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孫正義「AIの価値をわかっているのに、なぜ真剣に取り組まないのか」ソフトバンク2018基調講演

ソフトバンクグループ最大規模の法人向けイベント「SoftBank World 2018」にて、孫正義氏による基調講演が行われました。孫氏が推し進める「情報革命」とはイコール「AI革命」であるとし、これからやってくるAI時代をどう切り拓いていくかについて、ARM(英国の半導体設計企業)買収の意図を軸にその展望を語ります。

「未来のことはわからない」ままでいいのか?

孫正義氏(以下、孫):未来は本当に今、目の前に開かれようとしています。

未来のことはよくわからない、だから現状を精一杯生きるべきだ。そういうふうに、言われる方がいます。

本当にそれでいいんでしょうか。私が思うに、多くの日本のビジネスマンの人々はそういう考え方で、受け身で今起きている現実をそのまま見て、その現実にどう対応していくか。精一杯そこで生きていければそれでいいんではないかと思っている。そういうことに私は危機感を覚えているわけです。

本当に、今の現実をただしっかりと凝視して、真面目に一生懸命に接していけばそれでいいのか、ということです。本当に未来はわからないのか。それはもしかしたら、真剣にわかろうとしていないから、そう思っているんではないかと私は思うんです。

多くの未来のことというのは、すでに今現在、その前ぶれというものが目の前に存在しているということです。その前ぶれを敏感に捉えて、自分のこととして、自分たちの未来のこととして捉えて、一生懸命そこに、真っ先に、人よりも早く、人よりも真剣に、人よりも深く考えて、人よりもそこに対して洞察しようという思いで取り組むのか、取り組まないのか。

そして現状を変えていこうと、自分の現状を変えていこうとする。自分たちの世の中の現状を変えていこうと努力をする人としない人、あるいは会社でも。それで結果は全然違うんではないかと思います。

今日はビックバンについて、少し語りたいと思います。未来について、少し語りたいと思います。そして、ソフトバンクグループがどのようにそこに接していこうとしているのかということについて、語っていきたいと思います。

シンギュラリティは、もう1つのビッグバン

まず最初に、みなさんも知っていると思いますけども、138億年前にビックバンが起きたと言われています。私は宇宙の専門家ではないので、おおむねそんな頃にそういうことが起きたんではないかということでありますが、このビックバンによって、宇宙がどんどん広がっていったと(いうことです)。

さまざまな惑星恒星、銀河系のようなものが生まれてきて、しかもそれは、今も広がり続けていると言われています。今現在も、宇宙は広がり続けている。ビックバンは一瞬で終わったわけではないということです。

シンギュラリティ。もう1つのビックバンとして、私はシンギュラリティがやってきていると思います。シンギュラリティとは、一言で言うと人工知能です。人工知能の叡智は人間の叡智を超えていくということですけど、この人間の叡智を、人工知能のAIの叡智が超えていったときに、超知性が生まれ、その超知性はあらゆる産業を再定義していくということであります。

すべての産業が再定義されるとするならば、我々はどのようにそこに接していったらいいのか、ということであります。これは、人類史上最大の革命だと私は思っています。

「情報革命」=「AI革命」

AIの進化によってさまざまな計算がされていくわけですが、この演算はクラウド側のみでやるわけでもない。エッジ側のみでやるわけでもない。

その両方が、同時に並行して強調し合いながら、より高度なAIの演算処理がなされていくと思います。このエッジ側とクラウド側両方、どちからが大事かではなくて、両方とも大事だということです。

まず、エッジ側について少し語りたいと思います。

私がARM(英国の半導体設計企業)を買収をしたときに、「なんで携帯会社がARMを買収するんだ?」「なぜ今更半導体の会社なんだ?」そう言ったメディアの人たち、あるいは一般の人たちがたくさんいました。

私は、あえて深く説明をしませんでした。今から話す内容によって、なぜARMを買収したのか、なぜARMを大事だと思っているのかということについても、少しご理解をいただけると思います。

ソフトバンクは通信の会社だとこの十数年間思われていますけども、ソフトバンク35年の歴史の中で、通信の会社をやったのは、ほんの3分の1。十数年にすぎません。

ソフトバンクは会社の創業から「情報革命」をずっと今までやり続けている会社であります。その情報革命の中核事業の1つが通信であります。その通信も、AIのための通信だと私は思っています。

