2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
サーブ制球力の定量的評価(全1記事)
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アキノヒ氏(以下、アキノヒ):それでは私の発表を始めていきます。テーマは「テニスのサーブのコントロールを定量的に評価してみよう」です。
本題に入る前に慣例に則って自己紹介しますと、アキノヒという名前でふだんTwitterなどをやっています。今日はこのあと質疑応答の時間があると思いますが、別にTwitterにリプライで送っていただいても構いません。先に伝えておくと今日こうして発表しますが、本業はデータの分析とは無関係です(※イベント開催時点)。
今日の発表は趣味でやっているのと、キャリアを変えたくて勉強したこと・教わったことをまとめておこうかなといった魂胆からできています。テニスの話をしますが、テニスは基本見るのが専門です。昔ちょこっとだけやったんですけど、目標になる物体が止まっているスポーツじゃないと、まるでできないので今日はこういう話しかできません。
私の話はそんなのでいいとして本題に移りますが、用語をわかっていただかないと何を言っているのか途中でわからなくなると思います。なので先にちょっと補足させてください。まずコートの見方から。覚えていただきたいのはこのサーブを入れる範囲は決まっていて、Deuce(デュース)コートとAd(アド)コートと呼びます。ここに入れないと駄目ということですね。
1ポイント目はDeuceコートから始まって2ポイント目はAdコート。3ポイント目はまたDeuceコートに戻ってくるみたいな決まりがあります。
それと、このDeuceコート・Adコートは、ルール上の呼び名ではありませんが、ワイド、センター、ボディと3カ所に分けて呼ぶのが慣例です。ネットに近いほど浅く相手側に近いほど深いので、「浅いワイドのサーブ」「深いセンターサーブ」と言った呼び方をします。
サーブは1ポイントにつき2回チャンスがあって1回目がファースト、2回目がセカンドです。ファーストは外してもOKなので際どいところに強く打ちます。セカンドは外すと相手に点が入ってしまうので慎重に入れるのがセオリーです。
ここからコントロールの話を始めます。コントロールを評価するには基準が必要になります。じゃあコントロールが良い、悪いはどういう状態を指すんですか? という話なんですね。一般論だと、「ライン際にうまいこと集めているかどうか」というところじゃないのかなと思います。
実例をあげると、これは日本の錦織選手とたぶんテニス界で一番有名だと思うフェデラー選手のサーブの着弾点を比較した画像です。去年のウィンブルドンで2人が対戦したのでそのときの画像ですね。黄色い点がポツポツあると思うんですけど、これが一球一球のサーブの着弾点で、錦織はバラバラと全体に広まっていて、フェデラーは左右に集まっています。
こういうのを見ると大多数の人はたぶん「フェデラーがいいよね」と言うと思うんですね。ただしそれが本当にいいと考えるとちょっと違うかなという気がしていて、「それが本当にいいと言える根拠はなんなの?」というところですね。
なぜこんなことを言うかというと、例えばライン際にピッタリ狙ってもポイントを取れない場合、そこに集める能力は評価する必要ないとなるわけです。例えば左右の線上ピッタリに打つよりも真ん中に打ったほうがポイントが取りやすいんだったら、中央に集める能力が真のコントロール能力として本来評価されるべきと考えられます。
ちょっとトートロジーっぽくなってしまいますが、狙う意味があるところに再現性を持ってボールを集めるからこそ、その能力には価値があるのではないか。コントロールの良し悪しは、打った選手が自分にとって有利になるところにサーブを打てているかと捉えたほうが妥当なんじゃないかという考え方をします。
これは分析者の価値判断です。そんなことは関係なくてとにかくライン際が大事だというのは、それはそれで1つの考え方だと思うんですが、私は今回この立場をとります。
そうすると、「サーバーが有利な場所はどこですか?」という疑問が当然あるので、どこに集めれば望ましいかを、今回機械学習を使ってみました。
