2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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ーー村上さんの著書『転職2.0』、読みました。非常におもしろいなと思ったのと同時に、働き方がメンバーシップ型からジョブ型に変わるところに対して、非常に欧米的な印象を受けました。今回村上さんがこの本を書くにあたって、どこでそう思ったのか、きっかけはあったんですか。
村上臣氏(以下、村上):ありがとうございます。私はLinkedInが初めての外資。そして完全なジョブ型で働くというのも初めてだったんですけど、これまでの働き方と比べて違うところが多かった。特に採用の仕方が日本の企業とまったく異なるかたちでした。自分が採用をしている中でも感じましたし、我々のお客様も人事部の方が多いので、採用に困っているという課題に一緒に向き合っている中で気づいたこともありました。
日本はいわゆるメンバーシップ型雇用だと言われていますが、実は日本の大企業はかなり海外売り上げ比率が高まっているんですよね。ですから、日本本社のグローバル企業というのがおそらく正しい言い方で、日本以外の支社はすでにジョブ型でやっているんですよ。日本本社だけが特別な仕組みでやっていて、例えば社内のローテーションであったり、ヨーロッパの人を本社に連れて来ることになったりという時に、雇用形態が違うことがある種のハードルになってしまっている現状があります。
そのような話を聞いている中で、「日本だけが特別なやり方をしているんだな」というところに気がついたのが、本を書いたきっかけとして大きかったですね。
ーー先ほど、言われたように、グローバル化していれば海外の例もあるわけで、日本に取り入れようと思えば入れられるような気がするんですけど、なかなか日本だけ浸透しない理由はあったりするんですか。
村上:いくつかありますが、一言で言ってしまえばやはりまだ昭和を引きずっているということなのでしょう。高度経済成長期においては、このメンバーシップ型は非常によく機能をしていたんですよね。それは戦後復興の中心が製造業だったので、まず新卒でガサッと採用して社内の人材プールを作って、順次社内のいろいろなところを経験させて養成していったわけです。
日本も昭和の時代にジョブ型に変えようとしていた時があったんですが、具体的に採用するまでにはいたらなかった。それを今も引きずっているのが1つ目の理由です。
2つ目は、教育に関わる部分。日本では学生時代に、いわゆる「キャリア教育」が、現時点でもあまりされていないですよね。
そうなると、身近で唯一のロールモデルは親になるんですよ。その親世代は、もちろんまだ昭和を引きずっています。今ちょうど過渡期なんだろうなと思うのですが、これがあと20年、30年すると1周して、親世代も普通にジョブ型になる。そうやって自然に全体が変化していく感じになるんだと思うんですね。
3つ目が、これは非常に難しいテーマだなと思うのですが、日本の社会保障制度に関係する部分ですね。例えばアメリカだと全員確定申告しますが、日本は多くの割合を占める会社員がすべて間接型になっています。本来国がやるべきところを企業が肩代わりしている。給料天引きとかは良い例だと思いますが、それによって効率化されてうまく回ってきたところがあると。年金や保険という社会保障制度が、かなり昔に作られているものを改変しながら今までやってきているので、基本的に国が何か直接個人を支援するという仕組みになっていないんですよ。
まとめると、これまでの歴史を振り返ると、働き方と教育と社会制度とが複雑に絡み合って運営しているがために、なかなか1個だけを動かしても全体が動かないというところがある。これが今のジレンマなんじゃないかなと思っています。
ーーなるほど。そういう方向に持っていくためには、どれか1つだけをやるんじゃなくて、全体を動かしていかないといけない感じなんですね。
村上:そうですね。全体の話だからこそ官と民が協調しながら、新しい方向性、まずはビジョンから握っていく必要があると思います。
ーーこれは私の個人的な話なんですけど、私はフリーランスとしてやってきた経験もあるので、なんとなくジョブ型は理解できます。でも新卒で入ってきたり、今まで企業でしか働いたことがなかった人は、「この会社のために何ができるか」という考え方のほうが強いのでしょうか?
