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ワークスタイル・トランスフォーメーション(全3記事)

個人の価値観やモチベーションに会社が踏み込む権利はない これからの働き方は“役割を果たしているか”が重要だ

プロジェクトに関わるすべての方のための祭典、Backlog World。3回目の開催となる「Backlog World 2021 旅 ~Journey~」は、プロジェクト管理に関する知見を相互に高め合うことを目的として開催されました。ここで、株式会社キャスターの石倉氏が登壇。ここからは、マネジメントとマインドセットの変化について紹介します。前回の記事はこちらから。

これからのリーダーの役目は邪魔をしないこと

3つ目はマネジメント・シフトという言い方をしますが、これはチームをマネジメントするということもあると思うし、プロジェクトマネージャーという意味でのマネジメントもあると思っています。

僕はこれからリーダーの役目は、邪魔をしないことだなと思っています。著書のタイトルそのままですが、思っています。

なぜかというと、やはりみなさん自身でもそうだし、みなさんの周辺でも働き方はどんどん多様になってきているわけです。な今までみたいに、全員がフルコミットの社員で同じ場所にいてプロジェクトを回すことはどんどん減ってくる。場所は離れていくし、働き方も変わってくるし、働く時間の長さもバラバラになる。

そういうところがあるので、なるべく多様なメンバーが活躍できる場をどれだけ作られるか。逆にそのプロジェクトの中で多様性というか、働き方の多様性をどれだけ広められるかは、実はリーダーの役目になってくるんじゃないかと思っています。これは何に近いのかなと思うと、けっこうマンションの管理人みたいなものなんじゃないかと僕は思っています。

例えば、大きいマンションの管理人さんはそこに住んでいる人の生活スタイルまでは言及しません。「こういうふうに住んでください」「こういうふうに生活してください」までは別に言わないですよね。

そのマンションに住む上でのゴミ出しのルールとか夜騒がないとか、みんなが快適に働ける最低限のルールを作って、あとはみなさんがちゃんとルールを守って自由に暮らせるよに、そして自由にその中で生活ができるようにマネジメントしていくのがマンションの管理人だと思います。これからのリーダーの役目は、そういうものなんじゃないかなと思っています。

そのため、基本的には多様なメンバーが活躍できる場を作り、そしてその人たちが活躍できるための最低限のルールを作って、きちんとその人たちが役目を果たしてくれることにリーダーがどれだけ時間を割けるかが、すごく大事になってくるのではないかと思っています。

アサインの考え方も変化する

2つ目は、アサインの考え方も大きく変わってくると思っています。これはプロジェクトだと当たり前かもしれませんが、今までだと社員がどうかとか、長く働けるかどうかとか、オフィスにこれるかどうかがすごく重要だったと思います。アサインとしてはそれよりも、役割を果たせるかどうかの1点に尽きるんじゃないかと思っています。

そのために、「このポジションに誰をアサインしようか」を考える時に、「この役割を果たせる人は誰なのか」ということだけになるんじゃないかと思っています。それ以外の、社員なのかとかフリーランスなのか、どこに住んでいるのかは、逆にいうとどうでもいいんじゃないかなと思っているし、「どうでもいいよね」とやっていくチームはどんどんこれから増えていくと思っています。

そしてアサインを分割できるかです。今まで1人でフルタイムだからやっていた業務を2人に分けるとか、2つの役割に分けるとか。新しく考えるところとして、チームの柔軟性をどうやって上げていけるかが出てくると思っています。マネジメントの中でもすごく大事だなと思っているのが、業績・成果のマネジメントにどれだけシフトできるかだと思っています。

リーダーには適切な目標設定をする能力が求められる

よく「リモートワークになったら評価が難しい」とか、「チームがバラバラだとすると非常に評価が難しい」という言い方をしていますが、これからのリーダーの役目としてメチャクチャ大事なのは、適切な目標設定だと思っています。このチームは何のミッションをもっていて、そのためにはどういう目標があるのか。

そしてそれを個人に落とした時に、何を目標として、ミッションとしてやらなきゃいけないのか。キッチリと目標を設定できるかが、正しく評価できるかよりも10倍大事だと思っています。当たり前ですが、目標をしっかり設定できなければ誰をアサインするかを決められないし、それを正しく評価することもできません。

