CLOSE

日本における ICT & セキュリティ技術の生産手段確立と産業化の実現(全3記事)

「MicrosoftもAppleもGoogleも始まりは“いんちき”だった」 GAFAMから見た、日本企業が破綻を防ぐために必要なこと

クラウドサービスプロバイダ(IaaS/PaaS/SaaS)、システムインテグレータ、ソリューションベンダーの多くが参加し、クラウド業界の “未来” について知見を深めるイベント、「JAIPA Cloud Conference2021」。ここで登大遊氏が登壇。ここからはGAFAMをはじめとした世界的に普及している製品、ICT技術を開発している企業の創業時の話を紹介します。前回はこちらから。

Microsoftの“いんちき”

登大遊氏:そういう例を見ていきましょう。だいたいの今のGAFAと呼ばれる会社や、世界的に普及しているいろいろな製品、ICT技術はいんちきです。

例えば50年前とかにさかのぼると、Microsoft社のいんちき言語、BasicのAltair用、8800用のいんちきテープ。これは確かビル・ゲイツさんとポール・アレンさんが、飛行機の中で遊びで作ってたやつで。

Microsoftも最初にできた時はアルバカーキという砂漠の中にいんちきオフィスみたいなものがあって。(スライドを指して)写真右上にあるのはいんちき名刺だし、その後もけっこう長い間、UNIXのコピーOSのXENIXというおもしろOSを売っていました。その後のMS−DOSも相当ないんちきOSでありました。

もっとさかのぼると、ビル・ゲイツは議会の建物でアルバイトをしており、建物の4階の郵便受けからスープを流し込んだり、偽の用事をでっち上げて、議会内の休憩の者を走らせたり。Microsoftでは第一に仕事、第三も仕事。遊ぶこと、自分で考え出したイタズラ、路上レースや映画のようなものは、それなりによしとされた。

「Microsoftは極端だな、これは参考にならんのではないか」「あのGAFAと言うから、Microsoftは違うんだ」と。それだったらApple、Appleを見てみよう。

AppleとUNIXの“いんちき”

Appleの例です。Appleの創業時は、通信会社のハッキングをして、電話タダがけBlue Boxという違法装置を作って売って技術も学び、小遣いも得ていたと、けしからんことが書いてあります。

「Appleはまあけしからん。GAFAの中でも例外だから、これは認めん」と。じゃあ他の例を見よう。みんなが使っているUNIXはどうであろうかと。

LinuxもAndroidも、もともとUNIXを参考にしていますから、UNIXが世界を作っています。UNIXが発明された起源を調べてみましたが、日本でいうNTTみたいな感じで、アメリカにもAT&Tという会社があるそうで。

巨大電話会社です。けしからんもののの親玉みたいなものが、このAT&Tなんじゃないかと思うんです。社員のケン・トンプソンさんたちがコンピュータで「スペース・トラベル」というゲームを勝手に作って業務時間中に遊んでたら、「スペース・トラベル」をやってたコンピュータが、会社によって撤去されそうになって。

そうするとゲームが時間中にできなくなって「これはけしからん」ということで、他のもっと安価なコンピュータに作りかけの「スペース・トラベル」を移植しようとした時に、「毎回移植をやるんじゃなくて、移植性のあるOSのシステムコール一覧とプログラミング言語を作ればいいんやないか」と彼らが思いつき、これがUNIXとC言語の例になったと書かれています。

彼らが書いたインタビューと論文に、ちゃんと載っています。これがAT&Tで、UNIXっはこういうふうに発明されたのであります。

Amazonの“いんちき”

「AT&Tがけしからん。こんなの参考にならない」と。じゃあ他の例を。Amazon.comです。今のクラウドのチャンピオンみたいな、Amazonc.comですが、(スライドを指して)彼らが創業して5年後、上場した後の写真です。ジェス・ベゾスさんのAmazon.comの開発風景の写真です。

「これらはスタートアップ企業である。これ間違いや。大企業の例を見せろ」と。

IBMというのがあり、みんなが使っていたOS/2というOSがあります。OS/2のバージョン3.0は、社員たちがおもしろがって超適当に“OS/2ワープ”という名前をつけました。この“ワープ”という名前をCEOもおもしろいと認めて。

それで「“ワープ”と言えば『スタートレック』だろう」みたいに言い出して。映画の『スタートレック』に出てくるキャラクターとかを全部パクって。

“OS/2ワープ”とパッケージみたいな感じに作っていたんですが、なんとパラマウント社の許可を得るのをみんな忘れていて、後でパラマウント社に「やめろ」と言われて、もうやめたんだそうです。

いんちきな感じですよね。うまくユーザーがいたのが、このけしからんOS/2ワープでWindowsが入る前は、このOS/2がMS−DOSとともにはやっていて。

今で言うVisualBasicに相当するもので少し前のものはBroadcomの子会社で、大企業のコンピュータ・アソシエイツ社が、RealizerというBasic言語をコンパイラで売っていました。その広告をよく見てください。

(スライドを指して)左側が製品の広告ですが、紫が広告で、赤いところが「このBasicコンパイラを買うとサウンド集がついてくる」、つまり音声集がついてくる。「今すぐオーダーしろ」と。

