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コロナを機に考える医療とテクノロジーの未来(全3記事)

多くの人にとって「ちょうど満腹」はカロリーの摂りすぎ ​​​​世界で10億人以上の人が肥満に苦しむ理由

新型コロナウイルスの感染拡大以降、人々の健康に対する意識が変化していますが、そんな中で開催されたグロービス主催の「コロナを機に考える医療とテクノロジーの未来」のセッションに、医療・ヘルスケアに関わる3人の登壇者が登場。オンライン診療の普及が遅い原因や、世界中で10億人以上の人が肥満に苦しんでいる理由など、いろいろな角度から医療とテクノロジーの未来を語っています。

高齢の医師や患者は、オンライン診療への対応が困難

福島智史氏(以下、福島):今の中尾さんのお話は調剤薬局のお話でしたが、コロナの話の中では医師会を含む医療従事者、もしくはクリニックも1つの議論の対象になってきたと思います。ここでは何か大きな行動変容だったり、意識の変化とか、さっきの「プレッシャーがあったから動いた」みたいな話はあるんでしょうか?

宋美玄氏(以下、宋):そうですね。本当はもっと大きな変化が起こるんじゃないかと、去年の4月とかは思っていたんですけど、結論から言うと、あんまり変わっていないんですね。

まずコロナそのものが与えた影響については、みんなが感染対策をするので、耳鼻科や小児科の患者さんはずっと減ったままと聞いています。もっとオンライン診療などのテクノロジーが入って、遠隔でいろんなことができるようになるんじゃないかと思われたんですが、医師会も医師会長が変わったりして、オンラインにすごく消極的になっています。

その背景はやっぱり医師会は医者全体の代表ではなく、基本は開業医の団体なんですね。そうすると、会員には高齢の先生とかもいっぱいいて、オンライン診療になって、患者さまもそうだし、院長とかドクター自身がついていけないような感じになっているんですよ。

残念ながら、日本全体の医療水準を上げるというよりは、業界の利益を優先する政治団体でもあるので、オンライン診療で、例えば「東京に名医がいます」「全国、誰でもそこに掛かれます」となると、「周辺の住民相手に開業したけど患者さんを取られる」みたいなことになってしまうじゃないですか。

なので、やはりオンライン診療はあまり進んで欲しくないと思っている人もすごく多いんですよ。

福島:なるほど。

クリニックでのオンライン診療の普及を遅らせる「保険点数の低さ」

:うちはもちろんオンライン診療をやっていますが、結局なんで進まないかというと、オンライン診療は手間がかかるのに保険点数がめちゃめちゃ安いんですよね。あとは設備投資も面倒くさかったりして。なので、たぶん薬局ほどはあんまり……。

福島:動いていない。

:はい。残念ながら。

福島:さっき高橋さんから、ユーザーさん・患者さんの層が少し変わってきたとか、リテラシーがぐっと上がったタイミングだったのでは、というお話がありましたが、そのあたり(患者さん側から医療サービスを提供する側へ)のプレッシャーは、今はそこまで強くないんですかね。

オンライン診療だったり、もう少しテクノロジーを使った、直近でいうとお薬(手帳)がアプリケーションになったような動きも出てきていると思いますけど。ここはどんなクリニックさんでもある種、動かなきゃいけないポイントになってくると思うんですが、そのあたりの波が来ている具合はどうですか?

