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経営とはソフトウェアだ –若者が担うこれからの経営と技術とキャリアの話–(全2記事)

経営に貢献できるエンジニアになるための3つの心得 DMMのCTO・松本勇気氏、BIT VALLEY 2019講演 Part.2

2019年9月14日、渋谷ヒカリエでテックカンファレンス「BIT VALLEY 2019」が開催されました。若手エンジニアに向けて、多様な働き方や最新の技術にまつわるさまざまなトークセッションが行われました。トークセッション「経営とはソフトウェアだ –若者が担うこれからの経営と技術とキャリアの話–」に登場したのは、合同会社DMM.com CTO・松本勇気氏。

KPIツリーと事業のモデル化

松本勇気氏:数字が見えてくると、次は「KPIツリーと事業のモデル化」というところにつながってきます。事業をシステムとして捉えれば、事業の構造が見えてくるんです。これを観測可能なモデルに落とし込んでいく。

これがみなさんの事業で言うところのKPIツリーなのかなと思っていて、KPIツリーがどうして生まれてくるのかを理解しないと、上滑りしたKPIツリーになってしまうかなと思っています。

KPIツリーというのは、すなわち「あなたたちの事業はどういう構造なのか」を表す仕組みなんです。そのためにソフトウェア化して、それがログを落としていって、それを分析することで数値になるんだと。それを構造分解していけばKPIツリーになるんだということです。

例えば、事業の利益で言えば、売上とコストに分解していって、「売上のところはどうやっていくんだっけ?」となったら「今日のDAUと、そのときの1人当たりのARPU(Average Revenue Per User)をどういうふうに分解できるんだっけ?」と。

さらにそれを分解していって、ペイドユーザーがどのくらいいるか、その一人ひとりがどのくらい使ってくれているか。さらにそれを分解していって、ずっと細かくしていく。

そうやって、KPIツリーというかたちでシステムの相互作用……我々のサービスはどういう構成でできていて、そのサービスのそれぞれの構成がお互いどうインタラクションしていって、そ結果の数値としてどう計測されていくのかが見えてくる。それがKPIツリーですし、社内ではモデル化と呼んでいますが、事業の性質を理解可能な数値的なモデルに落とし込んでいくということです。

このKPIツリーは、ほとんど四則演算で理解できるようなものになります。あったとしてもちょっと積分が入ってくるとかそれぐらいのものだと思っていて、そういったモデルにちゃんと落としていくことで、今やっている施策がどういう意味を持つのかを確実に理解するようになると。

それで、事業というシステムを観測してKPIというかたちでモデル化して初めて「この改善は何に対する改善なのか」という構造が理解できるようになります。

人に人らしい仕事を与える環境に

さらに、その構造が理解できれば、機械学習というものが昨今登場して、みんなAI、AIと言っているわけですよ。AIというのはあまりファジーなワードなのであまり好きじゃないんですけど、機械学習というのはそのファンクションの中で、大量のデータから傾向を生み出して簡単に未知の入力に対しても推論する力を持っています。

そういうところで機械学習を使えば、そのモデルの中でもよりスケールさせないといけないものに対して、膨大なデータから未知のものを組み込むことができる。未知の応答に対しても人じゃなくて機械でスケールできるよねと言う世界ができる。

そうやって機械学習や数値化というところを組み合わせていって、ソフトウェアを組み合わせていくと、我々の事業は科学的な事業改善が可能になる。これは何かと言うと、施策の良し悪しというか、みなさんが何かをやるときにそのインパクトは何なのかというのを理解するようになる。さらに、そこにABテストの環境などをちゃんと作っていけば、科学的に比較してどっちがいいのかをみんな議論できるよねと。

よく多くの会社で起きているのがビジネスVSエンジニアリングみたいなことです。でもそこはVSじゃなくて、2つは表裏一体だと思っています。そういったときに威力を発揮するのは数字だし、それをうまく見せてくれるのがABテストだと思っていて、そういったものを使うことで我々のサービスは可能な限り定量的に改善、比較できるようになっていく。

そこから生まれてくるのが「ソフトウェアと人の逆転」だと思っていて、今我々が事業を作るのに、チームがあってそのためにソフトウェアを入れていこうという発想からくるんですけど、実はそれは真逆だと。今の時代はソフトウェアでこの会社をどう設計していくかがスタートです。

例えば、「どういうワークフローがあるんだっけ?」というのは流れを分解していく。それに対して、SaaSとかいろいろなシステムとかを組み合わせていって「これはこういうふうにソフトウェアで設計ができる」「ここはどうしても人じゃないとできなから、ここに人を置く」と。こういう逆転があることで事業をシステム化してその中のモデルを理解することができます。

なので、我々が事業を考えるときに、これからの経営はソフトウェアを先に考えないといけないと思っています。それが生み出すのが「人に人らしい仕事をやる環境」だと思っていて、よく「ソフトウェアって人の仕事を奪うやん!」みたいなことを言われるんですけど、それは嘘だと思います。

我々の言うソフトウェアというのは、人の仕事をより人がやらないといけないものに集中させていく。クリエイティブなところにしていく。

今回はクリエイティブとテクノロジーとの交差点みたいな話をしているんですけど、まさにソフトウェアと経営というところは、人にクリエイティブをより増やしてあげて、それ以外のどうでもいい作業をソフトウェアでどんどんスケーラブルにしていく。そういった流れが一つだと思っていて、これがこれからの我々の組織づくりに一番大事なことかなと思います。

