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アグリテックの新たな成長戦略(全4記事)

日本の技術が海外の農家の収入を7〜8倍にする 収穫量と品質を上げる“農家の技”

経営に関する「ヒト」「カネ」「チエ」の生態系を創り、社会の創造と変革を行うグロービス。「あすか会議2019」では、テクノロジーや宇宙、地政学、ダイバーシティなどのさまざまな分野の有識者らが集い、日本の未来のあるべき姿と、その実現にむけて一人ひとりがどう行動していくべきかを考えます。本パートでは「アグリテックの新たな成長戦略」をテーマに、日本の農業の技術力を海外に輸出する効果を紹介しました。

ベトナムのサツマイモ農業、シンガポールの焼き芋販売店

木内博一氏(以下、木内):実は野菜も、何を作るかによって、その場所でやる魅力があるかないか、わかれると思うんですね。

例えば佐々木さんはダラット(ベトナム中南部の都市)に行っていますが、ダラットって日本より断然、土地・農地が高いんですよ。我々が日本の千葉県で1ヘクタールあたり……10アールでいいですね。10アールは300坪です。だいたい我々は、300坪あたり年間1万5,000円ぐらいで借りるんですね。ダラットはだいたい日本円で5万円ぐらいなんですよ。

先ほど岩佐さんが言った通り、本当に土地がないんですよね。だから佐々木さんの株式会社ルートレックのように、施設園芸などの土地をあまり使わなくても作物が採れるようなものは、もしかしたら気候や標高が合ったりするから向くのかもしれないです。

我々はベトナムでサツマイモをやっているんですよ。実はまだR&Dの状態ですが、もうサプライチェーンからデマンドチェーンまでを我々はすべて一気通貫でやるというかたちで考えています。

今シンガポールではドン・キホーテさんが、けっこう焼き芋を売っています。農水省や僕は「いや、うちの方もやっているんですけどね」と言っているんです(笑)。我々はシンガポールで、2019年の秋ぐらいまでにだいたい60ヶ所ぐらい焼き芋の販売店を設置します。

これを一気通貫でフランチャイズシステムにします。機械から全部、我々で開発して、その機械を置かせていただいて、そして管理費をお支払いする。だから今、そのサツマイモはすべて、我々が日本から全部送っています。

日本の技術力で、ベトナムのサツマイモ農家の収入が7〜8倍に

木内:それで、なぜベトナムでやるかというと、やっぱり日本というものを全世界に広めたいなと思っているからです。その場合、どうしても日本だけでの供給量では限界がある。だから我々としては、技術を持って行ってベトナムでやろうということなんです。もうこれは3年ぐらいやっています。ほぼ変わらないと思うんですけど、日本の商品はAグレードなのに対し、要はBグレードって言うんですかね……。

実際どうなっているかというと、ベトナムにもサツマイモはあるんですけど、サツマイモって対面積あたり、例えば10アールにしたとき、彼らの技術だと1トンしか採れないです。我々の技術を持っていくと、だいたい2トンが見えてきます。だから倍の収量が採れるんですね。

それだけではなくて、実は一番大事なことはAグレードとBグレードというところです。今までのベトナムの技術だと、たぶんAグレードが3割、Bグレードが7割なんですね。我々の技術を持っていくとAグレードが6割~7割、Bグレードが3割~4割になります。これを複雑に掛け算すると、だいたい収入が7~8倍になるんですよ。

佐々木伸一氏(以下、佐々木):今、品質のお話が出たんですけど、品質もものすごく重要なんですが、収穫時期によって相場は変わるじゃないですか? そういったことっていうのはいかがですか? コントロールしていますか?

木内:それはまさしく、我々の場合はお肉で言うと「部位バランス」みたいな話ですね。サツマイモというのは例えばサイズでいうと3L・2L、そしてL・M・S、そしてS外となるんです。

グレードごとに用途が違うわけです。我々は日本国内でも全部やっていますけど、これは上から下まできれいに全部販売戦略が組めるというのが、拡大ができる理由なんですね。

サツマイモの出荷時期を巡る、生産地の思惑

佐々木:それって、生駒さんのところの技術で収量予測をされるじゃないですか? そのときに、A・B・C・Dのランクが分かれるとしたら、たぶんその形態評価みたいなことができる気がするんですけど、どうなんですか?

生駒祐一氏(以下、生駒):そうですね。サツマイモがおもしろいのは、規格には今言ったサイズという「横軸」と、品種という「縦軸」があるんですよ。例えば千葉県は1つの品種を通年出すのに対して、茨城県は4つの品種を時期ごとに組み合わせて出荷をしています。それによって市況に山や谷があったりします。山の時期にだいたい当ててくるのは四国の産地の方々で、高い時期にピンポイントで当ててくるんです。そんな業界構造になっています。

僕らからすると出荷量を予測するのと、土の中を予測するのってまだまだ難しいんですけど、マーケットデータから「ここに生産のピークを持ってくればいいよね」というデータを計算してはじき出すことはできます。予測と言うよりは、システム化とか解析です。そういったところかなと思います。

後は、佐々木さんの自動灌水にお任せしようかなと思っています。

消費者の価格への感度が高い食料品

岩佐大輝氏(以下、岩佐):ありがとうございます。たぶん今お話をうかがっていて、私や木内さんのモデルはバリューチェーン統合型、垂直統合型なんですよね。R&Dから販売までやって、それで何かしらの優位性を作るようなことをやっているかと思うんです。

佐々木さんや生駒さんはプラットフォーマーとして軍師の立場であったり、システム提供者の立場だったりすると思うんです。結局、佐々木さんのシステムを使うと、要はPL(損益計算書)でいうどこに作用するんですか?

