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文化的負債との戦い: 老舗ソフトウェア開発会社でアジャイル変革を仕掛けた8年間(全3記事)

目的不明の会議、始まりのないプロジェクト…… 老舗ソフトウェア企業のSPIが語る、文化的負債解消ストーリー

ソフトウェア開発、ITインフラ運用、そしてその境界線上にあるトピックをカバーし、特にDevOpsを実現するための自動化、テスト、セキュリティ、組織文化にフォーカスした「DevOpsDays」。ここでウイングアーク1st株式会社の高橋氏、荒川氏、内藤氏が登壇。続いて、会議や仕事の流れなど、5つの文化的負債解消のためのアプローチを紹介します。前回はこちらから。

文化的負債Case4:目的不明の会議多すぎ&人多すぎ

内藤靖子氏(以下、内藤):続けてCase4、「目的不明の会議多すぎ&人多すぎ」です。アジェンダや決定事項、議事録など、いろいろありません。いろいろないが故に、その場に行かないと話が理解できません。そのため、どんどん参加する人が多くなっていきます。

内藤:その場にいないといけなくなります。その割には、みんないたほうがいい会議には主要メンバーがいなかったりという、辻褄が合わないことが発生していました。

「会議って何だろう」と考えた時に、スクラムのイベントを思い出してみると、参加者だったり目的だったり、何をするかだったりが明確だと思います。

一方で、私たちの会議はどうなっているかというと、何でもかんでも定例と言われて、意思決定も情報共有も全部“定例”という名の下にまとめられていました。

高橋裕之氏(以下、高橋):昔の話ですね。

内藤:そうです、昔の話です(笑)。今は変わってきています。その頃出会ったのが、ファシリテーション視点の会議設計という、株式会社エレクセ・パートナーズの永禮さんの講座でした。ここにはファシリテーションの仕方だけではなく、会議設計まで踏み込んでいて、私たちはすごく学びを得ました。

(スライドを示し)この学びがどう変わったをしっかりと赤字で書いていますが、会議を「情報交換型、洗い出し型、分析・考察型、意思決定型」という4つに分類しました。目的を明確にして会議の統廃合を行い、関係者を明確にしました。左側がこの会議設計の資料です。

高橋:会議は4つの種類があると言われていて、情報交換型、洗い出し型、分析・考察型、意思決定型。もしくはこれらのごちゃ混ぜということです。これをベースに整理し始めたら、けっこう会議がすっきりできたという話になります。

内藤:こんな感じで、改善が回り始めました。

あとはもう1つ、私たちのやったこととしてグラフィックファシリテーションがあります。対話は話すだけだとどんどん逸れていってしまうので、絵を描いて見せることを意識しています。

我々はあとは「Lean Coffee」というものを定着していて、短時間でたくさんのテーマについてディスカッションできるし、テンポがいいのでけっこう盛り上がります。

高橋:課題が多い時にはすごく有効で、画面のどおり、オンラインでもすごく有効だと思っています。

文化的負債Case5:プロジェクトの始まりがない

内藤:次にCase5、「プロジェクトの始まりがない」です。そもそもプロジェクトのキックオフもなくて、「いつから始まっているんだろう」という疑問が当時続いていました。関係者の共通認識がないまま、どんどん開発が進んでいるんです。マネージャーの方々もエンジニア出身だったりすると、プロジェクトのマネジメント、プロダクトのマネジメントをどうやってやったらいいかわからないところがあったと思います。

結局ゴールも現在地もよくわからなくて、遭難寸前なんじゃないかなと思うことが、当時度々ありました。

そこで、プロダクトマネジメントを確立しようとなったわけです。

高橋:私はそこそこ古い人間なので、最初プロダクトは始まりがあって終わりがあると教わっていて、今でも言われていることだと思います。これもまた『エンジニアリング組織論への招待』からの引用ですが、プロダクトを中心で考えていくと、“終了しないこと”が売れている製品だということになります。

今の弊社でビジネスをやっていると、「これはプロジェクトじゃないな」と気づかされるというか、それに気づかないとまずい。そこを気をつけていかないといけないなと思ったので、よりプロダクトをマネジメント(側)にシフトしました。

内藤:ソフトウェア開発は登山に似ているところがあるなと思います。どんなところが似ているかというと、目指すべきゴールがあるところです。だけれども、ゴールがわからず闇雲に歩いていると、樹海に突入して、遭難しそうになることもあると思います。

ではどうすればいいかというと、まずゴールを目指す意思を確認して、そのゴールを目指す道中には、必ず問題が発生しそうなところがあります。

それをどうするかを考えながらやっていくということです。

(スライドを指して)考えないでやってしまうと、この絵のようになってしまいます。備えがなく山に登ると、遭難してしまうかもしれません。遭難して戻ってこられればいいですが、本当に亡くなってしまうケースもあるので、非常に危険です。

私たちはどうするかというと、まずは「リスクがあることを認識しましょう」ということです。リスクが起きた時にどうするのかを備えておきましょう。備えて、状況を見ながら、そろそろやばそうだとなったら準備を発動していきたいと考えました。

私たちがやったことです。これは1つのプロダクトでやったわけではなくて、いろいろなプロダクトにその場にあったような活動をし続けて、今では計画を立てることや、キックオフをすることが当たり前になってきています。

