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バズワードを超えて 〜テクノロジー・ビジネス潮流の見極め方〜(全5記事)

バッテリーのイノベーションは何をもたらすか? サーバーワークス大石氏が説く“次のテクノロジーの破壊者”

2019年7月2日、株式会社ソラコムが主催する日本最大級のIoTカンファレンス「SORACOM Discovery 2019」が開催されました。2019年は「IoTを超えて」をテーマに、IoTの最新トレンドやビジネス活用事例、IoTプラットフォームSORACOMの最新サービスを紹介しました。本パートでは、「バズワードを超えて 〜テクノロジー・ビジネス潮流の見極め方〜」と題したセッションの模様をお届けします。今回は、今注目しているテクノロジーや、これから起こるかもしれないイノベーションがもたらす影響などについて語りました。

「3年後以内にこれが来る」という見方をしていない

大石良氏(以下、大石):AIとかIoTというキーワードが出てきたんですけれども、ちょっと質問の毛色を変えて、次のテクノロジーとして興味がある分野についてですね。これ、みなさんも興味あるポイントじゃないかなと思うんですけれども。今どういうところに注目していらっしゃるか、小野さんから教えていただいていいですか?

小野和俊氏(以下、小野):僕、これはよくインタビューなどでも聞かれていて、いつもすごくつまらない答えになっちゃうんですね。これ、僕はないんですよ。

というのが、「これはいける」と思うには、自分でコードを書いて触ってみないとわからないので。(新しい技術が)いろいろと通り過ぎて行ったり、いっぱい来たりするじゃないですか。「へー」ってなんとなくそれを受け止めたり、流したりしていて、「おっ」と思ったときにコードを書いてみるか、チームの人に「ちょっと書いてみて」と言って、いけるなと思ったらやるという感じで。

もともと「3年後以内にこれが来る」とか、「半年後以内に来る」という見方をしていないんです。だから、技術のシャワーを浴びていて、ときどき気になったら、「おっ」という感じで。そんなふうに動いているので、「これからこれが来る」というのは、僕はいつも答えがないと言っている。「そう言いましても何か……」とか言われても、「私はちょっとないです」とか言って(笑)。

むしろ、ないほうが良いといいますか。ボクシングなどでもガードをあげていなくて、腕をダラーンとさせていたほうが、柔軟に戦えるようなところがあるじゃないですか。あんまり「これだ」というふうに賭けてもいないし、思ってもないから、受け止めて、なにかピーンときたら、ちょっとコード書いてみて。ダメだと思ったら流してというようなことを、たぶん今後もやっていくんだろうなという。

大石:なるほど、すばらしい。おもしろいですね。漆原さんはいかがですか?

AIは後戻りのできないイノベーションを起こす

漆原茂氏(以下、漆原):バズワード的に言うと、AIやブロックチェーンはものすごく興味があります。AIはAIの中でも深層学習や転移学習、強化学習が、今まさに入り口でドアが開いただけの次元でしかない。

もしかしたら中ではいろいろトライされていて、「まだここまでしか使えないよ」とか、例えば画像認識しても「まだまだ精度低いよ」と思っていらっしゃるかもしれませんが、それはただの入り口ですから。精度が一気に上がってきますし、コンピューターがコンピューターを教えているので、とてつもなく進化するんですよね。

これはまったく戻らない。戻れないイノベーションなんです。これができちゃった世界にいると、なかったことなんて考えられないというのがあると思っています。なので、AIにも非常に関心があります。

あとは、ブロックチェーンのような新しいプラットフォームです。FacebookのLibraも賛否含めて話題ですよね。これまでと違う経済圏、分散データベースというもののパワーは、応用範囲が広いんじゃないかと思っています。だから技術屋としては、そこはキャッチアップしておきたいなぁと思いますね。

大石:なるほど、ありがとうございます。玉川さん、いかがですか?

5G、IoT、宇宙、バッテリー

玉川憲氏(以下、玉川):そうですね。自分の人生を振り返ったときに、「うわ、これはすごいわ」と背筋がブルブルするような体験ってあるじゃないですか。AWSを初めて触って、画面をポチッと押したらサーバーが立ち上がった瞬間とか。最初にFacebookに触ったときの「ソーシャルネットワークってなにこれ?」となった瞬間とか。そういう瞬間に立ち会えることって、すごくうれしいし、楽しいことだなぁと思っています。

直近でいうと、5Gは、なんだかそういう瞬間に立ち会えるかもしれないと思う技術の一つですね。今はまだわからないけど、いずれ「これが、キラーアプリ!」と思えるものが絶対に出ます。

IoTにおいても、何かと何かの組み合わせなのか、ハードと通信を組み合わせたときの新しい体験なのか、今までに見たことがないものが生まれます。それを見届けたいし、どちらかというと生み出す側に回りたいなと思いますね。

