2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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アマテラス藤岡清高氏(以下、藤岡):イオン等にサービスが導入されていますが、若者たちが開発したサービスをいわゆる大企業が導入するにあたっては壁もあったと思いますが、いかがでしたか。
岡田陽介氏(以下、岡田):創業当初、ディープラーニング・プラットフォーマーのようなサービスをやりたかったので、まず、ABEJA PlatformというPaaS(Platform as a Service)を開発しました。
しかし、当初は営業に行ってもサービスそのものが理解されず、「よくわからないからもういいや」とよく言われました。当時は、ディープラーニングを活用しABEJA Platform上で経営課題を解決するようなソリューションを開発して売ろうとしていたのですが、事例もなかったですし、可視化の難しい技術ですからお客さんに売れるはずもありません。
そこで、わかりやすい事例作りのためにも1つの業界に絞ってパッケージ化する必要があると考え、その後いろいろな業界に対してPoC(Proof of Concept、新しいプロジェクト等を立ち上げる前に実施する実効性検証)をかけて行きました。
また、事業が軌道に乗りつつあっても、Google等の大手にすべて持っていかれるような形にならないようにと考え、なるべく彼らが進出しにくい分野に対して集中的にアプローチすることにしました。
その中で小売流通業や製造業等がアプローチ先として浮かんで来たのですが、製造業については、ご指摘の通りで、24歳の若者が突然行って、「このカメラを製造現場に付けて下さい」と言っても相手にされませんでした。
他方、小売業は店舗にカメラなどのデバイスを付けることに対する障壁が下がりつつあり、「これは行けそうだ」という感触を持ったので、小売流通業向けのソリューションを構築することにしました。現在「ABEJA Platform for Retail」という小売流通業向けのソリューションとして展開しています。
岡田:2013~2014年頃にテストケースを行うお客様は獲得できましたが、次なる課題として「安定的な収益モデルをどのように構築して行くか」ということが出てきました。
2010年にSalesforce(米国サンフランシスコ本社)から出資していただいたのが、SaaS(Software as a service)モデルへの転換のきっかけです。いわゆるソフトウェアサービスのような、サブスクリクションモデル(定額制)にシフトすることにより、うまく月額按分にして安定した収入を得ることができるようになりました。
藤岡:イニシャルコストを下げることで、導入のハードルを下げられますね。
岡田:機器の故障率等の勘案もした上で金額の調整をしました。ようやく事業の拡大に繋がるできるビジネスモデルができ、この壁を克服できました。
しかし、その後もIoTセンサーのエラーには悩まされました。IoTセンサーは意外にも原価は数千円程の安価なものが多く、その分品質レベルも下がります。エラー率も高く、入れたものの動かないこともよくありました。
これらはオペレーション上の課題事例ですが、本当に勉強になりました。これらの問題を実際に経験し、オペレーションやビジネスモデルに反映できたことが我々の強みになっています。
2015年頃には、松尾(豊)先生をはじめとしたアカデミアのみなさんのお陰で、国内でもようやくディープラーニングも普及してきたため、改めて創業当初に開発したPaaS(Platform as a Service)『ABEJA Platform』を活用したサービス提供も開始しました。
現在はダイキン工業や中部電力等にもご採用いただき、現在はパートナー向けにベータ版として開放しています。
藤岡:若いメンバーが多いですが、その若さゆえの問題などはありませんでしたか?
岡田:たくさんありました。やはり信用がないので、その中で出資して下さった何社かのVCの方々には感謝しています。
まずはインスパイアに出資していただき、その後「インスパイアが出資したなら面白そうだ」と他からも資金を集めることができました。
とくに、産業革新機構からいただき、さらにNVIDIA(注:米国カリフォルニア州本社。半導体メーカー)から出資をいただいたというのが圧倒的な信頼に繋がりました。
藤岡:NVIDIAのデューデリジェンス(注:投資を行う際に企業の資産価値を適正に評価する手続き)は相当厳しかったと思いますが、いかがでしたか?
岡田:そうですね、外資系の企業は厳しいですよね。ただ、我々は以前にSalesforceからの出資を経験しており、外資系企業がどのようなプロセスで行うかがわかっていたので良かったです。
藤岡:出資にあたり、どんなところが問題になりましたか?