農産物って価格の感度がすごく高くて、例えば「今年は冷害で、レタスの値段が50円高いです」とか言うと、ニュースとかで大騒ぎするでしょう? でも、iPhoneが1.5倍になっても誰も騒がず、たぶんみんな買いますよね? それはやっぱり食料品は価格の感度が高いからなんですよね。

そんな中でテックにお金を入れるということは、やっぱりどこかからお金を取らなきゃいけないわけですよね? 価格を上げるのか、原価を下げるのかはわからないですけれども、そのあたりのストラクチャーについて、教えてもらうことはできますか?

アグリテックは「農家の技」を補填するもの

佐々木:はい。農家のPLって、売上、あとはコストというのがあるんです。僕は他産業から入ってきて、「農業ってものすごく儲かる産業だな」と思いました。というのは、農業って製造コストがほぼ一緒なんですよね。

すごく分かりやすく言うと苗1本が200円で、それで何トン採れるか、何キログラム採れるかで売上が上がっていくんですね。その「何キログラム採れるか」というのが農家の技だと思うんですよ。それをアグリテックによって補填・補佐していくという構造を考えています。そこで売上が上がったということは、つまり利益が上がったってことが言えますので、農業は本当に儲かるんじゃないかなってちょっと思っています。

岩佐:単位面積あたりの製造原価を下げるってことですか? それとも、単位面積あたりの収穫量を上げるっていうことですか?

佐々木:単位面積あたりの製造原価は同じにもかかわらず、ちょっとがんばって反収(注:田畑1反、すなわち約10アールあたりの作物の収穫高)が上がるとします。例えば2割、反収が上がったら、その分の2割は売上ではありますが、利益に非常に近い。また、A・B・C・Dっていう品質が上がれば上がるほど、労働力は同じなので、その分売上が上がります。それはイコール、プロフィットが上がるって計算できるんじゃないかなって思います。生駒さん、違いますか?

わずか4%の労働時間の削減で、収穫量が2割増加

生駒:佐々木さんのところのデータ分析をしたテラスマイル株式会社の生駒と申します(笑)。すごくびっくりしたのは……。

灌水の手間自体は農家の労働時間のたった4パーセントしかないんです。だから自動灌水でコスト削減って言っても「4パーセントのコストに対して300万円の投資をする」ということなので、初期はネガティブだっていう考えでした。

それが、データをいただいて分析をしたら、収量が2割も伸びたんですね。びっくりしました。なんで単位面積あたりの収量が2割伸びたのかって思いますよね。実は、農業経営者は朝10時から12時までずっと「水をいつあげるか」、それだけを考えていたからです。

それが(自動潅水の導入によって)収穫に専念できるようになった。熟練者なので収穫スピードが加速して、結果、期のサイクルが早くなって収量が2割伸びたんです。「外せば外すほど次の花が呼び込む」というのが農作物のサイクルなので、そんな結果が出たんです。

岩佐:2割上がるってすごいですよね。だってさっきの話からすれば、1,000兆円マーケットの2割ですから(200兆円増えて)1,200兆円。(市場規模が300兆円と言われる)自動車産業ができるぐらいになるわけですよね。それぐらいのインパクトがあるってことですか?

佐々木:だからアグリテックっていうのは、ものすごく可能性を秘めていると思います。あとはそれを使いやすい価格帯とかにしていかなきゃいけないので、そこは金融業界と組みながらどんどんやっていくかたちですね。「サブスクリプション」って、最近キーワードのように言われていますけど、そこと農業をうまく組み合わせてアグリテックを農家の方に提供してくっていうのが今後の、1つの姿かなと思います。

農家が目指す、データ活用の3つのステップ

岩佐:ちなみに佐々木さんはGCPから出資を受けているけど、エグジットはどうしろって言われていますか? どうするの?

(一同笑)

佐々木:内緒です(笑)。

(会場笑)

岩佐:内緒ということで(笑)。生駒さん、経営性、PL、数字の観点から何かありますか?

生駒:うちはもう明確で、データをお預けくださった農家のやりたいことには、3ステップあります。1つ目が販売力を上げたい。売上を上げたいということなんです。

岩佐:それは価格、単価を上げるということ?

生駒:そう。売る時期の単価を上げたい。データを活用して、契約出荷に持ち込むということですね。同じ量でも市場に出している1.3倍の金額、それでアベレージで出荷できるから、売上が上がります。それをやるためにデータを活用したいっていうのが1つ目です。

2つ目がやっぱりマネージメント。これは何かと言うと、人を雇用する農業法人になると、ある一定の品質で生産性を保ったり品質を保ったりと、マニュアル化が重要になります。そのマニュアル化をするために、勘と経験をデータに落として見える化したい。そんなところかな。

3つ目は工業化です。最近はロボットトラクターとかそういったもののデータを解析しています。そんな感じです。

岩佐:アグリテックで最近すごく気になるのは、テクノロジードリブンみたいなのが多いんですよね。例えば、「自分の会社でこういう技術があるから、農業に使ってみないか?」みたいな提案がありますよね。それって、イシュードリブンというか、PLのどこに作用するのかの明確な答えがないままで、あらゆる農業のテックが氾濫しているなという印象が、自身の課題感としてすごく大きかったんです。なので、聞いてみました。

生駒:本当にみなさん、グロービスで学んでいると思うんですけど、技術という「手段」を「目的化」してしまったら物は売れません。だから技術と同じくらい、マーケティングも重要という話でしょう? 同じ歴史を繰り返していますもんね。

岩佐:これは、住職の悟りですね。

(会場笑)

「テクノロジーに飛びついちゃいけない」っていうことは、経営者は本当に冷徹に「PLのどこに作用するのか」「BS(貸借対照表)のどこに作用するのか」っていうところまで考えないといけないと思うんです。

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