結論を言う前にデータを紹介しておきますと、ATPという男子のトップレベルの大会を統括している団体があります。そこの公式サイトに試合ごとに誰と誰が戦って、どういうシチュエーションで、どこにサーブが着弾したのか。その結果ポイントがどうなりましたみたいなのを画像で見れるページがあります。
座標がデータとして存在していたのでデータを集めました。そうすると2019年1年間で525試合分、サーブが11万ちょっと分あったので、これを使います。そのデータをコート上に当てはめてみるとこんな感じですね。
各ドットがすごい膨大にあるので、斑になってわかりづらいと思います。ドットの1個ずつが着弾点で、青いほうがそこに打ったらサーブを打った側がポイントを取れたところ。オレンジのほうがそこに打ったらそのポイントは落としたことを表しています。そうすると青っぽいところほどサーブを打ったほうが有利で、オレンジっぽいところほどサーブを打った側が不利ですと言えるでしょう。
こうやって比較してみると、セカンドサーブのどこが有利と言うのは無理っぽいんですけど、ファーストサーブはこのセンターラインと両端のサイドラインですね。その近くは青い。ただ、人間の目でどこが有利・不利の境目かはわかりません。そこでアルゴリズムの力を借りて、2次元上に散らばった点をWonとLostの2つの値に分類する問題として分けてもらいます。その境目を可視化すればこの線よりこっち側が有利、こっち側が不利、が言えるだろうとは思いますね。
手法としてはサポートベクターマシンを使う。条件としてはセカンドはさっき無理そうだと思ったのでファーストサーブに限って。バウンドとか回転の方向や腕の伸ばしやすさで、右打ちと左打ちみたいな問題があるので、右対右のハードコートに限定しました。これが一番多い組み合わせなのでというのもあります。
コントロールの話なので着弾点のX座標とY座標だけを使いました。欲しかった球速とか回転のデータがそもそもなかったので、これしかできないという事情もあります。あとは途中で大事だなと思ったのが、学習データに使った選手で評価をやったら、それは当たるだろうなと思っていて。それは今回やりたいモデルの目的からしてあまり意味がないので、学習と評価は違う選手のデータを使うやり方で調べてみました。
予測結果はこうなります。こっちはAdコートでこっちはDeuceコートです、青いところは予測がWon、オレンジのところは予測がLostです。このAdコートとDeuceコートがバラバラだとちょっとわかりにくいので、さっきライン際の画像があったと思いますが、それに重ねてみました。
これがネットでAdコート、Deuceコートですね。グレーの縁がここの青い縁と対応しているんですけど、これを比較してみるとどこを狙うべきかがわかりやすいと思います。全体的にちょっと斜めです。ワイドに関しては許容範囲がちょっと広めのところがありますが、センターはこれよりももう少し厳しく狙わないとダメなのかなと示唆されます。一応この形がなんでこうなっているかみたいなのはちゃんと考えたんですけど、時間がないので今日は省略します。
ようやく、どこを狙えばいいかのポイントの評価基準が定まりました。テニス選手もいろいろいるので、その人たちが青いゾーンにどのぐらい入れられているのかで評価した結果がこちらです。上位と下位をそれぞれ10人ずつ出しました。この真ん中の列のここがさっき出した青いゾーンに何割サーブが入ったかという指標で、右が入ったときの獲得率です。
これを見てみると1位がラオニッチという大柄なカナダの選手でした。2位から9位の人たちはだいたい50パーセントぐらいの団子状態ですが、1人だけ58パーセントと高い数字です。
最初にライン際と話したと思うんですが、実は単純にラインからの距離でもランキングを作りました。ファーストサーブとセカンドサーブのどちらも1位で、この選手は本当に世界一と言っていいほどコントロール能力が優れているんじゃないかなと言えます。
あとはさっき名前を出したフェデラー選手も一般の定性的な話としてコントロールがいいと言われていて。結果を見ても上位にいるのでそれが示されたかなと思います。
ちょっと残念なのが、日本の錦織はワースト10でした。錦織選手はコントロールが良くないと言われていると思いますが、残念ながらそれを裏付ける結果になってしまったかと思います。
