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地球環境と宇宙太陽発電 ~宇宙から地上へエネルギーを送ろう~(全7記事)

人工衛星による太陽光発電は夢の技術ではない? 宇宙→地球への無線送電が実現する未来

2017年8月3日、東京ウィメンズプラザにて、公益財団法人 日本環境教育機構が主催するセミナー「地球環境と宇宙太陽発電〜宇宙から地球へエネルギーを送ろう」が開催されました。講師を務めるのは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)にて宇宙太陽発電の研究を行なっている田中孝治氏。未来の発電システムとして注目を集める宇宙太陽発電の仕組みと、その可能性について解説します。宇宙太陽発電とは、宇宙空間に太陽光パネルを打ち上げ軌道上で発電をし、その電力を地球に送るという壮大なスケールの発電システムです。はたして、実現することは可能なのか? ロマンあふれる宇宙工学の世界を紐解きます。

高いビーム制御精度を実現するための仕組み

田中孝治氏(以下、田中):これは電波の利用を表しているんですけど、電波は周波数毎にほとんど全部使われてるんですね。そして、今、無線送電用にわり当てられている周波数帯域はありません。これからなんとか獲得する必要があります。

これが、SPSを実現するための要求仕様になります。大きなアンテナは如何ともしがたい条件になります。だいたい宇宙側で2~3キロのアンテナを作ると、地上側で3キロぐらいの大きさになります。

非常に高い精度のビーム制御精度が要求されます。だいたい1/1000度以下くらいの精度がないと、受電設備からビームが外れてしまいます。そうならない仕組みを開発する必要があります。長距離送電も必要です。その時送る電力が、ギガワットクラスが要求されます。周波数帯域としては、大気の透過特性のよいS帯、あるいはC帯くらいが最適なんではないかということで、SPSの研究コミュニティでは、5.8ギガヘルツですとか2.45ギガヘルツの周波数がよく使われています。

こういう仕組みは、耐宇宙環境性を有していなければいけません。

高いビーム制御精度を実現するために、どんな仕組みが考えられているかというと、地上の受電システムからパイロットシグナルを衛星に向けてあげます。このパイロットシグナルが来ている方向に対してエネルギーを送ってあげるという仕組みが、現在主流の考えです。

アンテナに関しましては、フェーズドアレイアンテナが使われます。大きなパラボラアンテナを使って、送りたい方向へ機械的に向けてあげることは非常にむずかしい技術になりますので、電気的にマイクロ波ビームを制御できるようなフェーズドアレイアンテナがよく検討されています。

フェーズドアレイアンテナを使った実験

これは電波の大気中の透過特性を表しています。マイクロ波帯ぐらいのところは「電波の窓」と言われていて、非常に吸収が少ない周波数です。衛星軌道上から地上に向けて、低損失でエネルギーを送ることのできる帯域がマイクロ波の領域になります。この辺をエネルギー送伝のために将来使わせていただきたいと考えています。

周波数を確保するには、やはり私たちが技術開発をきちんと行い、それをアピールしていかなければいけません。

(スライドを指して)これはうちの実験室で作っている、無線送電の実験装置になります。ちょっと見にくいんですけど、こちらにフェーズドアレイアンテナがあります。フェーズドアレイアンテナから電波を放射し、方向制御を行っている写真です。

それと無線送電に関して最近行われた大きな実験としましては、JAXAとJ-spacesystemsが2009年から2015年の3月の期間で、地上の無線送電実験を行いました。これがその時の、屋外で実験した様子の写真です。JAXAのホームページに掲載されています。送電電力1.8キロワットで50メートルぐらい離れたところの受電装置に対して、300ワットくらいのエネルギーを送る実験に成功しています。

非常に高精度なフェーズドアレイアンテナを使った実験であり、宇宙実験に向けて十分な、地上での基礎準備はできているのではないかと考えております。

これが地上の受電設備の絵ですね。NASAのリファレンスシステムの時は、10キロメートルくらいでした。日本のモデルですと、受電設備が3キロメートルくらいです。だから原子力発電所の広い敷地を使ってるところと、ほぼ同じくらいの用地が必要です。

宇宙輸送は低コスト化しなければいけない

あとはマイクロ波を使うにあたり、環境基準が決められています。これは周波数によって違うんですけど、先ほどのSバンド・Cバンドですと、1平方センチメートルあたり1ミリワットが環境基準として定められております。受電設備から出たところは、十分この環境基準をクリアするような設計にしなければいけません。

あと宇宙輸送も大きな問題なんですが、とにかく低コスト化が課題です。これはアメリカの民間で開発されている再使用ロケットの例ですが、アメリカではこういう大型輸送機、とくに再使用型のロケットを民間が始めてるというところが大きな特徴です。

発電単価は、現状では、なかなか他の発電システムと比べて競争することはむずかしいですが、アメリカで今開発中の廉価型の輸送機を使うと、今の地上の太陽光の発電コストに非常に近くなってきて、もう少し輸送機のコストが下がれば、十分他の発電システムとも競合できるようなシステムができるんではないかと考えています。

あとはロードマップ的なところなんですけど、今現在2015年に無線送電の地上実験は行われました。これを受けて、ちょっと小規模な衛星を使った宇宙実験が検討されています。 小規模な実験の次は、本当に電力を受け取れる電力衛星になります。その次にプラント実証があって、そのあと商用衛星というフェーズに入ると思います。これは2009年ぐらいに検討したロードマップですが、残念ながらもう10年くらい、そのまま先送りになってるような状況が続いています。

電磁波の他への影響

ということで、今日のお話をまとめたいと思います。最初にエネルギーと環境問題の紹介をさせていただきました。それの解決策として太陽発電衛星というものを考えています。宇宙で発電することによって、天候によらず自然エネルギー、太陽光エネルギーを有効に活用することができるのではないか、ということで研究開発を行っています。

