2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
リンクをコピー
記事をブックマーク
笠原健治氏(以下、笠原):よろしくお願いします。
「みてね」のこれまでに関して振り返りつつ、そのプロダクト作り全般に言える話もあれば、随時共有していきたいなと思っています。ノウハウ的なことを言う機会がこれまであまりなくて、どこまでうまく言えるかなと思ってはいるのですが、どうぞよろしくお願いします。
まず、今私が手掛けているのが、「みてね」とAIロボットの「Romi」という2つのサービスです。「みてね」は子どもの写真・動画を、誘った家族と共有できるサービスです。
おそらく自分の子どもが生まれたというのが開発のきっかけだったかなと思っています。今、子どもは小学校1年とか2年生とかなのですが、子どもが生まれて、1週間が経った時に、「写真・動画ってこんなにたくさん撮るんだな」ということに驚いたのが最初でした。
子どもの一挙手一投足を忘れたくない、記憶、記録に残しておきたいと、気づいたら写真・動画をたくさん撮っていました。いずれ子どもにも、その写真・動画を見せていきたいなと思いました。
あるいは、今後妻が撮っていく写真・動画もすべて見たいし、それを親や家族にも共有したいし、整理、保存されてキレイに見返せるようにしたいと、いろいろなサービスを使ってみたのですが、どれも専門に作っていないせいか、難しさがあるなというところで少しストレスを抱えていました。
そうであれば、自分たちでそれに特化したサービスを作っていくのもありなのではないかなと徐々に思い始めていくわけなのですが、一方で、ひとりよがりなニーズなのかどうかもかなり気になりました。万人が困っていることなのかどうか、それを確認しなきゃいけないなと思いました。
社内のメンバーや社内の人たちにも話す中で、共感してくれる人たちもいて、何人か集まってくる中で、その周りの人にニーズがどうなのか話を聞いたり、あるいは、ユーザーのアンケートやインタビューを投げ始めたりしました。それをやっていく中でだんだんと、万人が少なからず困っている課題として持っているということが見えてきました。
そうであれば、正式にプロジェクトとしてやっていくのもありなのではないかという話をしていって、実際に「みてね」を作っていこうとなっていきました。
今日撮った子どものカワイイ写真やおもしろい動画などを共有して、気がつくと熱量の高い履歴が残っている。その子の人生をまるごと残すことができる家族アルバムを作っていく。世界中の家族の「こころのインフラ」、安心できる場所を作っていきたいというコンセプトで始めています。
そうやって始めていった「みてね」ですが、最初の時点で、いくつか教訓を得ることがあったなと思っています。
まさにサービスを始める2ヶ月前ぐらいなのですが、いろいろとインタビューやアンケートをしながら作ってきて、ユーザーテストをやろうと、0歳児のママ20人ぐらいを呼んで2、3週間、本当に家族に共有して使ってくださいと手渡して使ってもらいました。
結果としては、思いのほか不評というか、わりと満足度が低い結果で返ってきてしまったんですね。一番のネックとなっていたのが、写真・動画を追加する画面のUIで、当時「Tinder」が出始めたところもあって、「Tinder UIかっこいいよね」というのがありました。
コンセプトとしても、生まれてからまるごと残したいと思っていたので、子どもの誕生日を登録するのですが、その誕生日からの写真・動画をスワイプしながら「共有する」「共有しない」を選べると、まるごと残すことができるのではないかなと思っていました。
あるいは、「LINE」との差別化を考えても、そういったUIがすごくいいのではないかなと思って開始したのですが、結果は「今日撮った写真を共有したかったけれど、すごく大変でした」「整理するのがすごく面倒くさかった」「そこまでたどり着くことができませんでした」とかでした。
よかれと思ってやっていたのですが、そこがやはりユーザーの感覚、ニーズとミスマッチだったんだなと思いました。結果として、LINEとかでもよくある最新の写真・動画が上に並んでいるリスト形式にしました。上から選んで共有できるUIに変えたほうがいいという結論になって、変えました。