:やっぱりもう、本当に去年の4月、5月は「放っとくと潰れちゃうんじゃないの?」と思った医療機関が多かったと思うんですよ。なので、オンラインに対応して、掛かり付けの方に掛かり続けてもらわないといけないという感じでした。

今は自粛だからと言って、医療機関に行くことまで控えようと思う人は少ないので、リアルの対面受診が普通に戻ってきちゃっているというのもあります。

ただやっぱり、例えば処方箋だけは紙とか、FAXした現物を郵送するのは、もうみんな電子にしてくれとか(笑)。紙ベースのレポートだった結果説明とかも、だいぶデジタル化は進んでいると思うんですけど、やっぱりオンライン診療だと、検査とか施術・処置が必要な治療ができないので。

初・再診料だけだとすごく少ないのもあって、今はオンラインに全部置き換わったら点数的に経営できないようになっているので(笑)。それ以上は進みにくいかなという感じですかね。

福島:なるほど。薬局さんもそういう意味では……。

薬局業界におけるオンライン化の課題点

中尾豊氏(以下、中尾):今の話で、僕がすごく意外だった業界の変化についてお話すると、例えば「患者さんからのプレッシャーはありますか?」という話だったんですけど。

もともと薬局業界って、例えば「Amazonみたいなところにディスラプト(破壊)されるんじゃないか」といったイメージが非常に強かったので、コロナのタイミングですべてのルールが緩和されて「電話でもFAXでもOK」となった時に、患者さんがどう動くのかなと見てみると、意外なことにクリニックや病院などの医療機関はオンライン・電話でやるんだけれども、薬局には結局自分で足を運ぶという層がけっこう多かったんですよね。

これは意外な状況だなと感じているのがまず1点。一方、電話で対応する層も一定いるのですが、臨床的な課題点も見えてきていて。例えばペイシェント・ジャーニー(患者がたどるプロセス)で考えると、患者さんが医師と話をしたあとに薬剤師と電話で話すじゃないですか。

薬があとで届くというモデルになると、「じゃあ中尾さん、5剤のお薬が届きます。1剤目は白い粉で2剤目が黄色いなんちゃらで」と言われても、次の日に届く薬の内容って100パーセント忘れているんですよ(笑)。

なので、アドヒアランス(患者が治療方針の決定に賛同し積極的に治療を受けること)と言われる薬の理解度が下がるようなところが、やっぱり顕著に出てくるので。

そのへんに対しては、オンラインだからといって利便性だけに振るというよりも、薬剤師から患者さんに付加的な情報をタイムリーかつ丁寧に、ある意味テクノロジーを介しながらやる必要があるんじゃないかという課題点も出てきたなと感じているところですね。

福島:なるほど。そういった点は、まさにその事業に関わっているプレイヤー、とりわけ新しいプレイヤーがホワイトペーパー的な事例をまとめて発信していくことが大事なのかなと感じていまして。

私はメドレーという会社に関わっていましたが、それこそオンライン診療で最初に点数がついた時、先生がおっしゃったように非常に点数が低くて(笑)。実は「オンライン診療は法的にOK」と明確になった時に、数が激減したという経緯もあったりするので。

そのあたりは本当にチーム一丸となって、正しい情報をユーザーに伝えるのもそうなんですが、点数が変わったり、もしくはルールを作る側に対しても発信していくことが大事だなと、今お話をうかがいながら感じました。ありがとうございます。

テクノロジーの活用による、薬局業界での価値の創造と見える化

福島:ちょっとお話を変えながら進めていきたいなと思うんですが。ここまでは既存プレイヤー、もしくはユーザーさん側のコロナによる影響、もしくは行動変容に注目をしてお話を進めてきましたが、今日のもう1つのテーマであるテクノロジーの部分もあるのかなと思っております。

テクノロジーを要素で分解するとAIやVRなど、医療・ヘルスケアに適用が可能なテクノロジーも出てきていると思います。中尾さんからお話があったような効率化はわかりやすく受け入れられるのかなと思っていますが、患者さん、ユーザーさん、もしくは事業者さんを見た時に、本当に効率化が大事なのか。

先ほどユーザーさんにちゃんと向き合うというお話がありましたが、ユーザーさん側の満足度だったり、「不を解決するだけじゃなくてハッピーな部分を増やす」というテクノロジーの使い方はないのかをみなさんで議論していきたいんですが。

