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我が国の未来に向けたリソース投下の現状と課題(全1記事)

ヤフー安宅氏「地方の維持にはベーシックインカム級の公費が必要だ」 日本が抱えるリソース投下・2つの課題

2018年7月31日、六本木ニコファーレにて『【落合陽一・小泉進次郎 共同企画】平成最後の夏期講習(社会科編) - 第一回・人生100年時代の社会保障とPoliTech』が開催され、ニコニコ生放送にて収録と同時に放映されました。ディスカッションに先駆けて行われた識者の講義の内、今回はヤフー株式会社のCSO・安宅和人氏による「我が国の未来に向けたリソース投下の現状と課題」の模様をお送りします。

ヤフー安宅氏が語る、日本と世界の格差の現実

安宅和人氏(以下、安宅):(今日の講演の)最初に、今の日本でどういう課題があって、リソース系でどういう問題があるかという話を俯瞰してくれないか、ということでやってきました。

(スライドを指して)今は日本のGDPってこんな感じで、世界で3位なんですけど……見たとおりですね。ドイツに間もなく抜かれる、という感じです。ドイツの人口は8,000万しかいないんですよね。日本の三分の二です。なんで(人口では上回る日本が抜かれそうなの)かというと、ものすごく生産性(一人あたりの生み出す付加価値)が落ちているんです。

今はもう30位くらいで、1960年代くらいのところ(世界全体での立ち位置)に戻ってます。

日本は、生産性の視点で見れば、(もう先進国というより)中進国なんですよ。これはもう、過去20年くらいの一人負けのせいです。

実は、我々が誇る旗艦(フラッグシップ的な)産業ですら、G7でトップではないんです。ほかの産業もこのような感じで、この赤いのは全部負けているところ(=日本よりも他国が生産性が高いところ)です。

すべての産業をMECEにプロットし、これを主要国と横に並べたものがこれです。日本が生産性で勝っているのは青いところで、基本的にはもう壊滅的な状態ですね。レッドオーシャンという言葉もありますが、それとは違う意味で真っ赤な感じなんですよ。

例えば、小売とかを見ても(ドイツ、フランス、アメリカとは)2倍以上差がありますし、今の非常に重要な情報通信系でも、この(2~4倍)くらい生産性の差があって。農林水産に至っては、アメリカとは40倍以上、ヨーロッパの国と比べても10何倍も違うという、驚くべき状況です。

ですから今、有事が起こると、日本は大変なことになります。こういう感じで(生産性で一人負けして国として)ジリ貧なんですが、一体我々はリソースが足りているのか? という話を次に見てみると……。

そもそも最低賃金が低くて、フルタイムワーカーとの格差も非常に大きい。ものすごく、いわゆる「弱者」の人を酷使して回ってる経済だ、ということは言えます。(最低賃金は)実は、ずーっとG7で最低なんですよね。

さらにR&D。今はものすごい技術革新期だと、ここにいらっしゃる方はみなさんご存知のとおりですが、日本とアメリカが2~3倍の国力の差です。中国と比べても同じようなものですが、実際にはR&D費用は4~5倍差がついてまして、ぜんぜん国力に見合った投資ができていないです。

なぜ日本は適切なリソースの投下ができないのか

トップ大学同士を見ても、学生1人当たりの予算はアメリカと比べて3~5倍違いますし、教員等に払う金も少ないと。実は大学の先生……ここに何人もいらっしゃるんでちょっと申し訳ないんですけれども、実は30年くらい(海外ではどんどん伸びている中、一方で)日本の大学の先生の給料は変わってない、という驚くべき状況にあります。

海外の大学院もめちゃめちゃお金がかかるようによく言われますが、研究開発を行う中心の人物を育てるPhDの取得は基本的にタダです。先進国及び主要国では、日本(のPhDプログラム)がもう唯一に近い罰金制のような仕組みになっています。

その結果、(グラフを指して)こんな感じで、日本は主要国中、唯一に近いかたちで、博士号の数がどんどん減っていくという(状況)ですね。間もなく人口が5,000万しかいない(しかも同じように少子化になやむ)韓国に抜かれます。

なので、このように十分にリソース投下ができていないことは明らかです。それがなぜなのか? というのは、みなさんも当然、疑問に思われると思います。私もこの何年か急に国に関わるようになって、いろいろ眺めているうちに見えてきたんですけれど。

これは国の実態としての収支なんですね。一般歳入と言うか、使えるお金がだいたい100兆円くらいあるんですが……1/3は借金なんですけれども。

そのうち問題は、ふつうに我々が国費で使っていると思っている分は、1/4しかないと。なぜかと言うと、1/3は社会保障費の補填で、さらにその過去の残債というべきものが1/4くらいあるせいで、(実際に使っているお金は)このくらいしかないと。

実は社会保障費というのは、本当のことを言うと、年間120兆くらいあるんですよね。これは膨大な社会保険料とその基金の運用によって本来賄われるはずなんですが、45兆円くらい穴が出ていて。これを国費及び地方で補填している、というような実態です。

地方は、実際には交付金がほとんど(社会保障費へ)横流しになっているのに近い状態で、まぁこういう感じと。これは中身を見てみると、だいたい年金が60兆。医療費が40兆くらいあって、この2/3は65歳以上だと言われています。

お金はあるのに未来に投資できない

しかも、ここにある過去の残債は、昔の社会保障費なんです。合わせると、百数十兆円という金が過去及びシニア層に使われている。なので、ぜんぜん未来や若者に金を突っ込めない。

