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基調講演 曾川景介氏(全1記事)

「お金がなくても使えるメルカリ」は実現できるか? メルペイCTOが語る、新しい価値交換

2018年10月4日、株式会社メルカリが主催するイベント「Mercari Tech Conf 2018」が開催されました。メルカリグループ各社が今後目指す方向や、これから取り組む技術的なチャレンジなどを語るエンジニア向けカンファレンスです。基調講演には、株式会社メルカリCTOの名村卓氏、メルカリ US CTOのDr. Mok Oh氏、株式会社メルペイ取締役の曾川景介氏の3名が登壇。各社がここ1年間の変化や今後の方向性、技術的な取り組みについて紹介します。本パートでは、メルペイの會川氏が価値交換の難しさやどのように信用を作り出していくかについて語りました。

価値交換と信用

曾川景介氏(以下、曾川 ):みなさんおはようございます。

会場:おはようございます。

曾川:私が本日お話しするテーマは、信用と価値交換についてです。私はメルペイのCTOを務めております、曾川です。価値交換 (Value Exchange)と信頼 (Trust) はメルカリが注力するテクノロジーとして、濱田が冒頭でご紹介しました。私は価値交換と、「信頼」ではなく「信用」のお話をしたいと思います。

私のキーノートでは、少し趣向を変えて、ちょっとしたミステリーのようにお話を作ってあるので、ワクワクしながら見てください。私のキーノートでは3つのことをお話しします。1つ目は「メルペイ」の紹介、2つ目は「信用」の話、そして最後に「価値交換」のお話をしたいと思います。

最初に、メルペイのことをみなさんにご紹介したいと思います。メルペイのことは、これまでニュース等で見かけたことがある方もいらっしゃると思いますが、謎の多い会社だと思われているかもしれません。メルペイは、すでにニュースで報じられているとおり、メルカリの金融部門として設立された会社です。「メルカリがどうして金融?」と思われた方がいらっしゃると思います。おっしゃる通りです。

メルカリは、新たな価値を生み出す世界的なマーケットプレイスを創ることをめざしているのだから、金融は関係ないように思われたのではないでしょうか。ですので、まずメルペイのミッションをご紹介したいと思います。

メルペイは「信用を創造して、なめらかな社会を創る」ために作られた会社です。メルカリは、これまでフリマアプリ、マーケットプレイスとして、多くのお客さまにご利用いただき、モノの流動性を生みだしてきました。

私たちは、このモノの流動性が生みだしたお金に注目し、私たちがお預かりしているお金の流動性を高めることで、さらにモノの流動性を高めることができるのではないかと考えました。メルカリは、「新たな価値を生み出す世界的なマーケットプレイスを作る」というミッションを掲げて、価値の交換をする場所として、お客さまにご利用いただいてきました。

メルペイが目指す「お金がなくても使えるようなメルカリ」

メルペイは、一人でも多くの人が新たな価値を生み出すために、必要な「信用」を創造したいと考えています。よりわかりやすく言い換えると、「お金がなくても使えるようなメルカリ」を作りたいと考えています。「捨てる」をなくすために生まれたメルカリは、自分のいらないものが誰かの必要なものとなり、新たな価値を生むことを世界中に広げることができるマーケットプレイスです。

今、私たちのマーケットプレイスでは、価値を交換して、新たな価値を生み出すためには、お金を持っていることを必要条件としています。お金に代わる信用を創造することは、この前提条件を必要としない画期的なものになると、私たちは確信しています。

もうご理解いただけたかもしれませんが、メルカリのミッションを達成するために、メルペイのミッションを達成することで、一人でも多くの方が価値の交換を行い、あまねく人がやりたいことを実現したり、欲しいものを手に入れられる、そういうなめらかな社会を作りたいと私たちは考えています。

メルペイが設立されたのは去年の11月20日で、まだ1年も経っていませんが、来月末でようやく1年を迎えます。最初は数名のチームでしたが、多くの新しい仲間を集めることができました。会場にお越しいただいている方の中から、新しい仲間になってくれる方がもしいらっしゃれば、ぜひお待ち申し上げております。

