CLOSE

松田健氏インタビュー(全1記事)

コロナ禍の躍進を支えたのは、2つの「独自の強み」 ZOZOが見据える、2022年のファッション業界の展望

2021年12月、"コロナ2年目"の年が暮れようとしています。今回『ログミーBiz』では、コロナ禍で特にダメージを受けた「飲食」「アパレル」「レジャー」「スポーツビジネス」の4業界において、好業績を残した企業のキーパーソンの方々にインタビューを行いました。同業他社が苦しむ中で、何を見て、どう判断して結果を残したのか。4者それぞれの「成果を上げるモノの見方・考え方」をご覧ください。 本記事では、株式会社ZOZO EC事業本部 本部長 松田健氏のインタビューの模様を公開。テクノロジーだけではないZOZOの「強み」と、ファッションテックのリード企業として考える、これからのファッション業界への思いが語られました。 ※他の特集記事はこちら

「MORE FASHION × FASHION TECH」を軸に施策を展開

――今回の特集テーマは「逆風のコロナ禍で、好業績を残した企業が臨む2022年」です。アパレル業界もコロナで大変な影響を受けた業界の1つですが、その中で貴社は好業績を残しました。特にファッションテックのリード企業として、EC上でさまざまな施策をされる中で、大切にされていることは何でしょうか。

松田:弊社が経営戦略として掲げているものとして、「MORE FASHION × FASHION TECH」というキーワードがあります。

「FASHION TECH」というキーワードに沿ったものとして「ZOZOGLASS」や「ZOZOMAT」、最近だと「ZOZOMAT for Hands」という手指の計測ができるサービスを出しています。

そういったテクノロジーに強みを持つ弊社ならではの技術と、一方で「ファッション」という商材なので、しっかりとファッションを弊社なりに理解した上で、その接点をお客さまと作るための施策も行っています。例えば2021年だと「ZOZOVILLA」というラグジュアリー&デザイナーズゾーンをオープンしたり、「ZOZOCOSME」もそうですね。

ファッションテック企業として、「MORE FASHION」と「FASHION TECH」という2つの軸を大きく掲げておりますので、ここに沿ったものを今後も引き続きがんばっていきたいと思います。

コロナになる前からの準備が好業績の要因に

――さまざまな施策にいち早く取り組まれていますが、スピード感を持って取り組むために何か工夫されているポイントはあるのでしょうか。

松田:スピード感への意識だけが強いわけではないのですが、そう思っていただけるのは、その手前からしっかり準備をしているからではないかと感じております。

例えば2021年の3月にサービスを開始した「ZOZOGLASS」も、お客さまのニーズが高いだろうということで、コロナ禍になる前から開発をしていました。その結果、オンライン需要の高まりもあって、多くの方からご好評いただけたと思っています。

計測の技術に関しては、ZOZOSUITやZOZOMATなどいろいろ取り組んでいる中で何年もやってきたことですので、お客さまのニーズが高まったタイミングでもしっかりお届けして、喜んでいただくことができたと考えています。

もちろん、速くやることもとても重要だと思ってはいますが、それ以上に大切なのは、やはり市場の状況やお客さまの状況、ブランドさまの状況ですね。弊社のステークホルダーのみなさまの状況をしっかりと把握して準備ができているところが大きなポイントなのかなと思います。

普段からの「関係構築」が、コロナ禍の期待値の高まりを後押し

――コロナで、ブランドさんも大きな打撃を受けましたよね。その中でのブランドさんとの関係値の変化や、それに対して貴社からアプローチした施策があれば教えていただきたいです。

松田:コロナの有る無しに関わらず、弊社とブランドさまのお付き合いのスタンスは「お取引先さま」という意識より、どちらかと言うと、同じ目標を目指して一緒にやっていく「パートナー」という意識が非常に強いです。

ブランドさまとの関係値は、横で並走しているようなイメージですね。お互いに言いたいことをしっかり言い合える関係性を築いてきたことが、弊社独自のスタイルの1つにつながっていると考えています。

そういった関係値があったからこそだと考えているのですが、コロナ禍になった時に、各ブランドさまから弊社に対する期待値の高さを、本当に明確に示していただけました。店頭での販売がなかなか厳しい状況の時にも、しっかりとECで売っていく。弊社としてもご期待に応えたいという思いでやってきました。