「日本に金がない論」は実は間違っている、というのは、この額を見たらわかるとおりです。(一般会計と社会保障予算を足した)170兆円というのは、相当の額です。これよりデカい規模の国家予算は、基本的にはほぼアメリカと中国しか存在しません。中国がだいたい170兆ですから、(日本には)十分お金はあるんですが使えない。

しかも、これは財務省のデータですけれども、過去20~30年くらい、ほぼ真水部分は増えていません。社会保障費がひたすら増えてきたからです。

そして、これがもっと衝撃的なんですけど、2025年には社会保障費は150兆くらいになることがわかっています。いま年間35兆くらいの国債を発行してるものが、このままいくと、あと7年後には一年で65兆円くらい発行しなきゃいけないと。これが売り切れるかどうかといったらけっこう微妙で。そのときには相当、日本円の劇的なDevalue(価値の下落)が起きる可能性が高いです。

これが日本の人口分布で、右側が日本全体、左側が地方代表として奥多摩が挙がっています。(年齢別にみた3層の)一番上のところ、私の親もいるんですけれども、国家功労者で、我々にとっては非常に恩人なんだけども、引退された方のところに、100兆くらい突っ込まれています。

この部屋にいる人はみんな勤労層で、いま生産性が上がらなくて苦しんでいます。そして、もっとも不幸なのはこの未来を担う(若年)層です。ぜんぜん金が突っ込まれていない。

これ(日本)を家族として考えると、非常に過酷な状況です。お父さん・お母さんの稼ぎより多い金額を、借金までして、おじいさん・おばあさんに突っ込んでいます。若い人たちは、稗か粟でも食ってろ、みたいな状況になってるということです。非常にまずい。

国家的に、家族だと考えたときにはあんまり良くない状況であるということは、一つ言えると思います。なので、これをどうリバランスするかというのは一つ、重大な課題です。

地方都市を維持するにはベーシックインカム級の公費が必要

実は、もう一個、目に見えているリソース関連の課題があります。それは、昔から人が住んできたこういう美しいところが、どんどんまわらなくなってるということです。過去から比べても、日本全体の人口は激増しているんですね。江戸時代から比べたら4倍くらいありますし、戦争が終わったときから(比べても)1.8倍くらいもあるんですが、人がいなくて破綻と。

それで、どんどんこうやって(人々が地方から)都市のほうに向かっていて、こんな感じの『ブレードランナー』みたいな未来になりかねない、というのが実態だと思います。

なので、このように進んでいくと、結局こういうふうに子どもがぜんぜんいないような集落だらけになっていって、子どもも育てられないと。

ちなみに(地方に)どのくらい金がかかっているかと言ったら、県レベルでは人口密度と関係なくほとんど一定なんですが、これがいわゆる基礎自治体になると、東京の目黒区がだいたい1人当たり年間34万です。それで、こういう県庁所在地で40~50万くらいかかっています。

これが東京都の奥多摩なり宮城県の気仙沼なり、先ほども挙がった島根県の海士町ではどうか。海士町は非常に美しくて、僕もぜひ行ってみたいところなんですが、実態としては一人あたり年間259万円もの公費が突っ込まれていて、4人家族で1000万以上の公費投入がされています。というような。ある種、ベーシックインカム級の公費を入れないと回らないような地方だらけになってます。

これが実は、特別会計とかを入れるとこんな感じの状態で(もっと大きな公費が投下されています)。今のままいくと、ぜんぜん地方はrunできないんですよね。

これはたまたま今、海士町を例として拾っていますけど、ほかのところも似たような状況で、やっぱり自主財源をはるかに超える予算を組まないと成り立たなくなっています。(自主財源の)7~8倍近い予算があって、そのかなりの部分が、インフラを支えるために使われています。

べつにムダ金を使っているわけじゃないですよ。誰も遊んでいないんですけれども、ものすごいインフラコストが使われています。ということで、こういうインフラコストをいかに下げて、サスティナブルな未来を作るかというのは非常に重大なポイントだと思います。

日本はシニア・過去・インフラへの投資を見直すべき

我々は今、非常に大きなテクノロジーのイノベーションのタイミングにあります。これらを使って、どうやってもっと人間も自然も豊かに生きられるようにするかを考えるというのは、非常に大きな課題になるんじゃないかなと思ってます。

ということで、大きなリソース投下の課題が2つあると認識しています。1つ目は、シニア層と過去へのリソース投下があまりにも重くてですね。(それはそれで)大事なんですけれども。(日本には)お金はあるんだけれども、未来や成長にはなかなか張れていない、ということ。

2つ目は、インフラ投資があまりにも重くて、都市集中型の未来しか描けていない、というのが大きい課題なんじゃないかなと思っています。以上です。駆け足でしたが、ありがとうございました。

(会場拍手)

ベーシックインカムが成立する地方はすでにある

落合陽一氏(以下、落合):ちなみに安宅さんは、5分ではどうしても収まりきらないというわけで、僕の枠を削って追加で話してもらいました。

安宅:ありがとうございます。

小泉進次郎氏(以下、小泉):(ニコ生では)「短すぎる」っていうコメントもあったけど、それくらい「聞きたい」と思わせたってことですね。

落合:とくにあのベーシックインカムのところを話してほしくてですね。僕、よく聞かれるんですよ。「AIが発達すると、ベーシックインカムって実現するんですか?」って。そんなことは関係ないと。もう我々の国は、ベーシックインカムが成立する地方はすでにある、というね。

小泉:たぶんそこに対しては、今日も海士町から来ている岩本さん(岩本悠氏)もいるというのが、なんてこの、おもしろい!

落合:ねぇ。

小泉:偶然だけどね。

落合:というようなことがありますが、どんどんいきましょう。

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