2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
EM.FMパーソナリティインタビュー(全1記事)
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――まずはEM.FMとはそもそもどんなポッドキャストなのか、はじまった経緯から伺いたいと思います。
湯前慶大氏(以下、湯前):EM.FMは2018年の10月1日から開始したエンジニアリングマネージャーのためのPodcastです。
もともと始めたきっかけとしては、Engineering Manager Meetupという勉強会があり、そこで僕と広木さんが話をした際に「エンジニアリングマネージャーの魅力をもっと伝えるためにはどうすればいいだろう?」ということを考えた時に、「Podcastをやるのがいいんじゃないか」という話になってはじめました。
エンジニアリングマネージャーの魅力というか、これから始める人や今エンジニアリングマネージャーをやって悩んでいる人に向かって「エンジニアリングマネージャーってこうあるべきだよね」とか「もっとこうしたほうがいいんじゃないか」みたいな話をして、自分たちがやっていることの魅力とは何かを語っていくというPodcastです。
――エンジニアリングマネージャーの魅力を発信していくモチベーションはどんなところですか?
湯前:EM Meetupで話し合った時に「エンジニアリングマネージャーと呼ばれている人をなかなか採用できないな」という話が出たのですが、採用できない理由としては「そもそも母数が少ないからだろうな」と思ったんですよね。
「じゃあ母数が少ないのってなんでだろう?」ということを考えたときに、もちろんいろいろ理由はあると思いますが、そのうちの1つとして、エンジニアとマネージャーの対立構造のようなものがありました。
そのせいで、エンジニアマネージャーという役割が魅力的に語られていないのではないか、という仮説の下、自分たちでその魅力を伝えていければ、「これはおもしろい職業なんだ」「おもしろい役割なんだな」ということがわかってもらえるのではないかと思い、はじめました。
――EM Meetupで話したことがきっかけとのことですが、もともとお知り合いだったのでしょうか?
湯前:いや、ぜんぜん知り合いじゃなくて(笑)。僕はもともと広木さんのファンだったんですけど。去年の2月に広木さんが本を出されて、それを読んだら本当に素晴らしくて。
自分のふだん考えていたことが全部ここにまとまっていて、この本をみんなに読んでもらえれば僕のやっていることも理解してもらえるし、何を考えてこういう発言しているかというのも理解してもらえるなと思っていました。
首がもげそうになるぐらい頷いてしまう本だったので、僕の会社では「首もげ本」と言ったりしてるんですけど(笑)。
(一同笑)
そのくらい広木さんの本に感銘を受けました。広木さんとは実は6月か7月に勉強会で一度お会いしていて。ただ、その時は広木さんとあまり話さなかったので、広木さんからすればあんまり認識はなかったと思います。その後、9月の勉強会では同じテーブルで話して、やっと認識していただいて、みたいなかたちですね。
広木大地氏(以下、広木):そうですね。本当に、EM.FM1回目を収録する時になって、初めてちゃんと話すぐらいでした。
湯前:そうですね。
広木:事前にいろいろ話しちゃうとおもしろくないんじゃないかと思って、「やろうか?」「やりましょう!」と言ってすぐ反応していただいたので、この話が出て1週間経たないうちに1回目を放送しましたね。
湯前:そうですね。僕が社内でたまたまPodcastをやっていて、Podcastをやることに対するハードルがすごく低かったので、3〜4日後ぐらいに収録して、2日後にはリリースするという感じでしたね。
――近頃はさまざまな発信方法がある中でPodcastを選ばれたのは、どんな理由があったからでしょうか?
湯前:広木さんが「Podcastやってみたいんだよなぁ」とぼそっと言ったんですよね。
――Podcastをやってみたかったのはどうしてですか?
