2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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――続いて、2つの新規事業創出のうちのもう1つの柱、スマートキッチンについてお話をうかがいます。先日リリースを拝見して、すごくおもしろい取り組みだと思ったんですが、OiCy(オイシー)。この開発がどのように進められたのか、教えてください。
住:研究開発部の中に「スマートキッチングループ」というグループがあり、そのグループのメンバーというのは、彼らがソニー時代に水面下でやっていた取り組みごと、クックパッドにそのまま転職していただいた方です。
その2人が、スマートキッチングループのリーダーとエンジニアをやってます。
あとは、もともとクックパッドの研究開発部の中に、レシピの意味の研究をやってる人がいます。
――レシピの意味とは?
住:レシピに意味を付ける。「Machine Readable Recipe」という表現をしていますが、人間が読むレシピと、それを正しく意味化するということは、材料ひとつとっても、違うことだと思うんです。
例えば人間の場合は、「濃口醤油」と書いてあっても、「薄口醬油」って書いてあっても、「醤油」って思うわけですよね。だけど機械はそうはいかないんです。
そういうレシピの意味、例えば「それって焼き料理なんですよ」「その食材ってこういう意味なんですよ」というのを機械が理解できるようにすることを「レシピの構造化」と言っています。そのように、この食材を煮て、焼いて、味付けして、というのを組み合わせるんですけど、正しい意味のレシピをつくるということを研究してる人がいるんです。
プラットフォームを作る人、レシピ連動調味料サーバーみたいなコンセプトモデルを作る人、レシピを研究する人、ビジネスを創る人・・・そういうようなメンバーで今構成されているのが、そのスマートキッチングループというグループです。
――現時点では調味料の配合というところから始まって、今後は「Machine Readable Recipe」を用いて、例えば電子レンジやオーブン、コンロなどが、自動的に調理をしてくれる、というイメージでしょうか?
住:そうですね。過去にプレゼンしたものがあるので、それ見たほうが早いですね。CESに出展されているようなスマートキッチン関係の製品を見ると、冷蔵庫が自ら何が入っているのかわかったり、レシピで読んで手順をちゃんと理解しなくても、グラフィカルに、今切ってる食材は次はこうして、こう煮てという事をナビゲーションしてくれるインターフェースがありました。
あとは、何度何分など、調理時間を人が入力しなくても、画像認識で見た目をAIが判定していい感じに焼いてくれるというものも出てきています。もっと言うと、人間に代わって調理ロボットが調理をすると言うのも見かけます。
これらの製品の裏にあるのはレシピの意味化、構造化です。、今までは人間がレシピを見ながら、または経験則で「焼き加減はこのぐらいでOKだな」と思って焼いていたのですが、機械が理解出来る形に正解を意味として定義されるようになれば、機械が人の代わりにオペレーションできるんです。。また、調理工程もちゃんと構造化されると、料理前に調理手順を人間がちゃんと理解しなくてもカーナビのように「次はこうするんだよ」ということを機械がナビゲーションしてあげられるようになります。
OiCyは、それをクックパッドのプラットフォームとして家電が自由に使えるように、例えば「焼き加減の部分だけ使いたい」「料理の手順をナビゲーションのところ使いたい」など、それはその家電やデバイスで全部違うと思うんですけど、そこをクックパッドとして提供できるようなプラットフォームをつくっていく。それがOiCyです。
デバイスに関しては、今回はレシピ連動調味料サーバー「OiCy Taste」をつくったんですが、あれはコンセプトモデルで「このプラットフォームがあるとこういう体験ができますよ」ということを示すためのものです。
なので、今後は家電メーカーさんと、クックパッドのレシピがあるからこそできる新しい家電の体験をいっぱいつくっていくということを、やろうとしています。
――スマートキッチンによって調理が楽になっていくにしたがって、料理の楽しさがどんどんなくなっていってしまうのではないか、と思ってしまうのですが。
住:いい質問ですね。つまり、「料理の価値と本質っていったい何なのか?」という話ですよね。節約するための手段としてやっている人もいれば、「命・自然に感謝したい」と思ってやっている人、「新しい味とか新しい料理に出会いたい」という人、「季節を感じるために料理してる」という人もいますし、「家族とコミュニケーションを取るため」「子供と一緒にご飯をつくるのが楽しい」といった愛情を伝える手段として料理をしてる人もいます。
もっと言うと「健康になるため」などいろんな手段でやってるわけですよね。まあ「面倒くさい」もあるんですけど。
料理には2つの方向性があって、いわゆる料理をすること自体が義務感としてあります。人間生きなければいけないので、この部分に関して人は「なるべく負担軽減したり、時間短縮したい」と思います。
その反面、料理で得たい価値もあって、よりおいしく、より健康的な付加価値を得たい。この2つがあるんですね。「自動化して料理の楽しみが減ってしまう」というのは、ほとんどみんな効率化の方しか言ってないんですよね。でも、実はそうではないんです。
例えば、昔はみんな「かまど」で米炊いてました。米を炊くのって、だいたい1時間半もかかってたんですよ。水を汲みに行って、米を研いで、かまを置いて、火を焚いてって、1時間半かかります。
ですが、炊飯器を使うと5分で終わります。では、人はその85分間を何に使ってるのか。余った85分間はもっと違うことに使うんですよ。「もっとおいしくて健康的な料理をつくろう」など、いろんなことにどんどん使っていくんです。