私の説明は以上です。質問を受け付けたいと思います。

(会場挙手)

質問者1:1ついいですか。

田中:はい。

質問者1:非常に素人的な発想なんですが……今お聞きしてる時に感じたんですが、SSPSとレクテナの間にかなり強いエネルギーを送るっていうことに対する、例えば国防上の通信とか商業機が飛んでる時の電波とか、そういうものに対する害っていうのはないんでしょうか。

田中:エネルギーを送ってるエリアは、例えば航空路等からは、初期の段階では外してもらう必要があると思います。それとエネルギーレベルなんですけど、アメリカの検討では、だいたい太陽光のエネルギーの5分の1くらいのエネルギー密度で、低いエネルギー密度で検討されています。

日本のシステムでも、太陽光と同じくらいのエネルギー密度です。環境負荷が少ないことと、エネルギーはレクテナの設備に集中して送るようにしますので、他への影響というものは非常に少ないシステムです。ただし、やっぱり電磁波の他への影響は、きちんと検討していく必要があると思っています。

司会者:他にご質問はありませんでしょうか。

(会場挙手)

エネルギー問題はきちんと取り組む必要がある

質問者2:さっきタイムスケジュールがあったじゃないですか。正直言って、かなり時間がかかるような気がして。この時間を短縮するっていうのは、例えばお金の問題ですとか、何の問題がありますか?

田中:お金の問題だと考えていいです(笑)。

質問者2:お金の問題だけですか?

田中:技術的に困難なところというのは、輸送機に関しては時間がかかると思います。やっぱり輸送機の開発グループとうまく進めなければいけませんので、調整しながら進める必要があります。なので、そこはお金だけではない可能性があります。

質問者2:わかりました。ありがとうございます。

(会場挙手)

質問者3:すみません、いいですか? 先ほど化石燃料とかが、2030年から2040年ぐらいにはなくなってしまうっていう……あ、違った……?(笑)。

田中:そこはちょっと微妙な問題なんですね(笑)。

質問者3:そうなんですけど、それとトレードオフでこの研究をしてるんであれば、そこをターゲットに持ってかなきゃいけないと思うんです。さっきの話をお聞きすると、非常に長い時間がかかりそうな気がするんですが、それって例えば国とかそういう部分の人たちは、危機感みたいなのは持ってないんでしょうか。

田中:一応、太陽発電衛星に関しましては、私たちの宇宙に関する活動の取り組みは「宇宙基本計画」に基づいて行ってるんですけど、それには太陽発電衛星の取り組みは記載してもらっています。あと、エネルギー基本計画の中にも文言は出てきてるんですけど、いずれにしても基礎研究を進めるという程度の内容になっています。

私も状況をよく理解してるわけではないんですが、やっぱりエネルギー問題は、きちんと取り組んでいかなければいけない問題だと思ってます。原子力が今後どうなるかよくわかりませんが、もし原子力を使わないようにしていくのであれば、それに代わるものはなにか用意しなければいけません。でも、それに代わるものは、今のところ非常にむずかしいんではないかと考えています。ぜひ国としても取り組んでもらいたいな、と思っているところです(笑)。

電気を作る時に必要な資源

質問者3:欧州の方針として、「もう石油を使う車は作らない。2020年か30年にはもう作らないようにしよう」って言ってるわけじゃないですか。

田中:はい。

質問者3:でもそれは、エネルギー源はなにかっていうことは言ってないわけですよね。

田中:そうですね。

質問者3:ただ「電気にしよう」って言ってるだけの話なので、「その電気は何から作るんだ」って言った時に、その作る素がないとそれもできないわけじゃないですか。

田中:そうですね、まさにおっしゃるとおりだと思います。電気の素、現状は8割以上が化石燃料ですから、それに代わるなにか……ただ、フランスなんかは非常に特殊で、原子力の割合が非常に大きいですけど、ドイツなんかは「原子力はやめよう」とか。そういう動きはありますので、その辺の取組みの矛盾といいますか、そういうところはもっときちんと考えて進めてもらいたいなと考えています。

質問者3:ありがとうございます。

(会場挙手)

田中:はい。

質問者4:これ(宇宙太陽発電)は、実用まで考えられてるんでしょうか。

田中:なかなかむずかしいところです。まだ地上の基礎実験を行ったところで、まずはなんとか、宇宙から本当にエネルギーを送れるっていう小規模実験へ着手させてもらえないか、と検討はしてますが、それもまだむずかしい状況ですね。

(会場挙手)

質問者5:パネルを吊ってあるというお話があったんですけど、「吊る」っていうのがちょっとよくわからなくて……どこから吊ってるんでしょうか……(笑)。

田中:例えば、こういう物体は重力がはたらいてますので、こう、だらんとすれば長手方向は下に向いた姿勢で安定するわけですね。で、こういう板を、例えば4本の糸で吊っておけば、この裏面というのは常に地心方向を向くようになります。

質問者5:吊ってある基点はどこでしょう?

田中:吊ってある基点は、根っこのほうにバス部というものがあって、カウンターウェイトがあります。えっと……こっちがいいかな。

(テザー型太陽発電衛星の図を示して)

ここが基点になっていて、カウンターウェイトになります。この例ですと4本ですが、2.5キロメートル四方を4本で吊ってしまうと、たわんでしまうんですね。「4本だとむずかしい」というのがこの絵のあとに出た結果で、もっとたくさんのマルチテザータイプというのが、このあと出されたアイデアになっております。いずれにしても、カウンターウェイトから紐を出して吊り下げてるというようなイメージになります。

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