2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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大石良氏(以下、大石):じゃあ、3番目のご質問にいきたいなと思います。目利きをするということですね。今、技術の目利きのポイントなどをお聞かせいただきましたが、私がお三方を心から尊敬しているのは、例えばそれを会社にしたり、組織に浸透させたり、玉川さんの場合は、こういうかたちで日本全体に浸透させるところまで成功していることなんです。
組織に新しいアプローチ・技術を浸透させる。これはものすごく難度が高いと思うんですけど、どういうふうにやられてきたのかというのを、小野さんから順番にお聞かせいただけますか?
小野和俊氏(以下、小野):僕は最初のベンチャーのアプレッソのときは、このテーマは全然問題なくて。ベンチャーだから小さいし、すぐ浸透する。だけど、セゾン情報システムズのときにまさに取り組んで、一番力を入れていた課題でもあって、わりと機能したかなという感じがしています。
もともとどういう組織だったかというと、1970年にできた会社だったので、メインフレームの維持を中心としてやっていました。エンジニアのやっている技術って、メインフレームのCOBOLという感じだったんですよね。今COBOLのチームの金融系のチームで、170人ぐらいいる中の90人が、AWSのソリューションアーキテクトになっているんですね。
あとブロックチェーンで、すごくとんがった人が何人か出てきたりしたんですけど、最初はすごく抵抗感があるというか。「自分たちはきっとこのままCOBOL案件とかあるだろうに、なんでそんなことをやんなきゃいけないんだ」的な感じがすごくあって。
目利きしたはいいんだけど、広めようとすると「自分たちがやる必要はないと思います」みたいなことって最初はあったんです。手短に何がポイントだったかというと、やっぱり体験してもらうことなんですよね。
小野:例えば、実際にやったのがブロックチェーン。「初めてのブロックチェーン」みたいな本を読むと、最初に暗号が出てくるじゃないですか。暗号に至った瞬間に、もう「ちょっとキツい」ってなっちゃう人がけっこう多かったんだけれども、3年前くらいに、30人×6回で、みんなに「ビットコイン体験会」のようなものをやりました。
全員参加必須で、COBOLのエンジニア全員に「はい、このQRコード撮って」とか言って、ウォレットに入れてもらって、全員にビットコインの現物を配ったんですよね。
大石:へぇ~。
小野:そうすると、なんか「こんな勉強会いやだな~」とか、「これ業務だよな」みたいな文句を言いながら来ている人でも、とりあえず着金すると「おっ、来たよ、おい!」って。
(会場笑)
小野:とりあえず、お金が届くわけなので。
漆原茂氏(以下、漆原):儲かったんじゃないですか?
小野:いや、そのとき持っていれば儲かったんだけど、受け取るだけだと片方になっちゃうから、ちゃんと入金もしようと。それで、熊本の震災があった時にビットコインで寄付している口があったので、全員で寄付するから、僕らが勉強会やるごとに寄付がバーッと増えるということをやって、社会貢献もしたし。
そうするとやっぱり、「あっ、なんか体験としてはすごく簡単なことなんだ」ってわかるじゃないですか。そこから興味を持って「なーんだ」と言ってやり始める人が出て。AWSなんかもそうですけど、インスタンスをポチッと立ち上げてみると、「えっ、クラウドってこれだけだったの?」みたいな。
やっぱり「Practice over theory(理論よりも実践)」と(MITメディアラボ所長の)伊藤穰一さんがよく言っていますけども、まず体験してその要素を……。だから、水泳について概念的に教えるんじゃなくて、まず泳いでみれば好きかどうかがわかるみたいな。
大石:うんうん。
小野:そういう体験をすると、わりとすぐに浸透していく感じは、手ごたえとしてかなりありましたね。
大石:なるほど。おもしろいですね。ありがとうございます。漆原さんはいかがですか?
漆原:組織に浸透させることは、本当に難しいですね。逆に、勝手に浸透させるカルチャーをどう作るかということの方が大事ではないかと思います。要は、みんな命令しても聞かないじゃないですか。誰も聞かない(笑)。
ただ、単に「こんなのおもしろそう」だけ言って、おもちゃを置いとくんですよね。それを勝手にいじってくれるような文化を作れるかどうか。そこが一番重要なんじゃないかな。
大石:なるほど。それってエンジニアが多いから成立するという側面は……。
漆原:それはうちの場合は大きいと思いますね。勉強会が中で頻繁に行われていたり、変なものをとにかくおもしろがる文化があります。あと、弊社の場合に幸いだなと思うのは、お客様がすごく先端技術が好きな方ばかりなので、いろいろなものを試させてもらえるんですね。
「こんな不思議なものを持ってきたんですけど、御社のところでしか使いたくないんです」と提案すると、「いいよ、やってごらん」と仰っていただける。それで、実際にやってみると確かにワクワクするような体験になる。小野さんもおっしゃっていたように。それはすごくおもしろいのかなと。
あとは、コミュニティをはじめとして、外とのつながりを作るように促しています。外に発信できる機会ということです。新しい技術や何か身につけたものを外に出すって、自分のためにもなるし、スキルも上がることじゃないですか。そういうことを自然にやれるようなカルチャーを作ることが、重要じゃないかなと思って。
大石:なるほど、おもしろいですね。カルチャーですね。その漆原さんの会社ウルシステムズさんのカルチャーを維持するために、漆原さんがこういうことに気をつけているとか、やっていることって何かあるんですか?