コンセプトとしても、今日撮ったカワイイ写真、おもしろい動画を家族に共有する。そこで家族と共有する一連の流れができて、共有するアプリとしてすごく使いやすいよねとなったあとに、まだ上げていない昔の写真・動画も上げていこう、子どもの写真・動画、全部を上げていこうという流れが出来上がることが正しいのではないかなと思いました。
順番としてはそうだよね、というところに行き着いて、変えていった感じでした。
自分たちとしては、わりと自信を持って出していったのですが、実際使ってみてもらうと大きく違うことがあるなとすごく実感しました。新規事業は最初ユーザーがいなくて、ユーザーの全体像が見えない中、自分たちの思いで、とがったかたちで始めるのはすごく大事なことだとは思うのですが、こういうフェーズを踏むことによって、全貌をつかむきっかけにはなったと思っています。
続けて、本邦初公開ですが立ち上げ直後の数字を出しています。「みてね」は2015年4月にオープンしましたと言うことが多いのですが、実際プレスリリースを出したのは4月なんですね。
ただその4ヶ月前ぐらいに、実はアプリストアには公開していました。この2ヶ月前ぐらいにユーザーテストをやっていた時期があったのですが、そのあとストアには公開していて、「mixi」のアカウントからたどれば、「みてね」も見られる状態ではありました。自分を含めた作っているチームのメンバーも、SNSでは発信していない状況でした。
この4ヶ月間は大事な期間だったと思っています。さっきのユーザーテストで、ある意味、集めたユーザーの意見はわかったのですが、実際ストア公開していく中で、オーガニックに入ってきたユーザーがどういう不満、要望、ニーズを持つのかが問い合わせや行動しているデータで見えてきた期間だったと思います。
この間に、そこに合わせたチューニングをしたり、1秒動画などの機能を作り込んでリリースしました。マーケティングも広告を少額出して、どういうメッセージだとユーザーに刺さるかを見極めていきながら、LP(ランディングページ)やストアの文章をチューニングするなど、そういう期間として充てることができました。
最初はやはり、ドカンとプレスリリース出して派手にいくのがいいのですが、そのあとダダッダダッと下がっていくのに比べると、わりと順調に成長していくステップを踏めたのではないかなと思っています。
ちなみに、この鈴木おさむさんのブログは、広告ではなくて、鈴木おさむさんが「みてね」をたまたまご存じになって、奥さん含めて使ってみたところ、すごく使いやすかったので、ブログに書いていただいたということがあって、ドンと認知度が上がっていったという感じです。
これもあって、より成長カーブが上がっていきました。今はだいたい1,300ぐらいのラインで日々来ていて、当時と比べても10倍、20倍の規模で新規ユーザー数が来ています。
この4ヶ月間と比べれば、たぶん100倍規模で来ているのではないかなと思っています。新規事業をリリースした直後は、あまりにもユーザー数が少なくて、がっかりされる方も多いとは思うのですが、しっかりユーザーの認知を取ったり、ブランド力を上げたり、満足できるものを作っていくと、それが10倍、20倍、100倍というのもすぐできる話だと思うので、ひとつ参考にしてもらえればと思います。
あとは、ドカンと言うほどでもないのですが、認知拡大のタイミングはけっこう新規事業では難しいと思っていて、ストアに公開して徐々にユーザー数や認知度が上がっていく中で、チームメンバーの中でも、まだ言わなくていいのではないか、ステルスでやり続けていって、どこかでガッと火がつくこともあるのではないかという意見もありました。
結果から言うと、どっちも正しかったと思います。私は完成度が上がってきたと思ったので、ここでプレスリリース出してもいいなと思って出したというのがいきさつです。
もう1個、当時からすごく大事にしている指標があります。家族とのつながり率ですね。家族とつながって使っているかどうか。「みてね」は、子どもの写真・動画を家族と共有するサービスなので、共有するための機能を、さまざま用意しているんですね。
