2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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――ここからは、日本のテクノロジーの現状をテーマにお話をおうかがいします。日本国内においては、特許出願件数が減少の傾向がありますが、その減少はイノベーションが落ちていることに直結していると思われますか?
出村光世氏(以下、出村):なかなかそこの相関をひもとくのは難しいなとは思うのですが、個人的には出願数が多けりゃいいという話でもぜんぜんないと思っています。
むしろ今企業さんがうちに未活用知財の活用方法の相談に来る時は、目的を持って取得されているというよりは、とりあえずできちゃったから取っとこうみたいな感じで生まれているものがたくさんあると思っています。
それがなにかに寄与しているかというと、していないケースもたくさんあると思うので、出願数とイノベーションの相関は、そんなにダイレクトにはないんじゃないかなと。
でもイノベーションを起こすためにやらなきゃいけないことはもっとたくさんあると思っています。1つに自前主義の脱却があるかなと思っています。
――自前主義の脱却ですか?
出村:例えばメーカーさんとお話ししていると、「すごくいいアイデアだけど、それを実現するためには他社の電池を使ったほうが効率的だよね」となった瞬間にその開発をやめてしまうということがあったそうです。
一般的に言うと、オープンイノベーションの話になっていくと思うのですが、そういった時にうまくビジネスの機転をきかせて、複数のプレーヤーで1社ではできないことにしっかりと取り組んでいくのがいいと思います。
ただ、それを急にやるのはやっぱり難しいし、なかなか成功体験が積み重なっていきにくい分野だとは思うので、せめて意見を交わしやすい状況を作るために、一番最初にたどり着いているのが妄想のビジュアライズなんですよね。
いわゆる企画書や論文だと、非常に精緻なアカデミックな話になってしまうのが、絵にすると急に企画サイドの人がツッコミを入れてきたりするので、そういうところに話が舞い戻るなというのが意識としてはあります。
――先ほど、日本が先進主要国の中でも研究開発効率が決して高くはないというお話がありました。日本においては、研究してよかったよかった、作ってよかったよかったというかたちで終わってしまう印象があるのですが、そうなってしまう理由は何だと思いますか?
出村:シンプルに活用する人に知られていないからだと思います。あとはやっぱりバイアスというか、研究目的に沿って紹介されていたりするので、ある側面でしか見られていないところをできるだけいろいろな切り口で一緒に訴求してあげることが圧倒的に足りていないと思っています。
大企業だと展示会や、各種いろいろなカンファレンスに出るかもしれませんが、個人的に思うのは、各研究開発のプロジェクトに100の予算があったとして、ほぼ100研究開発に使われていると思うんですよね。
支援者やパートナーが見つかる可能性を求めて、研究開発費の一部を技術広報みたいなかたちに振り替えていったり、技術者の隣に、コミュニケーションデザインができる人が加わったり、社会課題との接続点を探すことができるコンセプトデザイナーみたいな人がチームに入ったり、そういうことでイノベーションの起こり方は変わってくるんじゃないかなという気がしています。そこに対して自分たちは役立ちたいなという気持ちがけっこう強いです。
――イノベーションや、新たなビジネスチャンスを生み出すという面で、R&Dの部隊を作って、今もいろいろとやっている企業があると思うのですが、リサーチするメンバーのスピード感とエンジニアとして作り出す人たちのスピード感が合いづらいという話も聞きます。やろうとするとなかなかうまくいかない現状は、どこらへんに問題があると思いますか?