どうでしょう、中尾さん。事業者さんと向き合いながら、彼らの考えとして効率化以外の観点は出てきてたりしますか。

中尾:そうですね。2点、大きくあるかなと。1点目はまず「薬剤師が提供できる価値とは何なのか」という再定義をしながら、そこに対するオペレーションを想像するところが非常に強いですね。

2点目がその薬剤師が介入したことによる価値を見える化することが、非常に重要になります。1点目の、薬剤師が患者さんに価値を出す領域で、国も注目をしているのが、薬を付与された患者さんが実際に服用できているのかや、服用時にどういう問題が生じているのかを把握することです。今までそこは闇だったんですね。

医師や薬剤師が患者さんと話をして「お大事に」と言った瞬間から、1ヶ月は医療従事者が(誰も患者さんに)タッチしないという状況なので、服用期間中の問題がまったく把握できていないんです。「服薬期間中のフォローアップ」というワードになりますが、そこに対して介入するという国の方針が法律で決まるぐらい強化していこうとしています。

ここで「テクノロジーがあったほうがベターか?」で言うと、むしろないともう無理なレベルになっていて。どの患者さんがどのように困っているかはテクノロジーで察知することが可能です。テクノロジーの活用は効率化だけではなく、価値の創造という領域で不可欠になっています。

2つ目の、価値の見える化では、例えば弊社のサービスですと、どの薬剤師が患者さんに対しどれぐらいフォローしたのかや、それによって患者さんのアドヒアランスが改善したか等を見える化することができます。

また医師による診療後、薬局に再来局したかどうかといったデータも確認できるので、どの患者さんに問題が起きそうなのかが見える化されるようになり、患者さんに対する適切なフォローが行える状態になります。

なので、効率化のみならず、ある意味DXという文脈で「価値をどうやって創造するか」と「どう見える化してPDCAを回すか」といったところに、業界全体の意識が向いているので、そこはものすごい変化だなと感じますね。

人を動かすための、感情に訴えかける体験の設計

福島:なるほど。価値の見える化、もしくは価値の源泉たるお客さんの満足度を作りにいくというところなんですかね。ありがとうございます。

今、高橋さんはユーグレナグループでご一緒されていると思うんですが、今の中尾さんの話にあったような、ユーザーさんの効率化というよりも生活の質を上げたり、見える化していくというところで、会社の中でこういうテクノロジーが使えるんじゃないかとか。

もしくはさっきの議論にも少し被りますけれど、「テクノロジーの価値をユーザーに理解してもらうには、どういうことがあるか」みたいなところでご意見を教えていただけますか。

高橋祥子氏(以下、高橋):中尾さんもおっしゃっていましたけど、効率化だけだと人は動かないというか。正確なものとか新しいものとか、早いものとかって、それだけではあまり価値がないんですよね。例えば「遺伝子を解析して、病気・リスクを予測して予防していくことって大事ですよね」と言っても、それだけだと人は動かないというか(笑)。

それよりも、感情をどう設計するかとか、感情に訴えかけるような体験をどう設計するかがとても大事だなと思っています。そういう意味だと、冒頭にあった出生数の減少も、単純に「子どもを作りたくない」という話じゃなくて。

社会や経済に関する不安とか、「本当に育てていけるのか?」みたいな不安がすごくあるのかなと思うんです。そこにどうテクノロジーを使っていくかは、新しい社会の向き合い方になっていくのかなと思いますよね。

福島:そうですよね。まさに「新しい社会のデザインとして、テクノロジーでどうやってその不安に寄り添うのか」。もしくはテクノロジーに任せる部分と「最後に人間(の仕事)として残る部分って何だっけ?」みたいな。ヘルスケアの領域に関わらずディスカッションされるところですけど。

コロナで社会の分断や格差がより広がった理由

福島:もしくは逆に「テクノロジーで解決してもいいよね」みたいなところは、高橋さんの不安との向き合い方みたいな話が、ある種ヘルスケアの話を超えておもしろかったので、少し教えていただいても……。

