2024.12.03
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司会者:エンジニアtype主催、ロボット開発1dayオンラインイベントを始めます。初回のセッションはテーマ「『優しいロボット』の可能性」です。(スライドを指して)本日のアジェンダです。トークセッションのあとに質問に答える時間も用意しています。
まず、オンラインイベントを主催するWebマガジン「エンジニアtype」について紹介したいと思います。エンジニアtypeは「技術者のキャリアを考える」をサイトコンセプトとして運営しているWebマガジンです。著名な技術者や経営者、一般の転職者まで、さまざまな方のインタビュー記事やコンテンツを掲載しています。サイトもチェックしてもらえたらうれしいです。
メインテーマを開始します。本日は、ロボット開発をテーマにした1dayイベントです。少子高齢化による労働力不足など、あらゆる社会課題の解決に活用されているロボット開発にまつわる最新トレンドを伝えるべく、本日のイベント開催に至りました。
今回のセッションでは「優しいロボット」をテーマに、お二人のロボット研究開発者に話をうかがいます。コロナ禍をきっかけに孤独を感じる人が増えていく中で、人の心に寄り添うロボットの開発はどう変わっていくのか。医療福祉ロボットの開発を手がける、いとうまい子さんと、ドラえもんづくりに挑むAI研究者の大澤さんにうかがいます。ゲストを紹介します。いとうまい子さんと大澤正彦さんです。
大澤正彦氏(以下、大澤):よろしくお願いします。
いとうまい子氏(以下、いとう):よろしくお願いします。
司会者:まず、自己紹介をお願いします。これまでの経歴のほか、ロボット開発、研究開発に関する実績などを紹介してください。いとうさんからお願いします。
いとう:大学に入ってずっと予防医学をやっていきたかったのですが、ひょんなことからロボットのほうに進みました。そこでロコモティブシンドロームを予防するロボットの開発を始めて、修士課程で「ロコピョン」という高齢者のための家庭用ロボットを開発しました。ざっくりで、すみません。大澤先生よりも先に私のような者が、申し訳ありません(笑)。
大澤:いやいや、なにをおっしゃいます(笑)。
司会者:(スライドを指して)今写真に写っているものがロコピョンかと思いますが、このあとのセッションでも詳しくうかがいます。大澤さん、お願いします。
大澤:大澤正彦です。経歴としては、2020年の3月に博士号を取りました。2020年4月から、日本大学の文理学部情報科学科で助教をしています。ロボットとの関わりでは、記憶がないくらい前からずっとドラえもんをつくるのが夢で、物心ついた頃からドラえもんをつくりたくて生きていました。ご飯を食べたいとか眠りたいという感覚と同じくらい、ドラえもんをつくりたいと思っていました。
最初に動いたのは、小学生のときにロボットセミナーに通い始めたことだと思います。それから工業高校に行って、ずっとロボットや人工知能などに携わってきました。今日はいとうさんと話せるのが楽しみで楽しみで。
いとう:大澤先生にとってはお母さんくらいの歳だと思うので、なんだか申し訳ないと思っています。
大澤:そんなことないです。ちなみに(いとうさんとのセッションを)父に言ったらすごく喜んでいました。
いとう:お父さんが? やっぱり(笑)。きっとお父さんくらいの世代ですよね。
司会者:お二人は異なるアプローチだと思いますが、人に寄り添うようなロボットを開発しているという点では似ていると思いますので、いろいろと詳しい話をうかがいます。
司会者:1つ目のテーマ「お二人のロボット研究開発のイマ」についてうかがいます。先ほどの自己紹介でこれまでの実績などを聞きましたが、今はどのような開発をしているのか、ロボット開発がどのようなフェーズにいるのか、詳しく教えてください。まずいとうさん、いかがですか?