そして、現在開発中のメルペイのアーキテクチャについてです。もちろん、マイクロサービスアーキテクチャを採用しています。名村の「進化する組織」という言葉のとおり、アーキテクチャも最初から進化することを前提としています。

それでは、信用の話に進みたいと思います。先ほど紹介したミッションにも入っていましたが、メルペイが取り組んでいるテーマの1つが信用です。冒頭でCPOの濱田から、知らない人の車に乗ったり、知らない人に家を貸したりする話がありましたが、信用がなければ、知らないもの同士の二者間の取引を成立させることはできません。C2Cのサービスやシェアリングエコノミーにおいて、信用は不可分であり、信用を生み出すことは至上命題と言えます。

信用を作り出す試みと価値交換の難しさ

信用について、もう少し掘り下げてみたいと思います。信用という言葉は、極めて抽象度の高い言葉です。先ほどのような、他者を信じることができるかという意味もありますし、他にも「貸す・借りる」の貸借的な概念だったり、お金や通貨のような貨幣的な概念もあったりします。

次は、どのように信用を作り出していくかについてお話しします。私たちは、まず取引データをもとに、信用スコアを作りたいと考えています。スコアリングを行って、さまざまなアプリケーションを生み出す基盤として活用していきたいと考えています。例えば、シェアリングエコノミーやレンタル、予約などが挙げられます。

そして与信。これまで与信と言われると、給料や職業などを基に、割と大きい単位で取り扱われてきたと思うんですが、私たちはもっと小さい単位の与信を作れるのではないかと考えています。これらはメルペイだけで完結するものではなく、メルカリグループ、パートナーのみなさま、そして開発者のみなさまと一緒に、オープンなプラットフォームを作っていきたいと思っています。

次は価値交換の話をしたいと思います。任意の二者間で価値を交換することは、困難な問題です。メルカリで多くの取引が行われていることをお話ししたのに、このようなお話をすることは、みなさんの直感に反しているのではないかと思います。確かに、通貨の登場や信用創造によって、商取引を積み重ねてきた私たち人類が、二者間で取引を行うことは、すでに当たり前になっています。

でも、よく考えてください。本当に簡単なことでしょうか。例えば二者間で、安心かつ安全に取引を行おうとすると、途端に難しい問題が顔をのぞかせます。知らない誰かがモノをちゃんと発送してくれるのか。送られてきたモノが偽物なんじゃないか。壊れているんじゃないか。違うものなんじゃないか。キリがありません。

それに対して私たちメルカリは、「エスクロー」という仕組みを導入することで、二者間の取引を安全で安心に行うことを可能にしました。実はこれ以外にも、二者間の取引を行うための課題はたくさんあります。私たちが今、当たり前だと考えているものの中には、信用や通貨も同様に含まれていますが、これらが「ない」、あるいは「なかった」社会を考えてみた時に、問題はさらに困難になります。

「欲求の二重の一致」は解消できるのか

もし信用や通貨のような価値の交換の媒体がなくなってしまうと、価値の交換は完全な物々交換の世界に戻ってしまいます。経済学の世界では、この問題のことを「欲求の二重の一致」と呼んでいます。二者が物々交換を行おうと合意した、あるタイミングの二者間において、自分の欲しいものを相手が持っていること、相手が欲しいものを自分が持っていることが一致しなければ、価値の交換は行われません。

これを任意のタイミングで行うことは極めて難しいことですが、直感でも理解できるはずです。長い時間をかければ、あるいは可能かも? といったところでしょうか。

価値の交換の話に入る前に、事前に信用の話をしたのは、この話につながっていたのか、と思われた方もいらっしゃると思うんですけど、それは完全なミスリードです。ごめんなさい。それでは、さらに話を進めることにしましょう。

