2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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司会者:みなさまお待たせいたしました。本日は『創るためのAI―機械と創造性のはてしない物語』大川出版賞受賞記念特別講演へご参加いただきありがとうございます。本日司会を務めます、Qosmoのプロジェクトマネージャーの高橋ゆみと申します。
本セミナーは、弊社代表の徳井直生の著書『創るためのAIー機械と創造性のはてしない物語』が2021年度の大川出版賞を受賞したことを記念して、徳井による特別講演をオンライン配信にて実施しております。
簡単に私から徳井の紹介をいたします。徳井は2009年株式会社Qosmoを設立して、これまでに手がけた作品はニューヨーク近代美術館、ロンドン・バービカンセンターなどで展示されてきました。AIと共創する代表作の1つに、AI DJ Projectがあり、2018年頃から音楽生成AIとの即興DJパフォーマンスを国内外で行うなど幅広く活動しています。
また、2019年4月からは慶應義塾大学SFCでComputational Creativity Labを主宰し、AIと人の共生による創造性の拡張について研究を深めています。2021年1月にはこれまでの活動をまとめた著書を発表しました。
本日のセミナーでは、積極的に視聴者のみなさまのご質問やご意見を交えながら進めていきたいと思っておりますので、お気軽に気になったことや感想を送ってもらえればと思います。それでは始めていきたいと思います。徳井さん、よろしくお願いします。
徳井直生氏(以下、徳井):ご紹介ありがとうございました。徳井と申します。今日はお忙しい中、ご参加いただきありがとうございます。これから1時間ほど僕からお話をして、そのあと20分くらいQ&Aをしたいと思っています。よろしくお願いします。
先ほどご紹介いただいたとおり、『創るためのAI』という本を2021年の1月末に出しました。AIと創造性に関して、自分がふだん考えていることだったり、これまでの活動や、やってきたことだったりをまとめて1冊にした感じです。
もともと僕はわりと堅いところで、普通に人工知能の研究室で研究をやっていた研究者でした。研究の傍ら、DJをしたり音楽を作ったりしていました。そのあとメディアアートの作品を作るようになって、気づいたら人工知能の研究とDJや音楽という表現が重なり合う領域で仕事をするようになっていきました。
2009年にQosmoという会社を立ち上げて、2019年から慶應義塾のSFCでComputational Creativity Labというのを主宰しています。あと、今日開催している場所が Dentsu Craft Tokyoという場所なのですが、電通のチームと一緒に1つのゆるやかな共同体を作っていて、その中でもさまざまな仕事をやっています。
この『創るためのAI』なのですが、今日は主にこの本の中に書いてあることをお話しする予定です。
ありがたいことに大川出版賞をいただきました。この賞は、理工学系の本に関する賞です。僕自身はどちらかというとアートや音楽の領域で活動してきて、この本の中でもそういう話をたくさん書いているので、まさか大川出版賞をいただけるとは思ってはいませんでした。
今日は音楽、アートの話が多くなるかなとは思っていますが、エッセンスとしては、もちろんAIというテクノロジーに関する洞察でもあります。ありがたいことに、今日はみなさんいろいろな分野の方にご参加いただいていると思うので、それぞれの分野でなにかしらの気づきが少しでもあるといいなと思っております。よろしくお願いします。
ということで、まずAIと創造性というテーマについて話します。最近、AIと創造性というテーマがそんなに不思議なものではなくなってきたのかなと思います。もともとAIは堅いというか、最適化や省力化みたいなところに使われるというイメージがやはり強いと思うので、なかなか創造性というキーワードと、AIが結びつかない方もいらっしゃるのかなと思います。
一方で、最近AIが一般に広く、お茶の間のニュースなどでも扱われるようになってきました。例えばこれは2016年ですが、レンブラントの新作をAIが作ったという触れ込みのプロジェクトですね。ほかにも、マイクロソフトを中心にやっていたプロジェクトだったり、日本のみなさんに馴染み深いところでいうと、NHKがやっていた美空ひばりさんのプロジェクトだったり、手塚治虫の新作をAIが描くといったプロジェクトだったり、いくつかこういったものがあったと思います。
どうしてもAIでなにかを表現するという時に、こういう過去に存在していたアーティストをAIによって模倣するとか、過去の有名なアーティストのスタイルを模倣する、そういうイメージを持たれる方が多いのかなと思います。今日のトークの中では、そうではないAIの使い方を中心にお話しします。
例えばこういうものもありますね。これは知っている方も多いのかなと思うのですが、クリスティーズという世界的なオークションハウスで、GANというアルゴリズムでAIが生成した絵画が4,500万円だったと思うのですが、かなりの高額で落札されました。AIがアーティストになったというような取り上げられ方で、いろいろな議論を巻き起こしました。
少しみなさんに質問をしたいのですが、例えばAIがアーティストに成り得るか? どうでしょうか?
創作の主体って何だ? とか、アーティストって何だ? とか細かい定義が難しいとは思うので、どちらとも言えないという答えもよくわかります。今のアンケート調査だと、どうやらイエスが40パーセントくらい、どちらとも言えないが同じくらいですかね。ありがとうございます。
では次の質問です。逆に、いえいえ、アーティストには成り得ないでしょ。創作の主体には成り得ない。結局人間が学習させたとおりにしか動かないんだから、ツールでしかないんじゃないかと思う方はいらっしゃいますか?
