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デジタルツールはリモートワークを幸せにするのか?(全2記事)

デジタルツール導入の恩恵と弊害にどう向き合うか? oViceが考える、現場の「監視されている」感情と環境依存の対策

新型コロナウイルスの流行に伴い、各社でリモートワークが取り入れられた日本。出勤がなくなったことで、さまざまな恩恵を受けている方もいる一方、これまで以上のストレスを感じている方もいます。 そんな中、特に注目を浴びているデジタルツールといえば、oVice(オヴィス)です。デジタルツール導入による恩恵と弊害の中で、oViceは何を意識しているのか。oVice株式会社CEOのジョン・セーヒョン氏とCTOの長谷川博和氏におうかがいします。まずはoViceの開発経緯から、通信などの工夫について。

oVice開発のきっかけと開発の壁

ーーまずはジョンさんにおうかがいしたいのですが、oViceを開発しようと思ったきっかけを教えてください。

ジョン・セーヒョン氏(以下、ジョン):簡単な説明としては、新型コロナウイルスの影響でオフィスに行けなくなり、別にオフィスとしての空間として欲しかったからです。

時系列でお話すると、2020年1月に私はチュニジアにいましたが、そこに長谷川も来ていました。その時には対面で仕事をしていましたが、ピザ屋でご飯を食べながら「遠隔でやりとりするとなった場合にどんなものがあったらいいか」という話の中で「空間があった方がいい」という案が出たんです。空間があって、その中でアバターを動かして話かけることができるようなシステムがあれば、いけるのではないかと。

この時はまだ新型コロナウイルスが流行していない時でしたし、技術的にはおもしろくなりそうだという思いから、ブレストだけしていました。もし作るとしたら、出会い系サイトのようにしようかという話も出ていたんです。

そんな話だけして、長谷川は帰国しました。その1〜2週間後の2020年2月末ころ、ヨーロッパで新型コロナウイルスが流行し始め、ロックダウンになってしまいました。テレワークが始まり、ZoomやDiscodeやSlackなどいろいろなツールを使いながら仕事を進めていましたが、しっくりこなかったんです。そこで思い出したのが、1ヶ月ほど前のピザ屋での話でした。

実はもともとプロトタイプ的な感じでいくつか試してはいましたが、本格的に開発しようと思ったのは、そのロックダウンがきっかけでした。

ーーありがとうございます。次に長谷川さんにおうかがいしたいのですが、このサービスを開発する中で、特に大変だったところはどこでしょうか。

長谷川博和氏(以下、長谷川):oViceでは距離に応じて音量を変えていますが、最初のほうは距離に応じて音量が変わらなかったり、見た目と一致していなかったり、アバターが消えたりする不具合が頻発していました。

ジョン:Zoomは効率よく会話をするということがゴールのサービスですが、私たちはどちらかというと効率ではなく、リアルに近いようなかたちにこだわっています。そのため音量の変化に関してもいろいろな実験をして、リアルに近い聞こえ方をする範囲や、音量の下げ方を探していたんです。

長谷川:それらが落ち着いてきた時に難しかったことは、やはりパフォーマンスですね。oViceは常時ONで使うものなので、徐々にメモリが溜ってパフォーマンスが悪くなってしまったり、CPU使用率があがってファンが鳴ってしまったり。イベントの参加人数が100人、200人とボリュームが増えていく中で、PCがフリーズしてしまったりなど、そういった対応がイタチごっこの状態でした。

ジョン:サーバーの設定が漏れていて、「いけるんじゃない!?」と思っていたらいきなりダウンしたことも2、3回ありましたね。

長谷川:そうですね。サーバーの設定変更が漏れていたり、そもそもサーバーが落ちたり。何回もイベントを繰り返して、だんだん安定してきた感じです。

ジョン:私たちも、最初はこのサービスがどのように使われるかは正直わからなかったんですよ。とりあえずオフィスの代わりになるのではないかということだけ考えていて、細かくシーンは決めていませんでした。開発を進めながら自分たちでも使ってみて、会議室を増やしたり、いろいろな調整をかけていきました。サーバーの安定性についても、自分たちで徐々に人数を増やしたイベントを実施しながら確保していきました。

オフィス代わり以外のoViceの活用事例

ーー常時ONだからこその難しさもあったということですね。oViceはやはりオフィス代わりとして使われることが多いと思いますが、オフィス以外の活用事例を教えていただきたいです。

ジョン:oViceは空間のサービスになっているので、空間を活用するところであればoViceは活用されます。具体的な例でいうと、大学の授業です。Zoomだったら一方通行になってしまうコミュニケーションを、インタラクティブにするために使うとか。

今の学生は登校ができず、友だちとのつながりが薄くなってしまっているので、グループワークをしたり、宿題や課題ができるようなラウンジを作ったり。大学自体が導入している場合もありますが、研究室単位で導入されている例もあります。

あとはコミュニティでもけっこう活用されていますね。サロンなどをやっている人たちがoViceに集まって何かをするという例。物販もやっている人たちもいます。学会やマジックショー、町の夏祭りみたいなものをしたり、芸術の展示会をしていたり。リアルの空間でやっているものであれば、ほぼoVice上で行われていると思いますね。