やはり、共有して使ってもらったほうが、フルに機能を楽しめると思っていて、実際のアクティブ率も如実にそれが出ています。
夫婦および祖父母とつながった家族が「みてね」に何組もいるのですが、仮にそれが100組いたとした時に、86組が今も週次でアクティブに使っています。残りの14パーセントは、誰も家族が使っていないということになります。
サービス開始して6年、7年経っているにもかかわらず、つながってさえいれば86パーセントの人に安定して使ってもらっているというのはけっこう高い数字だと思っていて、圧倒的に大事かなと思っています。
さらに言うと、誰ともつながっていないユーザーのアクティブ率は3パーセントで、劇的に低い数字ですが、圧倒的な差がそこにはあるのかなと思っています。
週次で見ているので、誰ともつながっていない方も、月次で見るともう少し高い数字になるかとは思うのですが、日々アクティブに使っているかどうかという意味でいうと、差があるところかなと思っています。
マクロ的に見ても、2015年以降、祖父母世代が持つ携帯がスマホ化していったのも、大きな後押しになったと思っています。最初、祖父母世代はブラウザー版を使ってもらうという前提で考えていたんですね。
まだまだ祖父母世代はガラケーユーザーが多いし、PC、もしくはスマートフォンからブラウザーで使ってもらうと考えていたのですが、蓋を開けてみると、さっきのプレスリリースを出す前から一番のニーズとして、おじいちゃん、おばあちゃんにもアプリから使うUIが欲しいという声が来ていました。
なので、初年度、一番開発した部分がそこだったりします。おじいちゃん、おばあちゃんもスマートフォンからアプリを使えるし、写真・動画をアップロードできる。また、おじいちゃん、おばあちゃんなので、娘の家族と息子の家族の両方に参加したいというニーズがそのあとすぐに来て、複数アルバムに参加できる機能を作っていきながらニーズに応えていきました。
実際、おじいちゃん、おばあちゃんが「みてね」を使いたいのでスマートフォンに変えますという、うれしい声ももらいましたし、逆にスマートフォンに変えたので「みてね」を使ってみようかという家族もいましたし、そこは大きな後押しだったのではないかなと思っています。
ユーザー数は、今1,000万人突破しています。順調に増えていって、1,000万人にきています。
多言語化は2017年からやっていて、過半数以上は日本のユーザーなのですが、海外ユーザーも何割か増えてきている状況です。
もともと、海外展開はロマンで「やろうよ」という感じで始まったのですが、一方で、SNSにおける「Facebook」とか「Twitter」とか、やはりグローバルにおいての覇者となればそこが圧倒的に強いなと思いました。
そんな中、仮にARPU(Average Revenue Per User)が低くても、グローバルに展開してグローバルでユーザー数を抱えれば、その薄利、かける、たくさんのユーザーがいることで、大きなビジネスモデルを作ることができるのではないかと思いました。
いくらローカルでいい事業を行っていても、グローバルの勝者には負けてしまうのではないかと思っていて、であれば、「みてね」は海外で「FamilyAlbum」としてグローバルでも勝てる存在になっていきたいと、早くからいろいろな言語で展開を開始しています。
やってみながら、すごく簡単にグローバル化できる時代だなと思っています。アプリの仕組みも、いろいろな言語の要素を入れることが簡単にできるし、アプリストアの仕組みも、パソコンでポチポチ押していけば、ほかの海外のいろいろなストアに出していけます。
また、FacebookやGoogleなどの広告のプラットフォームを使えば、同じく日本にいてもポチポチ出していくことができます。翻訳にしてもそうですし、ユーザーテストやユーザーインタビューも、遠隔でできる仕組みがあります。
もっと言うと、これだけリモートワークが進んだ時代になって、人材もグローバルに採用することが可能になってきている状況なので、ちょっと余裕が必要だとは思うのですが、余裕があるチームの人たちは、ぜひグローバルにチャレンジしてもらえるとうれしいなと思います。
