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Sharing Knowledge(全1記事)

Sansan CTO藤倉氏×まつもとゆきひろ氏が語る「知の共有」 オープンソース時代のものづくりの在り方

2018年11月10日、Sansan株式会社が主催するイベント「Sansan Builders Box」が開催されました。Sansan史上初となるサービス開発に携わるものづくりのメンバーを中心とした本カンファレンスでは、ソフトウェア開発やプロダクトマネジメント、UXデザイン、研究開発など、様々な分野での活動の成果が発表されました。基調講演「Sharing Knowledge」に登場したのは、Sansan株式会社CTOの藤倉成太氏。スペシャルゲストにRubyの生みの親であるまつもとゆきひろ氏を迎え、「知の共有」をテーマにこれからのSansanとものづくりの未来について語ります。写真提供:Sansan株式会社/写真:山平敦史

Sansanとものづくりのこれから

藤倉成太氏(以下、藤倉):みなさんこんにちは。本日はお休みにもかかわらずSansan Builders Boxにご参加いただきまして、ありがとうございます。Sansan Builders Boxは、Sansanが主催するカンファレンスです。SansanのBuilders、つまりはものづくりのメンバーが1度に同じ場所に集まります。

ソフトウェアエンジニアだけではなくて、デザイナーとか研究員、プロダクトマネージャーなど、Sansanのものづくりに携わるメンバーが参加しています。表参道ヒルズでこのようなイベントが開催され、とてもミスマッチな感じがします。

(会場笑)

この違和感を楽しんでみたいなぁと思いまして、この場で開催することを決めました。街に遊びに行きたい気持ちをちょっと抑えていただいて、今日は最後までお付き合いいただければ幸いです。

ここにご参加いただいているみなさんは、Sansanという社名はすでにご存知かと思いますが、どんなことを目指している会社かを少しだけご紹介させていただきます。

Sansanは、創業から11年が経ちました。「ビジネスの出会いを資産に変え、働き方を革新する」というミッションを掲げています。現在は主に2つのサービスをご提供していまして、1つは法人向け名刺管理サービスのSansan、もう1つは個人向け名刺アプリのEightです。

驚くべきことに、このテクノロジーが進化した現在においても、いたるところで依然として紙の名刺が使われています。一説には、世界中で年間約100億枚の名刺が流通しているとも言われています。そしてその数は年々増えています。

法人向けのSansanでは、日々社員が交換する名刺を正確にデータ化し、名刺管理の手間を省きます。それだけではありません。人脈や情報、そういったものを組織的に活用するためのプラットフォームでもあります。

一方で、Eightは個人向けの名刺アプリです。名刺管理にSNSの要素を取り入れました。ビジネスパーソンの人脈をオープンネットワークに変える試みです。我々のサービスがきっかけになって、紙の名刺というものが形を変えていくかもしれません。もしかしたらなくなっていくかもしれない、とも思います。

我々が人々の出会いにイノベーションを起こす。そして、多くの方々がさらにイノベーションを起こしていく。そんな世界を作っていきたいと、我々は思っています。

Sansan Builders Boxが開催された経緯

藤倉:今回、Sansan Builders Boxというイベントをなぜ行おうと思ったのか。そのあたりのお話も少しします。私は、今年の6月にSansanのCTOになりました。CTOに就任したとき、真っ先にやらなければならないと思ったものの1つがこのイベントでした。

今、Sansanにはおよそ180人ほどのものづくりのメンバーがいます。そして全社員でミッションの達成や、事業の成長に真剣に向き合っています。それはビジネスサイドのメンバーだけではなく、今日登壇するようなものづくりのメンバーも含めてです。

そのために我々は日々ソフトウェア開発や研究、プロダクトデザインに取り組んでいます。事業に取り組む中で経験したことや、達成した成果、困ったことないし失敗したこと。そういったことを発表する場を作りたいと思ったんです。

それはなぜか? そうした発表を通じて、Sansanのメンバーはみなさんから大いなる刺激を受けます。そしてその刺激が、我々Sansanのものづくりをもっともっと強くすると思ったのです。我々が作るプロダクトが事業の成長を引っ張る、そんな存在であり続けたいと思っています。

