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Service Design(全1記事)

CIID流、サービスデザインの作り方 freeeのデザイナーが北欧で学んだこと

2019年9月10日、クックパッド株式会社にて「Cookpad Product Kitchen #2」が開催されました。北欧、デンマーク/コペンハーゲンの新興デザインスクール、Copenhagen Institute of Interaction Design(CIID)にて毎年夏に開催される、サマースクール。今回は、そのサマースクールに参加したエンジニア、デザイナーたちが、そこで学んだことや得られた気づきを語りました。プレゼンテーション「Service Design 」に登壇したのは、freee株式会社 UX Designerの春田雅貴氏。講演資料はこちら

CIIDでサービスデザインを学んで

春田雅貴 氏(以下、春田):よろしくお願いします。僕はサービスデザインについて学んできたので、今日はその話をしていきたいと思います。

簡単に自己紹介しますと、僕はfreeeでデザインをやっております。

2016年からずっと弊社でインターンをやっていて、去年そのまま新卒で入社しました。この中で、確定申告されたことがある方はいらっしゃいますか?

(会場挙手)

たくさんいらっしゃいますね。みなさん、freeeを使って下さっていることと思います(笑)。その確定申告のデザインの改善や、税理士さんとか会計士さんが使う税務申告ソフトのデザインをメインに担当しております。

今日はサービスデザインについてなんですが、そもそもなぜ僕がCIIDへ行きたかったかを簡単に説明すると、僕は将来的に海外で働いていきたいという思いがあるので、まずは英語でワークショップをやってみたいということが、動機として1つありました。

あとは、僕も実は去年このイベントでクックパッドの方の発表を見てCIIDの存在を知って、行きたいと思ったので、もしみなさんが今日興味を持ったら、来年ぜひ行っていただければと思います。

なぜサービスデザインを選んだのか?

(CIIDには)たくさんのコースがあるんですが、なぜサービスデザインを選びたかったかを説明します。一番大きい理由として、さっき確定申告の改善をやっていると話したんですけど、改善をしていく中でどうしても限界を感じています。

例えば、確定申告は役所とかいろんなところから紙の書類が送られてきて、それらの書類を国が用意している仕組みに沿って提出して、最終的に税額を計算して出すというフローなんですが、そもそも紙で送られてくる時点で、みなさんの中で確定申告をされた方がたくさんいらっしゃったのであれですけど、そもそもやり方がわからないとか「それってユーザでそもそもやる必要があるんだっけ?」みたいなところを疑っていったときに、そもそも国として受け付けている仕組みがもっとわかりやすくなれば、みんながそもそも確定申告をやらなくていいんじゃないかと思ったんです。

やっぱり、UXデザイナーとして、プロダクトとしての使いやすさを改善していくだけだと、ユーザーからポジティブな反応があっても限界があるなと感じました。そこの改善を、将来的にサービスデザインというところでやっていきたいと思っているので、サービスデザインを選びました。

話は脱線するんですけど、今回のワークショップで、同じチームにコペンハーゲンに住んでいる方がいたんです。freeeのサービスで「会社設立freee」という、簡単に会社を設立できるというサービスがあるんですが、その人に説明してもまったく刺さらなかったんですね。

なぜかというと、デンマークでは会社の設立が25分でできるんです。簡単にちゃちゃっと即日対応ですぐできるので「なんでそんなサービスがあるの?」という反応だった。国として仕組みがちゃんと整っていたら、別に僕らみたいに一企業がプロダクトをがんばらなくてもちゃんと使いやすい世界がくるんです。そういうところに強く惹かれて、そういった文化を体感できたという意味でもすごく思っています。

サービスデザインの定義

そもそも「サービスデザインってなんぞや」というと、CIIDだけでもたくさんの定義が紹介されました。

コミュニティやサービスデザインのネットワーク、学問的な定義、自治体、政府の自社サービスを担当している人の定義とか。定義だけでいっぱいあって、正直パッと聞いたときはサービスデザインがなんなのかわかりませんでした。

例を挙げて説明すると、イギリスの政府で実際にサービスデザインを担当している人の声なんですけど「サービスは、あなたがしたいことを手助けするタスクの積み重ねである」と。

