2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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ーー前回の話で、デジタル敗戦を解決するのであれば、船を豪華にするのではなく、船そのものを作らなければいけない、とのことでした。このような目線に切り替えるためには、どうすればいいのでしょうか?
登大遊氏(以下、登):日本国は金持ち病になりまして。建築や繊維、自動車、エレクトロニクス、半導体など、船を作ることと同じことをずっと百数十年やってきて、莫大な富を得ました。しかし、富をいったん得てしまいましたから、船なんか作らなくてもよくなって。ほかの国にお金を払えば、もっといい船をくれるんです(笑)。
だから気づかないのではないかと思いますが、最近、昔から構築してきたその生産手段という貯蓄が底を尽きかけていて。各社が持っている重要な生産手法は、普通の会社であれば30年くらいで1サイクルしますが、60年、90年経ってしまっているので、作り方を忘れていて。イメージでいうと、船会社を運営する経営者なのに、自分の作る船は危ないからほかの会社の船に乗る、ぐらいの感じになっているんです。
これは金持ち病特有のことだと思いますね。とはいえ、今のこの状態と金持ちでない貧しい状態とどちらがいいかというと、金持ちのほうがいいに決まってるから、我々の状態はすごく良いことの結果ではないか、と思いますが。
ただ、金持ちになって、それでもなお生産を続けることをしなければ、いずれ衰退しますよね。2千数百年の西洋の歴史の中で見ても、金持ちになり、かつ生産を続けないといけないぐらい安定した状態になるのはまれで。それに対してどう解決すればいいかという前例が、歴史的にもあまりないように見えます。
失敗した例はいくつかあって、その例の1つがローマです。一度すごく金持ちになったものの、生産が減少して破綻しました。あの時は大規模工業とか、生産設備を作ってどんどん拡大する概念がなかったので、単にローマが衰退してほかに移っただけの話ですが、今の我々は産業革命などを経験して、資本主義の精神を持っているじゃないですか。
このような金持ち病に、世界的に初めて直面しているのが日本で。がんばればこの問題は乗り越えられるのではないかと思います。
150年前の先輩たちは貧しいから、がんばっていろいろな技術を勉強して多数の産業を興したけれど、我々は貧しくない。貧しくないけれど、世界のいろいろな産業を勉強して、それを超えてもっといいものを作ることを目指す。我々に唯一残されてるよい点は、貧しさからくる苦痛ではなく、「おもしろみ」だと思います。
豊かですから「貧しいからやる」では通用しません。「おもしろいものを楽しく作ろう」みたいなことが、モチベーションとして有効だと思います。金儲けをしたければ、もっとつまらん方法でいくらでも儲けられる状態ですが、それではおもしろみがないんです。
例えば、携帯電話会社や光ファイバー会社、インターネットのプロバイダーを見てください。みんな最低価格になっていますが、それでも利益が出てますよね。
そのあたりの多くの事業は何をしているかというと、過去の人たちが築いたシステムを破綻しないようにずっと回し続けている。それで利益がずっと出ているんです。お金は儲かっているので良いことですが、不足しているのはおもしろさで、残念ながらおもしろさがぜんぜんありません。
おもしろいことを本当はみんなやりたいけれど、安定して動いているシステムを壊したら大変なことだから、難しいと思っていて。「金銭的収入」と「おもしろさ」の2つのうち、どちらかを選択しないといけない、みたいになっています。
金銭的安定を選択すると、おもしろさはなくなるのです。GoogleやMicrosoftなどを立ち上げた人たちは、金銭的安定を求めたのではなく、おもしろさがあったからやってるわけであります。我々は金銭的安定もあり、おもしろさも伴う新たな手法を発見しないといけないと思います。
ーーなるほど。とはいえ、“おもしろさ”は日々の業務に追われていると、忘れてしまったり、気づけなくなってしまうこともあるような気がします。特に経営者だと、会社を回すことのほうが重要になって、“おもしろさ”は後回しになってしまいませんか?