さらに我々の事業は国内だけでなく、国外にも広がっています。グローバルに展開される事業を引っ張る開発チームであり続けるために、まだまだ成長しなければなりません。このイベントが、我々の成長のきっかけの1つになればと思っています。

正直なところ、今、とても緊張しています。

(会場笑)

みなさんの前で、こんなに大勢の前でお話しするということももちろんそうなんですが、このイベントの成功を、ドキドキしながら願っています。

我々の発表の内容が、みなさんにとって有意義なものであればと思います。そこでなにかを得て、みなさんに持ち帰っていただいて、みなさま自身のものづくりもさらに良いものになることを願っています。

このSansan Builders Boxは、今回が記念すべき第1回目です。そこで、テーマを「Sharing Knowledge」としました。「知の共有」ということです。我々がふだん携わっているソフトウェアサービスの世界では、知識の共有の価値が急速に高まっています。それはみなさんもご理解なさっている通りだと思います。

私たちは日々、オープンソースプロジェクトの成果を利用しています。開発中になにか課題に遭遇すれば、過去の解決策を検索する。プロダクトマネジメントやUXデザインの情報も学べる。世界中の研究の成果は共有されている。

そうであるならば、我々の日々の経験や、得た知識も、同様に世の中に還元されなければならないと思います。今日このイベントが、ご参加いただいたみなさんとSansanメンバーの、知識の共有の場になれば。そんな願いを込めて、このテーマにしました。

まつもとゆきひろ氏が登場

藤倉:さあ、ここで、この基調講演のゲストを迎えたいと思います。まつもとゆきひろさんです。みなさんご存知のとおり、Rubyの開発者であり、我々Sansanの技術顧問をしていただいています。

我々Sansanは、日本発のサービスで世界に変革を起こしたいと思っています。まつもとさんの開発されたRubyはまさに日本発であり、世界でもトップクラスの利用実績があるプログラミング言語です。

まつもとさんが作られた価値のうえで、さらに多くの方々が大きな価値を作り上げている。まさに、私たちがやりたいと思っていることを、まつもとさんは実現なさっています。

そんなまつもとさんが考える「知の共有」について、お話を聞いてみたいと思います。まつもとさんは現在テキサスにご出張中です。ご多忙にも関わらず、オンラインでのご登壇をお引き受けいただきました。

さっそくお呼びしたいと思います。まつもとさん、聞こえますでしょうか?

まつもとゆきひろ氏(以下、まつもと):はい、聞こえます。どうですか?

藤倉:聞こえます。こちらはバッチリでございます。

まつもと:あ、よかった。

藤倉:では準備ができたようですので、まつもとさん、よろしくお願いします。

人類の歴史と「知の共有」

まつもと:今藤倉さんがおっしゃったように、知の共有ということをテーマに、ちょっとお話をします。さっきご紹介いただきましたように、私は今、テキサス州オースティンという街にいます。

今日ここでRubyのカンファレンスが開かれるので、キーノートスピーチをするためにこっちへ来ていまして。Sansanのイベントが決まる前から約束していたので、そちらに直接行けなくて本当に申し訳ないです。

本題に入りましょう。知の共有ということですが、人類の歴史において、知の共有と排他的な知の占有というものは、いつも振り子のようにあっち行ったりこっち行ったりしてるんですね。

例えば昔々、技術情報というものは、ギルドっていうんですか、職人の組合とかで占有されて、誰もが持ちえる情報ではなかった。

なんですが、共有しないと発展がないということで、特許という制度を使って、最初の何年間かは発明者が占有するけど、そのあとはみんなで共有することによって文明を発達させようという制度が起こりました。これもある種の知の共有ですよね。

オープンソースソフトウェアの誕生

まつもと:コンピュータの世界でも同じように、昔、コンピュータは1つの会社しか作ってなかったんですね。あの青い会社です(笑)。そういう意味で、その会社の人たちだけがコンピュータを作ることができた、占有されていたわけです。

ですが、ほかにもいろんな会社がコンピュータを作るようになって、知識が分散されるようになってきた。とくにDEC、Digital Equipmentっていう会社が現れて、安いコンピュータをみんなに配るようになったんですね。

