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Fortniteのユーザーエクスペリエンス(全3記事)

ゲームの「作業感」をどう軽減するか? 『Fortnite』開発者が語る、ゲームUXのフレームワーク

2020年3月28日、NPO法人国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)主催の特別ウェビナー「『Fortnite』のユーザーエクスペリエンス」が開かれました。講演者は、世界的ヒットゲーム『Fortnite』のUXディレクターで、書籍『ゲーマーズブレイン UXと神経科学におけるゲームデザインの原則』の著者としても知られるセリア・ホデント氏。自身が携わった『Fortnite』開発時の事例を中心に、ゲームのUXデザインや人間の脳のしくみについて解説しました。 ※この記事はIGDA日本に許可をいただき、ログミーTechが独自に編集したものです。内容についての責任は弊メディアにあります。

『Fortnite』のUXのフレームワーク

セリア・ホデント氏(以下、セリア):では次に、『Fortnite』のチーム内で使っていた、ゲームUXのフレームワークをちょっと紹介したいと思います。

ゲームのUXは基本的に2つの柱で構築されているものです。1つ目がユーザビリティ。要するに使いやすさですね。簡単に言うと、対象物を簡単に使えるか、それとも使っていてイライラするかです。

これが、次に示しているのが原則になります。ここですべてを今回カバーすることができないので、2つ紹介してみたいと思います。

1つ目が、先ほどもちょっと出てきていたものではあるんですけれども、「形態は機能に従う」「姿は機能に従う」ものと、一番下の「柔軟性(Flexibility)」についてですね。

ただ、覚えておいてほしいのが、スライド一番上に書いてある部分のSigns & Feedbackですね。どのような情報を提示して、どのようなフィードバックがあるのかも非常に重要なので、こちらもぜひ重視してください。

最初に取り上げるのが「形態は機能に従う」。あるいは、最近はアフォーダンスなんていう言われ方もしますけれども。ゲームの中に出てくるものが、その形、その姿、あるいは音などでどういった役割を果たすのかを示すことが非常に大事です。

任天堂は、とくに『スーパーマリオワールド』が非常に優れたデザインをしていると思っていて、それぞれの敵がどういった方法でプレイヤーにダメージ、害をなすかがわかるのではないかと思います。

姿を見るだけで、どういうふうにして倒せばいいか、あるいはどういう危険がこの先待ち構えているかが相手を見ただけでわかりますす。

例えばクッパは、甲羅にトゲトゲがついていることから、踏みつけたらダメージを受けることがわかりますよね。

この「形態は機能に従う」という原則は、かなりゲームにおいて重要なものです。これは、UI、アイコン、キャラクターデザイン、そしてそれ以外のすべてについても同じです。なぜならば、この原則に従うことでゲームが直感的になるということなので、直感的に遊べるゲームになればチュートリアルも少なくて済むということだからです。

柔軟性とアクセシビリティがキーになる

そして次に紹介したいのが、柔軟性とアクセシビリティについてです。これは基本的に遊びたいプレイヤーが全員遊べるようにするためのものです。要するに、どのような障がいを持っている方でも遊べるようにしたいということですね。

こちらに表示されているWebサイトは、とくにガイダンスなどを提示していて、すごく基本的なものからすべて揃っているのでご覧ください。ここでやっていることは基本的に「より多くの選択肢をプレイヤーに提供する」ということです。

なお、ここで言う障がいは、基本的に永続するもの、一生涯持っているものだけではなく、一時的でもあり得ることは覚えておくべきでしょう。例えば、一時的に片手しか使えない状況というのは、地下鉄に乗っていてなにかにつかまっている状態は、片手しか使えない状態であるわけですよね。

そういった意味でも、アクセシビリティを高めるということはより多くの人に楽しんでもらえるゲームになるということです。

ゲームに「夢中にさせる力」をどう担保するか

ただ、ゲームの遊びやすさは非常に大事なことではあるのですが、それだけでは不十分ですよね。ゲームというのは楽しくなければいけませんから。

これが次に紹介するEngage-ability。意訳すると、「夢中にさせる力」みたいな感じになるでしょうか。

Engage-abilityを高める上で重要な点がこの3つです。1つ目がモチベーション。2つ目がEmotion。ここでは情動と呼ばせていただきます。3つ目がゲームフローです。

本日はこの3点すべてについてお話しする時間はないんですが、今日はモチベーションについて、そして難易度曲線などについてお話ししたいと思います。

もちろん、ゲームを作る上では、難しいことを乗り越える、チャレンジも必要になってくるわけです。ただし、チャレンジ、課題、難題というのは、あなたが意図して作ったものでなければいけません。

では、さっそくモチベーションについてお話ししてみましょう。モチベーションには2つの種類があります。Extrinsicというのは「外発的」、Intrinsicというのは「内発的」な動機づけということになります。