そのため、目標設定という能力がどれだけできるかが、実はメチャクチャ求められると思っています。あと、これは僕も会社でやっていて思いますが、やはり何か方針を決めたりとかする時に、方針を決めたことだけがテキストで残っていたりドキュメントに残っていることよりも、その方針を決めるまでの思考や考えてきたプロセスとか設定してきたプロセス自体もみんなが見れるようにすることがすごく大事だと思います。

なぜかというと、それは決定に至るまでのコンテキストとか考え、何を重視してこれに意思決定したのかが見えるか見えないかで、みんなの情報量がぜんぜん変わってくるし、納得度も変わってくる。逆に「違うんじゃないか」みたいな意見も上がりやすくなるのもあります。

だからこそ方針をしっかりと決めてドキュメントを残すのはメチャクチャ大事ですがなど、方針が決まるまでの思考や設定のプロセスだったり、考え方や悩んでいることを、どれだけ垂れ流しできるかは実はすごく大事だなと思うところです。

あとはこれはプロジェクトマネジメントのメチャクチャ当たり前な話ですが、Todoとスケジュールと担当をきちんと見えるようにしましょうという、当たり前のことが当たり前のようにできる人たちが、これからメチャクチャ強くなると。分散型で働いていく中で、Todo、スケジュール、担当がキッチリと見えるのはすごく基本ですが、これをきちんとできることがすごく重宝されるような、リーダーの役目になると思っています。

あと1個、非常にユニークな考え方だと思いますが、僕は結果ではなく、結果点がすごく大事だと思っています。結果というのは、例えば“プロジェクトを完成させる”という結果があるわけですが、「このプロジェクトをうまいことやって」と言ってできる人は、別に放っておいてもいいです。でもメンバーの能力とか経験値によって、それだけだとうまくいかなかったりします。

そのため、「このプロジェクトをうまくやるためにはまずこれをやらなきゃいけなくて、次これをやらなきゃいけなくて、次これをやらなくちゃいけなくて」という、プロセスの段階でいくつか結果点という途中経過を、ちゃんと示してあげる。

その結果点をメンバーの能力に合わせて適切に見せてあげることがすごく大事で。「まずはここのAという結果点までやってみよう」「あなたはBというところまでやってみよう」ということをメンバーの力量とチームの役割に合わせて適切に設定できるかが、チームのマネジメントにおいてはメチャクチャ大事になってくるんじゃないかと思っているところです。

チームの信頼関係は自分が信頼することからはじめる

最後、4つ目のマインドセットのお話に移りたいと思っています。

これは分散型という中でもあまり関係ないのかもしれないし今までと変わらないかもしれないですが、僕がすごく大事にしている考え方の3つです。信頼の考え方や多様性、会社や組織というところです。

信頼関係はよく言われるますが、実は信頼関係は2つの側面で成り立っています。1つは自分が他人を信頼する場面と、もう1つは自分が他人から信頼をされる場面の2つがあると思っています。信頼関係は、自分が信頼することと相手に信頼される2つの掛け合わせで決まってくるわけですが、自分が他人を信頼するというのは相手が決めることではなく、自分が信頼すると決めればできます。

実は相手に与えられるものではなく、自分で決められることです。自分がみんなを、誰かを信頼することは、他人に関係なく自分でできることだったりします。信頼関係を築く上で2つの側面があるうちの1つは、誰でも全員が今すぐできるです。

見えない相手に対して疑い始めてもキリがないですから、相手が決めるのではなく、自分がちゃんと信頼する。決めるところからスタートするのがすごく大事なのではと思っています。

もう1個は自分が他人からどう信頼されるかというところですが、相手がどうやったら自分を信頼してくれるかは、残念ながら自分では決められません。コントロールできないです。ただ、約束を破ったり嘘をついたり、陰口を言ったり誤魔化すのは、当たり前ですが信頼を損ねるわけです。

そのため、基本に忠実にやるべきことに真剣に向き合うとか、みんなから信頼を失う当たり前のことをやらないとかに、真摯に向き合ってやることしか、実は自分にできることはないのかなと思っています。なのでまずは自ら他の人のことを無条件に信頼して、相手の信頼を損ねないために必要なこと、自分がやるべきことに真摯に向き合う。