これもまた定義があいまいで、もしかしたらツールであり、かつ、アーティストで創作の主体でもあり得る、みたいな意見も十分あり得ると思います。
これはけっこう意見が分かれましたね。イエスと答えている方が24パーセント、ノーが40パーセントくらい、どちらとも言えないが40パーセントですね。
このセミナーに来ている方は、やっぱりこういう問題に対してふだんいろいろと考えている方が多いと思います。今質問が来ていますが、「その質問自体が難しいです。複数のレベルがあると思うので」とあります。
おっしゃるとおりです。まさに僕が提起したいのはそれです。こういう話になると、どうしてもAIがアーティストになっていって、それこそアーティストの仕事も奪ってしまうとか、逆にAIを卑下するようなかたちで「結局模倣しかできないからツールでしかないでしょ」というような、二元論で捉えがちです。
僕が言いたいのは、先ほどの質問にあったようにさまざまなレベルがあって、この中間にこそAIのおもしろさがあるということです。ここでは創るためのAIを真ん中に置きました。まさにこれが、この本の骨子になります。
どういうことかというと、AIは単に人を模倣して置換する省力化や自動化のためのロボットでもなく、新しい絵筆や新しいピアノなどといった単なる便利な道具でもなく、その中間にある存在だと思っています。その中間性を活かしていくことが、今後のAIとの付き合い方で重要になるのではないかということです。
具体的に言うと、AIは人間の思いどおりに動く絵筆やピアノのような単なるツールではなくて、創造性に関わる、あるいは創作に関わる根源的なプロセスの一部をAI側に委譲することで、人の創造性を拡張することができるのではないかと思っています。
つまり、今まではアーティストや人間にしかできないと思っていたことの一部を、AIに委譲することによって、新しいアイデアだったり、それこそスライドに書いてあるように、人だけでもAIだけでも不可能な新しい創造性のかたちを実現できるのではないかと。そういったことを考えています。
そうなると疑問としては、本当にAIに創造的な振る舞いをさせられるのだろうか、委譲できるのだろうか。AI自体が、主体性を持って新しいアイデアや表現を生み出すことがあり得るのか。もっと言うと、AIをどう使うと新しい表現、アイデアにたどり着けるのかといった疑問が出てくるかなと思います。
僕自身、この疑問を考え出したのは、自分が大学の3年生、4年生くらいの時にAIの研究室で研究を始めつつ、音楽を作り始めた時代でした。1998年ですね。
その時に、楽器もぜんぜんできず、楽譜も読めない状態で、すぐに自分の創造性の限界を思い知らされたんですね。そこをちょっとでも超えたいと思って試行錯誤している時に、この作品に出会います。
これはカール・シムズというアーティストの1994年の作品です。1998年からすると、少し前の作品なのですが、仮想生命体がある種のシミュレーションされた3D空間の中で動いているというCG作品です。
これのなにがおもしろいかというと、アーティスト自身がこの仮想生命体の形や動きを作ったわけではないという点です。作者だけど、本人がこれを作ったわけではない。彼がなにをやったかというと、シミュレーションの環境を作ったんですね。
どういうことかというと、実はここで動いている仮想生命体は、スライド左上にあるようなグラフ構造で表現されています。再帰的な、フィードバックループがあるようなグラフ構造で、よく見ると大なり小なりとか、プラスといったような数式が入っています。
この仮想的な遺伝子から、不思議な形の生命体が生まれて、シミュレーションの環境の中でこういうふうに動き回ることができる。この動きも仮想的な遺伝子で決められています。
ポイントはですね、こうやって作った仮想的な遺伝子をシミュレーションの環境の中で動かしてみて、決められた時間に遠くまで動いた遺伝子は自分の遺伝子の子どもを残すことができるというところです。
最初はランダムに作るのであまりうまく動かないのですが、その中でもちょっとうまく動ける遺伝子が出てきたらそれを残して、それらを組み合わせて次の世代を作っていきます。まさにみなさんがお父さんとお母さんから生まれてきて、また子どもを残していくというような、そういった遺伝的な世代交代をシミュレーションしているものになります。
この世代交代を繰り返していくと、だんだんこういったおもしろい動きをする仮想生命体が出てきます。この時に、衝撃を受けたのは彼のインタビューで、彼はこんなことを言っていました。
自分が作った空間の中で、どうやってこういう生命体が進化して生まれてきたか、自分でもぜんぜん説明できない。見当もつかないと言っていたんですね。
これが僕にとっては衝撃的でした。当時僕は、工学部で研究をして、プログラミングをしていました。プログラミングは自分がプログラミングしたとおりに動かないとそれはバグであって、そこからなにか予想外のものが生まれてくるのをおもしろがるとか、ありがたがるという感覚がまったくなかったんですね。
それに対して彼は、自分が作ったもの以上のものが、自分が作った環境の中で生まれてきて、すごく驚かされたと言っている。これにすごく衝撃を受けて、ロマンを感じてこういう研究を始めました。
先ほど言ったように、自分の創造性がすごく限られているなと思った時に、こういうAIの力を借りられると、もしかしてまだ気づいていない新しいアイデアだったり、自分の創造性の外側にたどり着けて、それをまた自分の創造性の、ある種のレパートリーに取り込んでいければ、どんどん自分の創造性を拡張できるんじゃないかと考えるようになったのがきっかけでした。
1998年くらいにカール・シムズの作品に出会って、今が2021年ですから(※取材当時)、なんだかんだで紆余曲折しながら、20年くらい同じことをやっているというのは我ながらあまり成長していないなと思うところもあるのですが(笑)。その20年のいろいろな過程が詰まっているのがこの本です。
(次回へつづく)
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