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人をAIが接客する世界(全3記事)

マッチングサービスの「会った時に顔違う問題」をロボット研究者はどう解決するか?

近い将来、AIはビジネスや働き方に大きな影響を及ぼすと言われています。一方で、さまざまな企業が取り組んでいるAIビジネスの具体的な成功事例や、実際に今なにができるかはあまり知られていないのではないでしょうか。そこで、AIのビジネス活用を目指して、株式会社レッジによる「THE AI 2018 未来ではなく、今のAIを話そう。」が開催されました。本パートでは、株式会社サイバーエージェントの岩本氏が、さまざまなテクノロジーを使った恋愛の研究や、ロボットと人間のインタラクションをテーマに語ります。

ロボットを使って顧客満足度向上を目指す

岩本拓也氏(以下、岩本):それではここからは私がロボットとのインタラクションについてお話させていただきます。

サイバーエージェントにロボットサービス事業部という部署がありまして、私はそこの主任研究員をさせてもらっています。

これまでのキャリアでは、ヒューマンコンピューターインタラクションという領域の研究をしておりまして、主に学会に参加したり、研究を発表していたんですが、そのハードをサービスとして利用できる状態に落とし込むというのが今の私のミッションです。

先ほど馬場からもありましたが、アドテクスタジオというものの中に入っております。アドテクということなので主に広告を扱っている部署です。この部署について先にお話させてもらいたいんですが、アドテク内にもAIを使った技術はもちろんたくさんあります。

今回ご紹介させてもらうのは、例えばみなさん、ニュースサイトを見た時に広告枠があると思うんですが、車の広告が出ている時に、その記事内容が車の事故で、死者が出てしまったという時に、何となくその車のイメージが悪くなったり。

またYouTubeとかでテロの動画があるじゃないですか。そちらで広告が出ると、まるでテロ支援をしているふうに受け取られてしまうこともあります。そこで我々のアドテク内では、機械学習を使って、その文章全体の意味を推定して「これは攻撃的である」、「これはアダルト要素がある」というのを分別し、そこの広告に出さないという対処もしています。

このようなオンラインでの取り組みはたくさんしているのですが、ロボットサービス事業部というのはオフラインでの場に着目した部署です。

主に何を目指しているかというと、みなさん、ニュースなどで見たことがあるかもしれませんが、すでにロボットが市場に出回っています。そこで我々もロボットを使って、顧客満足向上につながるサービスの高度化を目指しています。サービスの高度化について、これからお話させていただきます。

我々が非常に重きを置いているのが、学術的な研究です。我々はロボットサービス事業部だけではなく、先ほどもあったAIラボ、大阪大学、そしてAIメッセンジャーという組織と横断的に連携を取り、技術を高めています。

人とロボットの共同作業もコミュニケーションの1つ

ロボットの技術は、主にコンピュータービジョンであったり、音声認識、発話、この3つが主なものなんですが、我々が非常に注目しているのはコミュニケーション拡張技術です。

コミュニケーションは、読んで字のごとくなんですが、ロボットがいて、話しかけて普通に確実に返答をしたとしても、それが人間の心に響くかというと、「確実にそうだ」というわけではありません。そこで我々は人間とロボットのインタラクションに非常に力を入れて、研究をしています。

目指すところは、「あ! 佐藤さん久しぶりです。昨日のテレビ見ましたか?」というように完全な会話をイメージする人も多いかもしれません。しかし今の技術では完全な会話はまだまだ成立は難しいです。

そこで他の企業のコミュニケーションの研究をまずご紹介したいのですが、例えばディズニーリサーチ。このように、まるでアニメのキャラクターが飛び出したようなロボットを作っています。

これでコミュニケーションを直接取るわけではありませんが、この動きによって「なにか親しみやすい」「キャラクターが想像できて愛着がわく」というのも十分に考えられます。

そしてこれは豊橋技科大の岡田先生の研究室が「弱いロボット」という物を研究開発しています。これはどういうものかというと、みなさんやっぱり完璧なロボットを想像してしまうんですが、このロボットは、弱いロボット、つまり完璧じゃないんです。

これは自動で掃除をする掃除機ロボットなのですが、ロボットが弱々しく歩くことによって、子どもたちがゴミを入れてあげる。こういう動作をすることで、ロボットとの共同作業を可能にします。

