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シリコンバレーのUXライターが語る、UXライティングの重要性(全2記事)

シリコンバレーが注目する「UXライター」とは何か? プロダクトの良し悪しを左右する“言葉”の重要性

2018年7月12日、All Turtlesが主催するイベント「シリコンバレーのUXライターが語る、UXライティングの重要性」が開催されました。EvernoteやMediumなどのUXライティングを手掛け、現在はAIスタートアップスタジオのAll Turtlesの共同創業者のJessica Collier氏をゲストに招き、日本では馴染みの薄い「UXライティング」について語りました。講演資料はこちら

Evernote創業者が語るUXライター

Phil Libin氏(以下、Phil):こんばんは。

参加者一同:こんばんは。

Phil:また日本に来てみなさんとお会いできて嬉しいです。私の今日の仕事は非常に簡単で、co-founderのJessicaを紹介するだけです。

彼女はEvernote時代に入社したUXライターです。実は彼女を採用したとき、UXライターとはなにかというのが自分自身でもよくわかっていませんでした。

ただ、彼女が入ったあとに明らかな違いが出てきました。彼女のアクションによって明らかにサービスの明瞭さが変わり、良くなりました。プロダクトを作るときにはビジュアルの視覚効果やプログラムなど、そっちに高い比重を置いていたのですが、言葉がこれほど重要だということには彼女が入るまで気づきませんでした。

世の中のサービスのほとんどは言葉で構成されていて、それが1番後回しにされているというのはもったいないということに気づきました。

AI時代において、会話をしているようにコミュニケーションするというのが重要であって、そういった言葉を重要視するということが非常に大事だということに気づきました。UXデザイナーとしても非常に優れた方なんですが、彼女のマネジメントスタイルに関しても私は非常に感銘を受けました。

毎週オールハンズミーティングという全体ミーティングを開催しているんですが、こんなふうにみんなの前に立って、全社員の前で20分くらい話すときがあります。

当時、Evernote時代ですね。300人くらいの社員数だったんですけれども。ある有名人の名言みたいなものがあって、なんだったか忘れたんですけど「ウィンストン・チャーチルがこんなことを言った」みたいなことを言ったんですね。

観客席……、つまり社員側から「それはウィンストン・チャーチルじゃない!」という指摘がJessicaから飛んできて。「エマーソンだ」という指摘がありました。

ウィンストン・チャーチルとエマーソンの違いを理解しているところも素晴らしいと同時に、観衆の中でも物怖じせず大声をあげて間違いをすぐに指摘して修正してくれるということに関しても素晴らしいなと感激したことがありました。

優れたUXライターであり、優れたリーダーでもある

当時、もしEvernoteを辞めたあとに次の会社を作るとしたら、Jessicaみたいな人を誘いたいなと思っていたところでした。そして1年~2年前くらいにAll Turtlesを始めようかと考えたとき、Jessicaをco-founderに迎えたい最初の1人として誘いました。

彼女にはAll Turtlesのプロダクトの責任者になってもらいたいと考えました。なぜなら彼女の専門性はUXライティングで、これからのプロダクト開発において最重要になる要素であるからです。

同時にJessica自身が非常にレベルの高いプロダクトチームを組み上げられるだろうと思ったのもありました。

立ち上げ当初からJessicaにはあらゆるプロジェクトに参加してもらい、これまでにいくつもの非常に素晴らしいプロダクトを作り上げてもらっています。世界に必要なものをいくつも作ってくれています。

彼女はレベルの高い多様性のあるチームを作って維持することにも成功しています。多様性というのはAll Turtlesの中で最も重要視している要素の1つで、いろいろなタイプの方々が日本、サンフランシスコ、パリで活動して、製品を生み出しています。

彼女のUXライティングの話は非常に楽しんでいただけると思います。私自身もEvernote時代にUXライティングがなにかわかっていませんでした。みなさんもいまこの場ではまだわかっていない状態かもしれませんが、非常にわかりやすく説明してくれると思いますので、ぜひ楽しみにしてください。

そしてこの2年間日本の素晴らしさをずっと伝え続けた甲斐もあり、ついにJessicaを日本に連れてくることができました。なんと今回初めて日本の地を踏みました。ぜひ温かく迎えてあげてください。

(会場拍手)

UXライターとは何か?