この1年に限らず、コロナ禍になって以降は、ブランドさまのご要望をしっかりとうかがいながら、そこに応えるための体制を整えてきました。変わったというより、もともとの関係性があったからこそ、ご要望いただいたことを土台に取り組めたのが大きいのかなと思います。

――なるほど。施策もブランドさんとの関係性も、コロナだから何かしたというわけではなくて、コロナの前からずっと準備してきたから、急な変化にも対応できたということですね。

松田:そうですね。2021年の3月にZOZOTOWNの大きなサイトリニューアルをしましたが、それも以前からしっかりと計画をしてやってきたものですね。お客さまのニーズに対応できるような体制をしっかりとっていたところが非常に大きいのかなと思います。

ZOZOには職種にかかわらず「ファッションを愛している人」が集まっている

――アパレル業界全体を考えると、ブランドさん独自のECや、ZOZOさん以外のプラットフォームもありますよね。その中でZOZOとして大切にしてきたものや、「これがあったらからこそ、逆風の中でも好業績を収められた」というものは何でしょうか。

松田:やはりベースの部分での「ブランドさまとの関係性」は、弊社ならではのものがあると思います。

弊社のスタッフには、ファッションを愛している人が非常に多くて。要は、ビジネスとして儲かるからファッションをやってるわけではないんです。自分たちが好きだからこそ、ファッション業界に貢献したいという思いでやっているのが、弊社の一番の強みです。

先ほど申し上げたブランドさまとの関係性にも、そういったところは多く出てるのかなと。あとはお客さまに対しても、ただの売り場としてではなくて、よりお客さまに楽しんでいただけるようなコンテンツや、テクノロジーを活用した驚きのあるような体験の提供がしっかりできている。

これはファッションが好きだからこそ、お客さまの気持ちでいろんな施策やサービスを考えられる点がとても大きく、ステークホルダーのみなさまとの関係性が、1つベースとして強いと思っています。

もう1つは、先ほども申し上げた経営方針としての「MORE FASHION × FASHION TECH」ですね。そこに経営としてかなりの力を注いでいますので、なかなか他社さんでは見られないような、弊社独自のテクノロジーの提供ができている。

ECサイトとしてはかなりのファッションに関するデータが弊社の中に集まってきますので、そういったものも含めて、お客さまとご出店いただいているブランドさまに提供するというところが、1つのサービスとしての独自性かなと思っております。

――私もよく「WEAR」を参考にしています。ただ買うだけではなく、「ファッションを楽しみながら買う」ことを大切にされているんだろうなと、1ユーザーとしても感じる部分がありますね。

松田:ありがとうございます。弊社は、エンジニアも営業も、管理部門の経理や総務のスタッフも、多くのおしゃれ好きが集まっています。ファッション業界の中でビジネスをやるのであれば、これはとても重要なことだと思いますね。

一番のストロングポイントは、ファッションが「好き」なこと

――ブランドさんとの日頃からの関係値作りとは、具体的にどういうことをされているんですか。

松田:ちょっと特殊な気もするんですけど、私たちはファッションが好きでやっています。ブランドで仕事をされているパートナーのみなさまも当然ファッションが好きで、ブランドを愛している方たちなんですよね。自分たちもお相手のみなさんもファッションが好きとなると、やはり同じ目標や目的を持ちやすいんです。

当然私たちも、ご出店いただいているブランドさまのアイテムを「とてもいいな」と思っていますので、より「お客さまに一緒に届けたい」という、同じベクトルに向かいやすいのかなと思います。

ブランドさま側も、弊社の担当者に対して「この担当者さん、絶対ファッション好きだな」と気づいてくださると、話す内容が変わってくるんです。ビジネスとして向き合ってる間柄なのか、それともファッションが好きで、ファッションを愛しながら同じ目標に向かうのか。それによって、会話の内容やパートナーシップ自体が大きく変わってくると思います。

例えば「このアイテムはここがいいから、こういう画像の撮り方をしよう」とか、「ファッションの魅力をより伝えるためにどうしたらいいか」というのは、私たちもよくわかっています。そこに対してブランドさまと対等な会話ができる場面が、非常に多いです。

やはり私たちは「好き」が一番のストロングポイントなのかなと思います。ブランドさまにも、ただビジネスだけの話をしてきているんじゃないなとわかってもらえています。「仲間だ」と認識してもらいやすいのは、強みだと思いますね。