登:まず、その経営者の概念が、おそらく日本の多くの方が共有されている概念だと思うんですけど、これが誤りであります。収益を回し続ける運営をするだけの事業運営者は、経営者ではありません。それは単なるサラリーマンです。常に新しいやり方を見つけ、それを実行して、実際に結果を伴わせるのが経営者です。
では、なぜそうでない人があたかも経営者のように思われるかというと、そういう人しかいないからです。
例えばパナソニックであれば電球ソケット、アメリカのGeneral Electricであれば電球やフィラメントのように、どんな大企業でも、最初に何か新しいものを作って、それが大ヒットしてるわけです。新しい技術を作ったり、技術を使った新しい生産方法を作ったりするところには、必ずどこかにおもしろいことが伴っています。
それによって、贅沢病ができるぐらいの会社ができておりますから、それを考えますと、会社を経営することの最も要件は、おもしろいことをやることです。それをやらずに、ただタスクを回してるのは、新しいことをする義務を負わずに単に朝から晩まで回し続ける、いわゆる使用人です。
使用人は、言われたことだけをマニュアルに従ってやっていればいいんです。マニュアルが少し古びてきてたら、ちょっとぐらいアップグレードすることはやりますが。
おもしろいことをやるのは、本来会社がやるべき正しいメインストリームであります。潰れそうなところを少しずつ修復する活動はオマケです。外注してほかの人にやってもらうこともできます。
しかし、現在の会社は、どうでもいいようなことを自分たちでやって、新しい開発などを外注しようとしています。これはおかしな話で、お金をもらって他人のために何か新しいものを生み出せと言われても、本気でやらないので、利益相反が起きて、成果物の価値はコストを下回る結果になります。
ーースタートアップと大企業にありがちな関係のようです。スタートアップのほうが作る人が多く、大企業の人のほうが、中の業務だけをこなしていく様子に似ているような気がします。
登:日本の大企業は、若い退職者が非常に多くなっている問題があります。その理由は、せっかく勉強なんかして大企業に入ったのに、本来やるべきことである新しいこと・おもしろいことをやることをやらせてもらえずに、朝から晩まで、ずっと回し続けることばっかりを30年ぐらいやらされている気分になって。これはつまらないことなので、GAFAや新たなスタートアップ会社や新しい通信会社ような、自分たちでなんでもやらしてくれるところに転職しようと。
これは大変もったいないことです。日本の企業の中には、従来から蓄積した富がたくさんありますし、物理的なオフィスやスペースもある。頭がよい人材は世界一のレベルだと思いますし、合理的な判断ができる能力も、世界一のレベルだと思います。しかし、新しいものを作るという、本来やるべきメインストリームをやらず、その1/100しか頭脳を使わずに、マニュアル業務の維持をみんなやってる状況にあります。
これはリソースの無駄遣いで、我々人類に信託されている最大限の頭脳を使い、新たな判断を行い、まだないものをどんどん生み出していくという、数百年間の人類の進歩に反することで。これに反する状況が続くことは、“継続”の前提を欠くため、組織が崩壊することになります。
「新しいものが生み出せなという大変な問題を何とかしないと、我が社は破綻する」ということは、多くの大企業が正しく認識しています。問題は、それをやったことがないということです。昔はやっていたとしても、数十年前のことで、もう誰もやり方を覚えていません。問題はわかっているけれど、解決の方法がわからないことになってるんだと思います。
ーー「わかってるけどどうすればいいかわからない」ジレンマですね。登さんは、どんなネクストアクションをとるべきだと思いますか?
登:大企業では、安定して稼働している事業の基盤は安全のために分離した上で、社員自らが創業時を思い出して、新しい製品やサービスを“おもしろ自作”することだと思います。コンピューターのシステムでも、なんでもいいです。工作をやってる会社であれば工作機器とか、いろいろな技術を自分たちで作れるべきだと思います。それは研究所だけがやるのではなく、みんながやるべきだと思います。
ただ、新しいことが影響して事故が起こるのはよくありません。金持ち状態も維持しないといけないですから、従来のものは触らず、そのままで2割くらいの労力で回しておいて、残りの8割の時間を使って、おもしろいことをやればいいということです。それに必要なリソース、物理スペースや、その2割を運営することで得られる人件費、つまり生活費もあります。会社のブランド力も必要ですが、大企業は十分にあります。
しかも、自分たちがふだんやっている業務の縮小は、ほとんどの場合完了してるんです。昔は人海戦術でやっていたところが、コンピューターの導入によって自動化されましたし、働き方改革などで経常業務をする時間はだいぶ短くなっています。
それによって今は、これまでなかった膨大な時間が生み出されているはずです。この時間は、何の生産性もない別のことに使ってももちろんいいですが、自由な研究やいろいろな試行錯誤に使ってもいい。自作のインチキなプログラムを作ったり、業務システムを自分らでイチから作ってみたり、楽しいクラブ活動的なところに全部使うことだって可能です。
その膨大な時間を、社会が今後よりよくするために必要な、新しいものを生み出すためにそ使えれば、我々の時間のつじつまは合って、これでもう赤字にはならないと思います。黒字だと思います。
ーーありがとうございます。最後に、最近デジタル庁が発足しましたが、登さんはどう思われますか?