本当か嘘かわからないんですが、逸話で、有名なロボット掃除機を家に置くと、おばあちゃんがわざとゴミを置いてロボット掃除機にエサをやっていたというような現象があったと聞いています。

(会場笑)

このようにロボットとの共同作業というのは、人間とのコミュニケーションの1つじゃないかと考えています。

人間とロボットのインタラクションの形

また、Talking-Allyというのも岡田先生がやっていて、これは何かというと、発話するんですが、完璧に発話するのではなく、わざと赤ちゃんのように、「あのね、昨日ね、雪が降ってね」というふうに話すことによって人間が「え? なになに?」と聞く姿勢になって、ロボットとのコミュニケーションを促進するというものもあります。

またスマートスピーカーのアプリケーション上位であるピカチュウトーク。これはご存知の方が多いと思うんですが、これは話しかけるとピカチュウ、ピカピカしか言わないんです。

コミュニケーションはまったくピカチュウしか返ってこない。アニメを見ている方はご存知の方も多いかもしれませんが、サトシとピカチュウは、それでコミュニケーションが取れているんです。ポケモンに「100万ボルトだ!」っていうと、「ピーカーチューウ!」とまるで自分の声に反応してくれたかのように反応するんですね。

おそらく完全に反応しているわけではないんですが、何かやった時にピカチュウが返すと、なぜか私とスマートスピーカーのピカチュウの間にコミュニケーションが誕生している、と感じます。

そのような人間と機械のインタラクションは、HCI(Human Computer Interaction)という名前で、今研究が進められています。最近この名前も少しずつ出てきたんですが、みなさん、よかったらぜひこの研究を調べてみてください。

その中でも、とくに私が興味をもって研究している分野は、近距離でのコミュニケーションです。テクノロジーが進化したことによって遠距離でのコミュニケーションは少しスムーズになりました。すぐに電話もできるし、メールもできる。

ただ隣の方を見ていただきたいんですが、隣の方とコミュニケーションする時に、みなさんは、どうやって会話したり、コミュニケーションを取りますか? 恐らく普通に話すだけなんです。つまり、近距離でのコミュニケーションに関しては、原始時代からまったくノンテクノロジーで進化していないと僕は感じています。

そこで、なんで進化しないかを考えると、遠距離のコミュニケーションで、例えばテレプレゼンスロボット。まるでロボットがいることによってその場にいるかのような、というものを目指しています。その場にいるこの瞬間って、いわゆるテレプレゼンスロボットに関するゴールなんですね。

でもその場にいる我々にとって、そこはゴールじゃなくて、あくまでスタート地点なんで、私は近距離でのコミュニケーションを進化させるための研究をずっとやってきていました。

この写真を見てわかるように、近距離でのコミュニケーションはたくさんあります。とくに私の専門で力を入れているのは、恋愛というものに興味がありまして。男女に限らないんですが、恋愛を発展させるための研究をこれまでたくさんやってきました。

テクノロジーで愛を作れるか

またこれは、数年前にやってきた最初の研究なんですが、ロボットをやるためには、ただロボティクスだけじゃなくて、認知科学が非常に大事になります。そこで愛を作れるかという研究をやりました。

これはどういうものかというと、LaBeatというものなんですが、初対面の男女複数人をそれぞれ個室に置き、心拍機をつけました。目の前にハートアニメーションをバクバク動かして、興奮するとハートが激しく動きます、と提示しました。

でもこのハート、実は疑似心拍から情報を取ってきたものでぜんぜん心拍とっていなくて、アニメーションはまったく嘘なんですね。わざと激しく動かしたり、動かされたらどうなるかを調べたところ、激しくバクバクバクっと動かしたのを見た相手は、男性であれ女性であれ、好感度はガッと上がる。

またすごく見栄えのいい人でも心拍機が一定の情報しか出していないと、その人に対しての好感度は上がらないということが起きました。つまりノンバーバル情報を提示すると好感度が変わるということですね。

これは余談なんですが、これを思いついたきっかけが、私も婚活パーティーに行った時に、「かわいいですね、連絡先教えてください」と聞くと、「みんなに言ってるんでしょ」と言われたんです。つまりみんなに言っているというのはコントロール可能な情報を提示したってことなので、コントロールできない心拍情報を提示したら、もしかして信じてもらえるんじゃないか、ってことでスタートさせました。

(会場笑)