外発的動機というのは、基本的にはなにか報酬などを求めているときの何かを得られる動機ということですね。例えばクエスト。クエストに興味がなかったとしても、その結果得られる報酬があるので、報酬のためにクエストを進める。これが外発的動機です。

そして内発的動機づけというのが、「自分がやっていて楽しいからやる」というような動機です。

「クエストをやればこの報酬が得られるから」というようなお話はみなさんよくご存じだと思うので、内発的のほうに特化してお話を進めたいと思います。

「自己決定理論」に基づくUX設計

ここでお話しするのが、内発的動機づけのお話をする上で基本的な理論として使われているSelf-Determination Theoryです。SDTと略されていますけれども、日本語では「自己決定理論」と呼ばれています。

この理論では、誰かが自発的に動機を得るというところに3つの柱があると考えていて、それは有能性(Competence)、自律性(Autonomy)、関係性(Relatedness)と考えられています。

この有能性(Competence)というのは、基本的には「自分が成長している」「自分が前に進んでいる」という感覚のことを指します。なにかが上達している感覚とも言い換えられるでしょう。ゲームにおいて、有能性を感じさせる、なにかが上達していると感じさせることは、内発的動機づけの上で非常に重要です。

例えば、アクションゲームなどはスキルにかなり依存したものになっていますよね。ロールプレイングゲームのように外付け的に能力が上昇していくという部分もあるでしょう。RPGなどではレベルアップするたび上キャラクターが強くなっていくことがありますからね。

これは進捗バーの重要性、例えば80/100とか、どこまで進んでいるかがわかるバーを出すことの重要性にもつながっています。終わったかどうかではなくて、どこまで進んでいるかを感じられることが大事ということですね。

これを実現するには、自分でどのように進めていくかを決められる感覚がすごく大事になります。その上で、プレイヤーがチュートリアルを通じてゲームの遊び方を覚えていく、その先は自分が選んでいけるとなっていくわけなので、チュートリアルの重要性は高いわけです。

次は自律性(Autonomy)ですけれども、これは基本的に自己表現の話です。一般的なところで言えば、キャラクターやスキンが選べる、やることが選べる、といったことが自律性です。そして選択肢を選ぶことに意味を持たせること。それからさまざまな解決法を試せるということですね。

Fortniteにおいては、この自律性というものを高める上で「エモート」の重要性がとても高くなっています。

最後、Relatedness(関係性)ですが、これは人類というのはそもそも社会的な生き物なので、非常に重要だということです。このため、ゲームの中に協力モード、あるいは競争、対戦モードがあるのはとても強い要素になりますよね。

世の中ではけっこう対戦が強く押されるところが多いと思うんですが、実は協力プレイのほうが強いんですよね。例えばチームスポーツ。チームスポーツは、基本的には協力プレイをして相手のチームに戦いを挑むわけです。

というわけで、ざっとおさらいしましたけれども、有能性・自律性・関係性という3つが、ゲームの内発的動機づけにおいて非常に重要になってきます。

ただ、改めて繰り返しになりますけれども、あなたの作っているゲームがどういったゲームかによってまた変わってきますので、お気をつけください。もしシングルプレイヤーのゲームであれば、協力の部分は例えばNPCとの協力などになるでしょう。

プレイヤーがゲームを遊ぶ際には、なぜそれをしているのかをプレイヤー自身がわかっている状態を維持することが非常に重要になります。

これはFortniteで建築要素を初めて使うときの模様の動画です。ここで段差があって超えられない状態になっているので、階段を作って上に脱出する必要があります。これによりプレイヤー側としては有能性をまず強く感じさせられるわけですね。自分ができることが増えることがまず1つあり、それをさらに自然なかたちで提示できることになります。

ゲームの「作業感」が問題になってきた

最後に紹介したいのが科学的手法というものです。ゲームでは当然間違いがたくさん起きるわけですけれども、そのうちどれが一番影響力が大きいのかを特定する必要があります。

問題をただ解決するのは、意外とそんなに難しくないと思うのですが、正しい問題を特定してそれを解決するのが実は難しかったりしますよね。だからこそ、プレイテストを重ねることで、プレイヤーが何を理解して・何を理解していないのかを判断することが非常に重要なわけです。

今スライドに表示されているのがFortniteで利用していたユーザーエクスペリエンスのパイプラインです。まず左上の部分がHypotheses(仮説)ですね。どういった仮説を持っているかというのがまず最初に一番大事になってくるわけです。

開発中にはいろいろなデータの収集も行なっていたのですが、一方で、並行してプレイヤーに対してアンケートみたいなものを取って調査を進めていました。ある時点でプレイヤー側から「ゲームの作業感が高い」と返ってくるようになりました。

