2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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為末大氏(以下、為末):みなさん、こんにちは。為末と申します。
こういう、なんとも言い難いセッションをやらされることになりまして(笑)。
(会場笑)
堀(義人)さんにやれと言われて、今日はうかがったんですが。今日はアンドロイドじゃなくて、本物の石黒先生に(来ていただいてます)。
石黒浩氏(以下、石黒):そうですね。アンドロイドは今、モナコに行く準備してるので。
為末:そうですか(笑)。
石黒:イシグロイドさんもけっこう忙しい。
為末:出航前っていう(笑)、感じですかね。
石黒:そうです。
為末:今日、イスラエルから帰ってきたみたいなんで、時間をあけると寝ちゃわれるかも。
(会場笑)
石黒:大丈夫ですよ。時差(ボケ)はないんでぜんぜん大丈夫です。
為末:はい。話をうかがっていきたいなと思います。今日はいろんな話があるんですけど、僕は石黒先生の本はいくつか読ませていただいて。どのくらい詳しい方がいらっしゃるかわからないですけど、先生そっくりのアンドロイドとか、マツコさんそっくりのアンドロイドとか、みなさんのイメージが強いと思うんですけども。
ロボットを作りつつ、人間とはなにか、人間の心はどういうことかを理解しようとしているプロセスだ、と本では解釈をしていました。たぶんそれは、ロボットを作りつつ、人間のように感じられるロボットを作って、最終的に「これは人間か?」って思えるようになれば、ある意味でそのロボットがやってることは人間がやってることと同じだと言えます。
人間のなかは、全部バラバラにしていろいろ見るわけにいかないんだけど、そっちのロボットはよくよく覗いてみると、人間ってなんなのかが理解できるという感じにも見えたりしたんですけども。
そういう観点で、ロボットの技術よりは、先生が今思われてる、いろいろやられているなかで「人間ってなんなんだろう?」というところで、いろんな気づきがうかがえるといいかなと思って、今日は来ました。
石黒:例えば人間を理解する研究って、認知科学とか脳科学なんですけど、すごく基本的な機能からしかスタートしてないんですよね。神経がどういうふうに動いてるのか、とか。
それをいくら積み上げても、意識や感情とか、心みたいなものにはいかないというか。それは100年、200年経ったら可能かもしれないけれども、そう簡単にはいかないわけですよね。一方で、製品や自動車を作るとか、なんでもいいんですけど、人に親和的なものを作ろうと思うと、いきなり人とうまく関わるようなものを作らないといけない。
そのときには、必ずロボット側にどういう意識や感情や存在感なり、僕らが日常で接するレベルで人間に関する直感を得ておかないと、製品はうまく作れないわけですよね。例えばiPhoneを作るのに、どういうインターフェイスがよくて、どういうサービスがいいかをいきなり思いつかないと、人間にとってのいいモノは作れないわけですよね。
だから、そういうところのメタレベルの認知というか、日常生活のなかで、いきなり必要となるレベルの認知の問題を研究しようとすると、脳科学とか認知科学を待ってられないんですね。
一方で、心理学などの学問は再現性がないです。要するに、科学とか技術にするには再現性を持たさないといけない。それは神経レベルの再現性を、いくら分子レベルの再現性を持たせたところで、複雑なシステムの再現性にはいたらない。後述的にモノを説明したところで、再現性にならないと。
もう1つの方法は、ロボットを使ってそういう検証や再現することができるというか。ロボットが人らしく振る舞うことができるとすれば、それは1つの再現性のある方法です。中身はまだわからないんだけれども、そこから人を理解するヒントがいろいろ出てくるな、と。
おもしろいアイデアはいっぱい出てくるんですね。なんて言うか、人と関わる、人間らしいシステムの原理みたいなものが。
為末:(先生が)やられてることで僕が理解したのは、チューリングテスト(注:ある機械が人工知能であるかどうかを判定するためのテスト)はみなさんご存知ですかね?