岡田:いろいろありますが、1つボトルネックになるのは言語やカルチャーだと思います。
Salesforceには日本の担当者がいて、うまく咀嚼して本社に伝えていただきました。この際に我々も「こう伝えると、米国人に伝わるのか」といったプロセスを見ることができ、その後に大変役立ちました。
いわゆるSaaSビジネスについても、今でこそ市場規模は拡大していますが、当時の日本には、米国では当たり前に議論されていたSaaSビジネスモデルが何もありませんでした。その頃にSalesforceから学んだUS流のSaaSモデルの作り方は、本当に勉強になりました。
Salesforceの投資担当者の方から渡される資料はどれも素晴らしく、そのフレームワークに沿って説明すると米国の方々にもよく理解していただけるため、その後のノウハウにもなりました。
藤岡:事業会社として成功している企業ですので、そういったノウハウがしっかりしているのですね。 NVIDIAも相当なテクノロジー企業だと思いますが、その会社からテクノロジーで評価されたというのはすごいことですね。
岡田:もともとNVIDIAの日本法人の方々とテクノロジーの話をかなり深くしていたので、そこから「あの会社は大丈夫」いうお墨付きをいただけたのが良かったのではないでしょうか。
先方にとっても、NVIDIAの製品であるGPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット。グラフィックス処理や演算処理を高速化できる)を弊社で利用していたため、そこを含めて双方にシナジーがあることも大きかったと思います。
藤岡:岡田さんは未来志向、長期的思考をお持ちで、「人類課題を解決したい」とも仰っています。そのような発想のきっかけはどこにあったのでしょうか?
岡田:一番はシリコンバレーだと思います。シリコンバレーには日本とは少しレベル感が違う人たちが多く、イーロン・マスクはその代表格です。
「火星に行く」とか「日本とニューヨークを30分で結ぶ」とか、「何を言っているのか?」というような人が多くいますが、テスラもスペースXも、ただそれを信じてやり抜くスタンスに感銘を受けました。
また、彼らから出てくる課題はすべて人類の課題からの発想です。自分がお金持ちになりたいと思っている人は本当に少なく、それよりも人類課題を解決しないといけない、「人類としてこれをやらないと自分たちの子孫に申し訳ない」というような話がよく出て来ます。
彼らの生き方に大変共感を覚え、「このような未来思考でやって行かないといけない」と強く思うようになりました。
藤岡:シリコンバレーでは、メンターのような方、影響を受けた方が具体的にいらっしゃったのですか。
岡田:大きく分けて3組でしょうか。まずはGoogleやFacebookのエンジニアの友人です。彼らの視点もまた非常に高く、彼らが携わるプロジェクトはいずれも技術的にとても面白い上に、社会的問題の解決に取り組むものが多かったので、大変刺激を受けました。
次はVCの方々です。アメリカのVCの方は必ず1回は会ってくれるので、いろいろな方にお会いし、お話ししました。彼らからも「君は世界のどんな問題を解決したいのか」と質問をされましたね。
トップクラスのVC経営者たちともお会いしました。当時は出資をお願いできるレベルではなく、完全に圧倒されて帰ってきましたが、そういう方々とお話できたこと自体が大変勉強になりました。
最後は、創業間もないベンチャー企業の創業者の方々です。みんな、「自分たちが、この人類課題を解決することによって世界を救う」と本気で言っていて、変える気満々なのです。しかも、本当に変わりそうなところにきている。そういう人たちと話していると圧倒的に面白く、それが私自身の一番の発火点になったと思います。
藤岡:それでは、岡田さんが求める人材像についてうかがいたいと思います。社風やそこで働く魅力についてもお聞かせ下さい。
岡田:会社としては第2フェーズに差し掛かっているところだと思います。現在社員は50名ほどですが、今後さらに拡大する予定です。
AI(人工知能)に今大きな波が来ていると感じますが、私たちは「AIをとことんやりたい」というより、AIの次を見つけに行くことも含めて「未来を創造して行きたい」と考えています。
近くオフィスを移転して第2創業期を迎えると思いますが、AIという技術をコア技術に据えたまま次の事業に取り組むか、もしくは、まったく別のテクノロジー使って新しい事業を興すか、そのどちらもやれるのが我々の面白いところだと思います。
人材像についてお話すると、我々はよく「テクノプレナーシップ」と言っています。「テクノプレナーシップ」とは、テクノロジストとアントレプレナーシップを組み合わせた言葉で、エンジニアリングに明るいだけでなく、起業家精神も併せ持った人材を指します。
アメリカにはイーロン・マスクのような技術的に天才、かつスーパー営業マンが存在しますが、日本にもああいう人たちが増えないといけない。そういう人たちに参画して欲しいし、同時にそのような人材を育成する会社にしたいとも思っています。
優秀な社員がテクノプレナーとして成長し、どんどん起業していく。起業によって一定期間で辞めたとしても、それで良いと思います。
藤岡:「AI等はあくまでツールであり、AIよりも本質的なことに向き合ってくれる人が良い」と、岡田さんが語った記事を拝見しました。「社会を変える」といった部分に深く共感する人の方が向いていると言うことでしょうか?
岡田:おっしゃる通りです。ファッショナブルなテクノロジーに踊らされるとAI作ってこねくり回して…と本末転倒になってしまう。そうではなく、「AIを利用して、こんな問題を解決したい」という問題解決型のアプローチが望ましいと思っています。
また、AIを作るための課題も多く出ています。工程を簡易化することによっていろんな領域にAI技術が普及し、さまざまな問題に対する解決策を提示して行けたらいいと思っています。
藤岡:本日は素敵なお話をありがとうございました。
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