広木:僕がラジオ好きだからかもしれないですね。記事としてアウトプットする場合は文章で書かなければいけないし、いろいろなニュアンスを伝えづらいなというのもあります。なので、言葉でしゃべったら細かいニュアンスも含めてお話しできるかなと思いました。
あとは、話をしていれば人間だと認識してもらえるなって。その当時、エンジニアリングマネージャーの人が「マネージャー」という言葉から非人間的に捉えられているというか、そういうところがあったんだろうなと思っています。だから「声が聞こえるほうが人間だと思ってもらえるね」というのがあって。
なので、そういう温度感の伝わるメディアが良くて、「エンジニアといえばPodcastで情報を取ってるよね」ということで「Podcastかな?」という思いがありました。
広木:最初にゆのんさんが言ってくれたように、僕のエンジニアリングマネージャーに対する思いというのは、ものを実現していく過程、ソフトウェアを作っていく過程に携わっているすべての人が、1つの目的のために物事を何かやっていますよね。それは「不確実性を減らす」というキーワードで表現できます。
その上で、ピープルマネジメントでもプロジェクトマネジメントでもプロダクトマネジメントでも、実は同じように、事業という不確実性に対してどのようにアプローチしていくかということですよね。
ただ、マネジメントという仕事は、コードを書くという仕事の間に落ちたたくさんの仕事があって、それをやられている方は孤独であるように見えているんじゃないかと思っていました。これは、事業とエンジニアリングの間にあるものに対するナレッジが育っていない、あるいはリスペクトされていないように見えてしまっている状況です。
かつて、ソフトウェア開発において実際にコードを書くのはとても大事な仕事なんですが、あまりにもそこが軽視された過去がありました。ソフトウェアを書くという実装技術への軽視があったので、そのカウンターカルチャーとして「マネジメントはあまりいらない」という表現をすることがありました。
ただ、そのカルチャーが根づいてWeb界隈で事業が立ち上がるようになってくると、そうした技術の間に、さまざまな意思決定や組織開発、プロジェクトマネジメントといったものが要求されることが増えてきました。
その結果、再度軽視されてしまったんですね。かつてはプロマネ全盛期があって、でも実装技術全盛になってきて、「やっぱりこっちが必要だよね」という揺り戻しがあるなかで、僕はこれを一体として捉えることが非常に大事だよ、ということを伝えたい思いがずっとありました。
そうじゃないと、1つの目的を持っている事業の中に、ビジネスと技術、プロマネと実装者、マネージャーと現場みたいに、妙な対立構造が生まれてしまいます。これは無駄な対立構造だと僕は思っているんですね。
同じ目的のためにみなさんがんばって仕事をしているんだから、分断したような言論、「マネージャーはいらない」もそうだし、「コーディングなんか誰でもできる」みたいな言論をすればするほど、ソフトウェアエンジニアは誰も幸せにならないよ、という思いがありました。
なので、1つの抜けている領域だったエンジニアリングマネジメントという領域がフォーカスされる浴びるタイミングになったので、僕としてはそれをおもしろい仕事だよと。ただ経営と現場の間で板挟みになって調整したりおためごかしを言っている役ではなくて、その間にあるさまざまな問題解決をする技術者ですよ、ということを伝えていきたいんです。
その思いがゆのんさんと一致したので、何かそういうことを発信して、再度そこに認知いただけるとハッピーだという思いがあったので、やろうかという話になりました。
湯前:広木さんは「エンジニアマネージャー」と「エンジニアリングマネージャー」が違うものであるという話をしていて。
エンジニアマネージャーという場合は、エンジニアのマネージャーなんですよね。だけど、エンジニアリングマネージャーは、もちろんエンジニアのマネージャーをする場合もありますが、組織やチームを“エンジニアリングして”解決するマネージャーであるという考えがありました。
Podcastでもそういう話はしてきましたが、それはすごくいい考えだと思って共感しています。
――お二人が思う、エンジニアリングマネージャーという仕事の魅力的なポイントはどんなところですか?