情報革命イコールAI革命というような状況が、今からやってくると思います。ARMは、エッジ側のチップとして欠かすことのできないものになっていきます。

ARMを得ることは、オセロの四つ角のひとつを取るということ

ここにいるみなさんは、一般的な人々よりも、より先進的な人々だと思いますけども、おそらくここにいる人の中で、スマートフォンを自分のポケットに今持っていない人は、ほぼ一人もいないのではないかと思います。

去年たった1年間で、世界中で15億台のスマホが売れました。2、3年を平均して、スマホが一人当たり一台使われるとして、30億台から40億台のスマートフォンが、世界中の70億人の人々の中で使われていることになるわけです。

もちろん70億人の中には、赤ちゃんや小さな子ども、あるいはお年寄りという方もいますので、一般のティーンエイジャー、あるいは成人のほとんどの人は、今やスマホを使っているという状況だと思います。

そのスマホの中に、100パーセントあるものがあります。100パーセントです。99パーセントじゃないです。98パーセントじゃないです。100パーセント。100.0パーセント存在しているのがARMのチップであります。

しかもこれは、セントラルな自動車で言うエンジンに相当するものであります。世の中の人々にとって、(スマホは)もはやなくては生活が成り立たない状況になっている状況の現実の中で、100パーセントその心臓部分のエンジンの設計を司ってるのがARMであります。

これは大変重要な意味があると私は思っています。オセロのゲームで言えば、四つ角の1つに相当するものだと、私は思います。

2030年、ARMのチップが世界を埋め尽くす

このARMのチップは、スマホだけではなく、今やあらゆるものに入り始めています。自動車、家電、コンシューマー機器、ゲーム機器など、ありとあらゆるものです。

家の中、あるいは工場の中のセンサーまで含めて出荷されてまして、去年までに出荷された累計は1,000億個を超えました。1,000億個です。地球上の人口が、先ほど言いましたように70億人ですから、地球上の人口の70億人をはるかに超える規模の、1,000億個のARMのチップが出荷されました。

しかも、今から12年後の2030年には、1兆個になるということが予想されています。ARMのチップが1兆個。地球上のありとあらゆるところにばら撒かれる。

それが、ネットワークでつながる。しかもそれらは、人工知能のエッジ側のデバイスとして、これから活躍し始めるということです。

ARMは「Project Trillium」で、ほとんどすべてのチップにAIの機能をこれから搭載していくということを決定し、早速そのチップの提供を開始し始めました。

これによって、デバイス側で人々の動き、例えばみなさんが今スマホを使ってホームボタンを押すと、自分の指紋でその人のIDが確認される。あるいはホームボタンを押さなくても、オープンするだけで自分の顔を自分のそのスマホのご主人だと、持っている所有者だということを理解し、IDとして検知する。これも、いわゆる人工知能です。これもすべて今現在、ARMのチップで行われているわけです。

あるいはSiriに話しかけます。Siriがみなさんの声を認識し、そのことを理解しようとします。これもすべてARMのチップが今現在、みなさんのスマホの中で活躍しているわけです。

それを、よりAIの機能を進化させて、もっともっとその能力を発揮できやすいようにするのが「Project Trillium」であります。

デバイス側のチップは、ほとんどがARMになる

まずはスマホのようなAシリーズのチップから搭載されますが、MシリーズのようにIoTの中に入る小さな小さなデバイスにまで、このAIの機能が、これから1兆個入っていくことになるわけであります。

つまりそれは、道にあるさまざまな監視カメラだとか、あるいは道路の中のいろんなものを検知するセンサーだとか、あるいは空を飛ぶドローンだとか、ありとあらゆるものに入っていくわけです。

今日このあとに、詳しくまた説明がありますけども、ライドシェアだとか、あるいは自動運転にもこれからエッジ側で続々とARMのチップが使われることになるわけです。

これはチップだけではなく、そのソフトウェアのプラットフォームです。Tensorflowだとかcaffeだとか、いろいろあります。こういうようなものと、それからARMのチップを結びつけるソフトウェアレイヤーをARMが作り、例えばNVDAだとかGoogle、Amazonといったところと連携し、ARMのチップがAIのそれぞれのソフトウェアのプラットフォームと、うまく連動できるようにということを行っていくわけです。

