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誰も嫌な思いをしない変化(全3記事)

苦手なことは苦手なままでもいい 「誰も1人にしない」互いに補うチームのかたち

「Scrum Fest Osaka」はスクラムの初心者からエキスパート、ユーザー企業から開発企業、立場の異なる様々な人々が集まる学びの場です。KEYNOTEで登壇したのは、楽天グループ株式会社の椎葉氏。「誰も嫌な思いをしない変化」をタイトルに、自身が開発グループのサポートをしたときの取り組みについて話しました。全3回。3回目は、1年間をかけて変化したチームの結果について。前回はこちらから。

チームを変えるために「並行プロジェクトをやめる」ことを提案

椎葉光行氏:意識していることはわかった。それをどう実践しているのということで、具体的に自分がどういう選択をしてきたかを、さっきのチームのサポートの中からいくつか紹介したいなと思います。

サポートの始まりは、エンジニアのスキルアップをしたいので力を貸してほしいという依頼でした。それを考えながら、ぼーっと見ていたんですが、スキルアップができていない理由は、すぐにわかりました。単純に、忙しすぎるから。

忙しすぎる流れはどこから来るんだろうなと思って、その理由を見てみたら、それまで何回もプロジェクトが遅れてしまっていて、次こそはという気持ちで、けっこう攻めの計画を並行でいくつか立ち上げて、それをなんとか成功させるぞと、進捗とエンジニアの効率を細かく管理するようになっていたからでした。

だから、そこが根本的な原因ですよとマネージャーやプロデューサーに説明して、並行プロジェクトをやめることを提案しました。それから、次に控えている攻めすぎプロジェクトの工数を、現実的な見積もりで考えました。そしたらやはり2倍ぐらいに増やす必要がありました。

これは普通に考えたら、うちの会社の中ではありえない話です。その時が7月だったので、それをやると残り半年の計画を全部見直さないといけなくなるんですよね。

だから、僕からは「選んでください」と伝えました。そういうのが難しいのもわかるから「このまま計画を変えずに、薄く長く成長していくという選択肢も、たぶんあると思います」「ただ、もし僕がサポートに入っている間にチーム変えてしまいたいんだったら、計画の見直しを考えてください」というふうに伝えました。

彼らは、すごく悩みました(笑)結果「わかりました。チームとサービスの成長のために、計画を見直します」という選択をして、事業部に丁寧に何度も説明をして「え、どういう意味?」と怒られながら、サービスのためなんですということを話して理解を得て、本当に計画を立て直してしまいました。

自分で提案しておいてなんですが「すごい」「よくやるなあ」と思いながら見ていました(笑)。

ちょうど、サポートに入って1ヶ月ぐらいだったんですが、振り返ってみても、これがこの1年間のサポートの山場でした。

メンバーの足りない部分ではなくできていることを見る

彼らの勇気ある決断によって改善のための流れが生まれたので、その流れの中で、あとは単純にプロデューサーと一緒に「マイクロマネージメント減らしていきたいね」と言って、減らしていきました。エンジニアとは「スキルアップしたいね」と言って、ペアプロ(ペアプログラミング)とかモブプロ(モブプログラミング)に取り組むことができるようになって、それでチーム全体のスキルが上がっていきました。

もう1つは「できていることを見る」です。チーム全体のサポート以外にも、一人ひとりのサポートもやることにしました。それに対しては、まず自信を持ってもらうところから始めました。みんなそれまでのプロジェクトでけっこう疲れていました。そういうプロジェクトでは自分に足りないものばかりが見えちゃうので、自分のスキルに自信がなくなっていたんですよね。

だから各メンバーとテックリードと僕の3人で1on1on1して、そのメンバーのできていることをたくさん話しました。

本人から、自分ができていると思うことを教えてもらって、僕とそのリーダーも「こういうのも、ほかにもできているよ」「これもできているし、気づいていないみたいだけどこの部分は本当に助かってるし、ここも感謝している」みたいなことをいっぱい話をして、3人でそのメンバーのできていることや、すごい部分の認識を揃えていきました。