もうちょっと中長期で言うと、宇宙というのはすっごいポテンシャルがあります。通信面でもそうですし、エネルギー面でもそうですし、すごくおもしろいと思います。

あとはやっぱりバッテリー。僕、これ10年ぐらい前からいつも言ってるんですけどね。バッテリーにおけるエネルギー密度は、向上にむけて研究開発が続く分野なんですね。この分野が変わると、ものすごいことになるだろうなと。

それこそ埋め込んでも一生動くとか、そういう世界になると本当に違う次元になりますね。そういう意味で、宇宙やバッテリーは、おもしろいなと感じてます。

次のテクノロジーの破壊者はバッテリー

大石:なるほど。実は私も次のテクノロジーの破壊者はバッテリーだ、とずっと言っているんです。バッテリーが来ると、私たちは困るんですけどね。クラウドが終わっちゃうのでね(笑)。

バッテリーですごいイノベーションが起きるとどうなるか? 今みなさんスマホってお持ちじゃないですか。でも、あれって普段は電源を切られていますよね? バッテリーに限りがあるから、電源を切って、通信も切ってとなると思うんですけど、例えばバッテリーが1回充電したら、1年ずっとつなぎっぱなしでも何も問題ありません、となったら、CPUやメモリって余りまくるんですよね。

この余っている時間を全部ブロックチェーンなどでつないで、分散コンピューティングをやろうというのがたぶん普通になって。そうすると、別にAWSやマイクロソフトに全部データを集めておかなくていいじゃん、と。そこらへんにある分散コンピュータでやればいいじゃん、という世界が来るんですよね。

なので、たぶんバッテリーのイノベーションが起きたら、僕らクラウド側の会社はだいぶつらいことになるんじゃないかな。……すみません。これは書かないでもらっていいですか?(笑)

(会場笑)

玉川:IoTをやっていても、最近は省電力のネットワークがいっぱいあるじゃないですか。そういう小さいデバイスを作ると、本体価格のほとんどをバッテリーが占めるんじゃないかとなっちゃうんですよね。そこでバッテリーのイノベーションが起きるとおもしろいなと。

宇宙のエクストリームスポーツ

大石:ちょっと深掘りしたいんですけれど、宇宙というキーワードがありましたよね。小野さんはなにか独特な視点をお持ちじゃないですか。

(会場笑)

宇宙に対して今どういう視点で考えてらっしゃるのか。宇宙ビジネスとか。

小野:宇宙ということだと、大学のときに今のスマートニュースの代表の鈴木健さんとかと、「『宇宙スポーツ協会』を立ち上げよう」という企画があって。大学のときだからもう20年以上前ですけど、宇宙で水球とかやったら、水しぶきがどこまでも飛んでいくわけじゃないですか。

大石:ははは(笑)。

小野:「すげぇ!」みたいな。むちゃくちゃ盛り上がって。でも、ふと現実に戻って、「俺ら、とりあえず卒業しなきゃいけない」って……。

(会場笑)

そういうバカな話をしていたことはありました。でもやっぱり、そういうエクストリームスポーツみたいなものが宇宙でできるというのは、おもしろそうではありますよね。だってジャンプ力とかが、人間の想像を超えてくるわけじゃないですか。スーパーマリオみたいにジャンプできる人とかが、普通にいるわけじゃないですか。そういうものはあったりしました。

大石:なるほど。そんなにビジネスと宇宙が関係するようなところは、今はあんまりないですかね?

小野:そうですね。さっきの独特の視点がというのは、狂ったようにゲームにハマるとか、そういうのは独特なのかもしれないけど、あんまり壮大な「宇宙が」とかそっちは……。むしろ身近なところで、狂ったようにハマるのが僕の独特さなので、宇宙はたぶん僕から一番遠い存在になるんですよね。

未来を予見するより、どんな状況でもすぐ対応できることが大事

大石:おもしろいですね。さっき未来を予見するようなことはしないっておっしゃったんですけど、それって実はすごく誠実なスタンスだなと思って。

私もよく会社で「我々に必要なことは未来を予見することじゃなくて、どんな状況でもすぐ対応できるアジリティ(Agility:機敏さ)のほうが大事だ」という言い方をするんですけど、小野さんがおっしゃっていることは、たぶんそういうことですよね。

小野:そうですね。あと、技術のトレンドに振り回されることに、あんまり意味があると思っていなくて。僕、アメリカのサン・マイクロシステムズで仕事をしたときに、やっぱり同僚が何人か起業してたんですよね。1999年から2000年ごろですかね。それで僕が日本からアメリカに行って、起業していく人たちにすごく驚かれたんです。「お前はなんでこんなに技術に詳しいんだ?」と。

逆に「起業とかするけど、あんまり技術詳しくなくて起業するの?」という話をしたら、なんだかイメージとしては、例えば僕が地方から東京に出てきて、山手線の駅に異常に詳しいというようなものと近い状況だったと思うんです。

