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ブロックチェーンで何が変わる?(全7記事)

難民の食糧支援にかかっていた手数料を98%削減 途上国で進む、ブロックチェーン活用事情

日本財団「SOCIAL INNOVATION FORUM」と、渋谷区で開催された複合カンファレンスイベント「DIVE DIVERSITY SUMMIT SHIBUYA」の連携によって開催された、都市回遊型イベント「SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA」。今回は「ブロックチェーンで何が変わる?」と題し、Next Commons Labの林篤志氏、ICT4D.JP 代表の竹内知成氏、株式会社スマートバリューの深山周作氏が登壇。モデレーターに佐々木俊尚氏を迎えて、ブロックチェーンと社会課題をテーマにしたトークセッションが行われました。本パートでは、ICT4D.JP 代表の竹内氏が、途上国でのICTを活用したプロジェクトと現状の課題について紹介しました。

ブロックチェーンと国際協力、途上国の開発について

佐々木俊尚氏(以下、佐々木):では竹内さん、自己紹介を踏まえつつ、よろしくお願いいたします。

竹内知成氏(以下、竹内):みなさん、こんにちは。竹内知成と申します。今、私はアビームコンサルティングという会社で働いているんですけれども、主に途上国でICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を活用したプロジェクトをやっています。

転職したのはつい最近で、一昨年末まではJICA国際協力機構というところで10年近く働いていました。

私の話は林(篤志)さんの話ほど壮大ではないんですけど、今日はブロックチェーンを使って、途上国でどうやって国際協力ができるのか、という話をさせていただこうと思っています。

簡単にICTと途上国開発をやっていこうと思ったきっかけをお話しします。2003年から2年間、青年海外協力隊というやつでエチオピアに行って、田舎の高校でITの先生をやっていました。

そのときに、エチオピアの政府が遠隔教育を導入して、スライドにあるように液晶テレビのようなものが教室にバーンと入って、そこから衛星通信を使って授業を始めました。

実際は問題が山積みだったんですけど、ICTで途上国開発というのは、可能性としてはおもしろいんじゃないかと思ったんです。それからこの分野をずっと追っかけ続けてきています。本業とは別に、「ICT for development」という情報発信をブログなどでやらせてもらっています。

今日の本題なんですけれども、ブロックチェーンの話をする前に、(みなさんに)途上国についてのイメージがなかったりするのかなとも思い、まずそもそも途上国でICTが使われ(てい)るのかというところから話していきたいと思います。

「途上国」と一言で言っても、いろいろなイメージがあるんですけれども、私はエチオピアに4年間住んでいまして、そのあとガーナに3年間(住んでいました)。トータルで7年間アフリカに住んでいたので、私が話すイメージというのは、なんとなくアフリカのことだと思ってください。

こういう写真のような、まさに途上国というところも田舎に行けばもちろんあります。

でも、都会のほうに行くと、こんな感じです。これは、エチオピアの首都のアディスアベバやガーナの首都アクラなどです。

2000年以降に、途上国に携帯電話が一気に普及

竹内:あと、この写真はシエラレオネというところの写真です。シエラレオネなんて途上中の途上国という感じで、かなり発展レベルは低いんですけれども。それでも、これは2年前に撮った写真です。携帯電話などがけっこう普及しています。

「ICT普及してるの?」というところで、一番有名なのは、きっと携帯だろうなということです。このグラフに表しているのは、世界銀行のレポートから(持ってきたデータ)なんですけれども、2000年過ぎて、携帯電話が途上国でもガラッと普及してきました。端的に言うと、安全な水や電気にアクセスするよりも、いまは携帯のほうが活用しやすいと言われています。

そういう状況で、途上国ならではのサービスなども出てきています。ケニアではモバイル送金サービス「M-Pesa(エムペサ)」というものがあって、銀行口座がなくても携帯さえあればみんなお金を自由に送金できます。

あと、携帯電話が独自の発展をしています。これは携帯電話なんですけど、懐中電灯が付いているんですよね(笑)。このあいだトーゴ(共和国)で買ったんですけれども、こういうおもしろいものなども出てきています。

(会場笑)

竹内:もう1個、これはガーナで2~3年前に撮った写真で、「Drop THAT YAM!」という看板です。「YAM」は何だと言うと「ヤムイモ」を指しています。

じゃあ「ヤムイモ」って何だろうと言うと、実はガーナではこういうガラケーのことを「YAM」と呼んでいます。ダサいってことです。「ダサいガラケーは捨ててスマホを持とうよ」という看板。これは3年ぐらい前に、ガーナではけっこう立っているのを見かけました。