あるいは、すでにやっているよという方はぜひ、情報交換をさせてもらえるとうれしいなと思っています。
日本と海外、主に欧米かなと思うのですが、ユーザーの違いがあるとは思っていて、少し書いています。この青の濃いのが、よりユーザーがいる国です。
基本的には、日本と似ているところもあります。レビューを見ても、当然子どもが生まれてうれしいのは万国共通ですし、その子どもの成長を家族みんなで見守りたいというのがあります。
写真・動画を撮り過ぎるぐらい撮ってしまって、それを家族にも共有したい、あるいは、整理・保存しておきたい。そしてその子どもも、「みてね」や「FamilyAlbum」を見るのが大好きだというのは世界共通だなというのが、レビューを見ていてもすごく感じます。
一方で、海外は家族の概念がより広いというか、多様というか、より多くの人とつながることもあるなと思っています。もともと「みてね」は、家族の数が10人とか制限があったのですが、海外のユーザーから、けっこうそこを指摘されて、20人に増やして、30人に増やして、そして今は50人に増やしています。
50人になった今でも、上限に達しているのは100パーセント海外の方のユーザーで、ちょいちょいクレームとして言われることがあります。
たぶん、日本で考えるよりも、家族付き合いというか、「俺たち家族だよね」という人たちがたくさんいるのかなと思います。そういう人たちには、子どもが成長している様子を日常的に見せたいニーズがあるのかなと思っています。見せながら、みんなで成長を祝っている感じなのかなと思っています。
あるいは、日本だとお父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃんがいる感じかと思うのですが、海外は家族のあり方がより多様なところもあって、「みてね」では、立場名を選択する必要があるのですが、そこがより柔軟になったり、自由に書くことができたりするのも、海外展開していく中でやってきていることです。
あと、コメント率が高いというところがあります。FamilyAlbumの広告に対するコメントも欧米のほうが高い印象があるのですが、よりカジュアルに、フランクに言い合っているんだろうなという感じがしていて、コミュニケーションに対するあり方も少し違うんだなと感じています。
また、「みてね」にはプレミアムという月額課金のサービスや、写真プリントや、高級版のフォトブックなどを買ったりできるサービスががあるのですが、そういったものの購入率は、日本よりも欧米のほうが実は高くて、このへんはビジネス的に見てもすごくチャンスがある部分なのかなと思っています。
(次回へつづく)
関連タグ:
2024.10.29
5〜10万円の低単価案件の受注をやめたら労働生産性が劇的に向上 相見積もり案件には提案書を出さないことで見えた“意外な効果”
2024.10.24
パワポ資料の「手戻り」が多すぎる問題の解消法 資料作成のプロが語る、修正の無限ループから抜け出す4つのコツ
2024.10.28
スキル重視の採用を続けた結果、早期離職が増え社員が1人に… 下半期の退職者ゼロを達成した「関係の質」向上の取り組み
2024.10.22
気づかぬうちに評価を下げる「ダメな口癖」3選 デキる人はやっている、上司の指摘に対する上手な返し方
2024.10.24
リスクを取らない人が多い日本は、むしろ稼ぐチャンス? 日本のGDP4位転落の今、個人に必要なマインドとは
2024.10.23
「初任給40万円時代」が、比較的早いうちにやってくる? これから淘汰される会社・生き残る会社の分かれ目
2024.10.23
「どうしてもあなたから買いたい」と言われる営業になるには 『無敗営業』著者が教える、納得感を高める商談の進め方
2024.10.28
“力を抜くこと”がリーダーにとって重要な理由 「人間の達人」タモリさんから学んだ自然体の大切さ
2024.10.29
「テスラの何がすごいのか」がわからない学生たち 起業率2年連続日本一の大学で「Appleのフレームワーク」を教えるわけ
2024.10.30
職場にいる「困った部下」への対処法 上司・部下間で生まれる“常識のズレ”を解消するには