デバイス側においては、ほとんどすべてのチップがARMになる。これが共通項になるというところが、重要な1つのミソだと私は思っています。

ということで、エッジ側におけるAIのコンピューティングパワー、そしてエッジ側におけるAIチップの1兆個におよぶ普及。これが、大変重要なものになっていくということです。

AIの進化は二次曲線を描く

さらにクラウド側。こちらも大変重要です。クラウド側においては、GPUの能力を中心に、今から2030年までにはワンチップ当たりの演算能力が約200倍になると予想されています。

もちろんこれはワンチップ当たりの能力ですけども、そのチップの数もクラウド側にどんどん増えていき、しかもそのクラウド側のAIチップと、エッジ側のARMのチップが大変高速に、5Gだとか6Gだとか7Gになります。

これから通信が進化していくそれらと有機的につながって、これから連動していくとなると、AIの進化というのは恐ろしい勢いで、今から二次曲線で伸びていくということであります。

冒頭に言いましたように、未来のことは分からない。でも、分からないから考えるのをやめて、いまの現状に精一杯生きようじゃないかというモノの考え方に、私はそれで本当にいいのかなと疑問符を抱いているんですけども、間違いなくAIは、二次曲線でその能力を高めていきます。

1兆個前後の規模のエッジ側のチップを、我々のARMが出荷するということ。我々は、ARMの内部の人間がそのように想定し、そのように設計し、そのように事業計画を立てているということが1つの重要な事実だと思います。

一度追い抜かれると、二度と追い越せなくなる

それだけAIの能力が進化するということになると、すべての産業が再定義される。

例えば、オックスフォード大学の学者の先生たちが、どんな仕事がいつ頃AIによって、追い抜かれていかれるのかという予測をした、そういう議論の説があります。

それぞれ2024年だとか、2027年だとか、2030年と書いてありますけども、それが2〜3年早い遅いか、本当に抜かれたのか抜かれてないのかというのは、私に言わせれば誤差だと。2〜3年早い遅いは誤差だと。本当に抜いたのか抜かれたのか、何を持って抜いたとするのか、誰を抜いたのかというのは、これまた誤差だと私は思うんです。

私に言わせればそれはどうでもいい程度の議論であって、大事な議論は、その方向に向かっているんだと(いうことです)。1回抜かれたら、2度と追い越せないというぐらい差が一気に開いていく。

人間の能力の100倍、1万倍、100万倍という能力で、より早く、より正確にデータを分析し、推論をしていくということが行われるようになっていくということです。

例えば、顔認識をするというときにはさまざまなノイズがあります。僕も最近歳を取ってきて「あの人誰だっけ」と顔を見ても名前が思い出せない(ことがあります)。顔はなんとなくわかるんだけど「いや、会ったことがあるよね」と。

「こんにちは」と言われて「こんにちは」と愛想良く握手をするんだけど、頭の中で「誰だっけ、思い出せない」というようなことが最近増えてきているんですね。みなさんにも、そんな経験があると思います。

つまり人間の認識能力というのは、その程度にいい加減なものだということです。(講演前に流れた「情報革命」の動画を指して)冒頭にビデオがありました。20億人の顔を認識でき、人間よりも正確に識別できる。そんなことがAIによって、これから現実のものになっていくということです。

予測の力がAIの真価

未解読の昔の歴史的な古文書。こういうようなものも、AIの力によって、人間が解読できなかったような古い文書を解読できるようになった。

あるいは、中国語や英語。こういうものの翻訳が、一般の人々よりもはるかに上手に翻訳ができる状況になってきたということであります。

そういうことだけではなく、例えば生死に関わるものとして、皮膚ガンの発見だとか、あるいは重病を患っているこの人が24時間以内に死ぬのか死なないのかという予測。その予測を、人間の医師よりも正確に予測できる。

そのようなことが、今AIの力によってできるようになってきた。脳腫瘍だとか、あるいは肺ガンだとか。いろんなものがAIの力で、一般的なお医者さんよりもはるかに正確に、より素早く読み取れるようになってきた。

例えば犯罪予測として、これはシカゴの警察の実際の例らしいんですけども、ビックデータや人工知能によって、いつどこで、今までの天候だとか、いろんな地域の経済だとか、季節だとか、過去のいろんなデータを分析しながらヒートマップを作って、何丁目のあの四つ角でもうじき犯罪が起きるということを的確に予測して、そこにあらかじめパトカーを配備しておく。