ということで、(アフリカでも携帯電話が)けっこう使われているんだね、というイメージが湧いたかと思います。

マイニングで得られた仮想通貨を寄付できるユニセフの取り組み

竹内:「ブロックチェーンはどんなふうに使われているの?」というところなんですが、だいたい2013年ぐらいから、ブロックチェーンを「Social Impact」と呼ばれる分野に使っていこうという動きが出ています。

スタンフォード大学が最近出したレポートで、190個ぐらいの事例を調査しています。事例が山ほどありすぎて、何を紹介していいのかなということではあるんですけど、わかりやすく3つに分けて話したいと思います。

1つ目が、資金集めにブロックチェーンを使いましょうという状況です。

2つ目が、資金の流れを透明化するために使いましょう。

3つ目は、かなりざっくりなんですけども、そのほか諸々の使い方というような、現場での活用。この順番で、2つずつ事例を紹介したいなと思います。

まず最初。資金集めです。みなさんもUNICEF(United Nations Children's Fund:国際連合児童基金)は聞いたことがあるかなと思います。募金しているイメージですね。これまでの募金は、やっぱり国際送金の手続きに余計な時間や手数料がかかってしまうという問題がありました。

では、そうした問題がない募金の仕方がないかなということで、UNICEFが最近やっていたのが、個人のパソコンを使って仮想通貨のマイニングをやりますと。そのマイニングの結果得られた仮想通貨が寄付されます。そういう取り組みをやっています。

ここに「The Hope Page」と書いたんですけれども、これはUNICEFのオーストラリアがやっているページで、ここにアクセスすると、「あなたのパソコンのCPUの何パーセントを購入するか」という設定が出てきて、誰でも簡単に(マイニングした仮想通貨の)寄付ができるんです。

これで「本当に金が集まるのか」という懸念もあるかと思うんですけど。この「The Hope Page」が始まる前に、トライアル的に「(UNICEF)Game Chaingers」というプロジェクトがあって、今年(2018)の2月~3月の2ヶ月間、同じようなことをやって、(サイト閲覧者のCPUを使った)マイニングをやった結果として、だいたい350万円ぐらい集まりました。

こういうふうに、いろいろな効果があって、仮想通貨だったら安価で迅速に寄付の手続きができます。一方で個人的には、仮想通貨の価値が暴落してしまったら、思ったより寄付できないなというリスクもあるのかなと思います。

難民への食糧支援にかかっていた金融機関の手数料を98%削減

竹内:(資金集めの事例の)2つ目です。先日の話ですけれども、世界銀行がブロックチェーンを活用した債権を発行しました。名前は「Bondi(Blockchain Operated New Debt Instrument:ボンダイ)」と言います。通常、こういう債権の発行などには、いろいろな手続きがあって、いろいろな機関が絡んできます。

そうした手続きをすっ飛ばして、ブロックチェーンを使うと、非常に効率的に発券・発行できて、管理もできますという取り組みです。いま、だいたい3分の1以上の国際機関が、「ブロックチェーンを使ってなにかやろう」という動きを見せております。

この取り組みがおもしろいなと思うのは、従来型の資本市場が未発達の途上国でも、資金調達ができる新しいモデルの提案になっているところじゃないかなと思います。

次(のブロックチェーンの使い道の紹介)にいきます。今度は、資金の透明化ということです。これも事例を2つほど挙げます。1番有名なのは、おそらくWFP(World Food Programme:国連世界食糧計画)がやっている「Building Blocks」というプロジェクトがあります。

WFPは難民の方々に食料を供与していくんですけれども、従来のやり方は現金を渡したり電子クーポンを渡して、難民の方はそれを持ってオフィスに行って好きなものを買う。そういうことをやっています。ただ、それだと送金や決済のために、金融機関への手数料もいろいろかかってしまいます。

あとは、個人情報に対するセキュリティやプライバシーの問題もあります。介在する機関が増えると、不正が起きる可能性が高くなってきます。

じゃあどうするかということで、生体認証。眼の虹彩スキャナーの認証を使って、まず難民の方々にデジタルIDを発行します。難民の方々は店に食料を買いに行くんだけれども、お金は払いません。

支払いのときには、(虹彩をスキャンするために)カメラを覗き込みます。お店のほうは、この人は難民のIDを持っていると分かれば、そこで品物を渡します。そのあと、お店がその人に品物を渡したという情報が、きちんとブロックチェーン上で管理されて、それを見てWFPがお金を払う。こういうことをやっています。

これによって、地元の金融機関への手数料の98パーセントをカット。WFPが出しているYouTubeの動画を見ていると、これが普及していけば、年間数百万ドル規模のコスト削減が可能と試算しています。