――根底にあるのはやはり「ファッション」なんだと、お話をうかがっていて思いました。テクノロジーに詳しい方が多いイメージなんですけど、それ以上に、ブランドの方と対等に話ができるぐらい「ファッション」が好きなんですね。

松田:そうですね。両方だと思います。ファッションのベースを持ちながら、加えて、テクノロジーを活用したらどうなるかと考えられるところが弊社としても強いところでもありますし、強力なエンジニアがたくさんいるのですが、彼らもやはりファッション好きが多いです。

ファッションが好きだから、「こういうアプローチをされたらいいよね」と考えられるところもありますし、逆をとれば、営業サイドもテクノロジーに関しては非常に明るかったり、ユーザー目線で考えた時に「こういうテクノロジーがあったらいいじゃん」という会話の量も非常に多いです。

やはり「MORE FASHION × FASHION TECH」は、うちの強さや経営戦略を表すすごく重要な言葉だなと、改めて、一層実感しますね。

オンラインとオフラインの垣根をシームレスにしていく必要がある

――ありがとうございます。少し話題が変わりますが、最近「ZOZOMO」というサービスをローンチされましたよね。ファッションテックのリード企業である貴社が、オフラインに向けて展開するというのは、何か思いや考えがあるのでしょうか。

松田:オフラインにどんどん出ていくというよりも、オンラインとオフラインの垣根をシームレスにしていく必要があると考えています。やはりお客さまのことを考えた時に、どうしてもオンラインとオフラインの境目がある。これがここ何年間かのファッション業界として抱えている課題だったと感じています。

ZOZOMOも以前から計画していたものではありますが、やはりコロナ禍に入ってから、より一層そのニーズが高まってきているなと。境目をなくすことが、お客さまにとってもブランドさまにとっても、要は「ファッション」というカルチャーやビジネスを、より今の時代に合わせたかたちで浸透させていくために必要だなと考えております。

その境目をなくしていくために、ブランドさまやファッションデベロッパーのみなさまと一緒に取り組んでいくことを非常に重要視しています。

――具体的にどのような声がありましたか? 

松田:例えばですが、ZOZOTOWNを見ていて気になる商品があっても、試着ができないとか、素材感やサイズがわからないということがECの課題としてずっとありました。

それを解決するために取り組んでいるのが、例えば、ZOZOGLASSやZOZOMATのような計測技術です。一方、「実際に商品を手に取りたい」というお客さまのニーズ自体は、やはりまだまだあると感じています。

実際店頭に探しに行った時に、どこにその商品があるのか。もしあるとしても、自分が店頭に行った時にもう売り切れてしまっていたらとても悲しいじゃないですか。これを解決するために、ZOZOTOWNを見てどこの店舗にその商品があって、実際にそれを試着して確かめてみようとなった時に在庫を確保する仕組みを入れました。

極端な話、別にZOZOTOWNで買っていただかなくても構いません。いろいろ吟味していただいた結果として、お客さまに店頭で買っていただくのも、良いことだと思っています。

「ZOZOだけがよい」のでは、ファッション業界は盛り上がらない

――今のはユーザーさん側の声だと思うんですけれど、ブランドさん側からの声もありましたか? 

松田:そうですね。例えば、ZOZOTOWN上で悩んで、結局買う勇気が持てなかったということになると、売り逃しをしている状態になってしまいます。それであれば、実際に店頭に来て、商品を確かめてほしいという思いは、当然ブランドさん側にもあります。

以前から、ZOZOで商品を見て店頭に確認しに行くお客さまの動き自体はとても多かったと聞いてはおりました。やはり店頭への集客につながる仕組みというのは、ブランドさまにとっても要望の多いところではありました。その実現に至ったのは、弊社にとっても良かったのかなと思います。

――松田さんご自身、EC本部長という立場で、このシームレス化にかける思いなどは何かありますか? 