湯前:基本的に課題の難易度が高いんですよね。課題の難易度が高いということは正解がないというか、正解がないからこそ自分でその解を見つけて解決をしなければいけないという、一種のパズルみたいなものですよね。
パズルを解くとき、簡単すぎても難しすぎてもダメなんですが、一般的に組織のマネジメントは難易度が高いもので、自分の持っている難易度に合わせてちゃんと解決をしていくと、それなりにちゃんと結果が出ます。もちろん失敗するときもありますが、そのときはなぜ失敗したのかを振り返って、さらに「じゃあこうやってやればいいんじゃないか」と考えてレベルアップしていく。
もちろんエンジニアとして技術的な知識も必要になりますし、組織開発的な知識も必要だし、ピープルマネジメントの知識も必要ですし、いろいろな知識を総合してピンポイントに「これだ」という解を見つけて解決していくのはすごく楽しい工程だと思います。
広木:どこから話そうかな。『ピープルウエア』という本に、正確な引用は忘れたのですが、「ソフトウェアのプロジェクトにおいて、コンピュータサイエンス的な領域は5パーセントほどで、残り95パーセントは社会学や人間学的な領域です」と書いてあり、実際そうなんですよね。
僕がソースコードを書いていて「何かおかしいな」とか「なんで負債になっちゃったり、バグが起きやすかったりするんだろう?」と考えると、人間的なプロセスの問題や組織的な問題なんだろうなと思います。そのくらい、普通に働いていると気づけるぐらいには、ソフトウェアを書くことはとても組織的なことです。
きれいなコードを書こうと思うと、組織をリファクタリングしなければできません。組織をきれいにしなければいけないし、事業をきれいにしなければいけないということにどんどん気づき始めました。僕自身は、ずっときれいなコードを書きたいからやっているだけなんですよね。
調和が取れていて整合性のある状態にするには、早い段階からそういう状況をつくらなければいけないので、結果的にマネジメントに興味を惹かれるようになっていったというところです。
なので、「設計をきれいにしたい」「ソフトウェアをきれいに書きたい」「いいコードを書きたい」「負債にならないようにしたい」、もろもろありますが、こういった思いをピュアに実現しようと思っていたら、「人間もビジネスも組織もマネジメントしないと、どうしようもならない」ということにたどり着いた感じです。
湯前:僕もリードエンジニアをやった時にも、同じようなことを思いました。まずは組織の課題、チームの課題をなんとかしないとそもそも前に進めないと思ったりしました。
コードを書くということがすべてのプロダクトの解決ではなくて、チームの一人ひとりの個人の問題から、個人と個人の間に生まれる問題も含めて、総合的に解決していかないとうまくいかないものだということが、僕のマネジメントはじまりだったのかもしれないですね。
「技術を突き詰める」と言ってもいろんな手段があります。1人でその技術を突き詰めるのも手だと思いますが、たいていの技術を使うとき、技術そのものを使うのではなく、プロダクトやプロジェクトを成功させるためにその技術を使っていると思います。
自分1人で何かできる範囲は限られているというか、できる領域はそれほど多くないと思います。もちろん技術ですべての問題を解決できれば理想ですが、実際のところは1人でやれる時間は限られています。
技術を選定するためには、技術選定の理由を誰かと話して、エンジニア同士でなぜこの技術を使うのかコミュニケーションしたり、その技術を採用した場合はプルリクエストを出したときにそのレビューをしなきゃいけないとか、結局人と人とのコミュニケーションは絶対必要になります。
そういうことを考えていくと、技術を突き詰めることとマネジメントすることとは、そんなに二項対立的に判断できるものではなくて、むしろ何かをやっていく、達成させるためには、必ずどちらも必要となるプロセスなんじゃないかと思っています。
――これまで、たくさんのゲストを招いて放送されていますが、だいたい同じような感覚を持っているのでしょうか? それとも、まったくタイプの違うエンジニアリングマネージャーの方もいらっしゃいますか?
湯前:うーん、僕はみんな違う印象ですけど、どうですか?