これはシステムデザイン的に、例えば計算式だとか数字上の間違いがあるからそのように感じられているのかと思ったのですが、システムデザイナー側からすると、「いや、これは別に数字的にはぜんぜん問題ないと思う」という返事が返ってきました。

ということは、システム上問題がないということなので、プレイヤー側の知覚でなにか問題が生じているというところに我々はたどり着きました。先ほども申し上げましたが、知覚というのは基本的には主観的なものですから。

「作業感」を軽減する仕掛け

セリア:では、なぜ作業感が高いとプレイヤーが感じるようになったのか。これを調査したんですが、Fortniteにおける収集要素の弱点について、ちょっとお話ししてみたいと思います。

Fortniteでは、素材の収集をする際にUI上で「弱点」が表示されるんですけれども、これをプレイヤーが狙うことによってより高速に収集が行なえるようになるのですが、実際にプレイヤーのプレイテストの様子を見ていると、こんなふうでした。

(映像が流れる)

矢澤:無視されてる。めっちゃ無視されてる。

小野:(笑)。まあ、気づかないですよね。

セリア:そうですね。ご覧いただいたとおり、まったく完全に一切無視されてましたよね。

小野:(笑)。

セリア:これは非常に大きな問題で。というのも、ゲーム自体がこの弱点を使うことを想定していろんな部分をデザインされているわけですから、これが使われないのはかなり大きな問題になってくるわけです。もちろん使わなくてもできるんですけれども、その場合は収集にものすごく長い時間がかかってしまうわけですね。

小野:殴りまくってました。

矢澤:殴りまくってましたね。

セリア:というわけで、この問題を解決する必要が出てきました。プレイテスト中に弱点を見せて「これ何だと思う?」とプレイテスターに聞いたところ、「えっ、わからない」という答えが返ってきちゃったと。

そこで、何度もイテレーションを重ねていって、背景とのコントラストを高めるようにしていきました。右側のほうですね。

先ほども申し上げたとおり、人間の注意力というのはもうぜんぜん大したことないので、よっぽど目立ってなければ見逃されてしまうと。そのため、UIデザイナーが弱点をちょっと大きくしたり、ちょっと脈動させるようなアニメーションをつけたり、いろいろ工夫を重ねてくれました。その結果、もう一度テストしたのがこちらになります。

(映像が流れる)

それでも使ってもらえませんでした!

小野:(笑)。

セリア:それで「これは何だと思いますか?」と弱点マーカーの意味についてプレイテスターに聞いたところ、「僕が今これをターゲットしてるという意味だよね?」という答えが返ってきました。少なくとも認知されているということで、一歩前進です。ただ、本来の目的の用途では使ってもらえていません。

そこでゲームデザイナーが新しくおもしろい取り組みを始めました。当初は弱点という要素が最初から使えるようになっていたんですけれども、これを一番最初は使えないようにしました。

そして、スキルツリーの中に弱点を見えるようにする機能を組み込んだことによって、それを最終的にユーザーが解除して手に入れるかたちにしたんです。これをユーザーが自分で見つけて探して、解除して、手に入れるものというかたちにしたんですね。

さらにおまけとして、これでもかと言わんばかりに、左上のほうに動画で「弱点はこういうふうに使うんですよ」というのも見せるようにしました。

「ユーザーエクスペリエンス」の本質的な価値

これによって、弱点が見えるというのが何らかの報酬というかたちになって、意義あるもの、意味あるものになったんですね。この変更後、プレイヤーさんがどのようなプレイをしていたかご覧ください。

(映像が流れる)

テストのほうは成功ということで、プレイヤーのみなさんが実際に弱点を有効活用して収集をするようになりました。もちろん達成率100パーセントというわけにはいかなかったんですけれども、それでもかなり高い利用率になりました。

これを通じて、ユーザーエクスペリエンスがただUIだけの話ではなくて、もっとゲーム全体に関わるものだとわかっていただけたんじゃないかと思います。とくに、今回の弱点の部分については、ゲームデザインを変更することによって解決できたものでしたよね。

今表示されているのがユーザーエクスペリエンスを組み立てる上での素材となるものです。材料と言ってもいいかもしれません。ただ、これはレシピではないことにご注意ください。あなたが作っているゲームに応じてどの材料を選んで入れるかというのはゲーム次第になります。

そして、どんなゲームなのか、ターゲットとしたいプレイヤー層はどこなのか、どういったチャレンジ・課題をプレイヤーに課したいのか、そういったものに応じてこれらを組み合わせてみて、ユーザーエクスペリエンスを組み立ててください。

ユーザーエクスペリエンスは、ゲーム開発中に物事をすべてを考える上での哲学みたいなものとして捉えていただければと思います。

プレイヤーにどういった体験を提示したいのか・提供したいのかという考え方であり、プレイヤーの身になって考えるということであるわけです。そして、意図しないイライラのもとはすべて除去していくべきです。

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