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新型コロナ対策 NTT 東日本-IPA「シン・テレワークシステム」おもしろ開発秘話(全4記事)

けしからんNTT東日本をやっつけようと思った 登大遊氏が注目する世界最大級のICT人材を育成できる環境

情報科学若手の会とは、情報科学に携わる学生、若手研究者、エンジニアのディスカッションと交流の会です。NTT東日本特殊局員の登氏が政府に配布停止要請されたVPNソフトの話など、シン・テレワークシステムの開発のもととなった数々の経験を開発秘話として講演しました。第3回は、いよいよNTT東日本に乗り込みます。前回の記事はこちら。

おもしろ23区内ネットワークを作る

とにかく、東京の初台にある本社に行ったら、ファイバーとかの電話局の設備の使い方を教えてくれました。これは、いわゆる総務庁さんのおかげで、解放された義務的ファイバーとかの利用制度があって、それを使えば、第三者の通信を媒介するためであれば、やってもいいんだと。

我々はVPNの実験のときに、第三者の通信を媒介することはよくあるので、「じゃあ置こう」ということで、大変きれいなNTT設備の中で我々のところだけおかしい場所が出来上がりました。

芸術的な配線、上に地域IP網のラックがありますけど、その中に卵かけご飯もありますと。放熱ヒートシンク(重要)もあります。こういうことで、どんどんいろんな電話局にこれを置いていこうということになりまして、つくばという茨城の都市から水戸、銀座、渋谷、丸の内、大手町、池袋とか……。

当時の東京は、何がどこにあるかあまりわからないですが、電話局の一覧表というのがあって、目に付くのが、銀座とか渋谷とか池袋とか大手町とか丸の内なので、これはおもしろいなということで、適当に選んでたというのが本当のところです。

必ずしもそこが電話ネットワーク的に中央ではないんですが、それでSoftEtherに履歴があったのでそれを使って、おもしろ23区内ネットワークというのを作っていったんです。これは自分らの勉強のためも兼ねていて、他社の通信事業者は、こういうことを遊びでやらないと思うのですが、我々はおもしろいからこれをやっていて、実は1円も儲かっていなかったんです。

自分の話ですけど、自分の作ったものが超低遅延23区内40ギガのレイヤー2のイーサリンクを作っていて、興味があれば誰でもタダで使っていいのですが、我々もそれによせたシン・テレワークシステム中継のけしからんRaspberry Piのものが、この上に載っているんです。

2020年の4月5日ぐらいにやろうと思っていたら、わずか2週間で21日にリリースできたのですが、そういうものがなければ、工事に何ヶ月もかかるからできないんです。

自分でファイバーを引くという楽しみ

我々はプロのNTT東日本のユーザーになりましたので、自分の家のフレッツが壊れても保証修理が終わることを待つことなく、故障修理のおじさんの作業を、自分も入れるので電話局の横で一緒に見ると。そうするとすぐにやってくれるんです。

さらに進んだフレッツユーザーは、フレッツは家に引くと、光ファイバー区間が故障すると直るのに時間がかかりますが、そのフレッツの線が切れないように、電話局の中にフレッツを引くんです。意味ないんじゃないかと思うのですが、電話局の中にフレッツを引いてそれを自分でダークファイバー、光ファイバーを通して家まで引くと。これをやったら、壊れる可能性が一番低いんじゃないかと。訳がわからないんですけど。

これをいちいちやる人は日本にいないだろうと思ったら、最近こういうことをやっている人が5、6名集まってきたので、やっぱり通信マニアはいるんだなと思いました。

やはり我々のようなNTTの重度なマニアになりますと、電話局の中のケーブルは普通は電話局の係の人に工事してもらいますが、これを自分で引くのは聞いたことがないとよく言われますが、この電話局の3階から8階までやってみたいので、自分でファイバーを引くということを3回ぐらいやりました。

さらに電話局から大学に100ギガのファイバーを引くというときに、最短遅延になるように、ルートなどを自分らで「こういうのがいいんじゃないか」とやってから、NTTにやってもらいます。

だいたいこの会に集まっている方ならありがちだと思いますが、あるシステムを使うと、そのシステムを作っている人たちよりもだんだん詳しくなりますよね。それの物理ネットワークバージョンをやっているというところだと思います。

そのような話には興味があるということで、NTTの持株本社のほうで講演してほしいと言われ、講演もやりました。講演をしようとすると、朝車の中に置いてあったリュックの紐が偶然NTTのマークになっていたので、だいぶ良い気分になりまして、それについての講演をしました。

フレッツのネットワークは改善の余地がある

やりたかったことがもう1個あって、偉大なるフレッツの網内遅延を最小化したいんですね。フレッツというのは、PPPoEで速度が出ないんですけど、みんな企業がVPNをPPPoEで張っていて、pingの遅延も多いですし、スループットも下がるんです。

それでIPv6を使えばフレッツ網内の大変高速低遅延な折り返しができるんですが、そのためには、ダイナミックDNSサーバーを網の中に設置させてもらう必要があります。

インターネットみたいな民主的なところでしたら、ICANNのトップレベルドメインの下の任意のところを選べば、月100円とかでドメインが取れると思うのですが、このけしからんフレッツは独裁政治になっていて、ドメインとかDNSとかを中に置かせてほしいと言われても、民主的な議会も何もないので、やらせてくれないんです。これはけしからんことじゃないかと。