出村:なにをもってR&Dの成功なんだというところでまた尺度がいろいろとあると思うのですが、失敗できているかがすごく大事だなと思っています。例えばメルカリさんは自転車の事業のメルチャリを撤退したじゃないですか。あれは、けっこう激しくR&Dをして、挑戦してやめるという決断をされ、それを公表していることは、大きな意味がありますし、かっこいいなと思っています。
むしろ実験を公表していないとか、チャレンジをしていないことのほうが危ういんじゃないかなと思っています。
ちょっと走ってみたけどコケましたみたいなものがたくさんあるんだとしたら、むしろぜんぜんうまくいっているんじゃないかなと思います。当然そこから跳ねる事業が出てくるべきだとは思うのですが、それをどれくらいのスパンで見るかですよね。
さっき言ったとおり、自社だけでやり切る構えでいっちゃうと、どうしても「それってうちのビジネスには直接的には関係ないからやめようか」みたいな話になっていきがちです。
やっぱり大企業だと、「それをやり切ったあとに100億のマーケットになるんですか?」みたいな問いに答えられなくて、「いや、10億くらいですね」「じゃあ10億ならやめよう」みたいな話がけっこうあるんだろうなと思っています。
10億やったらいいじゃんって思うんですよね(笑)。それを自分でやらないにしても、それが本当にある特定のクラスタに対してプラスになるのであれば、それをやれる方法を考えるのもR&Dの視点には大事なんじゃないかなと思っています。
チームを作ったはいいけど、ぜんぜん社会に実装されないじゃんっていうのって、KPIがおかしいんじゃないかなという気がしています。1,000億アイデアを何本作れたかみたいなことで評価されてしまうと、全然成果が出ていないように見えちゃうんだろうなと思ったことはあります。
――いくらで回収できるかという投資側と、これくらいの時間がかかるし、当然1回では成功しないので何回も失敗しながら成功させていくという作る側のズレのようなものはまだ少しあるのかなという気がします。
出村:そうですよね。だからやっぱりオーナー企業にがんばってほしいなという思いもあります。僕もあまりきちんと調べたことはないのですが、海外の方と話すと「Affordable Loss」というキーワードが出てくることが最近増えたなと思っています。それは企業にとってメチャクチャ大事な指標だと思うんですよね。
「受け入れられる損失」という日本語訳になると思うのですが、投資は基本的にROIで見られてしまうというか、どのくらいのスピードでマネタイズできるんだという話になります。
Affordable Lossにカウントされている費目は、基本的に成果で測られないということが約束されるべきだと思います。実はうちの会社も一定の金額をそういうふうに設定しているので、よくわからないものをみんなが作っちゃったりもするんですけど。
「女性の役員比率が50パーセントを超えました」とか「男性の有給取得率が30パーセントを超えました」とかいろいろとみなさん主張されていると思うのですがうちは研究開発費におけるAffordable Lossパーセンテージが10パーセントあります!」みたいな企業のブランディングって僕はすごくイケてると思っています。
グーグルのニッパチとかも昔からありますが、その20パーセントでGoogleマップが生まれましたよねとか、そんな話もあると思います。もっとやれるんじゃないかな。
1人の人間で2と8を分けてやっていくのはすごく難しいので、どっちかと言うと資金面の予算をしっかり確保して、何本の発表ができたかみたいなことをKPIに立てて人事評価をする制度を作るとか、そういうことにトライする企業が増えるといいですよね。
――例えば米国だったらGAFA、中国だったらBATという言葉があって、ITの分野で地位を確立している企業を指していると思うのですが、日本におけるテックカンパニーの現状はどう考えていますか?
出村:僕らもふだん支援している会社もたくさんあって、中にいる人たちは熱い人たちだし、ぜんぜん負けてないなというのが印象です。確かにデータビジネスにおける米国の一強モデルみたいなものは、正直すでにそうなっているとは思うんですけど。どうですかねぇ。
知財とか関係なく、世の中一般的にサーキュラーエコノミーの文脈であったりだとか、消費するものを作っていくということに対する限界が来てしまっていると最近よく思います。そこにおいて、今日本にいる製造業のプレーヤーはけっこうポテンシャルがあるんじゃないかなという気はしています。
今、都市の一極集中型のビジネスモデル以外に分散型のビジネスがけっこう着目されてきている中で、どう考えても日本は課題先進国です。高齢化の話をとってもそうですし、過疎の問題とか、派遣の問題をとってもかなり進んでいると思うんですよね。
例えば島根県にある雲南市は、自分たちの自治だけではもはや解決できないところにきているので、企業に対して実証実験の場を開いて、事業としてそれを解決する土壌を生み出そうとしています。やっぱり課題自体も資源と捉えられるなと思っています。
仮説的な課題ではなくて、問題が目の前で起こっているというところを世界に先駆けて顕在化するのをリアルな町や、リアルなコミュニティにおいて解決する手段はけっこうポテンシャルがあると思っています。そこはまだ巻き返せるだろうとも思います。
今、地球レベルで考えなきゃいけない社会問題がすごく増えてきているので、ちっちゃいプレーヤーが日本の国内だけのマーケットで競り合ってマーケティングコストを消費していくのではなくて、日本の中でも企業が連合をなしたり、自分たちのいいところをうまく噛み合わせながら、いろいろな実験をしてなにか大きなソリューションを提示してもらいたいなというのは願いとしてはあります。
――日本の技術の発展において、「ガラパゴス化」が1つのキーワードとしてあると思うのですが、例えばガラケーのように日本独自の発展をしたけれども、iPhoneが登場した時にリプレイスされてしまうというような、日本独自の国際基準に満たない技術が淘汰されるということがあると思うのですが、ガラパゴス化についてどう思いますか?
