2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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若林恵氏(以下、若林):ギター史でいうと、ジミヘン(ジミー・ヘンドリックス)が出てきて大量生産が可能になった。というか、もともとある程度は大量生産していたんですけど。
「ジミヘンになりたい」というヤツらがいっぱい出てきて、マーケットが広がって、いっぱい供給されて、価格も下がるっていうことが起きて、本当に貧乏なヤツでも、バッと出てこれる可能性があるというふうになった。
田中浩也氏(以下、田中):そういう意味も、ROCKにはあるのか!
若林:それを別の観点でいうと、楽器なので、ちゃんと練習もしなきゃいけないし、これを使いこなせる人ってそれなりにセレクティブなわけです。それをさらに民主化していくのが実は……。
岩岡孝太郎氏(以下、岩岡):HACKいきますか?
若林:HACK。(スライドを指して)要するに、ヒップホップという話になるのかなぁと思います。つまり、再生装置としてのターンテーブルを楽器に変える、という。
それはセンス一発でやれることなので、ある種HACKというものの理想形というか……。ターンテーブルをこうムキュムキュやって、それが音楽をつくる装置になるというのは、けっこう革命的なことだったのではないかと思うんです。
田中:これ、事前に何が出てくるかぜんぜん確認していなくて、今見たんですけど。僕のスライドもターンテーブルから始まるんです。
岩岡:田中先生のHACKいってみますか?
若林:いってください。
(ターンテーブルのスライドが表示される)田中:なんでシンクロしますかね(笑)?
(会場笑)
若林:気が合うというか(笑)。僕もジャズ好きなので。
田中:僕は、伝書鳩なんです。
若林:いいですね。
田中:でも、伝書鳩の話をする前に、これ(ターンテーブルのスライド)を1枚挟んでいて。何を言おうと思ったかというと、レコードの時代から、CDが出てきて新しい技術に塗り替えられて、過去のテクノロジーが役割を終えたときに、別の使い方を人は見つける。音質の透明感とかで言えばCDでいいんだけど、スクラッチはレコードじゃないとできない。そこでレコードを発見するんです、機能を。
そう言った意味で、伝書鳩を「もう1つのIT」っていっている本があって……。
若林:(スライドを指して)これいいね。
田中:(伝書鳩は)もう1つのITなんです。これは情報通信技術なんです。だからスマホの時代に伝書鳩で情報を伝えるってやっぱり大事なんじゃないの? ということなのです。日比谷公園に鳩がいるんですけど、戦時中の伝書鳩の子孫らしいんです。
(ビデオ「The Brooklyn Pigeon Project」)
田中:これ、2003年くらいに、ニューヨークのアランダ/ラッシュ (Aranda/Lasch)という建築事務所が伝書鳩にカメラとGPSを積んで飛ばすということをやっていたんです。やっぱりスマホが出てきたからこそ、伝書鳩をもう一回よく考えてみる必要があると。伝書鳩に別のものを乗せるとか、そういうことが実験されていて。アランダ/ラッシュって、建築家なのに伝書鳩にGPSをつけるみたいな、そういうことが好きなんです。
(ビデオを指して)こうやってカメラを積んでいて。でも、これまだ2003年です、すごい前ですけど。
若林:伝書鳩って江戸時代くらいからあるんですか?
田中:江戸時代にはもちろんありました。
若林:ありますよね。それって基本的に誰が使うんですか? 伝書鳩会社というか、それを商売にしていた人っていたんですか?
田中:それこそさっきのジミヘンかもしれないです。(それまでも)鳩とかいたわけですけど、「ちゃんと飼いならして情報通信手段として手紙を運んでくるようにしたら、俺でもストリートからスタートアップできるんじゃないか」みたいなことを思った人がいるかもしれないですね。
(ビデオを指して)それで、飛ばすと写真がとれるという……映像は以上です。
田中:(ビデオを指して)これは2008年。10年くらい前に、僕はジュウシマツとコンピューターを共生させるということをやっていました。いわゆるコンピューターティックなガリガリのメディアアートではない、ハイブリッドアートという別の方向にアルス・エレクトロニカが行こうとしたターニングポイントが、だいたいこの2008年くらいなんです。
まだ「バイオ」というキーワードはなかったんですけど、そのときに(アルス・エレクトロニカに)出して賞をもらったのが、このジュウシマツをAIで飼いならすというプロジェクトだったんですね。
今回YouFabもCreative Hack Awardも両方からバイオハッカーの福原志保さんが審査員に入られましたよね。ぼくももう一度ちゃんと向き合って考えてみたいのです。
こういうことは僕のなかで関心としてあるのですが、若林さんにジュウシマツとヒップホップがどこでつながるかを言語化していただきたいです(笑)。
若林:まじすか(笑)。無茶ぶりもいいところですね(笑)。どうでもいい話ですけど、僕の先輩が昔伝書鳩を飼っていたっていう話がすごく好きで。「伝書鳩いいや」と思って捨てに行って、林の中で放して、自転車で家帰ってくると鳩が先に戻っているっていう話が(笑)。
(会場笑)
田中:おもしろい、おもしろい(笑)。
若林:そうそう、伝書鳩すごいな~みたいな。(スライドを指して)なるほど。だから、これHACKだよね?