松田:今までのZOZOTOWNは「買う場所」だったと思うんです。「ファッション買うならZOZO」と掲げて、それはそれで1つ役割は果たせている部分があるのかなと思うんですけど。

ただ、やはり弊社だけが盛り上がればいいというわけではなく、ファッション業界全体が盛り上がることが大切だと思うんです。

私たちは、ファッションが楽しくておもしろいものだと思っています。ファッションをより盛り上げていく環境を作るためには、弊社だけが良くてもだめなんです。店頭のみなさまと一緒になりながら、ファッションをより良くしていく環境作りが絶対に必要だと思っています。

そのためであれば、お客さまがファッションを買う場所にこだわらないと割り切ることが、僕自身とても必要なことだろうと思っています。

先ほどから申し上げているように、「ZOZOだけがよい」というかたちではなくて、ブランドさまにとっても、リアルのファッションビルやデベロッパーのみなさまにも、かつお客さまにも良い環境を作っていくのが、ファッションのために必要だと考えています。

リード企業だからこそ感じる「果たさなければいけない責任」

ーーありがとうございます。他にも、ファッション業界の問題として解決していきたいものはありますか。

松田:そうですね。SDGsやサステナビリティと言われるような取り組みは、ファッション業界自体まだまだ取り組んでいかなければいけないと思います。

弊社も今年からサステナビリティに関するステートメントや情報をまとめているんですが、やはり、ファッションを楽しみ続けるには、取り組むべきことがたくさんあると思っています。

素材や製造、廃棄の面に関して、ブランドさまでもいろいろな取り組みがおこなわれています。やはり業界全体で課題に取り組んでいかないと、お客さまにとって求められるものにはなっていきません。もちろん弊社も取り組んでいかなければならないですし、業界全体で取り組まなければいけない大きな課題の1つだなと思います。

――そうですね。先ほどのZOZOMOのようなサービスも、店頭の在庫過多問題の解消につながっていくのかなと思います。ファッションに限らず、コロナ禍で感じた教訓があればぜひ教えていただきたいです。

松田:もちろん弊社もそうなんですが、この1年半はみなさん厳しい状況だったと思いますし、いち消費者としてもそうだったと思っています。

先ほどの考え方にも近くなるんですけれども、「自分たちだけが良ければいい」ということではなく、ご出店いただいているブランドさまや、それを求めるお客さま、もしくはそれを取り巻くような環境の中にいらっしゃるデベロッパーのみなさまと一緒にファッション業界を盛り上げていかなければいけないなと、強く感じたところでもあります。

ZOZO自体はみなさまのおかげで成長しているなと思います。そういった規模になってきた中で、「果たさなければいけない責任」を強く感じる場面が増えました。その責任をしっかりと全うしていくことが弊社の役割だと思いますので、引き続き邁進していきたいですね。

――リード企業ならではの責任感ですね。

松田:そうですね。みなさまからリード企業という目で見ていただける機会が増えたのはやはり事実なので、しっかりと責任を持ってやっていきたいです。

「ファッションを買うならZOZO」 から「ファッションのことならZOZO」へ

――最後の質問です。まだ不安定な状況には変わりないんですけれども。ZOZOさんが考える2022年の展望がありましたら、ぜひおうかがいしたいです。

松田:アフターコロナに向かっていくのかどうか、なかなか判断が難しいところではあります。やはりいずれにしても、「ファッションを買うならZOZO」から抜け出して、「ファッションのことならZOZO」というところに持っていくことが非常に重要だと思っています。

家から出づらい環境になったときに、引き続き計測技術を活用したサービスの提供や、店頭でしか体験ができなかったものをZOZOTOWNでも提供できるようにしていくことも、必要なことだと感じます。

逆に外に出やすい環境になって、ファッションをより楽しめる環境になるのであれば、よりオフラインとオンラインがシームレスにつながっているような環境を作りながら、リアルの店舗だろうがオンラインだろうがどこでもファッションに触れやすい機会を提供していく。これがとても重要だなと思っています。

「ZOZOMO」に関しては、実はまだまだ全体構想の一部しか発表できていない状況です。お客さまやブランドさまにとってより良いものになる機能を、今ちょうど開発しているところではありますので、そのあたりもぜひ楽しみにしていただきたいです。

引き続き“ソウゾウのナナメウエ”をいくようなサービス提供で、みなさまを驚かせていきたいです。

ーーありがとうございました。ファッション業界の今後がとても楽しみです。

続きを読むには会員登録
(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
著者フォローや記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

会員の方はこちら

関連タグ:

この記事のスピーカー

同じログの記事

コミュニティ情報

Brand Topics

Brand Topics

  • 大変な現場作業も「動画を撮るだけ」で一瞬で完了 労働者不足のインフラ管理を変える、急成長スタートアップの挑戦 

人気の記事

新着イベント

ログミーBusinessに
記事掲載しませんか?

イベント・インタビュー・対談 etc.

“編集しない編集”で、
スピーカーの「意図をそのまま」お届け!