Jessica Collier氏(以下、Jessica):ありがとうございます。みなさん、本日はお越しいただきありがとうございます。こんなにたくさんの方にUXライティング、「UXライターとは?」ということに興味を持っていただいて非常に嬉しいです。

この場を整えてくれた日本代表のケンに謝意を、そして東京チームみんなにも今日このイベントを開催してくれたお礼を伝えたく思います。初めての日本で、日本のデザイナーのみなさんにお会いできるというのも非常に嬉しく思っております。ぶっつけ本番の同時通訳をやってくれる浅枝にも感謝しています。

この会はUXライティングの原則がなにかを伝えるために作りました。UXライティングのすべてをここでお伝えできるわけではありませんが、今回のことをきっかけに、より興味をもってもらい、より人と話したくなるようなものにしようと思って資料を作りました。

「そもそもUXライティングって何なの?」という、UXライティングそのものを知らない人がよく私に聞いてくるときに私が答えていることを、まずはお伝えしていきたいと思います。

最もシンプルで重要な考え方は、「単語、ワードはすべての製品に存在する」ということです。我々が使っているデジタル製品、当たり前のように使っている製品は、意識しないかもしれませんが、実はワードだらけなんです。

Dropboxはみなさん使っているかもしれませんが、Dropboxのシステムの中では実は2万7000ものメッセージが使われています。ワードというのは非常にたくさんの役割をこなしています。

2万7000の中では、どういった機能かを理解させたり、ユーザーのしたいことをさせてあげたり、目的を達成させるということをしています。ユーザー体験を良くするというのは、実はすべてこれに関連しています。

「ワード」がプロダクトを左右する

次に、ワードによってプロダクトが良くも悪くもなること。

多くのみなさんが体験していると思いますが、サービス、プロダクトを作るときに、役員がこういう要望を入れようとか、デザイナーがこういう要望を入れようとか、エンジニアがこういう文章を入れたとかが起きていると思います。

そういうことをそれぞれの人がすることによって、支離滅裂な文章がサービスの中に生じたり矛盾が起きてしまうのを経験したことがあると思います。ユーザー体験としては断片化されてしまって1つのきれいな体験にならず、いろんな人が話しかけてきているような混乱する体験になってしまいます。

UXライティングにおいて大切なことは、「平易さ」ですね。易しく、誰にでもわかりやすく使えるものを作るためには、実はワードというのは非常に重要な役割を持ちます。

なんでもかんでも機能を足した、誰も使えない製品を作るよりも、シンプルでエレガントな製品を作るほうが難しいように、ワードの表現も同様にシンプルでわかりやすいものを作るのは難しいのです。

言葉の価値が過小評価されているのです。プロダクトに対してワードの影響は非常に大きいのです。

少しでも意識するようになると、大量の言葉、ワードがプロダクト体験の中に常にあるということに気づかされます。実は洗練されたものを使っているときこそワードそのものを意識せずに製品を使っているのです。それがUXライティングの正しい取り組み方です。

人々がソフトウェアで触れる「言葉」をデザインする

UXライティングとはなにか。LisaはAll Turtlesに所属しているプリンシパルUXライターで、これまでで最も優れたUXライターの1人だと私は認識しています。

最近彼女の取材記事がネットにあがったんですが、「UXライティングとは、人々がソフトウェアに接するときのワードの構成を設計することです」と語っています。

プロダクトとユーザーのコミュニケーションをデザインする。ソフトウェアの価値、ソフトウェアで必要な言葉というのは、誰がどこで使っているかというのも大きく影響します。

