2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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大石良氏(以下、大石):じゃあ、2つ目の質問で、今の「タイミング」と似ていると思うんですけど、やっぱりバズワードの誘惑ってあると思うんですよね。
やっぱり、流行りものをやっていると、「イケてる感」ってあるじゃないですか。「クールな自分をアピールしたい」みたいな誘惑ってあると思うんですけども、そういうものと本当の技術の目利きの違いといいますか。ご自身がバズワードの誘惑とどうやって戦っているのかというのを小野さん、教えていただけますか?
小野和俊氏(以下、小野):はい。これは今の僕のチームもそうで、セゾン情報システムズでやっていたときのチームもそうなんですけど、先端技術を使うようなチームなので、これってまさに自分たちの中でもすごくあります。あと、周りから「これ、ブロックチェーンでやったらいいんじゃないですか?」「これをAIでやったら、なんかすごいことができるんじゃないですか?」というのがすごくあるんですよね。
僕は、この点については1つ明確に答えを出していて、「プレスリリースを書いてみて」って言ってるんですよね。というのは、「この技術でなんかよろしくやれるんじゃないか?」というときに、結局なんか顧客体験につながってないようなものを作ったりして。顧客体験か従業員体験か、CXかEXか、どちらかにつながっているものじゃないと、技術をムダに使っているだけという感じになっちゃうと思うので。
だから「バズワードでなんかやりましょう」という話になったときに、それを使って完成したときのプレスリリースを……これは実はAmazon方式なんですけど。だから、ここのみなさんもみんなご存知のAmazonがやっているやり方なんですけどね。
プレスリリースを書いてみると、最終的に全部うまくいったときにどういう世の中になるのかとか、どういう体験なのかとかがイメージできる。その夢のような状態を前提としたときに、いざ書いてみるとなんだか微妙なことってけっこうあるんですよね。「なんかキーワードは散りばめられてるけど、これ株価対策?」というふうに見えかねないようなものもあって。
だからプレスリリースで、どういう体験になって、それがどういう意味があるのかというのを確認してみると、一番コストが少なくフィルターできるし。なんかウワーッと盛り上がって「これいける!」って言ったけど、プレスリリースを書いてみたら意外とそうでもないなとか。また、もっといけるという場合もあるし。プレスリリースをまず書いてみて、それで一次フィルターをするというのが一番効くフィルターかなという感じはしています。
大石:なるほど、おもしろい。この話はAWSの中にいた玉川さんに、ちょっと補足をお願いしてもいいですか?
玉川憲氏(以下、玉川):そうですね。Amazonのカルチャーは、何かのサービスを開発するときに、いきなり開発しちゃダメなんですね。仮想のプレスリリースというものを書きます。
プレスリリースってみなさんわかりますよね。「何月何日にこういうサービスを出しました。それはもともとこういう課題があったので、こういった対象者に向けて、こういう価値のあるものを出します。値段はこれぐらいで、これぐらいのインパクトのあるものです」というすごく長いプレスリリースを、FAQ付きで書くんですね。これを書くことで、顧客にとって価値があるかどうかというのを見極めます。
AWSにいたときに、時差ボケでシアトルで寝れなくて、酔っぱらって思いついたアイディアをプレスリリースに書いてみたんですね。それで、朝起きたら「これはいける!」と思って立ち上げたのが、ソラコムなんですよ。
大石:(笑)。
玉川:これは嘘のような本当の話です(笑)。
大石:本当ですか。みなさん、これツイートしどころですからね。
(会場笑)
すばらしい。ありがとうございます。じゃあ、ちょっと漆原さんの話もお聞かせいただけますか?
漆原茂氏(以下、漆原):基本、「テレビで聞いたらバズワード」だと思ってます(笑)。
大石:なるほど。
漆原:だから「ブロックチェーン」とか「AI」も、いわゆるテレビの……ごめんなさい、メディアの方になにか言っているつもりはなくてですね(笑)。マスメディアなどでたくさん言われ出すと、結局マーケティングが先行して期待値が跳ね上がっちゃう。それで結果的に、適用側と利用側のギャップが生まれちゃって、バズワードって言われてしまうんだと思うんですよね。
なので、期待値先行で流行り系に行かないということは重要です。ちゃんと自分で試すこと。先ほど小野さんがおっしゃられた通り、僕たちもお客さんでトライアルをさせてもらいます。それで、実際そのお客さんがどれだけ喜んだかというので見極めたりすることを常に繰り返しています。
大石:なるほど、ありがとうございます。ちょっと玉川さんにおうかがいしたいんですけど、玉川さんの場合って、IoTというマーケットがここまで大きくなる前から、ソラコムを立ち上げられていて。「IoT」ってなんかバズワードみたいになっていますけれど、別にバズワードを追っかけて、ソラコムを作ったわけではないですよね?