登:デジタル庁は、優秀な方がけっこう集まっているので、なかなかおもしろいところだと思います。今は目先の大変な問題を処理されているので、その間は新しいものはあまり出てこないと思いますが。
本来デジタル庁が目指すべきことは、先ほどお話ししたデジタル敗戦みたいなものに勝つことだと思います。日本の場合、明治時代を振り替えってみると、技術的進歩は民間のみで実現したことはほとんどなく、おおむね官の需要によって生じてます。
2000年以降を見ても、GAFAに匹敵するようなものは1個も出てないですよね。日本特有の国民動作パターンとして、国の国策としてワーっとやれば民間が回って発展するはずなのですが、デジタルについては何もやってこなかったことが原因だと思います。
こう考えると、日本の場合、技術的進歩のきっかけは行政上の需要によって生み出されることも結構あると思うので、それがICTの分野でも将来出て来れば、大変価値があるものだと思います。
いくつか難しいところは、地方自治体のほうがデジタル化が必要な業務多くて。権限は地方自治体の首長に分散しているので、本当は独自性の実現ができるはずです。けれども残念ながら、もう20年経って、多くの地方自治体の情報システム職員の方々が、昔は全部わかってた人たちがやっていたのに、今はIT会社のサポートセンターのコールスタッフみたいな人しか入ってこなくて、技術的な裏づけはなにもなくなってしまいました。
この状況では、せっかく地方分権が実現されているのに、ICTの分野で特有のものがまったく出てこないんじゃないかと思います。この問題を解決するために、IPAはいろいろなことをやっています。例えば、LGWANに関するいろいろなシステムを作り、実証実験もやって、その1つがシン・テレワークのように、自治体職員が自宅から庁舎にリモート用にアクセスできるやつです。これは現在、3万名の行政職員に利用されています。
しかし、少人数でやっているので、こういった程度ものは、私ががんばって造っても1年で1個〜2個できるくらいです。自分でやっている間は、スケールしないことが問題だと思っています。スケールするためには、日本中の企業や行政機関や大学の方々の間になにかものを持ってきてそれを使うことではなく、自分たちの試行錯誤で新しいものを作る、という思想が普及すればスケールすると思います。
我々みたい頭おかしい人は、日本には、1万人に1人ぐらいいると思うので、日本全部でいえば合計1万人ぐらいいると思います。その1万人は、企業、行政庁、大学等に分散して隠れていると思います。うまく発掘育成して、1万人がそれぞれ自分たちで何か作ると、日本から少なくともシン・テレワークシステムみたいなものが年間1万個ぐらい出るんじゃないかと思います。
今、その1万人がルーチンワークばかりやってしまっていて、さらに「あまった時間は仕事しちゃいかん」みたいに会社に言われて、消費に回してしまって。この余った時間を生産に回せば問題を解決できて、そうなった時に、初めてデジタルの面で、日本は外国よりも優れた実績を出したとに言えると思います。
これは10年ぐらいかかる話です。マスメディアの方々は「ワクチンのシステムがこうだ」とか「マイナンバーカードがどうだ」とか、目先のことばかり言いますが、目先を考えることは10年後に日本が大きな富を得る観点を考えないことですから。マスメディアの方々が、今の時点だけを見ると、「この国のデジタル政策はしょうもない仕事をやる」というように見えるかも知れませんが、それは、もったいないことだと思います。
10年後、20年後の我々の子孫が大変な誇りを持って、「どんな技術も日本で作れるぞ」と大手を振って歩けるぐらいな感じになればいい。今、アメリカで勉強して国に戻った中国人たちは、技術力を蓄え、中国は、ICT の分野で基盤的システムを造れるようになっています。日本でも、今はまだデジタルのアプリがどうだとか大変小さなことをやっていますが、10年後、20年後を考えて動くことが、一番重要なことだということです。
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