村上:まず会社に対してのロイヤリティは、メンバーシップ型でもジョブ型でも変わらないと思います。特にアメリカは、ジョブ型が行き過ぎちゃったがために、むしろ会社と個人の関係をより良くしようとしている。最近では日本のやり方を参考にしていたりするんですよ。会社にいる時は会社を好きになってほしいし、会社もその人のことをすごく考えるのが、今のグローバル企業の標準的なやり方になっている。
だから、ジョブ型になったからといって会社より自分を重視するということでもないですよね。私も長年お世話になった前職のソフトバンクグループには今でも恩義を感じているので、携帯はずっとソフトバンクを使っていたりしますし(笑)。
自分の職(会社)が変わろうが、そういう気持ちは残っている。それがうまく残っていると、いわゆる出戻りみたいなものがしやすくなる。今はアルムナイ・ネットワークみたいなものが盛んで、辞める時も良い経験をしてもらおうという「オフボーディング」も大事だよね、という議論も盛んに行われています。
つまり、もめて辞めたら二度とこんな会社で働くもんかと思いますが、良い経験を残したまま辞めて、2、3年して他で経験を積んでからまたタイミングが合って戻って来てくれれば、オンボーディングはメチャクチャ早いじゃないですか。これは文字通り本当の即戦力なので。今後流動性が高まっていくとしたら、こんな感じになってくると思うんですよね。
ーー海外だと1回出てまた戻ってくるというのはよく聞く話ですよね。
村上:よくありますし、LinkedIn Japanでも、もう何人もそういう人はいますね(笑)。
ーーでも、日本の国内だと、同じ業界には行くなとかいろいろな縛りもあって、なかなかキャリアを積んで戻ってくるのが難しいのかな、という気はしますよね。
村上:これはだから制度面。端的にいうと給料待遇の話なんですよね。まだみんな年功序列が残っているので、プロパーの人がずっといて、定期昇給していくじゃないですか。ここでもめるときは、社内価格が市場価格よりも低い場合なんですよ。
要するに、転職すると市場価格として出るじゃないですか。下手すると1.5倍くらいの給料になっちゃうわけです。日本の採用は前職給料をベースに給料を決めているので、そうするとプロパーで2、3年がんばっているよりも、一回外に出て2、3年がんばって戻ってきたほうが給料が上がっちゃうことが起きてしまう。
これが社内的にモラルハザードとして認識される恐れがあって、それに気づいている経営者は出戻り禁止とか言っているんですよ。要は社内でがんばってくれていた人への裏切りみたいになっちゃうので。もしくはみんな1回外に出ちゃうことで、全体の給料が上がっちゃうことを恐れている経営者はけっこういると思います。
ーーそれがある限りは、出戻りはなかなか難しいと。
村上:そう。ただ、流動性が高まっていく中では、結局社内も市場価格を払っていかないと、どんどん出ていっちゃう。特にスタートアップでは、もはやそういう状況になっているんだと思います。最初から市場価格でメンバーを調達するので、社内制度も最初からなってくると。
逆に歴史のある大企業なんかは、基本的には市場価格よりも低い場合が多い。管理職になると高くなる場合が多いんですけど、そのギャップをどう捉えるかというところですよね。
ーー一方で、ジョブホッパーみたいな考え方がまだあったりするじゃないですか。要は、転職が多いと評価が低いみたいなところもまだあったりして、ここは逆に経営者側からするとどう考えれば良いですか?
村上:ジョブホッパーも日本だけの話ではなく、海外でもジョブホッパーと呼ばれる人はいます。これは何かというと、転職によって年収を上げるという、ある意味本人的にはグロースハックなんですよね。自分の実力以上の高いポジションに就くことに成功しちゃった人たち。
それを防ぐために海外では、例えばエンジニアの場合だと、スキルテストとかいろいろなコーディングテストなどを採用時に実施する。本当にこの人は実力が言っているほどあるのかというのを、あらゆる側面で試験するわけです。日本でも行われてきているようですが、意外と面談をして経歴を見て終わりみたいなパターンがまだ多いんですよね。
ーー確かに(笑)。
村上:そうするとハックができる要素が出てきちゃう。これを是正しない限りは、いわゆる悪い意味でのジョブホッパーは止まないですよねと。
ただ、転職回数の話だけで言うと、別に与えられたポジションで十二分に成果を出している人は、いわゆる悪い意味でのジョブホッパーとは言わないと思うんです。1年、2年ですごく成果を出して新しいチャレンジをして、それを繰り返ししている人は、高く人材市場で評価されています。
つまり、一律に「転職回数だから」と捉えない。どちらかというと、採用側がどう人物評価をするかの精度を高めていかないといけないと思います。
ーーなるほど。やはり回数だけを見ないで何をやってきたかみたいなところもちゃんと見るということですよね。
村上:そうですね。なので結局キャリアを上げるためには、今がんばって成果を出すしかないんですよね。それはもうすべての人に言えることだと思います。
ーーところで、村上さんもエンジニアの経験がおありだと思うのでお聞きしたいのですが、エンジニアとしてのキャリアを積んでいくにはどうすればいいのでしょうか?