そのあとで、次のステップをどうしようかと考えました。技術は範囲が広いので、いくつか候補を考えて、その中の2個ぐらい選びました。気をつけてほしいのは、選ばなかったものはできてなくても気にしなくていいという点です。

まずは選んだ2個を集中してやろうよという話をして、次の目標を決めていきました。

そんな感じで、足りない部分を見るのではなくて、常に今の自分のスキルに自信を持って、前を向いて次のステップを考えていけるようにサポートしました。

もう1つ大切にしたのが、苦手なことは苦手なままでもいいということです。それがチームとしてカバーできていればいいと思っています。

例えば、そのチームのプロダクトオーナーは、プロダクトに関する知識がすごく豊富で、プロダクトマネジメントのスキルも高いんですが、タスクの管理がすごく苦手でした(笑)。でも、タスク管理がものすごく得意なスクラムマスターが他にいて、彼女がすごい勢いで「このタスクが次にありますよ」「これを忘れてますよ」とサポートしているんですよね。

それによって、プロダクトオーナーは、苦手なタスク管理を無理やりがんばるのではなくて、その分プロダクトに全力で向き合って、スクラムマスターには「いつもサポートしてくれてありがとうございます」みたいな話をして、お互いに補い合うかたちになっています。

プロダクトオーナーもスクラムマスターも2人 「誰も1人にしない」

それから、もう1つお話しすると「誰も1人にしない」ように今回気をつけました。エンジニアは、ペアプロ(ペアプログラミング)とかをしているので大丈夫なんですが、プロダクトオーナーやスクラムマスターは、チームに1人の場合が多いので、相談ができないんですよね。

エンジニアやほかのロールの人や、ほかの部署の人にがんばれば相談はできるんですが、あまりがんばらなくていいようにしたいので、プロダクトオーナーもスクラムマスターも2人にしちゃおうという話をしました。

それぞれが毎日バディを組んで、情報を共有しながら作業をしてます。なので、なんでもその2人で相談ができるし、あそこをどうしようとか、このプロダクトはこっちに行ったほうがいいんじゃないかみたいな話もできます。1人が忙しい時には、もう1人が拾えるし、1人がお休みや研修でいなくても、もう1人が回せるという状態になっています。

実は、スクラムマスターのうちの1人は、このチームのマネージャーにやってもらっているんです。スクラムマスターは、組織作りを考えることもけっこうあるので、マネージャーがバディだと、そういう時にすごく意思決定が早くていいなと思っています。

よくスクラムマスターが、自分がいなくなっても大丈夫なようにしていくなど話が出てきますが、このチームでは、ぜんぜんそんなこと考えていなくて、スクラムマスターの2人が、このチームのすべての中心になっていて、チームというプロダクトをどんどんよくしていっているのでかなりかっこいいし、チームにいなくてはならない存在だなと思っています。

ということで、今サポートしているチームの具体的な話をしてきました。最初にこのチームを見た時に「いいチームだな」と思ったんですが、その理由は、メンバー同士に謙虚さと、お互いに対する敬意と信頼があって、マネージャーを中心にして、全員がサービスをよくしたいという強い思いを持っていたからです。

だから、僕がやることは本当にシンプルで、彼らがすでに持っている力をうまく発揮できるように、流れや仕組みを整えて、うまく進むようにサポートするだけだったんです。

今は、仕組みを改善していく仕組み自体がチームの中に入っているので、彼らは毎日よりよいサービス作りのために仕組みを改善しながら前に進み続けています。

最近だと、ふりかえりのふりかえりを始めたり。あとデザイナーチームともっと近い距離で仕事をし始めたり、QAチームのメンバーにチームの中に入ってもらって、設計を始めている段階でテストの相談をやり始めていたりしています。