今私はアメリカ人でありながら、日本語をベースとしているみなさんに話しています。ローカライゼーション、要するに多言語化は、実はUXライティングにおいても非常に重要な項目の1つとなっています。

これはフランスのBla Bla Carという会社に所属した後にDeliverooという会社に移ったUXライターの女性の方なんですが、「言葉の意味そのものよりも、その単語自体の意味合いとかそれによって思い浮かぶものが重要であるとここでは伝えています。

言葉そのものよりも込められた哲学とか意図のほうが実は非常に重要です。

なのでUXライターの仕事というのは、ユーザー中心設計とプロダクト戦略を組み合わせ、言語学の視点から理想の体験を設計すること、と言えます。インターフェイスの中の言葉を決めるというのは、実は仕事の一部でしかありません。

UXライターは情報の構造を非常に意識していて、実際に製品を使えるようになるように、使いやすくするということも意識していますし、どのタイミングでどの情報をユーザーに渡すかというのも意識しています。

そしてすべての統一された単語をすべてのUI環境で利用できるように設計します。他デザイナー間でビジュアルデザインにおいて情報共有をするように、チーム内のほかのメンバーにもどのような意味合いで単語を選定しているかを伝えられるようなリストを用意しています。

UXライターがすることをシンプルに伝えると、「Webとモバイルのプロダクトのインターフェイスコンテンツを企画・開発している」という表現になります。

UXライターはいつ誕生したか?

さて、さきほどいくつかUXライター達のコメントを紹介しましたが、このUXライターという謎の人物たちは一体何者なのか?

UXライターは実はこれまで呼び名が定まっておらず、ほかの呼ばれ方をされていました。こちらの画面にあるようにいくつかの呼ばれ方をされています。コンテンツデザイン、プロダクトライティング……。

私が知っている最も古いUXライター職を務めた人の場合、PayPalで働いていた女性でコンテンツストラテジストという役職でした。UXライターとしての役職がこの世に現れたのはここ5、6年になります。

私がUXライターと呼ばれはじめたのは2014年にEvernoteに入社したときで、そこで初めてUXライターという肩書きがつきました。ただ実は働きはじめた当初からやっている仕事は同じでした。

私には文学のバックグラウンドが入っていまして、なぜウィンストン・チャーチル、エマーソンのツッコミを入れられたのかと言うと、私は英文学の博士号を持っているからです。大学でライティング周りの講義をしていた経験も持っています。それが私の背景です。

もしUXライターになりたいという気持ちがあるのであれば、実は追い求める方向性というのがあります。言語学のバックグラウンドを持っておくことというのは重要な要素です。また、プロダクトデザインのプロセスとUXのルール原則の理解をしていることも重要です。

そして問題解決に対する共同作業、取り組む姿勢というのが実は非常に重要になります。これは仕事とは言えない領域なのかもしれませんが。

UXライターというのは部屋にこもって文章を書く仕事ではありません。毎日プロダクト系の人やデザイナーとやりとりをするのが仕事のメインになります。

lorem ipsumは使わない

ここまで、UXライターと呼ばれている人たちがどういう人かを紹介しました。次はUXライティングのためのコツ、考え方というのをお伝えしていきます。

まずすぐにできることとして、みんながよくやる間違いなんですが、lorem ipsumを使わないことことです。

その代わりにそれなりの意味のある内容で下書きコンテンツを書いておくことです。手間がかかると思いがちですが、実は全体で見るとこのほうが合理的です。

実際の言葉がないことには、実際のユーザーに使ってもらったり、テストしてもらうことが難しいからです。

司会者:ちなみにlorem ipsumが一体何なのかわからない人、手をあげていただけますか?