広木:タイプは違うかもしれないですね。ただ、同じようなところにたどり着くという感触はすごく得ています。ぜんぜん違うこと言っているというよりも、各社でエンジニアリング組織をつくっていくなかで、考えてきたことややってきたことが実はセオリーを持っていて、そのセオリーが同時多発的に見出されていっている感触があります。
大事にしているものや個性は当然ありますが、本質的には似ているところがあるなと感じています。なので、聞いてくださった方の中にも「なるほどね」って共感してもらっている方が多いなと思います。
それがもしかしたら、今がんばってる人にとっては「あ、孤独じゃないんだな」と思ってもらえたと言うか。
『エンジニアリング組織論への招待』を書いた時のリアクションとして僕が感じた思いとしては、多くの方からリアクションをいただいたんですが、共感していただいたとか首がもげるほど頷いたとか、いろいろありますが、要は「1人じゃなかったんだな」って思ってもらえたのが1つ価値だったのかなと思っています。
今どこかのベンチャーやどこかの会社の中でソフトウェア開発をして、マネジメントしてなんとかしていこうとして孤独に戦っている人が、現場からは「マネージャーはわかってない」と言われたり、経営者からは「エンジニアなんとかしてくれよ」ということを言われたりして、つらい思いをしていたり。
でも、その中でも事業を成功させようと思っていろいろ試行錯誤していらっしゃる方がいます。そういう方にとって、あるいはそこで起きる組織対立や失敗や成功のパターンは再現性を持っていて、もう一度誰かのノウハウでなんとかできるかもしれないことだったり、誰かが経験してきたことだということは、福音や救いになるのではないかと思います。
なので、EM.FMを通じて、そういった方々にいろいろなことを伝えていって「この方の話は共感できるな」とか「この方の話ってちょっと違うな」とか、どこかでたどり着くかもしれないですね。
組織の規模が100人の時には感じなかったけど1,000人になったら同じようなことを思うかもしれないし、10人の時に共感したことがまたちょっと変わってきたり、いろいろあるかもしれません。なので、いろいろなタイプの方をゲストに招いていますが、実は通底した似たような経験をされているんだろうな、という方にお話しいただています。
――EM.FMをはじめて以降、現場のエンジニアリングマネージャーさんに会う際に、何かリアクションはありますか?
湯前:まず「すごい聞いてますよ」ということを言っていただいています。よく聞くのは「社内でEM.FMのPodcastのリンクが飛び回ってますよ」とか「うちの上司にこれ聞かせようと思いました」とか。あとは、Twitterでは「僕も話してみたいな」という人もいらっしゃいますね。
――広木さんは、何かありますか?
広木:もう最近はあれですね、「EM.FMと同じ声ですね」って。
(一同笑)
それはそうだろうと思うんですが、「同じ声ですね」と言われるので、恥ずかしいです(笑)。
湯前:わかります。「あの声だ」みたいな(笑)。言われますね。
広木:実際、そうやって親近感を持って感じてくださっていると感じます。逆に初対面でなかなか親近感を持っていただくメディアは少ないので、そういう意味ではPodcastで一定の親近感を持ってもらえるのはありがたいですね。
なので、思いのほか親近感を感じてもらっているというポジティブな面と、逆に「あれ、僕、そんなに有名な人ではないんだけど」という感じで、有名人扱いになってしまうとうまいこと距離感がわからないのが最近の傾向ですね。
湯前:まあ、広木さんの場合はいろんな本が出てるので、有名になられてますし、賞も取られているので、そういう意味で有名人になっていますが、僕は本当にただの一社員で、ただ広木さんと一緒にゲストの方と話したいことを話しているだけなので、別に有名になったからどうというわけではなく、単純に自分たちの思っていることや出ていただいた方の思いをみなさんに知ってもらって、僕自身もすごい勉強になっていますし、広木さんの話はもちろん勉強になりますし、ということでやってるってだけなんです。
そういえばかつて言われたことがあるのは、「広木さんと実際に話してみると、話が難解すぎてゆのんさんすごいなって思った」とか(笑)。
(一同笑)
「打ち返しもできない」みたいな。広木さんと話しても「広木さんすげえ」で終わったみたいな(笑)。
広木:そうですね。ややこしい話しちゃうんですよね。
