2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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永瀬美穂氏(以下、永瀬):まずは、そもそも「スクラムって何ですか?」という話になります。本当に頼んだわけでもないのに、最初のオープニングトークというかネタがうまくハマっていまして。「マネジメントのためのフレームワークなんですか?」とかを考えている人ももちろんいるでしょう。例えば「スプリントを回すことによって改善し続ける方法、開発手法ですよ」とか定義はいろいろだと思いますが、そもそもスクラムとは何ですかね? という疑問に当たります。
結局さっきのDave Thomasもサインしているアジャイルマニフェストの中に、プロセスやツールより個人と対話をという話があります。すごい不思議なのは、プロセスやツールよりと言っているのに、みんなプロセスの話ばかりしている点です。私は好きなのでするんですけど、他の人はしないでください。あれ? おかしいな。
(会場笑)
永瀬:好きな人が集まっているから話をするのはしょうがないとは思います。でも「フレームワークってなんだろう」という話ですよね。そこで予見的プロセスとか経験的プロセスという言い方をしたりします。予め将来が見通せて計画が正しくて、正しい計画があることを前提にして進めていく。その計画通りにいったことが成功の基準になるようなものが予見的プロセスです。
そうではなくて、将来の見通しというのは外れることも当然で、計画というのは変わることが当たり前。経験したことを基に次の計画さえも見直していきましょう。これが経験的プロセスです。スクラムはその経験的プロセス制御の理論を基本にしているというのを、そもそもスクラムガイドにもちゃんと書いています。
さっき言ったようにスクラムが得意とするのは非秩序系です。例えば、講演を頼まれて今まであったような慣れたカンファレンスのかたちで何百名の聴衆を相手に話をする。資料を作って、講演前までに提出もしておく。比較的自分の経験で言うと、何回も講演したり人の前で話すことが多いので、多少の変化はあるにしても計画を立てて進められます。
そんなにカオスなことじゃない。だけど今回のこのイベントの開催自体もそうですけど、まったくもって予期しないことが起きるわけですよね。
そういう中で「うっ」と思ってしまったというのは、私自身もそうなんですが、体に染みついた予見的な行動です。これは人によるかもしれませんが、小さい頃から、ずっと「計画を立ててそれをやりましょうね」が当たり前とされている家庭や学校の教育。
こういった、すごく染み付いている予見的な価値観というパラダイムがあるのだと思います。行動として染み付いているのがあると、自分でも今回のことをきっかけに思い知りました。
特にエンジニアの人は何をするかというと二言目にはすぐ「安全に倒す」と言うわけですね。そのときの、安全に倒すという話って、そもそも安全の範囲が狭すぎる問題があるかなと思っていて、それも「安全も何もなくて何もチャレンジしていないだけでしょ」ということもすごくよくあります。そこで、安全にチャレンジするためにフレームワークがあるのではないでしょうか。
実際にControlled Chaos……制御されたカオスという言い方をしたりします。その中で安全に実験や失敗をしてみることが、そもそものアジャイルやスクラムの価値かなと私は考えていて。
それが大事だとわかっているけど、「つい染み付いた行動の癖で予め予想されることを予想した通りにやるということだけに偏っていませんか?」。いろいろなところでコーチをしたり、今回の自分の反応を客観的に見ても、同じように思ったりもしています。
よくあるのがふりかえりとかで、「プロブレムに対する一個一個ひもづくトライをあげましょう」と言っているチームもけっこういるんですよね。別にいいんですよ。すべてがカオスである必要はありません。ちょっと計画して、その通りに進める。
例えば、スクラムや反復型プロセスのことをミニウォーターフォール......ウォーターフォールの繰り返しと同じイメージをもつ人も、少なからずいます。それはある一部では大きく間違っているものではありません。繰り返しが行われる中には、計画や要件定義することも含まれているので、もちろんすべてを否定する考えではないと思うんですが。そんなに単純じゃないです。