高橋:そうですね。そもそも不安に感じやすい遺伝子とか、例えば孤独感を感じやすい遺伝子などがあって。不安とか孤独とか、怒りとか寂しさといった負の感情、もちろんプラスの感情もですけど、感情って遺伝子の機能によって私たちの身体に搭載されているんですよね。

不安を感じた時、「何かがあって不安だ」という直接的な原因を捉えることが多いんですけど。もう少し視点を広げて、私たちは人類の進化上どういう意味があるのかという進化的・生物的な論点からそういった感情を捉えていく。不安は危機を予測して回避していくための感情なので、基本的に不安を感じたほうが、その生物にとって生存の可能性が高いんですよね。

ただ、その遺伝子に搭載された基本パッケージと、現代の環境が完全に合っているとは限らないので。今感じている不安や怒りが、正常に働いているかはわからないんですよね(笑)。

遺伝的な環境と現代の環境にギャップがあるから、起業して失敗しても別に死なないし、そこまで不安に感じる必要がないことにも過剰に不安を感じている可能性があると思うんです。

だから不安に感じた時は、本当に直接的な原因があるのか、あるいは進化上のパッケージに搭載された機能がワークしているだけなのかみたいな(笑)。そういう理性で考える、科学的に捉えるという方法論があるかなと思っています。

福島:そうですよね。テクノロジーにはそういう要素があることを、きちんと解明して理解をすると。現代の環境によって減った不安に対して、過剰に反応している遺伝子の部分を理解することで理性的にコントロールするみたいな。

高橋:そうなんですよね。コロナが出てきて、「人類の共通の敵が出てくるとみんな一致団結するんじゃないか」みたいなことを言っていた人がいるんですけど、実際に起こったことは逆で。やっぱり社会の分断や格差がより広がって、例えばアメリカのBLMの運動が再燃したりとか。

危機にさらされると、本能だけに囚われた行動をしがちになってしまうかなと思っていて。そういう時にこそ、冷静に「自分の感情とはそもそも何なのか」とか、「科学的には何なのか」という見方ができるといいのかなと個人的には思っています。

世界中で10億人以上の人が肥満に苦しんでいる

福島:おもしろいですよね。直接的に感じる感情と、それを俯瞰してこういう部分が作用しての自分の感情なんだと理解するというのは、ある種テクノロジーが発展してきたからこそわかる。

高橋:そうですね。

福島:社会と人間の進化のギャップに、生態としての人間が追いついていない時に、今後は不安遺伝子みたいなものをデザインとして減らしていくような議論も……。

高橋:これって認知の問題だと思っていて。例えばカロリー摂取もそうですよね(笑)。人が「ちょうど満腹だな」「心地いいな」と思うぐらいカロリーを摂取した時が、一番健康でいられるのが生命としては有利かなと思うんですけど、そうなっていないと。ちょっとカロリーを制限したほうが、最も健康になるし寿命も延びるんですよね。

「それっておかしい」と思うんですけど、おかしくないんです。なんでかというと、人類は常に食料へのアクセスがあるとは限らない環境で進化してきたので、必要よりも少し多くカロリーを摂取するように、遺伝子的にできているんですよね。

福島:競争に勝つための作用が……。

高橋:そうです。だから今、世界中で10億人以上の人が肥満に苦しんでいると。でもそれって根性論とかじゃなくて認知の問題だと知ることができれば、「じゃあ腹八分目にしとこうか」という視点で行動ができるので。

起業するのも「すごく不安だけど、がんばって起業する」みたいな根性じゃなくて、単純に「そういう(不安を感じやすい)機能があるからね」という認知の問題だけかなとは思いますよね。

福島:そうですよね。ただ「その認知の中のどこを取り出して、自分と結合させていくのか」みたいなところが、最後の意思として残る部分……。

高橋:そうですね。

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