湯前:いや、僕もほとんどついていけていないことがあります(笑)。
広木:なんか時期があるんですよね。シーズンというか自分の中のバイオリズムみたいなものがあって、ややこしいことをずーっと考えているときはややこしい話をしてしまいます。ある程度なんとなくわかって「いろんな人に伝えていきたい」「どうやったら伝わるんだろう?」というフェーズがあったりして。
思索をしているときの回だとなんかややこしい話してしまって、終わったあとに「あっ、しまった。ややこしい話をしてしまった」みたいに思ったりしています。
(一同笑)
最初に組織の話を考えたときも、アルゴリズムを考えている時に似ていて。アルゴリズムって、プログラムに書く分にはアルゴリズムで表現できますが、頭の中で考えているときはけっこう複雑な状態になっていたりするので。
なので、複雑なものを言語化するということは、EM.FMとか僕が書いた本とか、言語化するというプロセスは、自分の中ではプログラムを書くのと同じようなことで、複雑なものを言語に落としていくということです。
プログラミング言語に落とすのもそうだし、自然言語に落としていくのもそうだし、人と話すことは大事なプロセスで、思索の過程みたいな部分があります。なので、EM.FMでは生の考えていることも話しているので、やたらややこしくなってしまって(笑)。
(一同笑)
湯前:そうですね。仏教の話とか縄文時代の話とか。
広木:仏教回はあれか、竹迫さん回かな。縄文時代の話はあんちぽさん。
湯前:そうそう(笑)。
広木:いや、なぜかそういう話を振ってくださるんですよね。僕もそういうややこしい話が好きなので「するぞ!」みたいなってしまって。
湯前:腕をまくって、こう(笑)。
広木:そうそう(笑)ただ、そういう意味で言うと、エンターテイメントとしておもしろくあり続けたいなとも思っています。実はエンジニアじゃない方にも聞いていただいていて、人事とか組織開発とかCFOとか、そういったエンジニアを組織を抱えているいろいろな会社さんに関わる人から反応をいただいています。
なので、技術技術した話よりも、もう少し卑近な話も含めてポップな話を中心にしながらも、「そういう思いでやってるのね」ということは伝わるようにはしたいなとは思っています。
湯前:そうですね。本当にいろいろな本の話が出てくるので、収録するたびにまずは本を買っています。テック系の本やマネジメント系の本はわりと出てくるんですが、それ以外の、それこそ仏教、縄文、タコの話など、本当にいろんな話が出てきます。
そういう意味では、そうしたいろいろな考えからぜんぜん関係ないものを勉強しているように見せかけて、実は組織の問題やチーム課題、技術の問題を新しく言語化して、広木さんの頭の中にあるものを出していきながらPodcastの中で暗黙知だったものを形式知化していく、みたいなことをやっている感じです。
――先ほどエンジニア以外の人からもリアクションがあるというお話をされていましたが、どんな属性のリスナーがいるのでしょうか?
湯前:エンジニアを採用したい人事はけっこう聞いているのかなと思います。たまにそういう声がTwitterでも上がっているので。あとは、単純にエンジニアかどうかは関係なく、会社組織全体を考えている人や人事が聞いているという声もたまに聞きますね。
イメージ的には、6割か7割ぐらいがエンジニアリングマネージャーをやっている人たち。純粋なエンジニアが2割ぐらいでマネジメントをこれからやろうかなとか思っている人や、単純に興味があって聞いてる人という感じです。残りの10パーセントぐらいがエンジニア系の組織の人事で、1パーセントぐらいが経営者ですね。
広木:そうなんですよ。だからエンジニアリングマネージャーという言葉が流行って、上司がEM.FMを聞いたりして「こういうことやったんだよ」という話をしておると、メンバーの人は「こいつ、うぜーな」って思ったりすると思います。
(一同笑)
結局、マネージャーや評価者に対して、フラットに人間として関係を築くのってけっこう難しくて。なので、若いときに「コードをバリバリ書いていくんじゃい!」という人にとって、エンジニアリングマネージャーのムーブメントが起きていることってあんまりピンとこないだろうし、それを見て「うーん、なんかやだな」って思ったりすることもあると思います。
それは、僕自身もそういうことがあっただろうし、その必要性に気づくまでには一定の試行錯誤があったので、無下に否定する気はぜんぜんありません。ただ一方で、それで一般論としてマネジメントが必要とか必要じゃないという話をするのは早計だなと思っています。