そのふりかえりに対しても、そのプロブレムに対するトライを挙げましょう、と。例えば「みんなの発言が減っているので、朝来たら挨拶をするようにしましょう」みたいなプロブレムが出て、トライをそうします。そんなに簡単な話だったらトライとか言ってないで今すぐやれという話ですね。
アクションに起こしやすくて、計測可能なトライというか改善を上げることはもちろんいいんですが。そうではなくて、お願いしたいことはたまに実験をしてみてほしい。一見何も相関がなさそうなことをやってみると、実はあとから因果があったと判明するかもしれません。
ぜんぜんわからない、まだ解明できないんですけど、風が吹けば桶屋が儲かるというような。私も以前どこかのブログで書いていたと思うんですが、腰の指圧をしたら足の痺れが取れた。そういう一見関係なさそうなことを実験してみてほしいなと思っています。何がどう影響するかは予見できないけど、チューニングしてみる。例えばふりかえりであれば、そういうことがいえるかなと思っています。
アジャイルなマインドセットを、例えばスクラムのスプリントを回すとか、計画でタスクを分解して確実に終わらせていって、とかのプロセスのやり方ばかりを注目してしまうこともあります。例えばスクラムマスターであれば、そのプロセスに則っているかどうかを観察して、違うところがあったらやり方を教えてあげる。師弟関係で例えると、守破離の守に当たる部分をやっていく。
そういうスクラムマスターもいると思います。そうではなくて、ぜんぜんわけのわからない、刺激になるかもしれないものをポンとぶっこんであげる行動をする。スクラムマスターの人であればやってみてほしいなと思っていて、私もコーチの立場ですが、たまにそういうことをやります。
「なんだこの人は?」みたいな行動をするんですけど、何が当たるかわかりません。こうすればこうなるとわかっているものは、誰でも気付くことができるし。そうではなく、どうなるかわからないけど、何か刺激にはなるに違いないことにチャレンジしてほしいと思います。
とは言え、やっぱり人それぞれに染み付いている行動の特性もあると思いますが。私は詳しくないですが、性格とかも関係してくると思うので、チャレンジングなことや冒険が苦手な特性の人は、その逆の特性の人と組む。私たちは1人じゃないので逆の特性の人とペアになる。昔Bas Voddeさんのスクラムマスター研修を受けた人は、そこでバディを組まされますよね。
ペアでお互いに刺激し合うような組み方をする。別の会社の方でもいいし、もちろん会社が同じだったら具体的な話、コンテキスト依存の話でも当然いいと思います。自分の特性と違う人と組むというのは、すごく簡単で取りやすい。「この人と組んでどうなるんだ?」と、それはわかりませんよ?
それからもう1つ言うと、違う特性の人たちとチームを作る。すなわちこれがダイバーシティということです。似たような価値観で「よし行け!」と言ったらみんなで右や左に行くことは、とても気持ちいいし心地よいのはわかりますが、そうじゃない。自分の違う特性の人たちとチームを作ったり行動することで、自分自身を変えることが難しくても周りから刺激を受けることができます。
例えばスクラムギャザリングの実行委員会とかもそうなんですね。あとはアトラクタの面々もそうなんですけど、ちょっと言葉が汚いんですけど、昂ったのががこの辺なんですが(笑)。
(会場笑)
永瀬:要は、「普通はこうでしょ?」「常識的に考えたらこうじゃん」という部分の考えがズレている人と組むのは本当にイライラするけど、自分の可能性が広がるんですね。スクラムギャザリング実行委員会とかも、年に3回ぐらいは喧嘩しています。
(会場笑)
永瀬:弊社の中でも年に何回かは喧嘩......と言ってもみなさんが思う喧嘩かどうかわからないですけど。アグリーしないことにアグリーするということをよくしていますね。
ということで、自分1人で行動の特性を変えるのは難しい。それができる人ももちろんいますが。自分の可能性を広げるために、いろいろな人とやってみるのはいいんじゃないかなと思います。でも、さっきも言ったけど、その代わりめちゃくちゃイライラします。そういうときに話せる場所が、こういうカンファレンスや勉強会のコミュニティではないのでしょうか。