出村:良い悪いで言うと、別に良くないと思います。ガラパゴスがなぜ起きるかというと、その市場において問題なく売れているから、たぶんそのままになっちゃうんだと思うんですよね。
その一歩先を行くユーザー目線でやっていれば、必然的によりよい改善はされていくと思います。漫然と現状維持を続けることによるガラパゴス化はぜんぜん良くないと思います。
一方で枯れた技術の水平展開みたいなこともよく言われますが、例えば伝統工芸はガラパゴスの極みだと思っていて、そういうことを否定的に捉えているかというと、そうではありません。
その土地その土地で、ガラパゴス化しているめちゃくちゃ有能なものはけっこうあると思うので、そこは逆におもしろがれるんじゃないかなという気はしています。
世界と並ぶ必要性って何なんだろうとそもそも思っています(笑)。世界と競合するというよりは、手を取り合う必要があると思っています。自分たちが今の課題を解決していくためにどういうピースで世界に握手しにいけるんだということのほうがよっぽど大事かなと思っています。なので競争の限界はけっこう感じちゃっていますね。
――日本に限定したことではなく、コロナ禍で世界のデジタル化が加速したと言われています。例えば仕事をするでも、コミュニケーションのベースがオンライン上でになり、日常生活にテクノロジーが密着している中で、すごく便利なんだけれども少しテクノロジー疲れをしてしまう、ということも考えられると思うのですが、テクノロジーとどう共存していくのが一番いいのでしょうか? テクノロジーとの共存の本質は何だと思われますか?
出村:わかります。わかります。今、おっしゃったような、あらゆる人間の行動がジャストインタイム、すべてちょうどよく手に入る超快適社会がもうきていると思っています。その代償について今懸念を述べられたと思うのですが、要は不便がなくなると工夫がなくなったり、不条理がなくなると疑問や怒りがなくなったり、不意を突かれなくなると驚かなくなったりする。
テクノロジーは、得てして不を解消するための手段だと思うのですけが、不がなくなってしまうことによる代償はけっこうあると思うんですよね。その1つが、僕は予定調和という言葉だと思っています。あらゆることが組み込まれたシナリオの中で、人生を運んでいくのはすごく気持ちが悪いよね、みたいなことです。
僕たちはテクノロジーを応用したり、世の中をより快適にするために活動しています。その1つが「プロジェクトUN」です。テクノロジーは「不」を殺すのかというのがテーマです。
そこで僕らが作っている、「雷玉」というものがあります。NASAの気象観測データとリアルタイムにつながっていて、雷が落ちた緯度と経度と時刻をずっと取得しています。
この地球儀上にワイヤーが交差しているのですが、この交差点に高電圧をかけてリアルな雷を再現します。これはなんら便利なものではないと思うのですが、こういう不規則な現象を起こすためのテクノロジーです。生活の中に予定不調和な出来事を起こすことを意図するテクノロジーがあってもいいんじゃないかなと思います。
「雷玉」Konelより
そういった目的で活動していたりもするので、テクノロジーは必ずしも便利でなくてもこれからはぜんぜんよいんじゃないかなとは思いますね。
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