漆原:僕はとにかく「新しい技術が楽しくてしょうがない」という顔をずっとする。
大石:なるほど(笑)。
漆原:ひたすらそういう顔をする。経営者がそういうオーラを出しまくる。
大石:なるほど。それで四半期の速報もJSONで出したんですか。
漆原:それは……(笑)。むしろちょっと手を抜いているかもしれません。
(会場笑)
漆原:やっぱり経営サイドが技術をなによりも好きで、もうなんか「おいしい食事よりも僕はこれが好きだ」みたいにやっていることは、とても重要なんじゃないかと思っています。
大石:なるほど。小野さんも、セゾン情報システムズさんの場合はエンジニアが多かったと思うんですけれども、今の漆原さんと同じような状況だったんですか?
小野:いや、やっぱり漆原さんのところは立ち上げられたのが2000年ですよね。そこからだから、たぶん古豪のエンジニアがいっぱいいてというよりは、もともとJavaで漆原さんを知っているような人たちですよね。
漆原:そうです、そうです。
小野:そのトランスフォーメーションの必要性の程度でいうと、たぶんセゾン情報システムズのほうが必要性に駆られていたというか。古豪のエンジニア以外は、ほとんどいないようなところもあったので。
この10年ぐらい、SI業界が全体的に、自分たちで手を動かしてプログラムを作るところは外に出して、上流のほうが単価が高いからやっていこうという大きな流れがあったじゃないですか。
それで技術が空洞化しちゃっていた部分もあったので、ものづくりに原点回帰するのと同時に、今までのものを一切否定する気はないけれども、新しいものもちゃんとできるようにしよう、という。
そこのギャップというか。空いちゃっていた期間みたいなものはあったのかなと思っています。
大石:なるほど、ありがとうございます。最後、玉川さんいかがですか?
玉川憲氏(以下、玉川):そうですね。うちの会社はもともとテクノロジースタートアップで、エンジニアが半分以上いて、みんなノリノリなメンバーなので、この問題は今はほとんどないんですね。むしろ、新しいことをやりすぎるのをどうやっておさえるかというような(笑)。
(会場笑)
尖ったサービスばっかり出てくるから、それをどれだけお客様視点で出すのかというところを、最後にもう一踏ん張り力を入れようというのが最近の方向性ですかね。
大石:じゃあ、ちょっと質問を変えていいですか?
玉川:はい。
大石:玉川さんやソラコムさんが思っているビジョンを、お客様に浸透させるためにやられていることってあります?
玉川:そうですね。本来的にいうと、我々がテクノロジーの価値をクールに説明できれば、それだけで熱狂する。さっきのハンマーを手にして打ちまくるようなエンジニアが、日本に今の10倍ぐらいいれば、テクノロジープラットフォームビジネスはもっとやりやすいと、本音ではそう思っています。
ただ、現状だとそうではないので、むしろどちらかというとビジネス価値をもっと伝えないと、テクノロジープラットフォームでも立ちいかないので。やっぱり一番効くのは、お客様の事例の話であったりする。お客様から「こういうふうに使うとすごくビジネスの価値があるよ」と言っていただくことが、もっとも説得力があります。
「玉川さん、これはすごいサービスだけど事例あるの?」と言われて「すみません、まだないです」と答えたときに、「よし、やろう」と言ってくださるお客様にお会いすると感動しますね。そういうお客様がもっと増えるといいなと思っています。
なぜかというと、それって競争力を手にすることになるんですよね。他に事例がないというのは、その価値を理解して、それを使いこなせるお客さんには競争力になるんです。
ソラコムがラッキーなのは、もともとAWSのときから付き合いのあるお客様が、前例がない技術もリスクを取って初期から使ってくださるところ。宝のようなお客様がいらっしゃるのが、ありがたいことだと感じています。
大石:なるほど、おもしろいですね。プラットフォームサービスだと、結局手にするものはみんな同じになるので、先に手にしたほうがより競争力を早く獲得できると?