私たちはバーチャルオフィスというポジションではなく、バーチャル空間という位置を取っています。代表的な利用事例としてオフィスがあるだけで、みんなの想像力でそれを使ってほしいと思っています。

oViceは現場の立場から機能を決める

ーーありがとうございます。リモートワークの影響で新たなデジタルツールを導入した企業も多いですが、ツールの導入により業務状況が把握しやすくなった反面、「監視されている気がして嫌だ」「今まで以上に管理されているような気がする」などの声を聞くことがあります。このようなネガティブな感情には、どう対応するべきなのでしょうか。

ジョン:これは表裏一体ですよね。管理者からすると可視化して監視するツールでもある一方、現場から見るとみんなとつながりができて孤独感を感じないようにするツールでもある。どう見るか次第なんです。

oViceがやっていることは2つあります。1つ目は、管理者よりはどちらかというと現場に寄り添っています。oViceには管理者からの要望として、監視するための機能を入れてほしいという意見が来ることがあります。例えば顔のスクショを撮ってほしい、状況がよりリアルにわかるようにしてほしいといったものです。

要望はあるものの、私は基本的にやりません。現場の立場を考えると、そういったことは絶対に嫌だからです。oViceがやらないので、逆に競合ではそういった管理者寄りの監視機能などを入れているところが多いです。

私たちは、オフィスであったようなつながりを体験するようなツール、遊び心を持って使うものであるというブランディングをずっと行っています。CMで厚切りジェイソンさんを起用した理由もそれなんです。ポップに楽しく、あえて現場に楽しさを感じてもらえる雰囲気を出しています。

また、私たちは全社導入をあまりおすすめしていません。全社導入を現場の人から見ると、「あ、これは監視に来たな」と思えてしまって、反発しがちなんですよね。1チームで導入して、彼らが楽しく使って、周りがそれにのるような導入の流れをしています。そもそも私たちのブランディングとしては楽しさを目指しているし、導入のオペレーションとしても、経営者に寄り添うというよりは、現場に寄り添っていこうとしています。

ーーoVice導入のご相談される方はやはり管理側の方が多いので、現場に意識を向けてもらえるのは、現場側としたらとてもうれしいことだと思います。

ジョン:実は、弊社への申し込みは、管理者よりも現場の方のほうが多いんです。現場の人から「やっぱり寂しい」「みんなとのつながりを感じたい」といった意見から申し込みがきて、1チームで導入されてからどんどん増え、あとあとに管理者が登場してまとめて全社導入などにするケースが一番多いんです。

ーーおもしろいですね。oVice特有というか、他社にはあまりない例のような気もします。

ジョン:なので、我々のターゲット的にはBtoBではなく、BtoCなんですよね。

常時ONのツールだからこそ工夫していること

ーーoViceのように常時起動が必要で、メモリなどを必要としやすいデジタツールは、特にクライアントが持っている環境、PCのスペックなどに依存してしまうものだと思います。誰もが使えるように、使いやすいように工夫されていることはありますか?

長谷川:企業の環境のパターンとしては、シンクライアントのVDI環境のサーバー上で全部レンダリングして、クライアント側ではレンダリングされたイメージだけを表示するようなことが多いです。サーバー側で使えるメモリがかなり限られているので、メモリをどれだけ抑えられるかは突き詰めています。

あとはいくつか代替手段を用意しています。この環境では入れないけどモバイルだったら入れるとか、Firefoxだったら入れるとか。競合さんだったらChromeしか対応していないところを、Safariでもできるだけ使えるようにしています。

ジョン:あと通信の切り替えと、ナビゲーションのレンダリングですよね。

長谷川:そうですね。Zoomなどは中間サーバーを経由する通信方式ですが、弊社の場合は2種類用意しています。トラブルなどで中間サーバー経由でコミュニケーションが取れない場合には、P2P(Peer to Peer)を活用しています。違法ソフトウェアの共有で使われていた技術なので、企業によっては嫌われているキーワードですが。

クライアントとクライアントで直接コミュニケーションを取る方式をサポートしているので、片方がダメでも、もう片方でコミュニケーションを取りながらトラブルシューティングができます。

クライアント側のレンダリングも工夫をしています。アバターが移動するときのアニメーションを見てもらうと、ゆっくりではなくて、シュッぐらいで終わっていると思うんですよ。アニメーションをゼロにしてしまうと、アバターが他のところに移動した時にどこに行ったのかついていくことができないので、ちょうどよい速さで移動するように調整したりしています。

ジョン:無駄な処理をしない工夫もしています。oViceでは、画面外のことは最低限しか処理しません。誰かが画面の中に見えてきたら描画が始まるし、この描画が始まったアバターが声の聞こえる範囲までに入ってくると、次の通信が走る。見える範囲+距離という概念に加え、ミュート状況だけでも4通りあります。

会議をする際には、全員のアバターを1点を経由して線でつなぐような描写になりますが、この作業をすると、また通信が切り替わります。理由としては、ヘビーな処理をする場合、中間サーバーを経由したほうが楽だからです。