村上:エンジニアは、何をできなくちゃいけないというのはけっこう明確に決まっている部分もあると思います。とはいえ、技術の移り変わりは早いので、常に自分の時間の10パーセントや20パーセントは、新しい技術を探索して学び続けるところに使わなくちゃいけないと思うんですよね。
理想では、会社がある程度そこに投資をしてくれるとさらに学びやすくなるので、お互い良いよねという感じになればと思います。あとは、エンジニアは基本的にリモートワークがしやすいと思いますが、とはいえ1人で仕事をするわけではないので、PMやデザイナー、ビジネス側の人とも話さなくちゃいけないという意味では、100パーセントリモートで完結できない部分もある。まだそこまでツールやテクノロジーが進歩はしていないと思います。
ですから、たまにはやはり会って関係性を深めたりなど、対面での効果は捨てきれない部分があるだろうと、個人的には思っています。あとはエンジニアの中においても、シニアの方とジュニアの方で差があるなと。
経験が豊富なシニアエンジニアは、はっきり言ってリモートのほうがメリットは高いんですよね。自分で決めて自分でできるし、能動的に動いてPMの人たちとかともどんどんやり取りできる。
一方で、ジュニアエンジニアはそもそも何をしていいのかもわからないということもあるので、シニアの人が意識的にジュニアの方を引き上げてあげる努力をしないといけない。そのためのコストをどう払うかだと思うんです。
会社側もシニアポジションの人にはそういう役割をしっかりと説明をして、しっかりとジュニアの人を助けることをリモートでもやってください、と。これまでオフィスで対面の場合だったら、ちょっと行って「すみません、今ちょっといいですか?」みたいな感じで声もかけられましたし、「これちょっと詰まっているんですけど」に対するアドバイスをもらったりとか。モノによっては、横に座ってもらってコードレビューとかできていたじゃないですか。リモートになって、これが一気に消えちゃったんですよね。
ーー確かに。
村上:だからリモートでは明示的・意識的にやらないといけない。言い方を変えれば、ジュニアの方の育成機会の損失になっているかな、と。なのでシニアの方はそこに労力を使ってください、会社もそのコストを払ってください、ということになるんだと思います。
ーーところで、村上さんはヤフーからLinkedInに転職しましたが、大きく自分の中で変わったというものって何かあったりするんですか?
村上:そういう意味で一番の変化は役割ですね。日本支社のトップであるというところ。僕の今までのキャリアはけっこう参謀的な動きが多くて、その多くは横串で事業部を横断するような、わりとコーポレート的な動きが多かったんですよね。それが日本代表というかたちで日本事業を見るというトップの立場になったというのが、僕のキャリアとしては非常に珍しい。その中で成長した部分というのはけっこうありますね。
ーー日本支社の代表となった時にけっこう課題感とかありましたか?
村上:そうですね。働き方に関しては、僕自身が完全なジョブ型に慣れるという必要があったというのがチャレンジでした。うちに入ってきている社員はだいたい海外経験があったりして、ジョブ型の人ばかりなんですよね。そういう意味では僕より親和性がある人たちがたくさんいる。
ジョブ型のデメリットでよく言われるのが、ロール(役割)とロールの間に落ちているような、いったいこれは誰のロールかわからない仕事が現実にはあるわけです。こういうのを拾わない文化というのが、正直ジョブ型の職場にはあるわけです。結局のところ、僕が拾って歩くんですけど(笑)。そういうのを経験すると、「なるほど。まぁジョブ型も良し悪しがあるよね」という実感が生まれたりします。
あとは日本代表と言えばかっこいい感じがするんですけど、グローバルの中でいうとイチ中間管理職なんです。つまり本社との折衝とかいろいろな拠点との調整を一気にやらなければいけないというのが、自分的には非常に新しい働き方です。
ーーこれは本当に余談なんですけど、このログミーTechの親会社がSansanなんですけど、オンライン名刺交換の「Eight」は、もしかしたらすごく親和性があると思っていて。LinkdInとうまくやれば合うんじゃないかという気はするんですけど。
村上:そうですね。実はアイデアレベルでは何度もその議論をしていたんですけどね(笑)。僕はずっと一方的にラブコールを送っています(笑)。
ーーこの機会に、私も(親会社に)ラブコールを送っておこうかな(笑)。ありがとうございます。
(後半につづく)
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