(会場挙手)

Jessica:lorem ipsumは実際に何を入力するか思い付かないときに文字を埋める方法として、ラテン語で意味のない言葉をバーっとテキストで埋め合わせる時の言葉です。要するに意味不明な言葉を見出しにドーンと入れたりしているコードですね。アメリカではよく行なわれます。

(「lorem ipsumをなくす」とは、)意味のない単語を入れるのを避けて、なんらかの伝わるものを入れることによってコンテンツデザインを進めるという感じです。

(スライドを指して)執筆業のように文言のデザインというのも実際の進め方は似ていて、下書きを直すのと削る作業のほうに時間をかける感じでやっています。結果的に最初に置く下書きのコンテンツは意味不明なものにしないほうがいいだろうということです。

人々が使っている言葉を使う

次に重要なのは、「人々がすでに理解している言葉をなるべくそのまま使う」ことです。

「新しい言葉を使ってその言葉を流行らせよう」みたいな考え方で、すでに人々が知っている言葉と違う言葉を無理やり入れると、実はユーザーを苦しめるだけではなく結果的に自分自身が苦しむことになります。ユーザー体験を混乱させてしまいます。

似たようなことで、固有名詞の使いすぎを避けるというのがあります。

(例を指さして)このサイトのメニューに英語でnoteではなくNoteとあるんですけど、要するに一般名詞をわざとキャピタルにして、それがさもすごいもののように説明するというやり方をすると混乱してしまいます。

(スライドを指して)このことはよくいろいろな人に向けてアドバイスしている内容になります。実質的にこれがUXライティングだけでなくてプロダクトすべてに影響するからです。わかりやすく、正確に、行動できるようにする要素です。

いつも私はチーム内で重箱の隅をつつくようにツッコミを入れるんですが、それで嫌がられています。

私はEames Chairの創業者のチャールズ・イームズのような考え方に近いものを持っていました。彼が言った名言の中で、「ディテールはディテールではない。ディテールがデザインを作る」というものがあります。細かいところですね。ディテール。

ユーザーの話を聞く

デザイナーにとってつらいのはこの要素かもしれませんが、「ユーザーの話を聞くこと」です。

ユーザーが何を考えているか、どんな言葉をふだん使っているかを理解するためには、ユーザーテストをしたり、カスタマーサポートのチームと対話をしたりといったことが重要です。なぜならカスタマーサポートチームはクレームを受け付けるときにそのユーザーが実際にどんな言葉を使っているかを知っているからです。

これもシリコンバレーでよく言うのですが、「ユーザーはWeb上で文字を読まない」という表現があります。

ある意味正しいのですが、ちょっと単純化しすぎというきらいがあります。インターネットを使っているユーザーというのは、実はタスク型、目的達成型の意識で取り組んでいます。

ユーザーが達成したい目的を満たしてあげるために、プログレッシブディスクロージャー、「都度開示」とここにありますが、ユーザーがある時点で知る必要のないものは敢えて表示せず、少しずつその都度必要なものを処理していってもらうという考え方です。

私はよく芸術家や建築家の名言を使うのが好きなのですが、「フォームがファンクションより後になるべきだ」という表現が好きです。単語の意味がそのままの意図ではない、という表現です。

文字を使って価値を伝えるよりも、もしビジュアルのほうが効果が高いのであればビジュアルを選びます。逆に文字のほうが意味合いがより伝わるのであれば、そちらのほうを選びます。

ビジュアル部分と、言語部分の関連性とどちらを優先するかというのは都度考えていきたい要素です。どっちが正しいかとか、どっちが勝つかとか、どっちが偉いとかではなくて、ユーザーの目的を達成させるということが最も重要です。

(スライドを指して)これは非常に戦術的なものなのですが、用語リストを管理する。チームにリストを与えることができれば、毎日毎日「サインインかログインか、どっちだっけ?」ということに答える手間がなくなります。

UXライティングの最も目指すべきものは、プロフェッショナルなライターではない人がプロダクトの文言を書くことができるようになることです。みんなで「このように開発しよう」「このように作ろう」といったプロダクトを管理するために用語リストを作って統一します。

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