住:人は手間が省かれると、もっと新しい価値をつくるようになります。冒頭に僕は人類の進化の話をしましたが、はじめは毎回食べようと思ったら、まずマンモスを倒しに行くんですよ(笑)。食事をするということに3日ぐらいかかるんですよね。倒しにいって、切って、持って帰ってくる。
だけど、料理が進化して短い時間で終わるようになると、違うことに時間が使える。それはスマートキッチンもまったく一緒で、もっとおいしくて健康的な料理を、人はつくるようになるんじゃないかと思うんです。
例えば主婦の方も、本当に毎日忙しくて、今の進化した調理器具をもってしても、すでに大変面倒くさいですし、毎日違う料理をつくっている余裕もない方もけっこういらっしゃると思います。
それがスマートキッチンによって今できているレベルのことを実現するのが簡単になり、ずっと火加減を気にしなくてよくなったり、メニューも簡単に決められるようになると、もっと日々おいしいものをつくることを考えたり、もっと自分の健康にいいものをつくれたり、もっと家族に喜んでもらえるものをつくる、という気持ちの余裕が生まれると思っています。
それを実現してくれるのがスマートキッチンの世界だと僕は思ってますし、それがクックパッドのスマートキッチンであるべきだとも思ってます。
住:レシピ連動調味料サーバー「OiCy Taste」も、はたから見ると「いや、別にそんなのいらないでしょ」って思う人もいるんですよ。だけど、実際に使ってみると考えが変わるものなんです。普段私たちが調味料を測る時は、レシピを見て計量スプーンを持ってきて、目盛りを見ながら測ります。とくに複数を測っている時は集中するので、次を忘れてしまいます。
3つの調味料を測って入れようと思った時は、レシピを見ながら醤油を大さじ1杯入れて、それを洗って、さらにレシピで分量をまた確認しつつ次はみりんを入れて、ということを何度もやるので、すごく神経を使います。
それがボタンをポチって押すと、最適なものが出てくるようになるのです。違う調理をしながらポチって押して適切な調味料を作れるのは、自分の思考もテンポも崩されないんですよ。それがすごい価値があって、気を遣うことが減って余裕が出てくると、もっと「あ、レシピは醤油多いかもな」といって、味を薄めにしようとか、健康に気を遣おうとか違う事が考えられるんですね。そこが、一番価値があることかなと思っていて。
――言われてみれば、そうかもしれません。自分で料理をする時に、1回目はちゃんと測るけれど、2回目は「まあ、こんなもだったよな」みたいに、だんだん適当になっていってしまいますし。
住:そうそう(笑)。慣れるとそれでもつくれますけど、失敗するとけっこう大ケガをするんですね。
量に関して余計な神経を使わなくなって、余計な手間が省けていくと、またぜんぜん違うことを人は考え出すんです。
そこも含めて、手間を省いてあげて、かつ、より高次元なことをしてあげる、できるようになると、料理がもっと楽しく豊かになるということが、たぶんクックパッドのしたいスマートキッチンの世界ですね。
――夢が広がりますね。これは、これまで料理をしなかった人が料理をするきっかけにも。
住:なると思います。やっぱり料理をしない方からすると「どうしていいかわからん」という気持ちがあると思います。それが簡単にできるようになれば、もっと味にこだわって料理ができるようになったり、料理の仕方も変わってくると思うんですね。
その文脈では、食洗器とかもすごいですよね。あれも洗うのが面倒くさいから料理をしたくないけど、食洗器ができたことによって洗うのが簡単になり、料理へのハードルを下げました。
人が本当に自分の価値を感じたいと思っているところを最大限楽しめるようになるというのが、スマートキッチンの世界だと思っています。
――それでは最後に、クックパッドのこれからについてうかがいたいと思います。これまで、レシピサービスとして知られていましたが、これからはレシピサービス以外の事業も手がけられていくとのことで、今後どうなっていってほしいと考えているのか教えてください。
住:僕は経営者ではないので、僕の考えをお話しますが、レシピというのは「自分がこれから調理するものを意思決定すること」や「自分の創意工夫を人に伝える」ということだと思っています。
なぜ僕がスマートキッチンやっているかというと明確な理由があるんです。今、人はPCやスマートフォンでレシピを調べてごはんをつくるのが当たり前だし、人は他の人にスマートフォンやPCで表示してもらうためにレシピを投稿する、見てもらうということをします。
けれど、AIスピーカーやスマートキッチンのようにデバイスが移り変わっていくと、人はスマートフォンやPCでレシピを調べなくなる。レシピを伝達しなくなる時代が来るのではないかと思っています。
そういったデバイス、手段が変わり続けても、クックパッドが人と人をレシピのサービスで仲介してあげるということが必要だと考えているので、スマートキッチン事業というのをやっています。
住:また、レシピサービス以外に関しては、これは僕の妄想なんですけど(笑)。クックパッド自身がやる事業と、関わってるけどクックパッドがやるわけではない事業って、あってもいいと思っています。これはアクセラレータの考え方なんですけどね。
例えば、目的で言うと「人々がより料理を心から楽しんでもらえるようにする」ことがクックパッドが実現したい世界です。それにはいろんな要素があって、「もっといい食材使いたい」「もっと健康的になりたい」などのいろんな課題、ニーズがある。「孤食をなくしたい」なんていうのもあると思います。
その中で、クックパッド自分自身がやるべきものと、クックパッドとパートナーを組んでやるものがある。それぞれが盛り上がっていくと、世界中で料理をするということがもっと楽しみになると思っています。
これは僕の考えですが、僕らはその両方をバランス良く進めていくのが必要だと思っています。
――ありがとうございました。
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