自分がやられたら嫌なことをやらない。これを積み重ねるしかないんじゃないかなと。その場にいるみんなが、どれだけちゃんと思えるかがすごく大事だと思うし、これからのチームにおいてすごく必要なことだと思っています。

多様であるほどチームは強い

多様性の考え方です。僕はチームはバラバラであればあるほど強いと思っています。チームの中で必要な役割を果たせる人であればいろんな価値観があってもいいし、いろいろな働き方をしてもいいと思っています。多様性だったり多様の価値観だったり働き方のパターンが多ければ多いほど、チームとしては強くなっていると思うし、そのキャパシティをどれだけ広げられるのかが、やはりこれからのチームにはすごく大事だと思っています。

人は必ずしも自分の意見や自分の働き方を正当化したいところはあると思いますが、「多様は多様だよね」ということを素直に認め、「キャパシティが大きいほどみんなにとっていいことだよね」ということをみんなが共通見解としてもてるかはすごく大事だと思っています。

僕は、人のモチベーションもあまり気にしない働き方にこれからなってくるのではないかなと思います。何がモチベーションなのかは人によって違うし、同じ人の中でもモチベーションが高い時とそうじゃない時って変化するわけです。モチベーションは固定ではありません。そして、その人がその会社にいる理由、そのプロジェクトに参加している理由はそれぞれだと思います。

例えば給料がいいからかもしれないし、周りのメンバーが好きだからかもしれないし、仕事に成長があるからかもしれない。その会社が好きだからかもしれないし、ビジョンに共感しているからかもしれない。いろんな理由があるわけです。そしてそれがたぶん恐らくグラデーションで、人それぞれでバランスがみんな違うというところだと思います。

その人がいる理由やその会社にいる理由を、誰も邪魔する権利はありません。逆に、モチベーションを1個の軸だけに絞ってみんなに共感してもらうようにしようとか、同じような理由の人たちだけでチームを作ろうとすることは、逆にいうと、いろいろな理由でそのチームにいる人たちの権利を邪魔することになると思っています。

しっかりと役割を果たしている、果たせるのであればそれ以外の価値観やモチベーション、そのチームにいる理由は人それぞれでいいし、それを邪魔する権利は誰にもないのがこれからのチームなのかなと思っています。

「役割を果たしているか」以上に踏み込む権利はない

会社や組織も事業をつうじて目的を果たす場以上でも以下でもないと思っているし、その人の仕事とそれに対するモチベーションと、その人の人格はまったく別なものなので、これを同一視しないのがすごく大事かなと思っています。

あくまで仕事として、役割としてできているかできていないか以上に、踏み込む権利は会社とか組織においてもないんじゃないかと思っています。そうなると、リーダーやマネージャーのミッションはチームの成果のみ、というところに、シンプルに行き着くんじゃないかと思っています。

どうしても「リーダーはこうあるべき」「こういうことをしなきゃいけないんじゃないか」「こういうのが理想なんじゃないか」などがけっこうあると思いますが、そういった幻想に囚われず、目の前のメンバーとミッションに向き合ってシンプルに仕事をすることが改めて分散型のワークスタイルの中では求められるし、それが真のワークスタイル・トランスフォーメーションにおいて必要なマインドセットなんじゃないかと個人的には思っています。

働き方の変化を前向きに捉えていいチームを増やす

最後に一言。多様な働き方やメンバーなどをマネジメントしてチームとして成果を出す、達成するということをしている人たち。プロジェクトマネージャーという仕事は、そういったことを実はもともとずっとやっていたと思います。つまり、ここにいるみなさんこそワークスタイル・トランスフォーメーションを先端で行っている人たち、担い手だと僕は思っています。なので、働き方の変化を前向きに捉えて、一緒にいいチームを増やしていけるといいなと思っています。

最後に告知をさせてください。先ほどお話ししましたが『これからのマネージャーは邪魔をしない。』が絶賛発売中なので、今日の話をおもしろいと思ってもらえたら、ぜひ購入してもらえればと思っています。Twitterにハッシュタグ「#これマネ」をつけてシェアしてもらえれば必ずコメントをつけにいくので、ぜひ感想などを呟いてもらえればと思っています。

ということで時間がやってきたので私からは以上です。ご清聴ありがとうございました。

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