例えば車の運転の仕方を学びたいとき、車の運転を学びたいといって学んだ積み重ねの最終結果として、運転免許というものを取得することができる。

しかし、運転免許を取らせることにフォーカスしてしまうと、本質的には「車の運転を学びたい」と思っているユーザーに、例えば教習所で試験に受かるノウハウをTipsとして教えてあげたけど、実際にはそのユーザは車の運転をちゃんと学べなかったら本質的じゃないよねとなってしまいます。

悪いサービスは名詞的である。運転免許の例だと、良いサービスは動詞的に「運転を学ぶ」ということにフォーカスをしていく、と説明がされていました。でも、これだけだと正直「そもそものサービスデザインってなんぞや」と、僕はなってしまいました。

次にCIIDの人が「そもそもすべてのサービスが持っている性質」を説明してくれました。

例えば、すべてのサービスが持っているエクスペリエンスは時間の経過とともに生まれていくものであり、それは人間を中心とした試みで、あとはサービスというのは複数のチャンネルとタッチポイントを持っていて、それの集合体がサービスである。

なおかつ「そのサービスは包括的であってそのサービスを使った価値はサービスの提供者だけではなくユーザと一緒に作りあげていくものである」とおっしゃっていました。

先ほどの話と、今のサービスの定義を合わせて、僕なりの解釈としては「ビジネスや社会を取り巻く環境の仕組みを理解して、サービスと接していく人々の一連の体験を包括的に改善していくアプローチなのではないか?」と、考えました。

5日間でやったこと

5日間、サービスデザインのコースに参加して「2025年に向けて、シェアリングの交通の手段の魅力を高めて、コペンハーゲンの生活の質を改善するようなサービスをデザインしよう」というお題をやりました。

1週間、かなり詰め詰めでやっていきました。1日ずつ説明していきます。

(スライドを指して)初日はすごく元気だったので、アイコンでも喜んでいます。

(会場笑)

いきなりサービスデザインのコースが始まって、簡単にレクチャーを受けるんですけど、開始1時間後ぐらいにService Safariといって「Donkey Republic」という、コペンハーゲンのシェアサイクルのサービス(アプリ)を使って「ある駅に行ってください」と、いきなり言われました。

ここまで具体的な説明を受けていなくて、いきなり「町に繰り出せ」って言われて、向こうは行って学ぶスタイルなのかなと戸惑いつつも、とりあえず言われたサービスを実際に入れてみました。

講師の方からは、実際にサービスを使ってみるときに、伝えづらいなどの起きた感情をすべてメモしておく、タッチポイントに注意を向けろということを言われました。そもそもサービスをどの段階で知ったのか。例えば今の例だと、街中にDonkey Republicという文字が書いてある自転車があったから、なにか使えるのかなと思って検索してみたというような、その一つひとつがタッチポイントです。

そういうところと、ユーザとどういうふうなコミュニケーションをとるか。「そのタッチポイントにおいて一番どういう変化を受けたのかをメモしておけ」と言われて、実際に町へ繰り出しました。実際に自転車に乗って行きました。

帰ってきてからは簡単なジャーニーマップを作って、感じたことをチームで共有しました。それぞれがサービスを体験する中でも、使った人によって不満に感じた点が違うので、お互いにインストールしていくことが大事だとおっしゃっていました。

そのあと「エコシステムマップ」を作りました。

どういうものかというと、4つのレイヤーに分けて付箋でマップを作っています。一番中心の付箋がユーザで、2番目に内側の赤い付箋がサービスを使っているときに関わる人。例えば電車であれば、チケットを配る人、というような価値観をマッピングしました

その次におもしろいなと思ったのは、システムやレギュレーションを書いている。例えば僕はさっきから確定申告の話で国の仕組みがどうとか話したんですけど、このエコシステムマップでもそういうシステムやレギュレーションを記録していきます。例えば、そもそもサービスを使う上でどういう背景があるのかを、比較的わかりやすく捉えることができました。