そのころのコンピュータは、ハードウェアが大事だったので、ソフトウェアはおまけだったんです。おまけなのでタダで配ったり、自分が作ったソフトウェアをユーザー会の中で共有したりということがすごく自然に行われていたんですね。

それがだんだんソフトウェアの価値が上がってきて、作ったソフトウェアをタダで配っていると商売にならないということで、無償配布はだんだん行われなくなっていった。

ですが今度はそれに対して反対する人たちが現れたんです。その急先鋒が、リチャード・ストールマンという人だった。彼はGNUプロジェクトというものを始めて「すべてのソフトウェアは自由であるべきだ」と主張した。そういう自由ソフトウェアを始めたんですね。

一方でMicrosoftさんとか、ソフトウェアそのものを商売にする企業もどんどん増えてきた。そういう企業たちはかつてフリーソフトウェア、自由ソフトウェアとか、のちに出てきたオープンソースソフトウェアとか、そういうものを目の敵にしていた時代があったんですね。

ですがここ数年を振り返ってみると、例えば1番最初の青い会社であるIBMとか、オープンソースソフトウェアを目の敵にしていたMicrosoftであるとか、そういう企業たちは、もはやオープンソースを敵視することをやめた。

例えばMicrosoftがGitHubを買って、オープンソースを繁栄させるために維持しましょうと言ったり、IBMがRed Hatを購入してLinuxとLinuxの周辺のソフトウェアを繁栄させましょうと言うようになった。これは非常に大きな変化だと思います。

ですから、最初に藤倉さんがおっしゃったような、オープンソースによるみなの協力と知の共有と繁栄が起きる世の中になってきていると思います。

オープンソースは奇跡の上に成り立っている

まつもと:オープンソース論の話をするとき、共有地の悲劇という言葉がよく話題になるんですね。昔、とくにヨーロッパの田舎とかだと、村の周辺の牧草地みたいなものは誰が所有しているわけでもない、みんなが使っていいよという土地になっている。

みんなそこへ行って、例えば羊に草を食べさせたりしていたんだけど、誰のものでもないので誰も管理しない。みんなが「私がやらなくても誰かほかの人がやるだろう」と大切にしないので、だんだん共有地が荒れてしまう。

せっかくみんなの牧草地だったのにただの荒れ野になってしまう、そういうことが起きてしまうということがよく言われていました。

オープンソースの活動が最初に話題になったころ、例えば2000年前後とかですね。オープンソースソフトウェアも共有地の悲劇みたいなことが起きて、結局は荒廃してしまうんだというふうなことが言われていました。

じゃあ実際はなにが起きたかというと、共有地の悲劇みたいなことはオープンソースに限っては少なくともまだ起きていないんですね。

Rubyはフリーソフトウェアなので、誰もが自由に使える。Sansanにも使っていただいていますし、ほかのたくさんの企業でも使っていただいていますが、誰もRubyにお金を払ってない。なんだけど、Rubyのユーザーとか、あるいはユーザー企業が、このまま放っておくとRubyが衰退してしまって最終的には自分たちに損害が出るかもしれないという想いから、Rubyを支援してくださっている。

Rubyコミュニティではフルタイムで働いている人も何人もいますし、そうでなくとも自分の会社の社員たちがRubyを助けてくれるというかたちで、Rubyが進歩し続けるためにたくさんの人が協力してくださっているんですね。

これはある意味奇跡だと思うんです。Rubyに限らず、多くのオープンソースソフトウェアが成立しているということは本当に奇跡だと思うんですね。

もしこの地球に自由の闘士であるリチャード・ストールマンがいなかったり、あるいはオープンソースということを言い出したエリック・レイモンドであったり、一番最初にみんなから「頭おかしいんじゃないの?」と言われながらやったNetscapeという会社がオープンソースという動きをしなかったなら、もしかしたら私たちはこの奇跡のような共有知の繁栄を得ることができなかったかもしれないと思うんです。

幸い、今、私たちにはさまざまないいものがあって、例えばすでに繁栄しているオープンソースソフトウェアとか、オープンソースソフトウェアによって協力し合う文化のようなものがだんだんできている。