電気メーターのアドレス宛に仮想通貨を寄付すれば、マージンをとられない

竹内:難民にIDを発給という話が出たので、ID絡みなんですけども、実はいろいろなプロジェクトが動いています。いろいろな組織の発表などによると、従来のIDを持っていない方もかなりいますよと。これ(2015年末時点)だと6,530万人いますね。

世界銀行で言うと、約10億人の人が公式なIDを持っていません。それによっていろいろなサービスを受けられないでいる方々に、ブロックチェーンを使ってIDを準備しようと。大きなところでは、いま、これぐらいのプロジェクトが動いています。

もう1つ(の事例をご紹介します)。お金の流れの可視化というところで、南アフリカの企業をやっているメンバーなんですけど、これは小学校だとか学校に寄付をするというやり方を変えています。何度も出てきましたけど、従来の国際送金の手数料などを変えますと。

例えば、「私が10万円寄付します」と言っても、それがまず最初の団体にいって、それが南アフリカでNGOを取りまとめている団体にいって、そのお金が今度はローカルで(支援する取り組みを)やっている住民のところにいって、校長先生のところにいって、という感じです。どんどん人を介していくことで、どんどん寄付のお金が減っていっちゃうんです。自分の懐に入れてしまう人も間違いなくいますし。

(会場笑)

竹内:そこの入り口は、間違いなく途上国でやります、と言って。じゃあ、どうしようかというところで、この会社では、仮想通貨のアドレスがくっついた電気メーターを作りました。私がこの学校に寄付したいなと思ったら、その(学校の)電気メーターのアドレスに向けて仮想通貨を送金します。

そうすることで、絶対に不正されないのと、ほかの目的にも絶対に使われません。あとは電気メーターがどうなっているのか、どういう数字なのかは見えるようになっていて、モニタリングも可能です。そういうおもしろい取り組みをやっている会社があります。

途上国から出稼ぎに来ている人は、どうやって送金するか

竹内:最後に、現場での活用についてです。これはブロックチェーンを使って、土地の登記をやっていきましょうというものです。ガーナで「BenBen(ベンベン)」という会社が実際にやっている取り組みです。

土地絡みになると、正確な情報は適切に管理する必要があります。途上国だとあんまりできていません。紙ベースで手続きをすると、異様に時間がかかると。1年以上かかることもザラにあります。

そこで、この会社はブロックチェーンの技術を使って、土地の登記を管理できるシステムを政府と一緒になって作っています。それによって、効率化や所有権の明確化ができ、不正や改ざんもされません。似たような取り組みは、ウクライナやブラジルなどのいくつかの国でも行われております。

もう1つ。これは(スライドに)国際送金のコスト2パーセント削減と書いたんですけれども、途上国から先進国に出稼ぎにきている人ってけっこう多いんです。そういう人たちが、稼いだお金は自分の国に送金します。

このお金がかなり多くて、ざっくり言って、ウクライナのODA(Official Development Assistance:政府開発援助)のお金の3倍ぐらいが送金されています。でも、金融機関は送金する手数料が非常に高いです。

家族にお金を送りたいけど、そもそも、途上国では半分以上の人が銀行口座を持っていません。じゃあどうするかと言うと、里帰りでたまたま自分の国に行く人に、「これを持って行って」という感じでお金を渡したりするんです。

実は私の奥さんはエチオピア人でして、たまに里帰りするんですけど、そうすると日本にいるエチオピア人が「お金を持っていってくれ」と渡してくるんです。2~3万円ならいいんですけど、1回100万円渡されたことがあって(笑)。

(会場笑)

仮想通貨を現地通貨に交換してもらえる驚きのサービス

竹内:「そんなリスキーなことはやるなよ」と断ったんです。実際にそんなふうにやっているなかで、この「ABRA」というアメリカの会社が、ブロックチェーンを使った国際送金ネットワークをどんどん作っています。

例えば、うちの奥さんがエチオピアに(お金を)送りたいなと思ったら、それをまず仮想通貨に変えてくれる人がいて、仮想通貨で送金します。

でも、うちの奥さんの家族が「エチオピアで仮想通貨を持っても仕方がない」と言ったときに、「その仮想通貨をエチオピアの現地通貨で買ってあげますよ」という人がいます。それで、うちの奥さんの家族は、ちゃんとエチオピアの現地通貨をもらいます。こういう仲買みたいなことをするネットワークを提供しています。

驚くところは、コスト削減の幅なんですけど、従来のやり方と比較して、手数料が2パーセントになります。送金に7日間かかったのが数分でできちゃいます。これが非常に驚きのサービスだなという感じです。似たようなことをやっているところで、ケニアのBitPesaという会社があったりもします。

ここまでザザザッと事例を見て、「なんがブロックチェーンすごいじゃないか、いろいろできるな」というイメージなんですけど、「本当になんでもできちゃうのかな」というところで、穿った感じで考えてみたいんですけど。