一番端にマテリアルといって、実際に使ったタッチポイントや物理的な自転車の券売機とかを書いていきました。このマップでは「交通系のサービスに関するもので思いつくものをひたすら貼っていけ」みたいな感じで、唐突に言われてやったんですけど、例えば電車に乗るというサービスがどういうシステムとつながっているか、どういうサービスが働いているかという理解が深まったので、2日目以降のインタビューで深堀りしていくときにすごく役に立ちました。

街でゲリラインタビューを実施

2日目は、簡単なリサーチの方法の共有を聞いて「ゲリラインタビューをしてこい」と言われました。1チーム4人のチームで街中に行って、2つに分かれて10人、10人に聞いてくる。

本当に普通にナンパみたいな感じで、いきなり「ちょっといいですか?」と声をかけるので、いかに自分が怪しい者と思われないかを意識して話しかけました。

僕たちはUN Cityというところで国連の建物に行ったので、バッジを付けていたんですね。それを見せると絶対に話を聞いてくれるからいいよねと。

(会場笑)

「UN Cityから来ました」と活動しながらインタビューをしまくりました。インタビューのコツとして、5つが挙げられていました。

一般的なインタビューのコツではあるんですけど、簡単に説明します。まず「Start by listening」は聞くことに集中しよう。次の「Funnel a conversation」は、いきなり具体的な話から入るのではなく抽象的、一般的な質問から入って、相手との話をどんどん深掘っていこう。

次の「But never lead the conversation!」は、クローズドクエスチョン、イエス・ノーで答えさせるような質問はしないで、オープンクエスチョンで相手に答えさせようというものです。「Additional phrases」は、相手がパッと言おうとしたことで、抽象的にフワッと言ったら「それは具体的にどうなんですか?」とか、より深掘るような質問を、というコツを教えてもらいました。

最後に「The power of silence」は、インタビュー中にユーザが黙ってしまうことがあると思うんですけど、黙っているのはもしかしたらなにかを言おうとしているからかもしれないので、すぐに質問するんじゃなくて、ちゃんと待って、相手のペースで話して質問を聞こうねとおっしゃっていました。

得られた情報を整理してインサイトを得る

こんな感じでインタビューして、3日目。

だんだんつらくなってきました。

(会場笑)

本当につらかったです。3日目は、リサーチの結果からユーザのインサイトを導き出していきました。僕たちのチームは、交通手段で移動している人にインタビューをしたんですけど、ある目的地に行くためにその交通手段を使っているけど、実は移動するときに、例えば大切な家族、ペットを連れていて「ペットと一緒の時間を大切にしたい」とおっしゃっている方が多かった。

向こうではシェアリングバイクや、シェアリングのイースクーターが流行っていますが、そういうものじゃなくて移動時間でさえも大切な誰かと一緒にいれる時間を大事にしたいというインサイトを導き出しました。

そのインサイトから「How Might We Question」といって、先ほどのインクルーシブのほうでもあったんですが「どうしたらこれを改善できるか」の質問出しをやっていきました。

そこからHow Might We Questionを出したあとで、Crazy8sをやりました。

これは1分間に1個のアイディアを出して、10分間で10個のアイディアを出して、それに対してチームで共有し合うみたいなことです。ものすごい衝撃を受けたのが、僕のチームは教師とデパートのマネージャーみたいな人と、僕の3人しかいなかったんですけど、さっきインタラクションデザインの黒田さんも言っていましたが、アプリのアイデアを考えていたのは僕しかいなかったんですよ。

「これ、どうやってプロトタイプを作るんだ!」みたいな、物理的なアイディアがすごく多かった。例えば駅のホームで、カップルが寄り添ったときに良い感じにジャズを流すとか。

(会場笑)

僕たちアプリデザインをやっているような人ではまったく思いつかないというか、そういう視点があるのかみたいな気付きがすごくあって、これが多様なチームでやる醍醐味なのかなと感じながらやっていました。ただ、自分の意見を説明するときに、相手が僕の言っていることをまったくわからないで「なんでそう思うの?」「What do you mean?」みたいな感じでめちゃくちゃ質問攻めにされて、すごくしんどかったということはあります。

プロトタイプを作る重要性

どのアイディアを採用するかチームで投票して、どういうものを作るかが決まっていったのでプロトタイプを作っていきました。これはUN Cityのパブスペースみたいな感じで、けっこういろんな道具があって、みんなわちゃわちゃしながら作っていました。