それがフレッツの価値を下げ、日本国におけるこのすばらしいフレッツが、あるときICTエンドユーザーが低遅延で2拠点を結びたいときに、なかなかできないというのは、けしからんじゃないかと言いました。

初台のさっきの本社に行きまして、ここはデススターに似ているので、これを「ダースベイダー事件」と名づけたのですが、嫌なこと言ってできない理由ばかり言ってくるんでダークサイドもいるんですね。本社にはエレベーターホールが1階にあって、そこが『スター・ウォーズ』の様子とすごく似ているんです。

そこでいろいろ説得資料を書かないといけないということで、「フレッツのネットワークはこういうところに改善の余地がある」と。「特にダイナミックDNSについてはいろいろな潜在的需要がたくさんあるんだ」と。「しかもそれができない理由というのは見当たらないではないか」と。

なかなかやってくれないので、NTTを称えるような内容の日本郵政の切手を特注で作ってもらって、それを貼って毎回文章を送っていたんです。

世界最大級のICT人材を育成できる環境

あと、我々は筑波大でアヒルボートをやっていたので、「アヒルボートにも宣伝を載せていますよ」とか、GoogleのChromeでクリックすると動く「NTT東日本を守る内容のシューティングゲーム」を作ったりしました。そうすると、どうも「やってもいいんじゃないか」という話になったんですね。

それでNGN内に、使いやすいDNSを置かせてもらうことができました。これが今ホストと接続元だから、ホストの数が3万台使ってP2P通信、全部合わせると10万台ぐらいピアがつながっていると思いますが、それがこれを使っていて、しかもタダでやってます。

これで、日本の中でいろいろなIoT機器とかVPNルーターとかが、みんなフレッツを活用すればいいんじゃないかと。速度も短いし遅延も少ないですし。

こういうけしからんことをすばらしいNTT東日本の部外者としてやってきたんですけど、よくよく考えますと、このNTTにおける1つの企業として世界最大級のインフラ、コード、局舎、光ファイバー。

あとはフレッツというか、NTTでIPネットワークをやっているので、それを高度な人材育成のために、雇用環境を実際に何かやりたいなと思う人が比較的自由に触れるようにすれば、この日本は世界最大級の環境があるので、世界最大級のICT人材を育成するのに、この環境がそのまま使えるんじゃないかと思うんです。

このICT人材の育成という意味ですが、ファイアウォールを使う、回線を使う、クラウドで使うという人材を育成するという意味ではないです。OSやファイアウォール、回線、クラウドというような新たな概念を作って、世界中で役立っているようなものを生み出すツールみたいな、そういう方々を増やすという意味です。

そういう方々を増やすためには、環境が必要で、その環境を潜在的にもっているのは、実はこのNTT東日本なんじゃないかなと思ったんです。

NTT東日本はけしからんからやっつけないといけない

物理のところから、IPネットワークや上のアプリケーションを全部いじれるというところがすばらしい環境で、しかもそのよさを内外含めて、みんなまだあまり知らないというところが、すごいところです。

これはすごくいいのですが、これに匹敵することを自分で全部やる企業は、世界のICTの強力な会社を含めて、ほとんどないと思います。ただNTT東日本の中が、この人材育成的な価値について、まだどうすればいいのかわからないようなのです。

これが電話局の中です。

これがフレッツの装置ですね。みなさんの家から32家庭ごとにOLTというWDMの装置があって、それが巨大なルーターを通して、NTTのOSPFを通って、巨大な東日本全部のIPバックボーンにつながっていて、IPアドレスv6、v4のデュアルスタック、トンネリングもやって、ユーザー認証もやってますし、セキュリティ対策もしていると。

これはすごくおもしろいじゃないですか。

おもしろいクラウドサービスでも、ここまでおもしろいのはないので、どちらかというとこういうのをいじりたいなと思ったんですが、けしからんことに、このネットワーク装置の秘密を勉強しようとすると怒られるんですね。

通信事業者ですから、「非常に興味があるから夜中にコンフィグ見たろ!」と見ても、アラートが出て「すぐにやめなさい」と言われますし、装置を勝手に改良しようとして、この特注品の装置を夜中に勝手にDPDK系の安物に置き換えようとすると、この安物でも同じ性能が出るのに、おじさんが来て怒られますし、とにかくネットワークを勝手にいじりたいなと思っても、大学みたいに簡単にいかない。当然通信事業者ですから、簡単にはいかないんですが。

それで、大学の学生であればいろいろネットワークでおもしろい試みをするのがいいということになっているのに、それが就職してNTT東日本に入社すると、いきなり給料のためにやっているので、無断で新しいことをするなとか、エラーはないほうがいいんだ、と。逆に怒られることが仕事で、他の通信事業者は全部敵だから秘密だみたいな、これが従来の通信事業の感じなんです。

これはズレているんですけど、新たな方法の通信事業というものを大学の学生的なノリでやりたいなと思って、これをまだ誰もやってないNTT東日本は、けしからんからやっつけないといけない、おもしろさを増やさないといけないと思ったんです。

(次回につづく)

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