岩岡:HACKです。
若林:そうそう、HACKって僕のイメージだと、「今まで通っていなかった回路を通す」とか、「今までつながっていなかったものにつなげる」みたいなイメージがあるんです。だから……ちょっと一生懸命考えますね(笑)。
意外と新しい話ではない、という感じが少しします。つまり、何かを再発見していくプロセスとか、見落とされていたものをもう一回見直すこととか、そういうプロセスのような気がしていて。
伝書鳩の話って過去にあったものをもう一回リバイブするっていう話だし、ターンテーブルも、既存の、当たり前の使い方をいかにずらしたり、解体していくかという話なので。そう意味では、そもそも批評性をもっていないとできないという気はします。
田中:そこ聞きたいですね。HACKについて2週間考えていたんですけど、「ブリコラージュと何が違うのか?」と考えていました。ブリコラージュってたまたま石ころがそこにあったから……みたいな。身の回りにあるものを寄せ集めて、とりあえずなにかつくる、なにかで表象するみたいな。
HACKのほうが、人間の意志の力というか、目的が強い気がして。ブリコラージュはなんとなく、とりあえず、やってみたということなんです。
テクノロジーのレイヤーだけで見ると、デジタルって、どちらかと言うとブリコラージュの方との親和性が高いんです。とりあえずやってみるとか、とりあえずやってから何度でも直すことができるとか、身の回りのものをとにかく集めて編集してみるとか。
そこでHACKということを言うのは、意志の力というか目的が必要なんですかね? そこを聞きたいです。
若林:目的が必要というか、僕の感じだと、「これはクソだろう!」って思うことが起点になるような気がするんです。つまり、ターンテーブルの話でいうと、ブリコラージュっぽいところもあるんですが、「楽器ができなくてもリズムつくれるじゃん!」「なんで俺らできないんだっけ?」みたいな発想というか意志みたいなものはある気がします。
「なぜそれはやってはいけないのか?」とか「なぜそれはできないのだろうか?」というような、意志の発動だという気はなんとなくします。
田中:なるほどね~。
若林:だから僕の感じだと、エアビー(Airbnb)は上等なHACKだと思っています。
田中:その通りですよね。
若林:どういう経緯で思い立ったのかはわからないですけど、ある空間を一世帯が占有している、しかもいないときも含めて占有しているのって無駄じゃない? っていうのが、出てくるわけじゃないですか。結果としてなのか最初にあったのかわからないですが。それって既存の、当たり前なことに対するいい批判になるんです。
あと、WeWorkってあるじゃないですか。WeWorkってオシャレなコワーキングみたいに見えますが。これは僕の仮説というか、オープンしたらCEOにちゃんと聞いてみたいんですけど、イスラエル人なんです。キブツ出身なんです。「へえー!」と思って、「もしかしてWeWork、めっちゃユダヤっぽいわけ?」みたいなことを思ったりしました。
離散的な状況のなかにおいていかに生きていくのかとか、キブツっぽい共同生活とかが、そこに微妙に入ってるのかな、みたいな。
田中:なるほどなるほど。
若林:そこにはわりと強力な理念的な発動があるのではないかという気がしていて、僕はおもしろいなと思っています。
田中:10年くらい前に、イスラエルから、自分とは別の人格をネット上に持つみたいなITベンチャーが何個か出てきたんです。アバター的なところです。もう1人の私、匿名、まったく別の私をもう1つ持てますというのがあったんですけど。
ここ何年かイスラエルによく行くようになって、そういうのが生まれる理由がなんとなくわかるようになったんです。1つの国に宗教が3つあって、まわりの取り囲んでいる国家とは対立している。週1日絶対労働をしてはダメだという、強制終了の日があるんです。
そうすると、分裂していくんです、自分が。つまり自己が複数ないと心が統合できないという心理現象が、やっぱりあると思うんです。
若林:なるほど、なるほど。
田中:そういう特殊な環境から出てくる、特殊なイマジネーションが技術と共振するとおもしろいですね。
若林:おもしろいと思う。そこがわりと強い社会性を持っているというか、そのこと自体をちゃんと意識化するなかでしか、そういうものって生まれてこない気がします。
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