたんですね。
天野:そうなんですか?
大幸:はい。公共インフラとか鉄道とか、そういうのをやるためにはパワエレは必要だし、あと同時に数が出ないので、やはりビジネスモデルが違うという、その両方あったんですね。
天野:そうなんですか。じゃあまだパワエレだけは、各社自社で開発製造までできて、供給もできるので、ここがどんどん出てくるとすごくおもしろいですね。
大幸:おもしろいと思います。今、脱炭素の話にもなっていますし、ある意味、日本の半導体産業を活気づける1つの要素になるのかなと思っています。
天野:そうですね、世界中のパワエレを日本が取っちゃうのはどうなんですかね。
大幸:いやまぁ(笑)。
天野:もちろんロジック系がなくなるわけではなくて、たぶん全部が増えていくのでしょうけれども。
大幸:そう思います。つなぎの半導体って絶対に必要なんですよ。意外とそのつなぎに気づいてなくて、この単品では「使えないじゃん」という話になりがちです。たぶん、周りへの影響力もかなり出てきて、パワエレをやっているんだけど、実はロジックがいるとか、メモリがないと全体が動かない(チューニングしたソフトウェアをアップデートする)とかという話になるとは思うんですよね。
天野:確かに。パワエレという1つの強い軸ができると、トータルソリューションに持っていくためには、周辺も揃っていないとやはり出せないので、またその周りも力がついてくる。これはいいですね。
大幸:はい。そう思います。
天野:大幸さん、もうそこをやっちゃいましょう。
大幸:(笑)
天野:チーフエバンジェリストさんが示す新しい方向性ということで、それをドカッと打ち出していただいたら、僕らはそこの設備をいただいてメチャメチャ作らせていただきたいな、なんて思いながら。
大幸:なるほど(笑)。
天野:視聴者のみなさん、いかがでしたでしょうか。半導体の歴史から、今の困難な状況・課題・環境を乗り越えて、日本は次にどんな未来に向かっていったらいいのかという、半導体にはまだすごくチャンスがあるんだというお話も含めて教えていただきました。
まだ年内(2021年)は少し半導体が手に入りにくい状況が続きそうだという読みもありますが、ここはなんとしてでもみんなでがんばって耐えて、次のガンっていくところを目指していけたらなと思います。
大幸さん、今日は本当にありがとうございました。
大幸:とんでもないです。ありがとうございました。
天野:メチャクチャ勉強になりました。
大幸:こちらこそ。ありがとうございました。
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