これはちょっとおまけなんですけど、さっきの1位のラオニッチは誰? というと、なぜか錦織の運命共同体みたいなことを言われている選手です。体格やプレースタイルとかはぜんぜん違います。ですが、同じ世代で似たような実績の持ち主で、同じようなタイミングで同じような浮き沈みをしています。
おもしろいのは今(※イベント開催時点)はコロナの影響で試合が全部止まっていますが、ランキング上でも5ポイント差ですぐ隣にいて、「なんでこんなに仲がいいんだろう?」とちょっと思いました。
時間が来てしまいますので簡単にまとめにします。まずサーブで狙う位置は、ライン際が良い。これは私の知る範囲だと一般論として言っていいと思います。それが常に良いことかというと、違うんじゃないのかなという考え方もありまして。なぜならライン際を狙う能力は技術的には高いと言えると思いますが、意味のあるところを狙えてこそコントロール能力というんじゃないですか? これが私の考えです。
じゃあどこを狙えばいいのかはファーストサーブだったらサイドラインやセンターラインの近く。「各ラインからどれくぐらいの距離でいいの?」については場所によって異なるので、帯をピッと引いて一律にここですと言うことはできないのではないでしょうか。セカンドサーブはどこを狙うべきと平均的に言える場所は、いまひとつ見つかりにくいのではないかと思います。
そういうことを総合して見てみると、私の見解としてラオニッチ選手が世界一のコントロールの持ち主ではないでしょうか。発表は以上です。ご覧いただいた方はどうもありがとうございました。
司会者:ありがとうございます。すごいおもしろいです。結果の図がすごくわかりやすくて素敵だなと思いました。
アキノヒ:ありがとうございます。
司会者:質問もいくつか来ていまして、まず1つ目が「コートの種類による影響があるんじゃないか」。これはたぶんハードコートか芝かどうかみたいなところだと思います。
アキノヒ:そうですね。
司会者:その分析をされていたらでよいのですが、どうお考えでしょうか?
アキノヒ:正直まだクレーと芝だったらどうしてもハードのほうがデータ数が多いのであまりやっていなかったんですが。影響があるとしたら芝のほうがサーブ側が有利になりやすいと言われているのでゾーンが広がり、クレーのほうがゾーンが縮むのかなとは思っています。
司会者:ありがとうございます。続いての質問です。「コントロールのランキングが先ほど出されて錦織がワースト10だったという結果があったと思うんですけど、それとサービスゲームとの獲得率の相関とかを見てみるとおもしろいんじゃないか」という質問......コメントが来ていますね。
アキノヒ:ラオニッチは相当サービスゲームの獲得率が高い選手です。全体的にサービスゲームの獲得率が高めの選手がいるかと思うんですが、中にはそうでもなさそうなやつとかが混ざっています。なので場所はいいところを打っているけど実はフォームでバレるとかはあったりしますね。
移動が遅い、回転量が足りないとか、そういう他の要素も複合的に言えるのかなとは思いますが、残念ながらスピードとか回転のデータがありません。そのため、断言するのは難しいかなと思っています。
司会者:そうですね。もう1つ「サーブを打つ場所の違いによる狙うべきエリアの違いもありますか?」という質問が今来ました。この打つ場所はサーバーが右端から打つとかそういう意味なんですかね?
アキノヒ:AdコートかDeuceコートかの話なのか。
司会者:そちらかもしれませんね。
アキノヒ:違うのかな。
司会者:いろいろな解釈ができるかなと思うんですが、イメージはどうなんでしょうね? ちょっとこれはまたあとで、詳しく質問できたらチャットにでも書いていただければと思います。
アキノヒ:たぶん選手の立ち位置かな。
司会者:そうですね。立ち位置の話かなと思いますね。
アキノヒ:ここから打つ……。たまに1人アホな選手がいるんですけど。だいたいみんな同じようなところにいるので、その1メートルや2メートルで差が出やすいかというと、そうでもないかなとは思いますね。
司会者:はい、ありがとうございます。それでは一旦こちらで締めたいと思います。ありがとうございました。
アキノヒ:ありがとうございました。
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