もっと大きな話として、この日本において、ソフトウェアエンジニアリング全般がそれほどうまく使えておらず、軽視されてきてしまっている側面が多々あります。そこの橋渡しには多様な人々が必要で、それはマネージャーもそうですし、デジタル技術の価値を理解している人もそうですし、それを経営に活かしていく人もそうです。そういった人たちによって初めて技術が価値のあるものとして生かされていくわけです。
そうなって初めて自分たちの給料が出て、そしていい職場が生まれていきます。そのマクロな部分の変化やムーブメントを僕は起こしていきたくて。
エンジニアって100万人ぐらいいるらしいんですよ。そうしたら、10に人1人ぐらいはマネージャーがいなきゃいけないので、エンジニアをマネジメントしている人は10万人ぐらいいるはずなんですよね。プロジェクトのマネジメントをしたりソフトウェアプロジェクトに携わってという人は、これからもっと増えていきます。
この人たちを全員排除をしてソフトウェアを実現することはできなくて、その常識の差をいかにして埋め立てていくか。その中身を理解をしつなげていく役割ができるかもしれない人が、今はエンジニアマネージャーと呼ばれています。
ただ、僕は一人ひとりがこのことができるようになったらいいと思うし、エンジニアの人たちができるようになったらいいと思います。逆に、経営者であれ普通のビジネスパーソンであれ人事であれ、みんなができるようになっていけばいいと思っているんですね。
広木:というのは、僕は組織とコンピュータ、ソフトウェアは一体だと思って見ています。単純にソフトウェアにいろんな仕事が置き換えられているという話がありますよね。AIに仕事を奪われてしまうかもしれない。でも、この流れはずっと続いていて、組織論やソフトウェアは現代においては切っても切れない関係にあります。ソフトウェアができることが増えれば、組織のかたちも変わっていきます。
でも今は「組織を考えるのは組織を考える人。ソフトウェアを考える人のはソフトウェアを考える人」みたいに分断されてしまっています。ソフトウェアやコンピュータの扱いや組織・ビジネスの扱いというのは、統一された目的を持った手段に過ぎません。
そこに携わる、あるいはそこをどうやってハックしていったりどうやって改善していくのかという知識は、僕は変な話、みんなエンジニアリングマネージャーだと思っています。みんながエンジニアリングをするべきで、それをマネジメントしていくべきだと思います。
というのは、人への指示の出し方とコンピュータへの指示の出し方があるだけで、片方はマネージャーと呼ばれていて、片方がエンジニアと呼ばれています。
僕はそれに違和感があって、人に指示を出す方法もコンピュータに指示を出す方法も物事を実現していくための有効な手段の1つで、どちらかしかできないというのもズレているなと思います。コンピュータがやればいいことはコンピュータがやればいいし、人間がやるべきだと思うことは人間がやればいいですし。
そう考えたとき、エンジニアリングマネージャーが経験していることは、おそらくここから10〜20年で多くの人が体験していくかもしれないことではないかと思います。コンピュータと人間とを区別せずに、うまいこと、必要な分は必要なところがやってくれればいいというわけです。
僕にとって「バイトを1,000人雇いましょう」ということと「EC2インスタンスを1,000台デプロイしましょう」というのは、目的にかなうのであれば、比べる時は「どっちがリーズナブルか?」でしかなくて。たまたまバイトのほうが安く調達できるときは、そういうビジネスが流行るけれども、今は単純にAWSからEC2を1,000台用意するほうが簡単なので、そういったコモディティなコンピューティングリソースを使っていかにビジネスを展開するかが問われているというだけの話です。
これはどんどん加速していきます。コンピューティングリソースが安価になって、それに指示を出すことは当然のようになっていく。これが進んで機械学習技術というものが誰でも使えるようになってくると、もっとそれが加速していくはずです。その中で、たまたま組織とコンピュータの間にいる人が、今はエンジニアリングマネージャーと呼ばれている、と考えています。
――では、今後EM.FMをどうしていきたいか、もしくはEM.FMを通して社会をどう変えていきたいか、考えていることはありますか?