いとう:私は大学の修士課程でロコピョンを作っていましたが、その後AIベンチャーのエクサウィザーズにフェローとして呼ばれて一緒に開発をしています。そもそも、私は家庭用の高齢者個人に向けたロボットを作っていましたが、エクサウィザーズはいろいろなすばらしい技術を持っているので、家庭用だけではなくもっと大きな高齢者施設でも使えるのではないかと思いました。
そこで、ロコピョンを“ロコピョン先生”として大きな画面に映して、施設で高齢者がいつでもスクワットに参加できることを一番大きな目的にしました。今は“ロボットなんだけどロボットじゃない”ような開発を構想中です。小さなものは作りましたが、本格的なものはまだ開発中です。
大澤:今日の僕には、気になることを聞いてもいい特権がありますよね(笑)。“ロボットなんだけどロボットじゃない”とおっしゃっていましたが、どういうことですか?
いとう:それは、形があって動くからロボットなのではなく、施設の中に組み込まれてもロボットと名づければロボットではないかということです。私が作っているものは毎日3回屈伸をしなければいけないので、経年劣化で動かなくなる可能性が大きい。
高齢者に向けて作っているのに、もし故障したら高齢者はまず直せないので放っぽり出されて、せっかく毎日続けていてたものが続かなくなる可能性もあります。そこで、経年劣化で壊れない形にはどういうものがあるかを考えました。高齢者施設でも使える、もっと大きくて壊れない画面の中にロボットを入れ込んじゃえと。
使っているシステムとしては、AIやカメラ、骨格を検出するようなシステムなど、ロボットに組み込んでいたものをそちらに入れ込めば、“ロボットじゃないけどロボット”のカテゴリーにいけるんじゃないかと私は勝手に思っているんです。大澤先生に言わせれば邪道かもしれませんが(笑)。
大澤:僕ってなんだと思われてるんですか(笑)。でも大賛成です。僕らもロボットについては、もう少し大きな概念で「エージェント」という言葉を使うようになっています。
ロボットもCGのキャラクターも、擬人化された人工物全般をエージェントとして研究し始めているので、僕らも形がなくてもいいと思います。発想自体はすごく共感というか、大賛成です。
いとう:そうなんですか、うれしいです。
大澤:体があることにはメリット・デメリットもあると思うので、そこを使いこなすという意味では。
いとう:そうですよね。確かに(体が)あるほうが絶対的にいいと思います。最初に作った家庭用を修士論文審査会で発表したとき、「これ、ビデオでいいんじゃない?」って言われたんです。でも、単体であるからこそ共存して一緒にやる楽しみが生まれる。ビデオではそれがないからだめだと説得したにもかかわらず、今は“それはそれ”。審査会の頃はロボットの個体に拘っていましたが、年数が経ち、時代が変わればロボットの形が変わるのもアリじゃないかと思っています。
大澤:おっしゃるとおりです。ロボットがいると、場の共有感がすごくあるんですよね。僕らは“ソーシャルプレゼンス”という言葉を使いますが、存在感を作るのにすごく役立つし、いとうさんが言うように壊れないようにCGにすることも大事なので、両方の側面からやっていくと見えてくる世界があると思います。
いとう:そうかもしれませんね。一緒に研究してほしいくらいです。
大澤:したいくらいですけど、いいんですか? 喜んじゃいますけど(笑)。
司会者:大澤さんの直近のロボット研究開発はどうですか?