Basicコンパイラのことなんかどうでもよくて、サウンド集について書いてある。で、裏を見ろと。(スライドを指して)裏が右側のやつで。「このサウンド集には、みんなが喜ぶ500以上もの音声ファイルがあり、Basicコンパイラを買うとついてきますと。その例として、おなら、おしっこ、しゃっくり、ゲップ、うめき声、他にもたくさん!」と書いてあるのです。こういうふうなわけわからん感じ。この文化が非常に重要だったんじゃないかと思うんです。

日本の場合、こういうことは「やったらけしからん」ということになっていますが、成功しているアメリカのクラウド技術やコンパイラ、OSやセキュルティや通信などをやってるところには、どうもいんちきさがあるのではないかと。

Ciscoの“いんちき”

「通信は違うのである。通信装置を作ってるところはもっとまじめなはずである」と。じゃあ、Cisco Systemsをちょっと見てみよう。

通信事業者の方たちは見たことある方も多いと思いますが、Cisco Systemsの初代ルータは彼らが家に集まって、床で組み立てて作っています。(スライドを指して)創業直後の写真が右の写真です。

ハードウェアが組み立てで、ソフトウェアはスタンフォード大の技術職員として作っていた、いんちきTCP/IPソフトがあって。それをもらってきて、そのまま会社でCisco IOSとして組み込んで売り始めたんだと。よく考えると最初はいんちきなんじゃないかと思うんです。

じゃあGoogleはいんちきか。Googleはまさにいんちきであります。(スライドを指して)1998年の写真が左上です。これはスタンフォード大学のサーバー部屋にある一角を勝手に借り、SunのマシンとIntelのマシンで。Inteのマシンもたぶん学生なのでお金がないんだと思いますが、Intel社からもらってきた、Dual Pretiumのサーバーで動いてたと書いてあります。

会社を外に出して、起業した後にラックに置いてたサーバーが右のようになっていて。どっかから買ってきたやつをバーって並べて、いんちきなマザーボードで自作して。高い高いSun Microsystemsのコンピュータなんかをまともに買おうとすると、とても高くて買えないので、彼らは激安中古マシンみたいな感じで、ソフトウェアを使って冗長化するように作りました。

世界一のソフトウェアができたから、企業の情報システムみたいな、上室の役員みたいな人が「ちゃんとしたハードウェアを買いなさい」「保守入れ」と。保守という概念は思いますが、「もっとちゃんとしないといかんじゃないか」と言うと「わかりました」と言って。お金はいくらでもありますから。

日本全体もですが、日本のICT企業はだいたいはもう贅沢病になっています。昔の人たちがこういうふうにいろいろな産業技術を作ってきたことを、2世代ぐらい変わった我々の世代はもう忘れています。もう所与のものであると思っていますが、違うと思うんです。こういうふうなことをGoogleなんかはちゃんとやってきたので、今すごく成功しているんじゃないかと思うのです。

日本はICTの“いんちき”をまだ始めていない

これらは大変極端な例で、日本の全部の組織がこれをやるとうまくいきません。アメリカ人たちの成功例は、破綻するギリギリのところ、(スライドの)緑色の線でいうと、ピークの所を狙っています。日本企業はここまでは狙わなくていいから、ふだんやってるよりももう少し右に行ったほうがいいんじゃないかと思うんです。

日本の企業や役所はゼロリスク信仰をやってますから、じわじわと価値低下して破綻します。これを避けるためには、ちょっともう1回いんちき手法を思い出さないといけないと思います。日本のいろいろな産業も、最初は大概いんちきですが、ICTだけはこれまでいんちきということすら始めていないというところで。他から買ってきたやつだけを使ってるのです。

こういういんちきをやったら、人の作ったクラウド技術やセキュルティやインターネットシステムを使っている現状よりも進歩して、10年間ぐらい経ったら、日本がクラウドやセキュルティやインターネット技術のトップになる。

「Amazon、AWS、Azure。まあそれなりにいいけども、だいぶ古臭いアメリカの自動車だ」と。「我々はトヨタ自動車のように洗練されたクラウド技術をAWSなんかを見て参考にして作って、それは信頼されて世界中で使われているのだ」と。

これで他の国に行っても「あ、日本人が歩いとる」となります。今が2040年だとすると、「動かしてるいろいろなシステムは日本人が作ったし、しかも他国と比べてわけわからんサイバー諜報機関なんかもないし、クリーンだ。日本の技術はすばらしい」と。

そういうふうに思われるといいんじゃないかと思います。我々にとっては非常に難しいチャレンジだと思いますがど、必ず実現できることなんではないかと思います。

1つの組織だけでも難しいですが、信頼できるみなさんが複数ワーって集まった時に、今は「おもろいことをやって、グチャグチャのいんちきをやろう」みたいなのが欠けていて。

難しいプロバイダの接続料金も、ずっとけしからんからこっちに皺寄せしようかな、とか。そういう生産性があまりないことはやるんですが、これからはおもしろいものをみんなでバーって作ることを10パーセントでもいいからやると、日本の情報通信は大きく飛躍するのではないかと思います。

(次回に続く)

続きを読むには会員登録
(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
著者フォローや記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

会員の方はこちら

関連タグ:

この記事のスピーカー

同じログの記事

コミュニティ情報

Brand Topics

Brand Topics

  • 大変な現場作業も「動画を撮るだけ」で一瞬で完了 労働者不足のインフラ管理を変える、急成長スタートアップの挑戦 

人気の記事

新着イベント

ログミーBusinessに
記事掲載しませんか?

イベント・インタビュー・対談 etc.

“編集しない編集”で、
スピーカーの「意図をそのまま」お届け!