湯前:今、EM.FMは1エピソードあたりだいたい2,000人ぐらいの視聴者がいるんですが、僕と広木さんの今年の目標は「1エピソード5,000人だよね」という話をしているので、5,000人に聞いていただけるぐらいになりたいなと思っています。
そのためには、今聞いていただいている層だけではなく、もっと層を広げて聞いてもらわなければいけないと思っています。先ほどだいたい10分の1ぐらいが人事という話をしましたが、ここをもっと拡大していき10倍ぐらいになっていけばだいたい4,000人ぐらいになるので、やはりそれくらいの拡大戦略が必要なのかなと思っています。
ただ、そこに対して何をすればいいのかはまだ手探りなので、僕と広木さんの間でもいろいろ練って、今は個人の方や企業の方々に出資していただいているので、それらを使って宣伝をやってもっと広く知ってもらえたらというのが、まず1点目です。
そこからの社会的なムーブメントとしては、僕自身がEM.FMとは関係なく想いが1つあります。僕は単純にいい製品やいいサービスがあふれる社会にしたいなと思っているんです。そのためには、おのおのがそれぞれの強みを活かせる社会が必要だと感じています。その中で僕はマネジメントに人よりも興味があるし、そこに興味があることで人よりも強みがあるので、マネジメントで社会が変わらないかと思っています。
先ほど「全員がエンジニアリングマネージャーであるべき」みたいな話がありましたが、みんながマネジメント知識を持っていたら、そもそも誰か1人にマネジメントを押しつけるような構成ではなく、みんなでマネジメントをして「どうやったらいいものが作れるんだ?」ということを考えられる状態になると思います。
自分の考えていることや、そこから知り合った方々とPodcastを通じてマネジメントの知識を広く知ってもらうことによって、マネジメントを通して社会がよくなるということを実現できたらいいなというのが、僕の思っていることですね。
――広木さんはいかがですか?
広木:EM.FMを通じて社会をどうしていきたいかってことですよね。どうしていきたいんでしょうね。EM.FM自体は、「エンジニアリングはコードを書くことだけに閉じた話ではないよ」ということを多くの人に理解してもらった上で、楽しい仕事だと知ってもらいたいなという思いがあります。
では、EM.FMを通して世界や社会に対して何をしていきたいか。トータルで言うと、僕、だいたい仕事って楽しいものだと思っているんです。仕事にせよ、物事の何にせよ、生きてるんだから楽しんでたほうがいいじゃないですか。目標は叶ったほうがいいですよね。
ゲームだって得点が高かったりクリアできたほうがおもしろいじゃないですか。クリアできなかったときはイライラしたりフラストレーションがたまったりするかもしれないけど、クリアできたら楽しいわけです。
みなさん、人生や仕事というゲームをしているんですよ。そのゲームを楽しくプレイして攻略しましょうと。それが楽しくなっているのは、ただ楽をするのが楽しいということではなく、やりたいと思ったことができたり、思ったことがどんどんうまくいっていったら楽しいはずです。
楽しむためには攻略情報を手に入れたり、自分で試行錯誤したものを発表したり、オープンにしていけばしてくほど、世の中はハッピーであふれていくはずです。
今「働き方改革」ってありますよね。あれは「働かせないようにしよう改革」なんですよね。「そんなに働かせないようにしてね」ということを言っているんだと思いますが、大事なのは、働いて楽しいと思って成果をどんどん挙げて、毎日楽しいねと思えることじゃないですか。
その「毎日楽しいね」と思うための方法論が、マネジメントやエンジニアリングだったりします。なので、1人でも楽しいと思って仕事をしてもらいたい。1人でも多くの人が、仕事というゲームをしているだけなのに、疲れていってしまうのを避けたい。
苦しい思いをするとき、単に攻略できないときに苦しいのは、いつか攻略できたときのハッピーをためているだけなのでいいんですが、これがゲームだということを忘れてしまって、職場関係の誰かを本当に嫌なやつだと思ったり、言い争ったり病気になってしまうのは、まったくもって生産的じゃないんですよ。
ただ仕事というものを通じて遊んでいるだけなんですから。なので、それが楽しいゲームなんだということを思い出せる突破口になれば、僕はうれしいです。
広木:マネジメントについても、変な話、我慢することだと思っているんじゃないですかね。マネージャーさんもそうだし、マネージャー自身はどうかわからないけど、周りの人が「あの人、いろんなことを言われて、その間に立ってつまらないことばっかりやらされて苦しそうだね」というふうに思っているのではないかと思います。
でも、大きい企業では、最近若い人は管理職になりたくないと思ったりすることが増えているらしいんです。それは、大きい企業の中で管理職になっても給料が上がるわけではないですし、現場の技術であれば転職できるのに、現場の技術ではないところにいってしまうと転職できないのではないかと考えて、若い人にとって大企業のマネジメント職はつまらない仕事だとなっていっていると感じることが増えて、出世したいと思わなくなっています。「どうせ給料上がるわけじゃないし」みたいなふうに思っている。というか、そういう会社さんって多いと思うんですね。