「本当に人がやらないといけないものは何なんだろう」というと、ユーザ一人ひとりの声を聞くことであって、それに対して一つ一つ反応を返すことは人がやらなくてもいいんじゃないかと。そういうところを我々が考えていかないといけない。それがこれからの経営です。

コモディティ化を招かないために

そこに合わせて僕らのキャリアはどうあるべきなのか。その中で僕らが一つ考えなければいけないのは、コモディティ化という概念です。定義で言えば、誰もが簡単に手に入るリソースのことをコモディティと呼んだりしています。ガソリンとかコンクリートとか、品質の差があまり出ないものですね。

だいたい生産技術が伸びてくると、どんどんコモディティ化というレイヤーが上がってくるんですね。その対策としては、いろいろな付加価値を作って競争領域を変えていこうということが必要なんですけど、一番覚えておいてほしいことが、コモディティ化ということに至ってしまうと、自分の持っている技術がいかに優れていようと、それがいかに職人的であろうと、「別にこれはこのボタン一つ押せば解決するんだ」という世界になってしまって、まったく価値を持たなくなってしまう。

だから我々の世界、とくにソフトウェアの世界というのは、コモディティ化と人のせめぎ合いをずっとしていて、キャリア上そこを意識しないといけません。

それで、技術というのはとくにコモディティ化しやすいんです。だいたい新技術が登場して、例えば今はKubernetesがおもしろいと。

「私はその中でスペシャリストになるぞ」と言いますけど、OSSでより難しい職人芸なところは解決されていくかもしれないし、もっと言えばX as a serviceサービスというレイヤーで、例えばKubernetes as a Service、コンテナ as a Serviceと言ったところで、基本的に技術的に難しいところは、資本主義的に考えればそれをスケーラブルなかたちで安く提供できれば儲かるんですよ。

だから、みんな基本的には「そんなものはコモディティ化させてしまえ」と。だからこそ新技術を自分の軸に据えてしまうと、スキルとしてもコモディティ化を招くことになります。

だからこそ我々が考えないといけないことは、そのスタートアップがコモディティ化を目指していくような世界の中で、技術そのものよりも何に集中投下すべきかということが大事になっていて、それがよく出てくる「課題解決力」とか事業課題に解を与えることだと思っています。

コモディティにならないために、我々は技術そのものではなくて、事業や顧客に課題を解決するモノを提供する。そこに我々エンジニアやデザイナーやディレクターの、非経営者としてのパスがあるべきだと思っています。

どんなに技術があっても、やっぱりコモディティ化してしまえば価値がなくなってしまうかもしれない。だからこそ、そのときにコモディティ化しないこととは何なのかということを考えないといけません。

経営に貢献するための3つの心得

その課題解決のときに、今の時代でけっこう欠けているファンクションだと思うのは、この「ソフトウェアで事業を設計できる」エンジニア、デザイナーだと思います。職種に関わらず、事業上の視点がソフトウェアエンジニアリング的になっていかないといけない。そういうときに事業をソフトウェア的な発想で改善する人がより活躍するだろうと僕は思っています。

これは一人の技術者としてソフトウェアを詳しく知っているだけではなくて、より横のファンクションを知っておくこと。例えば経理だったり、広報だったり、デザインだったり、労務だったり、いろいろな領域があるんですけど、何か書けるソフトウェアというものを持っておくと、その領域をソフトウェア化するという傾向がこれからどんどん増えていくと思います。

なので、今DMMではその裏側にあるバックオフィスなどのシステムを「これはどんどんソフトウェア化していこうね」という話で、それぞれのチームでソフトウェアエンジニアリングチームを置いていくようにしています。

そうやっていくと、その専門家のみなさんがよりクリエイティブなところに集中して、どうでもいい仕事をソフトウェア化できないかというところでパフォーマンスを発揮できるようになって、それがさらに組織のスケーラビリティを生んでいくと。

この課題解決ができてくると重宝されるような人材になるのではないか、キャリアが拓けるのではないかと思っています。

そういった経営に貢献するために、みなさんに大事にしてほしいのは、この3点です。

広く学ぶこと、ユーザーに向き合うこと、計測して数字で考えること。

どれも大事ですけど、けっこう欠けやすいのが「本当にユーザーと向き合っているか」というところと、「計測して数字で考えられているか」というところ。この2つに関しては、とくに自分の仕事の中で意識していって、キャリアを考える上でもこういった観点を含めながら自分の領域をどこに向けていくべきかというのを考えるといいかもしれません。

というわけで、ちょうど時間も来ているので「最後に」という話なんですけど、ソフトウェア中心の経営のあり方やキャリアについてお話してきました。

少々飛ばし飛ばしで話をしてきましたが、やっぱりキャリアとして考える上ではコモディティ化しないということを考えないといけないので、だからこそソフトウェアで会社の事業を設計して、その数字に向き合って領域を横断的に戦える知識を身に付けていく。たくさんの小さな科学的実験を通して正解を見出せる。

こういった能力を大事にしていきましょうというのが、今日の僕からのメッセージです。会場をフラフラしているので、何か聞きたいことや話してほしいことがあったらいつでも捕まえて聞いてください。

というわけで、みなさん本日はありがとうございました。

(会場拍手)

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