繰り返しになりますが、これは本当に奇跡のようなことだと思っているんです。せっかくの奇跡なので、火を消してはいけないと思います。

オープンソース時代のエンジニアのあり方

まつもと:ですからSansanがこういう共有とか、共有知を繁栄させるということをテーマとして扱ってくださったことは本当に嬉しいですし、オープンソース時代にはただ使うだけだった、それだけでもすごくいいことですけど、ただ使うだけではなくて、参加する。

もう1歩先に踏み出すことをしてくださっている技術者がすでにたくさん出てきていますが、今以上に多くなることによって、人類におけるソフトウェアジャンルの繁栄がますます現実のものとして達成できるんじゃないかと思います。

Rubyが発展している共有知の一部であることをものすごく誇りに思っていますし、さらにSansanがそれに参加してくださってみなと一緒に知を共有して、みなと一緒にソフトウェアのジャンルで人類を発展させようという崇高な意識を持っていらっしゃることに感謝します。

みなさんもそのように1歩踏み出していただけることを期待しながら、私の今日の短い話を終わろうと思います。どうもありがとうございました。

(会場拍手)

藤倉:まつもとさん、ありがとうございました。ここからは、また私のほうでお話を続けたいと思います。

今まつもとさんにもお話しいただきましたが、オープンソースという活動自体は1990年代半ばくらいから始まったように記憶しています。お話の中にもあったエリック・レイモンドが『伽藍とバザール』という有名な著書をおこしたのが、確か1997年くらいだったかなと思います。

伽藍とバザール

その中で、まつもとさん開発のRubyが一般に公開されたのが1995年、今から20年以上も前のことです。20年、非常に長い時間をかけてRubyは進化しています。

また、2000年頃には、英語で書かれたRubyの書籍も発売されています。一般への公開からわずか5年後のことでした。Rubyの歴史を考えると、非常に驚かされます。

我々もRubyのような、グローバルで使われるプロダクトを目指していきたいと思っています。Rubyのようにうまくできるかどうかはわかりませんが、ぜひそのあとに続いていきたいと思います。

純粋にものづくりに向き合う1日に

藤倉:ところで、みなさんは、サービスやプロダクトを作ることはお好きでしょうか? 私はときどき辛いと思うことがあります。

例えば、自分が携わっているプロジェクトの中で、回避方法がわからないようなOSやミドルウェアの問題に遭遇したときとか、もしくは答えのない中でプロダクトの重要な意思決定を下さなければならないとき。「なんでこの仕事を選んじゃったんだろう」と思うこともあります。

ですが、とても楽しいと思うことのほうが多いです。「この仕事をやっててよかった」「これしかない」と思うことがあります。

それは、とても美しいソフトウェアアーキテクチャを見たときです。絶好調でコードを書いているときもそうです。プロダクトの価値みたいなものが頭の中でとてもきれいに構造化されたときは、最高に気持ちがいいというふうにも思います。

おそらく、今日ここにいらっしゃるみなさんにも、そんな瞬間があるのではないかと思います。仕事では、プロジェクトの期限もありますし、プレッシャーも感じます。お客様との関係や、立場もあると思います。

ですが今日は、仕事のことはちょっと置いておきましょう。純粋にものづくりに向き合っていただければと思います。今日この場所にはソフトウェアエンジニアの方や、研究者の方、データサイエンティストや、デザイナー、プロダクトマネージャーなど多くの方々がいらっしゃっています。たくさんの方と交流を楽しんでください。

そしてイベントが終わったときに、新しい学びがあったなとか、おもしろい人と出会えたなとか、Sansanのイベントに出てよかったなと思ってもらえたら嬉しいです。

今日はさまざまなカテゴリーのセッションをご用意しています。このあとにはモバイル開発や、R&D、C#やRubyのプログラミング言語のセッションが用意されています。

そのあと休憩を挟んで、後半にはプロダクトマネジメントやUXデザイン、あとは開発組織のパネルディスカッション、インフラのセッションなどもあります。最後は、クロージングセッションで弊社のテクニカルエバンジェリストが発表します。

また、すべてのセッションの終了後には懇親会も準備しています。ご参加いただいたみなさまや、Sansanのメンバーと大いに交流していただきたいと思っています。このイベントが、みなさんの知の共有の場になればと思います。

今日のこの半日が、みなさんにとってよい時間になることを願っています。私からの話は以上です。それではみなさん、イベントを十分にお楽しみください。

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