マネジメントというのは年功序列で、歳を取ってしまったらいつかなるかも分からない場所で、そのいつかなるかもしれない歳を取ってしまった人に対してリスペクトも感じられないから、そんな人にはなりたくないと思って「マネージャーなんかなりたくない」と言っています。
でも違うんです。歳を取ってしまったからたまたまなってしまったもののことを、マネージャーと言うんじゃないんです。「物事を実現するために、ありとあらゆる手段を通じて実現していく」ことがマネジメントや責任者の楽しみであって、その実現したという喜び自体が価値なはずです。
その「自分でやっているという感覚が欲しい」というか、「自分に権限が欲しい」とか「自分でやっているんだという感覚が欲しい」ということを主張される方がメンバーにいたりします。ですが、それとマネジメントをすることは、実はニアリーイコールなんですね。
「自分が引き受けますよ」と言って、その実現をしていくことは、人にせよ何にせよ、何かをマネジメントしていることにほかなりません。何かコントロールできるものを受け取って、それを差配して「いい感じ」にするということがマネジメントです。
マネジメントって言葉は実は「管理する」という意味じゃないんです。「いい感じにする」とか「いい感じに調理する」という意味なんです。これってつまりは「権限が与えられる」とイコールなんですよ。ということは、「権限が与えられたい」という要求と「マネージャーになりたい」という要求がイコールになっていない現状こそが、社会でマネジメントに対するイメージがズレている根源だと思います。
だから、マネジメントしたいと言っている人が、一方でマネージャーなんかやりたくないと言っている。ということは、おそらく頭の中のイメージとして持っているマネジメント像が根本的にズレているので、「これズレてますよ」ということを社会に問いかけていきたいということを考えています。
確かにマネージャーになりたくないと思っている人が僕らのPodcastを聞くと、出ている人がみんな楽しそうにしているのでびっくりするかもしれないですね。「こんなにいろいろ考えているんだ」とか「こんなにいろいろ楽しそうにやってるんだ」みたいなのは、けっこう僕らも声で言ってるので。みんな、楽しく仕事してる人に憧れるはずなんです。なので、そうなりたいなと思っています。
だけど、マネジメントって発信していないんですよね。「マネジメントって楽しいです」って言うと、なんか前に出てくるのがはばかられるような感覚というか。例えばメンバーの人が「いや、俺はこのマネージャーのせいで楽しくはない!」と言うかもしれないわけで、ちょっと前に出づらいということがあると思います。
何かを引き受けている人はかっこいいはずで、マネジメントは責任とコントロール権を引き受けてうまいこと差配する人なので、「引き受けている人がかっこいいのは当たり前だし、楽しそうなのは当たり前だよね」という社会にしないと、誰も責任を引き受けない社会になってしまいますからね。
なので、「そういうことってかっこいいよね」と思ってくれるようにやっています。
――ちなみに、EM.FMは未来永劫続けていきたいと考えているのでしょうか?
広木:難しい話をしますね(笑)。未来永劫続けていきたいか。うん……まあ、そうですね。今のところ楽しいですからね。
ゆのんさんとよく話すのは、マネージャーとしてやっているので、それこそ数字なり何かしらの目標に対してコミットしてやっていくのが大事だ思います。なので、何らかの到達点を用意するのが大事だとは思っていますが、その到達点を達成したときに、達成したからやめるパターンと、達成したから次の到達点を目指すパターンがあると思います。
何かでっかい夢でもぶち上げますか?
湯前:(笑)。
広木:それなら未来永劫続くかもしれないし、「武道館でEM.FMライブをやったらやめます」とかかもしれないし。そういうことはなにかありますか? ゴールセッティングをちょっと高いところに置くとおもしろいかも、という話があると思っていて。
湯前:そうですね。このKPIって、結局再生数なんですよね。再生数か、企業の方からどんだけ支援を受けるかというかたちですけど、あまりお金を置きたくないとは思っています。
広木:そうだね。じゃああれですか、本当のラジオになるまで。
(一同笑)
湯前:ああ、公共の電波に乗る、いいですね。その世界はおもしろいですね。
広木:それだとけっこう遠いから、まだまだやることがあるという。
湯前:一般認知をしてもらって、その枠を確保できるぐらいの視聴者がいることを理解してもらわなきゃいけないですね。
広木:そうですね。じゃあそこまではやります。
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