もちろんその通りうまくいきました。

さっきは嘘の心拍という情報だったんですが、次に脳の交感神経を取って相手に見せるとどうなるか、というのをやりました。Lovable Couchというものを使って、本当に緊張したかどうかを推定し、緊張すると椅子を光らせるシステムを作りました。

その実験をしたところ、おもしろいことがいろいろわかったんですが、結論として、どういった効果があるかというと、いかにクールに口説いてもドキドキしなかったら光らない。本当に興奮したら光るというふうにしました。

実際に実験して何が起きたかというと、先に光った人がめっちゃ恥ずかしがるといった現象がおきたんですね。知らない女性と男性がいて、自分だけずっと光っている状態で話すというのはけっこう苦痛。

(会場笑)

そこで次にやったのは、動画はないんですが、2人の生体情報から緊張状態を推測し、2人とも緊張したら花が咲くというシステムにします。するとスムーズになるという研究をしました。

「会った時に顔違う問題」の研究

さらにこれは昨年からやっている研究です。たぶん、こちらの世代の方たちだとあまりSNOWって使わないと思うんですけど、いわゆるマッチングサービスでは、このSNOWで加工した写真がたくさんあります。すると何が起きるかというと、「わーすごいタイプ、会おう」となったら、「あれ、君、顔、違くない?」ってことがけっこう起きるんですね。

これがなんで起きるかというと、一番上の写真を見て欲しいんですけど、前にとあるマッチングサービスのアンケートを取らせてもらったら、だいたい10日で会うんですね。最初から10日間ずっとかわいく加工した写真を見ているから、会った時にギャップがあるんだったら、徐々に加工を落とした写真を使っていくと、気づかないんじゃないのかなと思ったんです。

(会場笑)

それで実際に10日間かけてある被験者に、この写真をずっと……。すみません、見て欲しいんですけど、写真が30秒で加工した状態から元に戻ります。みなさん、気づくか、ちょっと見てください。30秒でも、けっこうわからないんですね。それで10日間かけるとけっこうな男性が気づかなかったんです。ただ逆に男性の写真を加工したものだとすぐに気づきます。

みなさん、もうだいぶ変わったんですが、そろそろ答え合わせをします。目が小さくなってしわが増えてる。これぐらい違うんですが、30秒だとけっこう気づかないんです。人間の認知ってけっこうずらすことができますし、そうすることで最初、すごい「あ、見た目タイプだな」と思ったのに、徐々にお互いのことを知っていくと、多少顔が違っていても問題ないんじゃないか、と感じてます。

(会場笑)

これからコンピュータービジョンの進化によって、加工技術はどんどん進化していきます。なのでこの「会った時に顔違う問題」はどんどん明確になっていくので、こういう技術が必要なんじゃないのかと思っています。

(会場笑)

ちなみに加工する前と加工した後の写真の2枚の間を生成することは可能ですが、スタンプなどで隠すとかなり難しいので、それは今後の課題となっています。

(会場笑)

人の心を動かすコミュニケーションに向けて

ここからロボットの研究になります。本当はもっとくわしくお話したいんですが、これもビジネスに向けて動いているシステムなので、あまり深くは言えないんです。

ロボットは何に使うか。例えば重い荷物を持ったりとか、一緒にコミュニケーションをするというイメージを持つ方が多いと思うんですが、現在のロボットサービス事業部では、自分の代わりのロボットというものを研究しています。

簡単にお伝えできる範囲で言うと、例えば事前に与えられた情報を使って、ロボット同士が会話するんですね。その後ろに人間がいるんですが、これによって1つおもしろい現象があると考えています。

これも昨年の年末に実証実験は終わっていて、データが集まったので、次は今年中にみなさんの前でプレスリリースして発表できたらな、と思っております。

最後になるんですが、ロボットは音声技術とか、画像処理とかたくさん必要なんですが、これはコミュニケーション技術が非常に大事になってくるんですね。完璧なコミュニケーションができるロボットができたとしても、人間とのインタラクションが不十分だと、それはなかなか人の心を動かすものにはならないんじゃないかと僕は考えています。

なので今後HCIというものが重要になると考えています。そして、サイバーエージェントのロボットサービス事業部は、コミュニケーションロボットに軸を置いて、今後のソリューションを提供していく予定です。

以上になります。ご静聴ありがとうございました。

(会場拍手)

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