プロトタイプを作る重要性として、CIIDの人がおっしゃっていたのは、実際に開発してしまうと、その修正に掛かるコストが10倍になるし、リリースしてしまうとそれが100倍になる。

だからデザインの段階でどんどんテストをして、早く改善していこうとおっしゃっていました。

なので、今回僕たちが作ったのは簡易的なプロトタイプです。家族とかペットを飼っている人向けに、どうしたら電車の中で2人でいる時間をちゃんと過ごしやすくするかということを考えました。

犬とかグループの集合の写真みたいなシンボルを、駅のプラットフォームに貼って、それをひたすら観察するんですけど、そうすることでペットのいる人はここに行けばいいということが伝わりやすくするみたいなところを課題としてやりました。

おもしろかったことが、こういうテストをやろうとしたら駅の許可が必要かなと思うじゃないですか。そうしたらCIIDの人は「これを貼って怒られたら逃げろ」とおっしゃった。

(会場笑)

実際、貼って30秒後ぐらいに駅員さんが来てずっと監視してて「お前たちなにしてんだ?」とめちゃくちゃ怒鳴られて、速攻で逃げて違う駅で貼ったということがありました。

(会場笑)

そういう感じで、実際に「なるほど」と目をとめてくれた人たちにインタビューしながらテストをやりました。

そのあと帰ってブループリントを作ったんですけど、国連の屋上で海を見ながら気持ちよかった記念で(写真を)入れました。

これは例えばサービスを使っているときのタッチポイントでいくと、電車の例だと、チケットを買うときの接点はチケットの販売員だけど、実はその裏にチケットの仕組みを作っているエンジニアがいるので、バックエンドで広げられるサービスへの関与とチケットの販売員のようなフロントエンドで関わっている人々を含めて、包括的にサービスに関わるものを理解していこうという感じで作ったんですけど、最終的にプレゼンテーションでまったく使わなかったので「なんでこれを作ったんだろう」とは思いました。

CIIDで学んだこと

ようやく最終日、みんなの前で発表しておしまいでした。

今回のサービスデザインにおける気付きと学びです。

サービスデザインって、つまりCIID上でいうと「ビジュアル化して共有して検証と改善を繰り返していけばいいんでしょ?」というのが、最初に聞いたときの理解だったんですけど、実際にワークショップをしてわかったことは、プロトタイプになると議論できない、ビジュアルにしないと話が通じないから、言葉で表現するのが不可能なんです。

参加した人が、IT系ではない、まったく違う職種なので、言っていることが理解できない。国も違えば本当に議論ができなかったんです。僕の英語の問題かと思ったんですけど、英語で喋っている2人も「どういうこと?」とずっと言っていたので、たぶん本当に理解できてないんだと思いました。

振り返ると、最初ダウンロードやアイディエーションでメンバーから出てくる意見がすべて想定外だったんですよね。なにを言っているかもわからない。でも、その想定外が良かった点が、自分にはまったくない視点ということでした。

さっきのプラットフォームのアイディーションも僕はそもそも思いついてなかったし、そういうまったくの意見の違いが実はおもしろいアイディアにつながっているんじゃないかと思いました。

だから、多様なバックグラウンドを持ったメンバーが働いたときに、それをアイディアに取り入れていくためにビジュアル化がすごく重要なフレームワークとしてめちゃくちゃ機能していたと感じました。

意見が通じないこともイラストにしてみると「これってもしかして?」みたいなものが広がっていくことを、5日間で体験できたのはすごくよかったと思っています。

まとめると、バックグラウンドの違いから生じる多様な視点はアイディアの種になるんじゃないかと思いました。それはただ多様な視点を入れるだけではちゃんと機能しなくて、ビジュアル化とか、そういったフレームワークを使ってチームの目線をそろえていくことが重要かなと思いました。

あとは「Learning by doing」ということで、CIIDを知っている人はわかるかもしれないんですけど、とにかく作って壊してテストして学ぶことは本当に何度もやって繰り返し身に付けたところなので、非常に参考になったと思います。

以上です。ありがとうございます。

(会場拍手)

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