2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
SONYから独立起業する際の信じられないエピソード|AIBO育ての親天貝佐登史(全1記事)
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池澤あやか氏(以下、池澤):本日のゲストは株式会社モフィリア代表取締役のAIBOの育ての親、天貝佐登史さんです。
菅澤英司氏(以下、菅澤):よろしくお願いします。SONYに新卒で入ってAIBOを開発して、けっこうSONYという会社が好きだったんですよね? でもその会社を辞めてしまった……そのあたりの話ってどうなんですか?
天貝佐登史氏(以下、天貝):辞めちゃったのは想定外でしたね(笑)。
菅澤:想定外!?(笑)。
(一同笑)
天貝:大きな会社に入ると「会社は選べるけど所属は選べない」とか、「会社は選べるけど上司は選べない」とかよく言われます。その中でもSONYは、先ほど話したように案外自由度がありました。
辞める前には、静脈認証という技術を担当していました。研究所からインキュベーションでビジネスにしようというところから拝命したのですが、当時の社長が「これはすごい技術だ!」と言っていて、私はそこの鞄持ちでした。
静脈認証はやはりすごい技術で、何もいらずに一瞬で本人を正確無比に確認できます。なりすましやコピーができないので、無限の可能性があって、静脈認証が普及すると本当に何もいらずに本人特定がきちんとできるので、例えば、痴呆症の方が自分の名前も言えずに行方不明になってしまうというような場面でも、立ち所で本人であることがわかって、それがネットワークでつながっていれば「〇〇さんが今ここで迷子になっています」とわかります。
菅澤:手の静脈の中に入っている血管を見るんですか?
天貝:そうですね。静脈の血管のかたちは、全世界の77億人全員違います。それはお墨付きで、静脈のかたちを登録して近付けたりかざしたりすると、それがマッチングして、「これは天貝ですね」とか「これが中田ですね」と一瞬にしてわかるんです。
菅澤:指紋より優れている部分はどのあたりになるんですか?
天貝:3つぐらいあると思います。1つ目、静脈の血管のかたちは普通外から見られないのでコピーができにくい。
菅澤:確かに。
天貝:よくサスペンスドラマで「指紋が残っていました!」というシーンがありますね。残っていた指紋から犯人も探せますから。
池澤:3Dプリンターで指紋をコピーするという話は聞きますね。
天貝:指紋とか顔とか、外から見えるものは、すごく賢くて悪い人がいると案外コピーができるんですよね。静脈は普通は見えないので難しいというのと、あとはコロナ対策で消毒液などで手が濡れたりすると、指紋は入りづらいんですが、静脈は身体の中なので、別に関係ない。
菅澤:そうなんですね。
天貝:マスクをしていると顔認証もなかなか入りづらいんですが、それも関係ありません。3つ目は、極論、小学生でもジジババ層になっても、静脈は経年変化がほとんどないんです。
菅澤:そんなに変わらないんですか!?
天貝:基本的には変わらない。
池澤:すごい。
天貝:だから頻繁に登録し直す必要がないんです。もう1個言うと、世界中の老若男女、みんな同じシステムでいいです。テレビだとアメリカ方式とか中国方式とか全部違わなくちゃいけないじゃないですか。それがぜんぜんないんです。
菅澤:画像解析みたいな、読み取るセンサーみたいなものがあるんですか?
天貝:そうですね。真骨頂は、それを解析して正しく判定するアルゴリズムだと思います。それをSONYの研究ではやっていて、ソフトウェア的に言うと軽くて早くて、正確にできるようになったので、これでビジネスインキュベーションをしてみようとなりました。
天貝:なぜSONYを辞めたかというと、SONYの中の番付で言うと、すごく良い技術でインフラのところで役に立つものって、あまり三役になれないんですね。
菅澤:そうなんですか!?
天貝:やはりSONYはエンターテインメントの会社なので、一般のお客さんが楽しむとか、新たなエンターテインメントを作り出すとか、ネットワークを作り出すとか、そういうところはいかにもSONYという会社なんですよ。縁の下の力持ちで「SONY」という名前が出ないようなものは、ものすごく良い技術でも、なかなか評価が付かないんです。
池澤:そうなんですか!?
菅澤:この間話をした元SONYの人は「SONYは技術力じゃないんだよ」と言っていました。「エンタメの会社なんだよ」と言っていて、「あ、そうなんだ」と思いました。
池澤:最近だとセンサーを売っているイメージもありますけどね。
天貝:SONYのセンサーとして売るという単純なビジネスであればいいのですが、例えば今みなさんが使っているSuicaや非接触ICカードのほとんどの技術の根幹がSONYなんですが、それも知らないですよね? そういうところのインフラの、ものすごく良い技術を持っていても、知る人ぞ知るみたいなところはあまりSONYらしくないというところもあるので(笑)。
ましてや私たちが今やっているのは、セキュリティ、病院、金融などで使われるところで、絶対になりすましを防ぐとか、カードを忘れても大丈夫みたいなところで社会貢献できています。
でもこれはSONY的ではないので、そういうことをやっているパートナーさんと組んでやるという意味では、SONYの看板がないほうがいいのかなと思いました。技術には自信があったので、10年前に独立しました。
菅澤:独立する時は「技術を持っていっていいよ」となるんですか?