次です。「ナレッジサイトの構築」と書いてありますが、これは2020年から始めました。プロダクトマネジメントをするにあたって、どうしたらいいのか。弊社は教育制度が整っていないので、ナレッジサイトを見て、何か活用できるものを用意したいと思って作りました。

高橋:教育制度がないわけではないですね。

内藤:そうですね(笑)。

高橋:みなさんもご存じだと思いますが、最近プロダクトマネジメントの本が増えてきています。やっと中が確立されようとしている領域だと思います。しかし、それを専門的に教えるようなところがないという話です。

内藤:そうですね。ナレッジサイトを通じて、SECI(Socialization、Externalization、Combination、Internalization)モデルがぐるぐる回るような組織になっていけばいいなと思って、今は運営しています。

(スライドを指して)このナレッジサイトは、DevOpsの構成要素であるCLAMS(Culture、Lean、Automation、Measurement、Sharing)でカテゴライズしています。約1年間で58のナレッジと5つの動画を公開している状態で、今もどんどんアップデートをかけている最中です。

高橋:社内のサイトです。

文化的負債Case6:仕事の流れを理解していない

内藤:Case6、「仕事の流れを理解していない」です。我々は部門や役割で分断されていて、プロジェクトが開始されてからリリースまで、全体を把握している人がなかなかいませんでした。2018年後半まで、私たちはは部門のSPIでしたが、全プロダクトを見るようなSPIになり、「ちょっとわからないプロダクトがいろいろあるぞ」ということになりました。

そこで何をしたかですが、現状を見える化しようということで、Value Stream Mappingにたどり着きました。まずValue Stream Mappingの方法として、現状のマップを描く、ボトルネックを発見する、未来のマップを描く、未来のマップを実現するという4ステップあると思いますが、実際にできているのは1、2のあたりですね。3、4はこれからがんばります!

現状のマップを描いていくと、いろいろ見えてきます。(スライドを指して)こんな問題があります。今それらのボトルネックを発見して、チームと合意形成して、少しずつ取り組んでいる最中です。

見える化することによってチームの認識が合って、みんなが同じ方向を向いてボトルネックの解消に少しずつ進んでいる状態です。

文化的負債Case7:作るものを見失う

Case7、「作るものを見失う」です。当時、新規開発のチームがいくつかあり、スクラムを導入しているチームもありました。PO(Product Owner)との要件合意のレベルが低いまま進んでいった結果、スプリントレビューではPOからあまり合意形成ができなくて「やり直し」みたいなことが続いていました。

メンバーは締め切りもあるし、「作らなきゃ」という焦りばかりが募っていきます。立ち止まることもできなくて、空回りが続く状態でした。

そこで取り入れたのは、「ユーザーストーリーマッピング」です。ユーザーストーリーマッピングをするという行為自体が、チームが立ち止まることになりました。

立ち止まって、みんなで話し合う。このきっかけを作るだけでも十分であり、そしたらあとはみんなが可視化して話し合って、共通認識を持って進んでいきます。

やっている最中は4時間も5時間もかかる作業です。それを何回も繰り返すので時間がかかりますが、共通理解が生まれれば、勝手にみんなが進んでいく状態になりました。

文化的負債Case8:信頼ゼロからのプロセス改善

内藤:Case8、「信頼ゼロからのプロセス改善」です。弊社にプロセス改善が導入されたのは、高橋さんが入ったあたりでしたかね? その前にもあったけれど、あまり定着していなかったみたいな。

高橋:昔は、PMOでプロセスを作っていくみたいなアプローチでしたね。

内藤:私が入社した時、「ちょっとこの人たちは何をするんだろうな」と、覗かれるような感じがありました。「なんかこの人たち、関わってくると面倒くさいことを言われそうだな」「仕事増えそうとか思われているんじゃないかな」と感じる場面があって。そういう状態で仕事を進めても、心のシャッターが下りているんですよね。

そういう場合は何も言われず、コンフリクトすら起きないというのはあります。(スライドを指して)私の下手くそな絵ですが、シャッターです。

高橋:何か網をかけているのかなと思ったら、シャッターだそうです。

内藤:信頼関係がない中でどうやってやっていくのかですが、その方法の1つとして、私たちはL.E.T、リーダー・エフェクティブネス・トレーニングを習って実践しました。これは臨床心理学者のトーマス・ゴードンさんが提唱した、コミュニケーションと対立解決のためのスキルです。

「行動の窓」という概念があります。これは自分の感情と相手の感情を理解して、その感情と状況に見合ったスキルを適用しようというグラフィックツールです。これも手で書いてみました。わかりにくくてすみません。

高橋:興味があったら。

内藤:興味があったらやってみてください。

高橋:ちなみにトーマス・ゴードンと聞くと冗談に聞こえるかもしれませんが、顔がついている列車ではないです。

内藤:そうです。ググるとそれしか出てこないので、気をつけてください。

結果どうなったかというと、やはりL.E.Tはすごく難しいですが、がんばって実践し続けると、心理的な距離が縮まってきたなと思います。信頼関係がない中でのコミュニケーションではすごく有効で、相手チームの価値観をすごく引き出すことができるようになっていたかと思っています。

(次回に続く)

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