例えばアジャイルの導入。私はアジャイルコーチという仕事をしていますけど、そのアジャイルの導入支援としたりとか、現場でチームにくっついてコーチングすることもあります。その導入支援をしているときに、冒頭に私のキャリアやどんな関わりをしてきたかの話を若干言いましたけど、2000年代の最初ぐらいから2009年ぐらいまでは、私はアジャイル開発をやっていません。
本を読んで「ふーん」と思っていたぐらいで、あまりわかっていなかった。なので最近はあまり聞かないですが、一周目とか二周目とか三周目とかの話をしている人もいましたね。最近はアジャイルやスクラム、XPでも何でもいいんですが、アジャイルなやり方に興味をもってこういうコミュニティに入ってきた人が、何周目かなんてそんな話はどうでもよくて。例えるならお笑い第7世代みたいなものですよ。
(会場笑)
新世代の世界なんですね。私は第2、3世代ぐらいだと思うんですけど。昔苦労してきた、例えばお客さんのところに導入の説得に行ったとします。説得材料がたくさんあって、「昔のやり方はこうでしたよね?」と合意を立てて「こういうところに問題がありますよね」「これは難しいですよね」「こうしませんか?」などの説明をしてあげる。
あとは昔受託でやっているときは「そうは言っても絶対ここまではやり切りなさい。アジャイルとか何だか知らないけど」みたいなことを言われるから、その辺も織り込み済みのバックログを工夫したり、苦労をしていたのが昔の世代だと思うんですけど、でも今の新世代は、そんな苦労を当然ながら知らなくてよいんですね。
私が大学でアジャイルをPBL(プロジェクトベースドラーニング)に取り込んで、教える仕事を2013年からやっています。もう7年、8年? 要は社会人5年目より下の人たちぐらいは、少なくとも各学年に数百名とかの単位で学生時代にアジャイル開発をやっていた、アジャイルネイティブみたいな感じです。さらに受託系ではなくて、キラキラしたWeb系の企業にポンと行って。
そこがアジャイルをやっているかは私は知りませんよ?知りませんが、そういうところで、要は従来の価値観じゃないところだけを生きている世代も当然いるでしょう。そこに対して昔話をして、同じ苦労をさせることはまったくないと思っています。
ちょっと話がズレましたが、何が言いたいかと言うと。私が特にそうだったんですが、コミュニティにすごい恩義を感じているというか、いいものだと思っていても、初期のころは会社の中でやっている人なんて他にいませんでした。うまくいかなかったりもすることもあるので、苦労話をお互いに話して勇気をもらう。そして、現場に帰って「やっぱり現実は厳しいな」とか言って、共感し合うみたいなことをする。
そういうのも悪くはないと思いますが。そういうしみったれた世界はさっさと終わらせたほうがいいんじゃないかと最近は思っています。何をしたいかと言うと、カンファレンスなどで、「実験してみた」「大暴れをしたぞ!」「革命を起こしたぞ!」みたいな話が聞きたいんですね。
昔の秩序とうまく折り合ってがんばった事例は、それは本当にご苦労さまと思うし、尊敬もします。でも、それはそれで置いておいて、別のしがらみのない新しい話を聞きたいです。
なので例えば説得とかもそうなんですけど、「話通じないならいいでーす!」と言えるぐらいで、進路を変えることができるように、別の世界をたくさん用意しておく。「話通じないならうちなら通じるから来てよ」と、転職もそうですが、そういう世界というのを特に旧世代……新・旧分けるわけではないんですけど、古い秩序系の人たちは準備しておいてあげてもよいのではないでしょうか。
あとはその新世代、新しいパラダイムに任せていきたいかなと思っています。それがこういうカンファレンスとか勉強会とかそういったところの存在意義だと思っていて。ブログにも予告を書きましたけど、今回のオンライン開催になったことも、私たちには前例や経験がない。
その従来の価値観でよいと判断・診断できた世界というのは、新しい価値観ではよいと判断できなくて当たり前です。今回のCOVID-19もそうですが、大きく人々の生活を変えてしまいました。例えば「まさかうちがリモートなんて」と言っていた会社がリモートに踏み切ったりしているような状況です。「やればできるじゃん」という話だったりするんですけどね。