たしかテキストベースでチューリングテストをやられたんですけど、何分間か人間がやりとりしていて、向こうで答えている相手は人間だと認識できるところまでいくと。あれは人工知能でやったんですよね? チューリングという学者の人が(考案した)、ひと通りあるテストとして思考実験のようなものなんですけど。
僕の認識だと、先生がやってるのは壮大なチューリングテストみたいだと感じました。
石黒:そうですね。「トータルチューリングテスト」って言ってるんですけど。チューリングテストはテキストやメールのやりとりで相手が人間かどうかを問うわけです。僕らは、その対話全体です。身振り手振りとか、視線とか表情とか。
ただ、人間そっくりじゃなくてもいいと思っているんです。ロボットでもいいんだけど、そのロボットを操作してるのがコンピュータなのか、人間がリモコンで動かしてるのかわからない、というレベルに到達したいと思ってます。
だって、僕の見かけがロボットでもこうやって喋ることはできるわけだし、その人と友達になることはできるわけですよね。人間ってものすごいバリエーションがあるので、「スタンダードな人間はこれです」ってないはずですよね。
例えば黒人の人は、日本人からしたら、僕も小さいときのことを覚えてますけど、最初に黒人の人に会ったとき、やっぱり驚くじゃないですか。それと同じようにロボットも、見かけってそれほど重要じゃないと。どういうふうに関われるかって、友達になれるかとかそういったところのほうが、はるかに重要だと思ってますね。
為末:先生のチューリングテストの実験の前半のほうで、娘さんに似せたアンドロイドに娘さんを会わせたことがあって。しばらく触れ合ったあとで、「2度とお父さんの研究室に行かない」と、拒否反応を示したと(笑)。あのときの様子とか、どうでしたか?
石黒:そうですね。最初はペッパーみたいな普通のロボットを作りました。人の姿かたちはすごく重要なんですよ。
だってみなさん、男性でも女性でも、まず最初は顔ばかり見るじゃないですか。中身は大事だって言いながらも、顔を見るでしょ? だから、姿かたちが出会いにおいてはすごく重要です。
それほど深く関わらないロボットにおいて、姿かたちが重要じゃないわけない。というので、その研究をしようと思いました。わりとタブーだったんですけどね。
石黒:でも、研究分野では、要するにロボットの研究をするのに、複雑な機械の研究をせずに「表面的な研究をするのはけしからん」という雰囲気がなんとなくあるわけですよ。
でも本質的な問題をやろうと思えば、別に中身だけが本質じゃないわけですよね。だってみなさん、ものすごい時間をかけて毎日化粧をするじゃないですか。そこが本質じゃないんだったらやめればいいのに、やめないでしょ?
(会場笑)
だから、見かけは本質なんですよ。服だって、すごくお金をかけるじゃないですか。
為末:はい。
石黒:そういう本質的な研究をしようとしたときに、ちょうど娘が4歳のときにロボットと同じ大きさだったんです。
(会場笑)
それで、娘のコピーを作ることにしたんですよ。4歳の子どもでは、他人のコピーを作れないんですよ。なぜかというと、あれは型を取らないといけない。
為末:なるほど。
石黒:石膏のなかに埋めないといけない。
為末:(笑)。
(会場笑)
石黒:これはなかなかね、他人を……。
為末:他人の娘を石膏……(笑)。
石黒:無理ですね、絶対怒られますからね。だから泣きじゃくる娘を……ちょっと、あんまり記録に残してもらうと困るんですけど(笑)。ちょっと怖がるわけですけど、おもちゃを横に積み上げながら。
最初に作ったときは、コピーは綺麗にできたんだけど、まだ研究がスタートしたばかりで、体のメカをちゃんと作るところまではできてなくて。首を振ると体が全部震えるみたいな、なんかゾンビみたいで。
(会場笑)
ゾンビっていうのが、それはすごいおもしろい現象で。ASIMOに比べたらはるかに人間っぽいんだけど、ちょっとというか、その動きが人間っぽくないんですよ。病気の人みたいなんですよ。わかります?