玉川:まさにおっしゃる通りです。
大石:みなさん、これわかりますか? 「すぐにソラコムを使ってください」というメッセージですよ。
(会場笑)
玉川:間接的なそういうメッセージです(笑)。
大石:なるほど、おもしろいですね。今のお話って、たぶん漆原さん、小野さんにも通じるところがあるんじゃないかと思います。Javaの世界では、すごく最先端のお二人だと理解しているんですけど、どうですか? 今の玉川さんの話を受けて、先に使うことのメリットみたいなものは。
小野:実は、僕は今の玉川さんとは、ちょっと違う視点で見ていて。僕がやっているのって、基本的にBtoBのエコシステムの中でというよりは、どっちかというとクレジットカード……クレディセゾンってやっぱり金融の会社なので。クレジットカードなどのいろんな金融商品を持っていて、基本的にC向けの話ですから。
そういう意味では、お客様に対して「いや、うちAIで」というのって、あんまり浸透させる必要がないんですよね。というよりは、それを言ったらむしろ負けぐらいの感じで。だって、技術要素でしか説明できないような良さって、いったいなんなんだという話があるから。
だから、うちの技術のチームのメンバーともよく話しているんですけども、どの技術を使うかというのは、逆にほとんど言う必要はなくて。まさにプレスリリースの話もそうですけど、それによってどういう喜びがもたらされるか。
例えば、家に帰って奥さんに、「これが今出ているから、すぐ使ったほうがいいよ」とワクワクして言いたくなるような内容なのかということが大事なので。
だから僕は、今は技術というよりは企画屋みたいな感じになっています。「こういうのを作ろう」と企画して、経営会議で通して、それを実装するようなことをやっているんですね。9月あたりからドンドンドンって、そのへんの成果が出てくる予定なんですけれども。
C向けだと、技術をお客様にわかってもらったり、浸透させるというよりは、技術はむしろ言う必要がない。言ったら負けで、「こんなのできたんだ、すごくいいね」と言ってもらって、実は裏で技術が黒子のように活躍していたということだと思うので。お客様への技術の浸透というのは、僕らのビジネスには要らないかなという感じはしています。
漆原:私は、逆にお客様側に技術について理解をされている方が増えてきたなと感じています。技術を本質的にご理解いただけるようなユーザー様が増えてきています。
過去20年ぐらい前は「なんだかわからないから全部お任せ」という感じの方が、すごく多かったと思うんですけども、逆にいい意味で優秀なエンジニアを事業サイドで雇用されて、その人たちと一緒におもしろいサービスを作っていくというお仕事が、急激に増えてきています。
それは日本の業界のイノベーション的にも、とてつもなく重要だと思っています。それでおもしろいのが、「そういう案件ってどうやって来るの?」というのをリサーチしたんですね。結論は、「変な人は変な人同士を知っている」っていうことでした。
(会場笑)
だから入札にならない(笑)。下らない価格競争とかにならなくて、なんかよくわからないけど口コミで仕事が来るような感じです。フタを開けてみると、そういう案件こそものすごくおもしろくて、楽しい仕事なんです。いろいろと元を辿っていくと、お客様側にむちゃくちゃわかってらっしゃる人が、1人や2人はいらっしゃる。
こういう構図は、これからの日本にとってはとても重要です。「言われたものだけ作ります」というのではなくて、お客さんと一緒にビジネスを作っていく。そういう新しい関係が、今まさにスタートしているんじゃないかなと思っています。
大石:なるほど。「変な人であれ」と?
漆原:変な人のほうが、おもしろいことをやるんじゃないですかね?
大石:しかも変な人とつながっていると。
漆原:ええ。普通じゃないほうが、なんか楽しいですよね。
大石:まぁ、お三方とも普通じゃないと思うんですけども……。
(会場笑)
玉川さん、最後にちょっと今のお2人のお話を受けてどうですかね?
玉川:そうですね。今お話を聞いていて、まさに漆原さんが言った通り、日本は10年前と比べると、相対的にすごくわかってくださる人が増えていると思います。
そういえば今日のパネリストのみなさんも、もともと10年ぐらい前からの知り合いなんですけど、みなさんがどんどんパワフルになっていって、なんでもできるようになっていってるじゃないですか。
10年後も20年後もたぶんそうだろうなぁと思って。なんだか腐れ縁というか(笑)。お互いを知っている者同士の中で、どんどんネットワークのパワーが強くなっていって、もっともっといろんなことができるようになるんだろうなっていう、うれしい夢想が広がりました。
大石:なるほど。変な人同士でつながっていこうということですね。ありがとうございます。
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