玉川:そうですね。IoTが流行りそうだとか、マーケットで注目されているからやろう、と思ったわけではなくて、どちらかというとソラコムの場合は、競争力になっているのは、クラウドの上に作った通信のコアネットワークの部分です。
これをどこのマーケットに向けて出すのが一番いいのかを考えたときに、結局成長できるマーケットに持っていかないと、絶対に伸びないですよね。何が成長するかと考えたときに、僕らが通信をコンシューマー向けにやると、スマホなどはまだ伸びているけど、いずれ飽和してしまうだろうと。
今後はモノ向けの通信というのは、誰がどう考えたって増えていくから、マーケットは絶対に広がるんですよね。そこは10人の投資家に向けて言っても、9人は「まぁそうだね」と言ってくれるということで、IoTというマーケットは伸びると賭けたということですね。
だから、バズワード自体の悪い側面は、先ほど小野さんがおっしゃられたように、ユーザー視点が落ちやすくなる。「IoTやりたい」になっちゃって、「何をやりたい」とか、「誰のためにやりたい」がなくなるというのは悪い側面だと思うんですね。
でも、いい視点としては、スタートアップなどからすると、利用できるものは絶対に利用したほうがいいんですよ。だから自分たちのサービスが何であれ、IoTに紐づいたり、AIに紐づいたり、お客さんの期待を裏切らない限りは、乗っかったほうが得だと思っています(笑)。
大石:なるほど、おもしろいですね。じゃあ、バズワードが悪いわけじゃなくて、技術と市場とタイミングが一致していれば、別にバズワードかどうかは本質的な問題じゃないと?
玉川:そうですね。あとバズワードって自分がコントロールできるものかというと、コントロールできないものなんですね。もっと大きな力によって動いているものであって。
実際10年前にクラウドのイベントに出ると、「クラウドはバズワードだ」と言われていたんですよ。僕はAWSにいたので、そのときはポジショントークで、「バズワードかどうかは関係ありません」と。「AWSが成功したら、クラウドはバズワードじゃなかったと言われるし、成功する企業が出なかったらバズワードと言われます」としか言ってなかったんですけど、実際はバズワードにならなかったですね。
大石:なるほど、おもしろいですね。ありがとうございます。
漆原:結局、バズワードって、踊っちゃってるのは僕たちエンジニアじゃないかって思うんです。踊らされてるんじゃなくて、踊っちゃってる感じがしますよね。踊っちゃうからいけない。
玉川:踊りきったらバズワードじゃなくなりますよね(笑)。
(会場笑)
大石:じゃあ逆に漆原さん、踊っちゃったご経験ってあるんですか?
漆原:踊っちゃってよくなかったなというのは、例えばなんでもアジャイルみたいなのがあるじゃないですか。
大石:はいはい。
漆原:なんでもサービス指向アーキテクチャみたいな。それが目的になっちゃって。
玉川:SOA(Service Oriented Architecture)はバズワードですよねぇ?(笑)
漆原:なんか、はい。会場にはどなたがいらっしゃるかわからないので危険なトークなんですけど。
(会場笑)
まぁでも、あれはけっこうバズワードっぽかった気がしますけどね。理想的にはわかるんですけど、「みんな乗っかったんだけど、なんだっけなぁ?」というふうになっちゃったのはありましたよね。だから、反省はすごくいっぱいあります。
大石:本当ですか。
小野:今の漆原さんの話を聞いていて、すごくおもしろいと思うのは、よく技術者の中で言われる「ハンマーと釘の心理」みたいな話があって。それは何かというと、ハンマーを手にすると、みんな釘に見えて打ちたくなって、何なら人の頭も釘に見えるから打ちたくなるみたいな。
(会場笑)
やっぱり技術者って、良くも悪くも技術に対して少年のような心でキャッキャキャッキャはしゃぐところがあるので、「こんなのが出て、これすっごく使ってみたい!」ってなると、「このプロジェクトはこれでいきましょう!」ってなりがちで。
だから、市場だとかテレビがみたいな話もあるんだけれども。またはメディアだとかいう話もあるんですけど、漆原さんがおっしゃるように、もしかしたら技術者側が踊っちゃって、そのハンマー釘的な心理でバズワードしてるところもあるかもしれないですね。
大石:ああ~、なるほど。おもしろいですね。もしかしたら、エンジニア自身がバズワードを作っちゃってるかもしれないと。
小野:たぶんハンマー釘ってぜんぜん悪い心理じゃなくて。感覚的にはドラクエとかで「ロトの剣」とか手に入れると、モンスターを斬ってみたくなるじゃないですか。「うわ、攻撃力すごっ」とかいって。ほぼそれに近いんですよ。
(会場笑)
大石:なるほど(笑)。
小野:たぶん純粋な気持ちなので悪くない。
漆原:業界でみんなで一斉に踊ってるのが楽しくなっちゃって、盆踊り状態に陥ると。でも、なんか一晩経つと冷めているみたいな。そんな感じですかね。
(会場笑)
大石:なるほど。ちなみに今バズワードかなって思ってらっしゃるテクノロジーとかあります? これはオフレコのほうがいいんですかね?
(会場笑)
玉川さん、なにかありそうですね。
玉川:いや、僕は否定してるわけじゃないんですけど、「AI」と言うとバズワード感が出て、「マシンラーニング」とい言うと地に足がついた感がしますよね(笑)。
大石:なるほど。お2人はどうですか?
漆原:いや、まったく同感ですよね。確かに「深層学習」というのはわかっている人が言っていて、「AI」と言うとなんでもありみたいな。なんだか「ビッグデータ」っていうと、ちょっとなんでもありなような。
大石:これは私がAmazonの人から聞いた話なんですけど、Amazonは今「AI」という言葉は使ってないんですよね。全部「マシンラーニング」と言っているんです。
アメリカって、今まだ人口が増えてるじゃないですか。なので、AIっていう言葉が「仕事を奪う人類共通の敵だ」というイメージがあるそうなんですよ。だから、AIという言葉を使うことを避けているらしいんですね。なので、Amazonさんは今、ML・マシンラーニングっていうキーワードを使うようになっていると聞いてますね。
日本だと今人口が減っていますから。逆にAIというのが人口減少・人手不足を解消してくれる、銀の弾丸みたいなイメージがあって。そこでちょっとバズワード化しているところもあるんじゃないかなと考えたりします。
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