ゾンビとかは、極端な病気の人ですよね。いっそのこと見かけがロボットだったらぜんぜん怖くないんだけど、人間って、人間からちょっと違うものにものすごくネガティブに反応するんですよね。病気の人間とか、そういったものに。
石黒:それは「不気味の谷」って言われてる現象で、心理学とかではものすごく重要なんです。人間は、人間とそうじゃないものをどこで区別してるのか。病気のものと病気じゃないものを区別してるのか。
ロボットでもそういうことが再現できて、それはそれでよかったんだけど、娘は最初に会った自分の娘に大変恐怖を覚えまして。「2度とパパの学校には行かない」と。でも、めでたいことにと言うかよくわからないんですけど、今はうちの学生をやってます。
為末:あ、そうなんですか!?(笑)。そのあとにおもしろかったのが、先生自身のアンドロイドって言うか、ジェミノイドでしたっけ? それを作ったわけじゃないですか。それと12歳の娘さんが対面した。いろいろデータを取っていくと、そのアンドロイドと目を合わせてる回数と、先生と会ってるときに目を合わせる回数が一緒だったっていう。
頭のうえではわかりつつも、体の反応としては、実は無意識的にはかなり似てくると。
石黒:まあ、一緒です。でも、たぶんもっと、アンドロイドのほうが一般的には目を合わせやすいですよね。娘だからそうなんですけど、学生は明らかにアンドロイドのほうにちゃんと目を合わせて、僕とは目を合わさないですね。
為末:(笑)。
石黒:「生はきつい」ってよく言われるんですよ。
(会場笑)
為末:アンドロイドにしてくれと(笑)。
石黒:ニュースキャスターの人が研究室に取材に来たときに、最初は僕が忙しくて。研究室にアンドロイドがあって、僕が大学から遠隔操作で取材を受けたんですけど。そのときは和気あいあいじゃないけど、スムーズに話はできたんです。
次の日は、たまたま僕が行けました。直接話をしたら、たどたどしいというか、半分震えてたりするんで。「なんで?」って言ったら、「いや、生はきついです」とか言われたり。どういうことなんだろうと思って。
(会場笑)
だいぶ最近、丸くなってきたんですけど。
為末:なるほどね(笑)。
為末:そういうのをやっていくプロセスのなかで、不気味の谷っていうのが(ある)。要は、似てるんだけど、何か違うときにゾワゾワくる感じの一番最たるものってなんですか? 例えば人間だったら当たり前のようにやってるんだけど、アンドロイドはそれをやってなくてすごい不気味……。
石黒:最初の一番大きな不気味の谷は、動きですよね。
為末:動き。
石黒:手の動きが震えちゃうとか。ロボットがこうやって腕を動かしたら震えちゃうのは、まさにゾンビみたいですよね。動きが一番、不気味の谷が強くなりますね。声も若干あります。例えば、風邪をひいたら「ちょっとあの人おかしいな」っていうのがあるじゃないですか。
かなりおかしくすると相当怖い。でも、そのときは、動きやほかのものはそれなりに人間っぽくしておかないといけないんですよ。ちょっとだけ違えるのが重要なんですよね。
即抑制という効果があります。人間って、ありとあらゆるレベルで即抑制の効果を持ってる。例えば、神経回路でも……網膜の細胞で、エッジとか端っこがすごく綺麗に見えるようになる。このエッジの両脇は、エッジがないように抑制して見てるんですよね。
要するに、エッジを際立たせるような網膜の効果があって。例えば顔もそうなんですけど、人の顔と、そうじゃないもの。人の顔にはすごく反応するけど、微妙なものにはあんまり反応しないようになってる。
人間とそうじゃないものの間にも、そういう即抑制の効果があって。これは脳のもっとも基本的な機能っていうか、性質だと言われています。ものを瞬時に、正確に識別するための効果なんですよね。
たぶん、だからその不気味の谷も、そういう脳の機能に基づくんだろうなと思ってます。この仮説を検証するのは、なかなか難しいんですけど。
為末:不気味の谷への本当の正体は何かはわかってないけど、なんとなく……。
石黒:そうなんですよ。これはメタレベル、要するに網膜の機能は完全に証明されてます。どんどん顔のレベルとか、その上になってくると科学的にちゃんと証明するのは、だんだん難しくなっていくんですね。
為末:なるほど。
石黒:でも、ロボットを作ってみるとはっきりしますよね。
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