「ブロックチェーンで社会的課題が解決するのか? 土地登記を例に」(というタイトルのスライドが表示される)。これ(スクリーンの写真)は何かと言うと、私はエチオピアで土地を買ったことがあるんですね。

正確に言うと、うちの奥さんと一緒に買ったんですけど、そのときにおもしろかったことで、まずブローカーに言われたのが、「登録済みの土地」と「未登録の土地」と、どっちがいいか。

(会場笑)

竹内:「なにそれ、未登録の土地なんかあるの?」と言ったら、「あるよ、そりゃあ。格安だよ」というようなことを言われて。

(会場笑)

ローカルなルールが法律や制度と一致していないというギャップ

竹内:ちゃんと登録はしてないけど、そこにはずっと昔からAさんが住んでいて、みんながなんとなく「そこはAさんの土地だ」と思っている。それで、Aさんがその土地を売りたいと思っている。「格安と言われてもな~」と思って断って、普通に登録されてる土地を買いました。

土地を買って、契約書を交わして、市役所のようなところに登記に行ったんですけど、なかなかやってくれないんです。全然やってくれなくて、「それ、賄賂渡さなきゃダメだよ。あんた外人だから、いくらぐらい」という相場とかみんなが知っているんです。

(会場笑)

それを払って、(手続きを)やってもらって、1年ぐらい経ったときに、いきなり前の土地を持っていたオーナーの奥さんが家にやってきて「あの土地を売るなんて、私は認めてない!」とクレームを言われて。「エチオピアの法律では、土地は夫婦のものだ」と。どうしようかと思っていろいろ話していくと、その奥さんも「ただ小遣いがほしいんだ」というような感じで。

(会場笑)

ちょっとお金を渡して、引き取ってもらったんですけど。実際に土地を買うとなると、こういうローカルならではの課題があったりもします。

もう1つが、3年間勤めたガーナの話です。ガーナには「チーフ制」という非常に伝統的な統治制度があります。ものすごく簡単に言うと、村長だとか長老みたいな、ものすごく偉い人。

ものすごく偉くて、その人たちがどこかに出かけると、お付きの人が10人くらいババっと付いていくんです。何をするにもチーフのお墨付きは重要で、例えば、私がどこかにお店を作りたい(と思って)、お店を作るための土地をちゃんと手続きして契約して取りました、と。ただチーフが認めてくれないと、お店を作れない。作ってもうまくいかないということがあります。

逆もまた然りで、先にチーフのところへ行って「いいぞ」と言われても、実はそこチーフの土地じゃねえ、ということもありうるわけですね。

何が言いたいかと言うと、実際にみんなが従っているルールのようなものと、政治の仕組みや法律がぴったり(一致)しているわけではない。ギャップがあるということが、実際の途上国だと思います。

テクノロジーを活かして、未来を予測するのではなく創造していく

竹内:最後です。では、そういうことを「ブロックチェーンで土地登記の仕組みを作ればうまくいくのか」という話なんですが、ブロックチェーンに限った話ではなくて、やっぱりテクノロジーそのものが万能ではないんだなと。

(テクノロジーに)できることもあります。データがなくならないんだったら、効率化というようなところは間違いなくできます。

一方で、できないこととしては、そもそもブロックチェーンで登録しなきゃいけないというルールに(するためには)、まず法律を変えなきゃいけない。さらに、土地登記制度が十分に整備されていないので、最初の登記をどうするのとか、単純に登録するにはヒューマンエラーが避けられないよね、とか。今、エピソードとしてお話ししたエチオピアの話とか、いろいろ解決できない問題はきっとあるんだろうなと思っています。

最後はまとめということで、ブロックチェーンの国際協力というところからスタートして、いろいろな取り組みが行われていて、この課題解決に非常に強力なツールであることは間違いないだろうと。ただ技術的、社会的、組織的、政治的な環境がある程度は整っていることが条件かなと。

林さんのお話にあったように、まったく新しいタイプのエコシステムを作れるというポテンシャルを秘めているとは思います。ただ、国際協力の分野では、まだ明確なそういう事例というのは、私の知る限りないのかなと思います。

また、テクノロジーそのものはツールなので、それをどう使うかは、使う人次第、使い方次第なのかなと思います。新しい技術が出てくれば必ず、「未来はどうなるの、AIで仕事がなくなっちゃうの」とか。

(そうしたいろいろな問題は)出てくるとは思うんですけど、個人的には未来は予測するものではなく、創るものなのだと思っていて、今日はこういう場なので、良い未来を創るための良い議論ができたらいいなと思います。

ということで、みなさん、今日はありがとうございました。

(会場拍手)

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