大澤:「ドラえもん」にミニドラというキャラクターが出てくるのを知っていますか? 「ドラドラ~」しかしゃべらないんですが、うまくコミュニケーションが取れるちっちゃいドラえもんがいて、そういうロボットをつくってみたいと思っています。
ミニドラを目指したロボット。つまり、「ドラドラ」だけでコミュニケーションを取るけれど、人間側は自然に言葉をしゃべる。(人間の)言葉は理解できるけれど「ドラドラ」しか言わない。そういうロボットです。『ポケットモンスター』のピカチュウや『スター・ウォーズ』のR2-D2も同じカテゴリーだと思います。
SFの世界ではよくある設定ですが、現実にはいないと思ったので、つくろうとしています。最初にやった実験は少しトリッキーでした。「ドラドラ」しかしゃべらないけれど、しりとりができる。
いとう:すごい。
大澤:「リンゴ」って言うと「ドララ~」って返してきて、「あ、ゴリラって言ったでしょ」みたいな(笑)。「ゴリラ、じゃあラッパ」「ドララ~」「『パンツ』って言ったやろ、今」というコミュニケーションをしちゃう。
いとう:かわいいですね。
大澤:ちゃんと成立するし、かわいいんです。すごくかわいがってもらえるんです。(ロボットを手に取って)ここにいるロボットがまさにそれなんですが、真っ白なのっぺらぼうのロボット。もう少し研究者ぽく言えば、曖昧性をすごく活かしたロボットをつくろうと。
写真提供:エンジニアtype
だから、「リンゴ」や「ゴリラ」などの言葉をしゃべるのではなく、「ドララ~」として曖昧性を持たせる。表情もないので、喜んでいるか悲しんでいるかは全部人間の想像力に委ねられて、それを思いきり引き出すことで、うまくコミュニケーションできるのではないかということを始めています。
例えば、「ドラドラ」しか言わないのに(ロボット相手に)1時間半しゃべり続けるような子まで出てきました。言葉をしゃべらないからこそ、その人がロボットの心の部分を一生懸命考えてくれる。そんな存在になっているんだと思います。
いとう:すばらしいです。初期のうつ症状を素早く検出するのに使えそうなロボットですね。
大澤:そのとおりかもしれません。うつ症状もまさにそうだし、ほかに、自閉症の子どもが誰よりも上手にコミュニケーションを取っていたこともありました。そのような人の眠っている部分や、いろいろな心の機能を引き出すようなロボットなのかもしれません。
でも、コミュニケーションを取っている人は、完璧にこのロボットの言うことがわかります。「この子がかわいくてしょうがない」とまで言ってくれますが、ロボットが内部で判断したことをすべて正しく読み取ってるわけではない。いわゆる、“わかってるつもりになっている”ところが多いんです。
よく犬とのコミュニケーションであるそうですが、帰ってきたときにワンワン鳴いて近寄ってきたら「おかえりって言ってくれてるのね、ありがとう」というものです。「お腹空いたでしょ、ご飯あげるわ」というコミュニケーションがよくあるそうですが、動物の心理を研究している人によれば、あれはだいたい「お腹が空いた」から近寄って来るらしい。
いとう:夢が壊れます(笑)。
大澤:思えば感じ取れるし、お互い気持ちよくコミュニケーションが取れている。
いとう:自分がこうであってほしいという気持ちを、相手に投影しているのかもしれません。
大澤:人間同士でも完璧な気遣いなんてできない。ロボットの能力は不十分だけど、そういう曖昧性があれば、お互いに都合よく解釈しながら成立しちゃう。僕らはそれができたのかなと思っています。
いとう:そうですね。
大澤:このロボットはネタとしてつくっているわけではなくて、ドラえもんの本質的な部分のひとつだと思ってつくっています。僕は、研究を進めていけば「ドラドラ」だけで完璧にコミュニケーションが取れるところまでやれると思っているんです。
もしそこまでできたら、例えば「ドラドラ」だけで完璧にコミュニケーションが取れるロボットが「パパ」「ママ」などの単語をしゃべるだけなら簡単そうじゃないですか。「パパ」「ママ」としゃべったあとに「パパ大好き」「ママありがとう」と語彙を増やすのもきっと簡単ですよね。
振り返ると、それは子どもが言語獲得する順番とぴったり同じなんです。だから、「ドラドラ」や曖昧性を使った自然言語に頼らずに、生物らしい心と心のインタラクションをしっかりつくりり込んであげれば、自然なかたちでドラえもんに成長していける。そういうイメージで開発を進めていて、今はその第一歩がけっこうしっかりと踏み出せているんじゃないかと思っています。
司会者:ロボットとのコミュニケーションというと、いかにロボットが正しく答えてくれるか、正しい回答が得られるかに着目しがちですが、そうではなく、先ほどおっしゃっていた曖昧さの部分がひとつの魅力になっているのはすごく印象的です。
(次回に続く)
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