天貝:出資もなしで独立したのですが、ビジネスを続けていくためにまさに必要な、例えば特許、開発の支援の環境、人材は、本当に涙が出るくらいサポートしてくれました。
池澤:すごい!
菅澤:良い会社ですね。
池澤:なんでそんなことができたんですか?
菅澤:確かに(笑)。
(一同笑)
天貝:一見クールな会社なんですが、そういうところは良い意味でウェットで、外に出る人に対してもすごく温かいんですよ。「そこで成功して恩返ししろよ」みたいなところはすごく温かくて、これは本当にありがたいので、本当に何らかのかたちで恩返しをしなくちゃというモチベーションになりますね。
ただ、独立をして、技術だけではビジネスにならないというのは、嫌というほど感じました。SONYは「SONY」という名前があるので入れたけど、技術で勝負という時にそこだけで評価してくれるのはそんなに多くないというのを嫌というほど感じました(笑)。
池澤:どういう分野に一番参入しやすかったですか?
天貝:日本だとほとんどのインフラが整っていますが、新興国はないですね。昔は電話が普及していない時に携帯電話がいきなり固定電話を飛び越した。それと同じで、あまりインフラがないところで、一足飛びに最先端の技術を入れたいと思っています。
中東では、キオスク端末みたいなところで指だけでお金を下ろせたり、ある国では病院の診察券と保険証の代わりに指だけで本人確認をして、それが電子カルテと一緒になって先生のところに送信されたりなど、新興国のほうがダイナミックに飛びついてきます。
菅澤:今も静脈認証は日本がナンバーワンですか?
天貝:逆に日本のメーカーしかきちんとやっていないんですよ。難しい技術ということもあって、私たちもその一端になりますが、そういう意味では日本のメーカーがずば抜けて静脈認証の技術を持っていると思います。
菅澤:各社はやっているんですね。
天貝:数社やっていますね。指紋認証や顔認証は全世界に何百社といます。顔認証はたぶん何万社といると思うのですが、静脈認証はなかなかいないです。案外ユニークな技術だからやっている会社がすごく少なくて、それも良し悪しですね。
菅澤:特許もあるんですか?
天貝:特許もあります。SONYから独立してから、お陰様でそれなりに特許を持っているので、そこは自分たちの強みになっています。
菅澤:SONY時代とベンチャーでは自由度もより増しているじゃないですか。違いはけっこうありますか?
天貝:ものすごくあります。おっしゃるとおり自由度もありますが、何かの時は自分たちだけなので、一番はやっぱりお金ですよね。SONYの時は「お前赤字だろ!」と怒られるだけで済みましたが、今は赤字が続いちゃうと会社が潰れますから。
その代わり、AIBOの時じゃないですが、自分たちの意思決定でやめるとか続けるとか選択ができます。大きな会社にいた時は、自分たちではないところからそういう判断が下される時がありました。そういう意味でもオーナーシップと言いますかね、自分たちがやっている責任感はぜんぜん違います。
菅澤:当時の研究や技術など開発の会社としての後押し体制は相当良かったんですか?
天貝:非常に優秀な人間が、非常に優秀な技術のタネを仕込んでいるという意味ではものすごい会社ですね。
菅澤:SONYの凄さの一端を見た気がしますね。時間が来てしまったのでこのあたりで終わりにしますが、静脈認証が世界中に広まる日を楽しみに待っているので、ぜひ広めていただけたらと思います。
天貝:ありがとうございます。
池澤:本日のゲストは株式会社モフィリア 代表取締役、AIBOの育ての親の天貝佐登史さんでした。
菅澤:SONYの話をたっぷり聞けましたが、どうでしたか?
池澤:モフィリアという会社を立ち上げた経緯にSONYがかなり関係していたというのはすごく驚きましたし、SONYの懐の深さにとても驚きましたね。
菅澤:そうですね。ウォークマンを作って、AIBOを作ってという勢いが特にあの時代はあった。『鉄腕アトム』が好きでロボットをやってみようとAIを学校で勉強して、SONYに入ってAIBOを作った。それを何十万台と売って、20年経った今でも使っている人がいて、さらなる挑戦としてスタートアップを立ち上げていくという、やはりそういうベンチャースピリッツがある人がSONYに集まってきていたんですね。
エンジニアが本当に目指すべき会社で、私たちもソフトウェアのSONYを目指してがんばっていきたいなと改めて思いました。ということで、このあたりで終わりにしたいと思います。
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