だから、シリコンバレーの友達や同僚で起業した人たちは、あんまり技術がどうのこうのじゃなくて、「こんなのできたらすげぇおもしろいじゃん。はい起業、ポーン」みたいなところがあって。技術調査とか、コンペとかは「なんでそんなことやるの?」みたいな。「おもしろそうなものがあったら、やればいいじゃん」というような感覚で話していて。

それが印象に残っているのがあるから、あんまり真面目に網羅して調べたりするよりも、さっきのように来た中で、気になったら受け止めるような感じで。あんまりなんでもかんでも、ニュースの見出しも、フィードも、RSSも全部見てますとかじゃなくて、もっと緩く感覚的にやったほうが、結果的におもしろいものが作れるかなという感じ方はしています。

入り口になるのは「なんだか楽しそう」

大石:なるほど、おもしろい。漆原さん、先ほど個人的にいろんなベンチャーに出資しているというお話をチラッと……。

漆原:まぁ、スタートアップが大好きなんで。おもしろいじゃないですか。「こういうものができましたー!」というクレイジーな感じって。

大石:ははは(笑)。

漆原:かわいくないですか?

大石:とびきりクレイジーな会社さんとかいらっしゃいます?

漆原:たくさん、たくさん。会場でもいっぱい展示されていた、ああいう方々は大好きです。いいと思いますよ。本当に大好きです。これは冗談ではなく、そういう方々の努力の積み重ねで、いろいろなイノベーションが起きていくと確信しているんです。

小野:今の話はすごく重要だと思っています。このお題って少し真面目すぎて、答えたくない気持ちが出てきちゃうんですよ。

大石:ああ、なるほど。

小野:たぶん今の漆原さんが言ったのがすごいキーで。なんか楽しそう……DataSpiderも実を言うと、最初はあんまり顧客ニーズを考えてなくて。とりあえず、なんか爆弾発言をしちゃうけど。

(会場笑)

どっちかというと、アイコンが画面でがドラッグ&ドロップできて、画面系で動かせるなにかを作りたいみたいな。

大石:なるほど。

小野:それで作ってみて、「動いた、マジで?」となって、入り口はそこから始めて。もちろんちゃんとお客さんのペインなども後でちゃんとやったんだけれども、入り口って意外とそんなものだという気がしますよね。

大石:ちょっとみなさんにフォローしておくと、DataSpiderはめちゃくちゃいい製品で、当社も使っていますからね(笑)。

(会場笑)

小野:僕がさっき話したのは、本当に一番最初の会社始めたての頃の話ですからね!(笑)

ビルダー要素とドリーマー要素の違い

玉川:でも、そこのこだわりであったりとか、その人独自の課題意識って、むちゃくちゃ大事じゃないですか。小野さんってそういうものの塊だなと思っていて。

ちょっと身内の話になるんですけども、うちの子が小学生で、プログラミングをずっとやっていて。この間、小学生のコンテストに出たんですよ。全国プログラミングなんたらというので最後のファイナリストに残って。

大石:おお、すごい。

玉川:それでプレゼンもして、自分が作ったゲームを発表したけど、入賞できなかったんですよ。

大石:あら、そうなんですか。

玉川:ゲームとしてはよくできている。でも、入賞する子って、なんだか「僕は素数が大好きで、友達がいないから、素数で友達ができるようなゲームを作りました」とか。

漆原:わかるわ~。素数好き!

(会場笑)

玉川:それはもうプログラミングのあれじゃないんだけど、その世界観がやっぱりいいんですよね。それで最近のうちの息子の悩みが、コーディングはできるけど、そういうものは作れないという悩みなんですよね。

でも、それは親としては「いやいや」と。「君はいいビルダーになれる」、ビルダー要素が強い人も必要だと。もうちょっとドリーマー要素が強い人とチームを組めば、ものすごくうまくいくはずなので、それでいいんだって言っているんです。ちょっと深い話ですみません(笑)。

(会場笑)

大石:なんだかちょっと悲劇的なストーリーが必要なんですかね?

玉川:なんなんでしょうね。親としては、子どもを谷に突き落とすじゃないですけれども、その人が抱えている苦悩とか、そういうものを与えるべきなのかなぁって、少し前に思っていたんですよ。

(会場笑)

大石:はい。

今は人に感動を与えることの価値が高い時代

玉川:でも、違うなと。それはなんだか貧困のスパイラルな考え方だなと思っていて。最近ちょっと考えを改めて、今の子どもたちはもっと明るい面を見て、もっと明るい方向の、解放された系のさらにその上をいくほうが正しいんだろうな、という考えに至っていますね。

大石:なるほど。それは審査員と合わなかったという話ですか?

玉川:いや、あれはあれでいいんだと思います。今は人に感動を与えるといったことの価値のほうが大きくなっている世界なので。

逆にビルダーとして突き詰めて、「このゲームを作ったことがすごい」となったら、それはそれで優勝しちゃうと思うんですね。だから、ビルターとしての道を極めるのか、それともドリーマーとしての道を極めるのか、まぁどっちでもいいと思うんですよね。

大石:なるほど、おもしろいですね。ありがとうございます。

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