価値の交換が難しく、「欲求の二重の一致」の解消が難しいことは、確かに事実です。本当に社会において、通貨や信用がないという状態が存在したことがあるのでしょうか。これについて、デイヴィッド・グレーバーは著書『負債論』の第2章で「物々交換の神話」と呼び、「古今東西探しても、そのような文明はなかった。経済学者が考えた空想社会である」と断言しています。「欲求の二重の一致」。それは「アダム・スミスが経済学という学問分野をもたらした時から語られている神話である」と、『負債論』には述べられています。

この真偽も、みなさんと一緒に解き明かしていきたいところですが、通貨がどこから来てどこに向かおうとしているのか。その謎に迫ることは、また別の機会に譲ることにしましょう。

秘密のプロジェクト「mercari X」とは

これまで「信用」とは何か……一見、簡単に見える価値交換が、実は難しい問題であるお話をしてきました。すでに信用や通貨を得た私たちは、売買、商いを繰り返すことで、今日を生きています。信用と価値交換は、密接な関係にあり不可分なものです。

どちらが先かという話は過去の話であり、密接な関係の中で発展してきたものです。そして未来もまた、この2つが不可分な関係の中で作られていくのではないでしょうか。

(スライドに「ブロックチェーン?」が表示されて)おやおや、何か見えますね。ブロックチェーンのことでしょうか。もう少しお待ちいただいて、信用と価値交換の話を終わらせましょう。メルペイは、新たな価値交換の媒体として信用を創造します。メルカリはまさに、信用や通貨という媒介によって、物々交換を成立させているインターネット上の仮想的な共同体と呼べるでしょう。

まずは、物理的な貨幣を必要としない状態を目指さなければなりません。そして、通貨的な価値を持たない人でも、メルカリを使える人だったり、価値の交換を通じて新たな価値を生み出せる人に、信用という形で眠れる力を引き出したいと考えています。

さて、メルカリ、メルペイを通じて、信用と価値交換という壮大な2つのテーマをめぐるストーリーをお話ししてきましたが、最後にとっておきの秘密のプロジェクトを、今日は特別にご紹介したいと思います。それは、「mercari X」です。mercari Xは、ブロックチェーンのようなテクノロジーを取り入れて、次のメルカリのコンセプトモデルとして作られました。

リスティングの機能と、エスクローの機能を備えており、CtoCのプリミティブな取引をすでに行うことができます。みなさんが期待している「メルコイン」ももちろんあります。mercari Xは、中央の写真のように、すでに社内で実際の取引に利用され始めています。実際に取引に使われているのは、メルコインです。左手は取引画面の様子です。mercari Xはあくまで実験のために作られたプロダクトであり、一般公開は現在のところ予定しておりません。

ブロックチェーンに関するメルペイの取り組み

ブロックチェーンに関連するメルペイの技術的な取り組みをご紹介します。大きく3つの領域に分けて研究開発を進めています。ブロックチェーンコア技術、仮想通貨のセキュリティ、ブロックチェーンの応用の3つです。ブロックチェーンコア技術の研究では、ブロックチェーン技術の基本的なリサーチ、暗号アルゴリズム、ピア・ツー・ピア、コンセンサスアルゴリズムなどの周辺の技術のリサーチ、加えてブロックチェーンの標準化のための国際的なワーキンググループへの参加などを行っています。

またこういった情報の社外への発信にも力を入れています。ブロックチェーンや仮想通貨を取り扱う上で重要なテクノロジーの1つが、セキュリティです。仮想通貨ごとの個別のセキュリティの話や、秘密鍵や不正なトランザクションに対する対処、ブロックチェーンや仮想通貨に対する攻撃手法の分析などを行っています。

そしてmercari Xのようなブロックチェーンの応用の研究を進めています。mercari Xは、任意の二者間で行われる価値の交換に必要となるリスティングとエスクローをプロトコルとして定義し、価値交換のモデルを確立することをめざしています。そしてもう1つのnext メルカリ、メルペイをみなさまにお届けするべく現在開発中です。

今度は、ここにいる開発者のみなさんを新しいお客さまとして、お迎えすることを心からお待ちしております。メルペイのリリースをお楽しみにしていてください。私からは以上です。ご清聴ありがとうございました。

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