そうすることによって、発砲事件が29パーセントも減少した。こういうようなことが実際にシカゴの警察で最近起きているわけです。

このヒートマップで予測をするということは、起きた結果を分析するだけではなくて、予測して先回りをするということです。

野球だとかサッカーでは、ボールがきてからそれを見て走って追いかけるような一般的な選手に比べて、本当のスタープレイヤーはボールが動き出す前に、次にボールがどこに行こうと、相手の構えを見ただけで、相手のプレイヤーが配置されている場所を見ただけで、ボールがどこに行くかを予測し走り始める。ボールが動き出す前に走り始める、これが本当の名プレイヤーだと。つまり、予測する能力ということです。

AIを制するものが未来を制する

このあとDidi(滴滴)のCEOであるJeanから説明がありますけども、事前にタクシーのようなDidiの車を配車して欲しいという前に、天気だとか曜日だとか、イベントだとか、そんなデータをもとにして、事前にヒートマップをして予測をする。まさにAIです。

ビックデータを使ってそれをAIで分析して、人よりも早く、人よりも正確にそういうものができるようになる。AIの技術競争というのは、もはや日本よりもアメリカと中国の2ヶ国が、はるかに世界のAIの競争のトップを走り始めています。

例えば自動運転でも、中国では大型トラックのレベル4のテストが完了したということが言われています。あるいは自動運動のバス、こういうものがBaiduによって、すでに実用化され始めた。

あるいは無人のコンビニ店舗が、たった1年間の出店計画で5,000店舗になる、というようなプロジェクトがすでに今、走り始めています。

つまりAIの進化というのは、先ほどから言ってますように、エッジ側の能力の進化、そしてクラウド側の能力の進化の両方が同時に起きながら、ありとあらゆる産業を再定義していくということになるわけです。

そのありとあらゆる産業のサービスの内容や、サービスの能力がAIの力によって進化してされていくということは、AIを制したものが未来を制することになるということです。

10年前、スマホを使いこなせている人はいなかった

冒頭で言いましたように、未来のことはわからないのではなくて、未来のことは当然のことのようにして起きるということであります。来るであろう未来をしっかりと見据えて、それに備えていくことが、大切なんではないかと私は思うわけです。

今日来ておられるみなさんの会社で、自分の会社は今AIに相当取り組んでて、AIについては、もうかなり自信のあるレベルまで成果が出始めている。人材も十分揃っていると思える方。自分の会社ではもうすでにAIにかなり取り組んでて、他社よりも先んじるぐらいもう十分に取り組めている。AIのエンジニアも、サイエンティストも社内に十分にいると思う人、ちょっと手を挙げてみてくれませんか。

ちょっと電気を明るくして。自分の会社ではAI相当いってるよと思える方、実感してる方、ちょっと手を挙げてください。

(会場挙手)

ほとんどいない……。同じ質問を10年後に、みなさんに聞いたら、おそらくかなりの人が手を挙げると思います。

10年前に、みなさん自分のポケットにあるスマホを十分活用していますかと質問をしたら、おそらくまだiPhone出たばっかりぐらいのときですから、この中にいる人の5パーセント、いや3パーセントもいなかったんではないかと思います。

価値をわかっていても、取り組まなければ意味はない

たった10年でそれほど今変わったわけです。AIはこれから我々の生活になくてはならないものになるし、みなさんの会社の中でも、AIは当然のこととして取り組んでいる。

当然、自分の会社にいるエンジニアの大半は、AIを中心に取り組んでいるという状況になるはずです。そういう状況になるということがわかっているならば、1日でも早くやった者が勝つということです。

そんなのあんたに言われなくてもわかってるよ、わざわざここに来てあなたから聞かなくてもわかってるよと(思うかもしれません)。では、わかってるならなぜ取り組まないんですか。わかってるなら、なぜ全力で、もうほかのことは全部忘れていいというぐらいの勢いで取り組まないのかということです。

それをできていないということは、まだ甘いということなんだろうと思うんです。それができてないということは、まだ自分の仕事を真剣にやってないということだと思うんです。

そこで、みなさんに朗報があります。

今から紹介するEric。このEric率いるPetuumが、みなさんに協力をしてくれます。もちろんEricだけではないです。彼のような会社がこれからいくつも生まれて来て、彼のような会社、彼のような技術が、AIについてこれからみなさんを支援してくれます。

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