これから先、いろいろな問題にぶつかるだろうなとは思います。だけど、きっと彼らならきちんと乗り越えてくれるだろうなと思っています。

もう1人嫌な思いをしてほしくない人は「自分」

ということで、今日は「誰も嫌な思いをしない変化」をどんなふうに実際やってきたかをお話ししました。もう1人嫌な思いをしてほしくない人がいます。それは、自分です。

僕が、誰かの気持ちを変えようと思っていないように、僕自身の気持ちも無理に変えなくてもいいかなと思っています。

さっき紹介したような残念な気持ちもいっぱい自分の中にあるんですが、それから目をそらしてもしょうがないかなと思います。だけど、それが行動として表に出ないように、自分を変えたいなと思った時に考えるのは、自分の気持ちを変えてしまうのではなくて、自分の中に仕組みを作って、表に出てくる行動を変えるのがいいかなと思っています。

チョコレートを食べたり、アイデアを1晩寝かせたりという方法もあるし、自分の中でけっこう大きいのは、相手の立場に娘が立ってたら、自分はどういう行動を取るのかです。マネージャーに対して「そんなんふざけんなよ」みたいに思ったとしても、娘がそのマネージャーの立場にいたとしたら「なんか理由あんの?」って聞くよなと思ったりします。

そういう仕組みを自分の中で作っておくと、出てくる行動が変わっていくかなと思います。中の実装がどれだけグチャグチャだったとしても、外から見て、もしいい人のように振る舞うことができているんだったら、いい人ということでいいのかなと思っています(笑)。

今できることを見て1歩踏み出せればそれは「スクラム」と呼べる

今日は、前に進むための選択とその周りのお話をしました。何かを変えようと思う時には、相手に変わってもらおうとするのではなくて、自分の行動を変える。相手を変えようとするのではなくて、流れを変える。それによって、もともと相手が持っている力が自然と行動として表に出てくるようにする。

そんなふうに、自分の行動を選択して前に進み続けることで、誰も嫌な思いをせずに変化していけるんじゃないかなと思っています。

変化はつながってます。ある日突然、新しい力に目覚めることはありません。今いる場所から1歩ずつ前に進んでいくしかありません。だから、足りないものを見てツライ気持ちになるのではなくて、今できることを見て、そこに何が足せるだろうと考えて、1つずつ自分の行動を選んで前に進み続けていけたらいいかなと思っています。

今日のこのお話を聞いて、変わりたいのに変われないと悩んでいるチームの方や、目指している場所が遠くて、何から始めたらいいのかわからないという方が、前を向いて1歩を踏み出してみようかなと思ってくれたら僕は幸せです。

もし、あなたのやっていることがきちんとしたスクラムからはまだまだ遠くても、今いる場所から前に進むための選択をし続けているのだったら、それはきっとスクラムだから大丈夫です。

最後に1つだけ。「なんでスクラムと呼びたいの?」というところ。「別に、呼ばなかったらいいんじゃないの。アジャイルと言っておけばいいじゃん」と思うかもしれません。確かにそのほうが楽ではあるんですけどね(笑)。

これは、自分の中でのスクラムコミュニティに対する恩送りだと思っています。僕は10年前スクラムから「これをやったらいいんだよ」みたいなものを見せてもらって、そこから自分は「それやってみよう」と思って1歩踏み出すことができてました。コミュニティのみんなにずっと支えてもらって、いろいろと挑戦して、今日このような場に立たせてもらっているのも、みんなのおかげです。

僕は、ずっとスクラムに助けられているんです。だから、僕が先輩たちから受け取ったたくさんの恩を、次の人たちに送りたいなと思っています。

今、スクラムを始めて、きちんとできていなくて不安だという人がいたとしても、大丈夫です。10年間ずっと、きちんとできずにスクラムをやっている人もいるし、少しだけでも勇気づけることができたらいいなと思うので、僕はこれをスクラムと呼んでいこうかなと思っています。

僕の話はこれで終わりです。ありがとうございました。

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