なので今までの価値観......ハンコ必須だった会社がPDFでも可能とかにもなっています。今までよしとしてきた価値観だと、新しいものを否定してしまうこともありますが、それは今後必要ないと考えていて。「それは以前の話ですね。今はこうなので」と堂々と話をしていけばいいかなと思っています。
そこを折り合わせながら、今までのパラダイムの人にも理解を得ながら新しい世界を作るのはすごく苦労するでしょうし。まったく無くならないと思うんですけど、そこに対しては経験のある人たちに任せてしまえばいい。年齢は関係ないですが、特に新しい人はポンポン軽々とアジリティのある行動を取っていただければと思います。
そこのコツは、既存の価値観で成功したパターンとまったく違うことをやってみることです。「今までだとうまくいっていたはず」が効かないので、「今までだったらこんなこと言ったらだめだろうな」ということをやってみるとか。保証はできませんが。危ないのは、自分たちに染み付いた今までの価値観で、事前に評価してしまうことです。
例えばふりかえりのトライでもそうですが、こんなことをやって何の意味があるのだろうか。これをやってこういう結果に結びつきそうにないなと考えたときの自分のベースがたぶん古いので、事前に評価しないでまずは行動して起きたことを評価しよう。さっきのDave Thomasの話もそうですが、まずやってみて振り返って評価する。当たり前なんだけど、つい忘れていませんか? という話です。
ということで、ちょっとした「うっ」とか「いやだな」とか「うっ、苦手かも」と思うのは決して悪いことではありません。成長のチャンスやかいいきっかけになる可能性がある。わからないですけどね。
なので実験して失敗してそこから学習をしていくこと。スクラムが「プロセスだ」や「フレームワークだ」とか「アジャイル開発手法だ!」と、ふだん考えてしまいがちな私たちの改めるべきポイントだと最近思っています。
お話がだいたい終わりに差し掛かってきているんですけど、さっきあゆみちゃん(@ayumi_hsz)から、スクラムギャザリングのスポンサートークでも紹介していましたが。イノベーションスプリントから10年経って、スクラムギャザリング東京が2021年1月にやるイベントの基調講演は、野中郁次郎先生が参加します。
10年前のイノベーションスプリントとか、あのころはいろいろなアジャイル系のカンファレンスにも先生に出ていただいてお話されていました。例えばフロネシスやミドルアップダウン、インテレクチュアル・マッスル(知的体育会系)とかですね。「同じようなことを言われて同じように感銘を受けていたらはっ倒すぞ」という話ですね。
(会場笑)
永瀬:私たちもこの10年で同じように変わっていて進化しているはずなので、新しい10年後の気持ち。10年前のを聞いていない方はもちろん感銘を受けてその通りだと思うんですが。10年経った今、10年前の自分と同じ気持ちで聞かないで、新しいものを何か見つけてください。
ということで、カンファレンスは特にスクラムギャザリングとか実験の発表会や自慢大会にしたいと思っています。今日もこのあと懇親会でしたっけ? 正式な名前は忘れましたけどあったりとか、明日は朝から夕方まで一日中(笑)。トラック数にするとたくさんのセッション数があります(笑)。
(会場笑)
秋元:すみません(笑)。
永瀬:いえいえ。盛りだくさんで行われると思うので、あとはDiscordのいいところは「ボイスチャンネルでちょっとあそこで話そう」とできるところです。明日は他の人のセッションを聞いていないときや疲れたときは、スクラムギャザリングか弊社のシルバースポンサーのボイスチャンネルとかにいると思います。話したかったらそのあたりに来てください。
「次の、例えばSCRUM FEST OSAKAまでにはこういう実験をしてみたいんだ」という話があったら、どんどん語っていただければ一緒にお話をしたいと思っています。基調講演としては以上です。ありがとうございました。
会場:ありがとうございました。
(会場拍手)
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