結局、通信方式は負荷をクライアントにかけるか、サーバーにかけるかなんですよ。Zoomであればすごくサーバーにかけて、クライアントはサクサク動くようにする。ただ、Zoomと同じことをやろうとすると、サーバー代が高いんです。ただ一方で、P2P方式でやっている会社はサーバー代がかかりません。その代わり、ユーザーのネット環境などに依存します。

このサーバーとクライアントのどちらかを下げるわけでもなく、バランスのいいところを見つけたのが我々の技術の特徴です。だから、サクサク動くわりに安いんですよ。

先ほどの描画の話をすると、長谷川さんのバックグラウンドがナビゲーションの描画なので、ナビゲーションとかマップで使った技術をoViceのレイアウトなどにも使っています。ナビゲーションの描画を使うことによって、無駄な描画をしなくても済む。そうするとネットの通信量もそこまでかからないし、メモリの使用量も、サーバーにもそこまで負荷がかからない。省エネでやっています。

長谷川:普通に作ると見えていない空間も全部処理してしまうから重くなるんですけど、見えている範囲だけしか処理をしないので、いくらスペースが大きくなっても大丈夫。今は数千ピクセル×数千ピクセルですが、実験で試したところ、数十万とかすごく大きい空間を作っても、同じぐらいのパフォーマンスでした。

また、アバターの数でいえば、一画面内でかぶらないような制御をしています。テストではアバターを一画面にビッシリ配置するようなことも実施しましたが、2,000アバターを表示したところで、パフォーマンス上では問題なかったですね。

ーーバランスをよく取る。すごいですね。

ジョン:絶妙なバランスがイケているところです。例えばZoomであれば毎秒数百キロバイトでも動くようなことを推しにしていますが、我々はそこまで言いません。個人で使おうと思ったら、Zoomよりしんどいところは確かにあります。

パソコンのスペックもそうかもしれないし、環境によってはネットもそうかもしれない。ただそういう環境では会社の仕事すらもできる状態ではない、つまり考慮する必要はないと私たちは判断していたので、そこを目指しました。

P2Pへのネガティブな感情には真正面から突破

ーー先ほどP2Pのお話があがりましたが、これまで導入された企業さまの中で、実際にこの通信方式を気にされていた方はいらっしゃいましたか?

ジョン:oViceは2020年8月にリリースしましたが、当初からこだわっていたところがセキュリティ面です。ユーザーの反応を見たときに、弊社のターゲットとしてはスタートアップなどよりも、大手企業の方がいい気がしたんです。なぜかと言うと、スタートアップやIT企業は既にリモートワークをしたことがあるので、何らかの手段が講じられていて、そこまでリモートワークによる悩みがなかった。

ただ、大手企業は急に経団連が出社率を下げろと言ってくるから、いきなりリモートワークの導入をやらざるを得なかった。だからリモートワークに対する悩みが深かったんですよね。「これは大手のほうが市場として手っ取り早く行けそうだな」と感じたので、大手会社で導入するためのセキュリティチェックや稟議のための情シスのやり取りは、8月からこだわってやっていました。

情シスが言っていることを聞きつつ、セキュリティチェックシートを書きつつ、知見を速く溜めて、必要そうなものはパパッとやりました。例えば、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)のISO/IEC 27001:2013 、JIS Q 27001:2014の認証取得などですね。セキュリティに関しては先手を打って対策をしていました。

ーーなるほど。「大丈夫です」と言って出せるもの、見えるものがあるのは信頼感があります。

ジョン:もしそういったものがなかったら、たぶん何を言ってもネガティブな印象だと思います。我々は逆に「こういう理由でP2Pを使っているんです」と、真正面から突破しました。銀行とかはP2Pを嫌う場合が多いですが、「いやいや、これは弊社の技術に必要だから」と。

アプリ化でより一層のハイブリッド化を目指す

ーーちなみに、oViceのアプリ化は検討されていますか?

長谷川:裏では開発を進めています。ただ、Zoomのような対面の状態を二次元と定義したとき、PCのoViceではアバターを動かして空間を作っていくという意味で三次元的に動きますが、モバイルのアプリケーションはどちらかというと一次元寄りにしようかと考えています。

というのも、小さい画面でアバターをスクロールしたりポチポチと押しながら移動するのは苦痛だという声が多いので、一次元で操作しやすく、メニュードリブンもしくは通知をタップするだけで会議に参加できるような、そういった手軽さを開発していきたいと思っています。

ジョン:きちんとしたスペースで、きちんと会議をするのではなく、移動の時などサクッと入れるような場所を目指しています。モバイルでもインタラクティブにというよりは、より簡単にして、どの環境にでも対応できるような、そういったハイブリッドを目指しています。

長谷川:PCに関しては、Electronを使うことを検討しています。特にブラウザ版と違いはありませんが、Chromeってアップデートによってかなり不具合が起きることが多いので、アプリを出すメリットとしては、Chromiumのバージョン固定ができることが1つあるかなと思っています。あとは冗長化ができたり、起動した時に自動で立ち上げたりといったメリットがあると思います。

(次回に続く)

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